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花の個性ってなんだろう

2024年03月16日

取材終わりに、フリージアの花をいただいて帰ったことがありました。手のひらにも満たない小さな黄色い花が、殺風景な仕事机をぱっと明るくしてくれたことをよく覚えています。みずみずしい香りがして、柔らかい茎やつぼみもかわいらしく、そして何より、思ったよりもずっと長い間、咲き続けてくれたのです。調べてみると、フリージアは他の球根系の花と比べて長持ちしやすい品種でした。

花の個性はさまざまです。見た目の違いはもちろんのこと、「低温に強い」「茎が腐りにくい」といった扱いやすさの違いや、香りの強弱、枝が曲げやすいかどうかなど、飾るときに知っておくと便利な特徴もあります。
新刊『花と暮らし』では、そんな花の豊かな個性を知り、より美しくいけたり、より長持ちさせたりするための工夫を取材しました。

その一部をご紹介します。
●「花を美しくいけるための5つの基本」(22~31頁)
いけばな草月流で教える基本の「型」から、花や花器のバランスのとり方、花材の扱い方を学びます。

●「いただいた花束をいける」(32~41頁)
基本の型を踏まえつつ、生活空間に合わせたアレンジに挑戦します。今回は、花束を一つ用意して、そこから花を選んで組み合わせ、家中のさまざまな場所にいけました。

●「切り花を長持ちさせる方法」(42~49頁)
切り花がしおれるメカニズムを学び、基本のケアをご紹介します。

どの記事も、この春はもちろん、これから先もずっと役に立つ情報を選りすぐって掲載しています。気になったものから、じっくり試してみてください。自分の暮らしに合った花や飾り方が見つかるかもしれません。(担当:山崎)

本の概要はこちらからご覧いただけます。

花と向き合う楽しみ

2024年03月15日

「押し花を始めると、身の回りのいろいろな花に興味が湧きます。四季ごとに変わる花々に触れていると、季節を追うのが楽しみになる。それは、言い換えれば生きるのが楽しみになることでもあるのです。」

取材のとき、そんなふうに話してくださった押し花作家の杉野宣雄さん。この言葉を聞いて、子どもの頃大好きだった「草花あそび」を思い出しました。シロツメクサで冠を編んだり、オオバコで相撲遊びをしたり。花を飾る楽しみを知った今より、当時の方が、花はより身近な存在だったように思います。そう感じるのは、かつての私が花一本一本と向き合えていたからかもしれません。

新刊『花と暮らし』では、押し花やボタニカルアートなどの手法を通して、花との向き合い方と、その楽しみをご紹介しています。見慣れたはずのパンジーも、じっくり向き合い、押してみると、これまで見過ごしていた形や色の美しさに気づきます。その発見と感動は、暮らしに彩りを与えてくれるのではないでしょうか。

さらに、今号では「花より団子」という方のために、お花見弁当のレシピもご紹介しています。藤井恵先生のアイデア満載の、お弁当三種の提案です。

今春は童心に返って、花とじっくり向き合う時間を持ってみませんか。この一冊が、そのお役に立てればうれしいです。(担当:須藤)

本の概要はこちらからご覧いただけます。

別冊『花と暮らし』発売です

2024年03月14日

別冊『花と暮らし』発売です。
――別冊編集長より、新刊発売のご挨拶

自宅に花を飾るというのが、実は少し苦手でした。花はとても魅力的で部屋の中を明るくしてくれます。ただ、それだけに照れてしまうというか、「飾る」という特別感に気後れしてしまうというか……。そこで、少しだけ視点を変えてみました。
春になると、桜は空を染め、菜の花は畑を覆い、新緑は山を笑顔にします。その美しさを作っているのは一輪の花や、一枚の葉なのです。しかも色も形も微妙に違っていて、一つとして同じものはありません。花の色や形、葉の付き方、茎の曲がり具合……。それらを丁寧に見ていると、愛おしさが生まれてきます。いかに美しく花を飾るかも大切ですが、一本の花や一枚の葉と向き合う時間こそが、「暮らしに花を飾る」ことなのではないではないか、と考えたのです。

この本で紹介している、押し花やいけばな、ボタニカルアートなどは、じっくりと花を観察し、一本一本の特徴を把握することが大切です。もちろん美しい作品のためには技術や経験が必要ですが、真剣に花と向き合うことは誰にでも可能です。そして、花と向き合った時間は、暮らしの中で、とても貴重だと思います。
「人がいて、花をいけたいという思いがあって、手元に数本の花があれば、その花をいけることで表現が生まれます。いけばなは遠い存在ではなく、暮らしのすぐ近くにあるものなのです」
草月流第四代家元・勅使川原茜さんは、いけばなについてそう言います。

そしてもう一つ、茜さんは大切なことを教えてくれました。
「花をいけるとは『相手を思う』ことなのです。(略)素直な気持ちで、相手を思いながらいければ、どこに、どんなふうにいけてもいいのです」
家元のインタビューのため、私たちが伺った部屋のテーブルには、取材陣のために茜さんがいけた花が飾られていました。暮らしに花をいけるという取材の趣旨に合わせて、誰もが持っているようなワイングラスに、なじみ深いチューリップやスイートピーなどの花。それに茜さんが好きな真っ赤なグロリオーサ……。
まさに茜さんの言葉を表すような花でした。

別冊編集長 古庄修

本の概要はこちらからご覧いただけます。

新刊『有元葉子 春夏秋冬うちの味』刊行のお知らせ

2024年01月24日

今週から発売の有元葉子さんの単行本をご紹介いたします。この本は、季節ごとの旬の食材を生かした、毎日のおかずのレシピ集です。そして、料理の作り方だけでなく、「食べることは暮らしの根幹」ということを真ん中に据えて編んだ一冊です。

「母から料理を教わったことはないけれど、今のわたしの料理の基礎は母の味です」
著者の有元葉子さんはそう話します。
「子どものころは、台所に立つ母のそばで『小さなお味見係』をしていたんですよ」と。
たとえばちょうど今のような冬の夕方、湯気の立ちのぼる鍋から、小さな里いもを菜箸に刺して渡してくれた思い出などは深く心に残っているそうです。「そんなふうにして、煮具合や味つけの加減など、母の料理が自然に身についていったのでしょう。味の記憶があれば、不思議と自然に作れるものです。そして、そんな『うちの味』があるって幸せなことだなあって思います」と有元さん。

みなさんには「うちの味」はありますか?
合わせ調味料やレトルト食品、出来合いのおかず。便利で助かりますが、そればかりでは、「うちの味」にはなりません。とは言っても、気持ちも時間も、料理に向けられない日があるのも現実です。
そんなときは、と有元さんは話します。
「全部の料理を手作りする必要はありません。ひと品でも作ったものを食卓に上げればいいのです。ときには外食や、買ってきたもので済ませる日があってもいい。でも、たいていの日は『自分で食べるものは自分で作る』という心持ちでいることが大事です」と。
だから、できる範囲で作ればいいのです。そして、旬の素材はそれだけでおいしいもの。料理はシンプルでいいのです。
「料理上手になるには、失敗することも必要です。私だって今も失敗ばっかり。でも、だからこそ『じゃあ、どうすればいい? 次はこうしよう』と考えるでしょう。それが大事なんです」

冒頭のお母様の料理の思い出や、こうした有元さんの「食」への想いなど、エッセイもたっぷり載った読み応えもある一冊です。また、大きなプロセス写真で、見るだけでも料理の手順がわかりやすいのもこの本の特長。ぜひ、この本のレシピをくり返し作って、いろいろとアレンジして、あなたの「うちの味」にしてください。(担当:宇津木)

本の概要はこちらからご覧いただけます。

『有元葉子 春夏秋冬うちの味』
暮しの手帖社オンラインストア限定企画

【特典1】
新刊の発売を記念して、有元葉子さんのサイン本をご用意しました。
先着50名様限定で販売いたします。
この機会に、ぜひお申し込みください。

【特典2】
オンラインストアからお申し込みの方には、送料無料でお送りいたします。
決済時に下記のクーポンコードを入力してください。
※1冊のみ有効。2冊以上もしくは他の商品と同時に購入される場合、クーポンは無効とさせていただきます。

コード:arimotokt75
(有効期限2月末まで)

ご購入は<暮しの手帖社オンラインストア>から。
特典は予告なく終了する場合がございます。あらかじめご了承ください。

理想の台所は、ささやかな工夫から

2023年12月06日

あなたにとって、「理想の台所」とはどんな空間ですか?

台所は料理を作る場で、要素と言えばコンロ・流し台・作業台・収納・冷蔵庫が基本でしょうか。役割も構成もシンプルですが、「理想の台所」がどんな空間か、具体的なイメージが浮かばないという方は案外多いかもしれません。

かくいう私も「小さな不満はあるものの、我が家はシステムキッチンだから仕方ない」と、恥ずかしながら、これまで台所と真剣に向き合ったことはありませんでした。

そんな考えを改めるきっかけになったのが、クリス智子さんのこんな言葉です。

「実際に使ってみて、たとえ、おや? と思うところがあったとしても、それはそれでOK。キッチンの特性に自分が合わせていけばいい」

クリスさんは、新刊『台所と暮らし』にて、「自分らしい台所」と「愛用の台所道具」を見せてくださった9名の内のお一人です。

先の言葉通り、クリスさんの「理想の台所」づくりは大らか。多少の不満があっても、便利な機能を加えるのではなく、基本的にはシンプルな方法で解決するスタイルです。例えば、ホームパーティーで、客人が自由にカトラリーを取れるように棚を配置したり、左利きのクリスさんでもストレスなく使える道具を選んだり、台所はささやかな工夫で溢れています。

「自分は台所でどう過ごしたいのか」「家族や客人にどう過ごしてほしいのか」。日々台所に立ちながら、考え、立ち止まり、微調整する。「理想の台所」のイメージは、そうした試行錯誤の中から見えてくるのかもしれません。

今、我が家では、台所をマイナーチェンジしています。近年の家族の変化に合わせ、食器を移動させたり、動線を見直したり。正直トライ&エラーの繰り返しですが、それ自体が「台所との対話」のようでなかなか楽しいものです。

まずはすぐにできそうなものを一つ、見直してみませんか? 案外小さな工夫が「理想の台所」への大きな一歩になるかもしれません。(担当:須藤)

※詳細はこちらからご覧いただけます。

自分らしい台所

2023年12月05日

自分らしい台所
――別冊編集長より、新刊発売のご挨拶

最近、肩に痛みがあるので布巾掛けの位置を10cmほど低くしました。もともと、猫が飛びついて悪戯しないように高い位置にあったのを、「お互いもういい年なのだから」と猫と自分に言い聞かせ、布巾を楽に干せる位置まで、低くしたのです。
たった10cmのことですが、痛みを伴った作業がなくなり快適になりました。

暮しの手帖社創業者の大橋鎭子は、取材などで得た知識をもとに創意工夫に満ちた台所を作り上げました。すぐに手に取れるように壁に吊るされた鍋、一升瓶の出し入れがしやすい斜めに仕切りがついた引き出し……。「しずこさんの台所」を訪れた編集者の一田憲子さんは「『ここにコレがあったらいいな』という主婦の知恵が、生き生きと見えてきます。」と評しています。そして最後は「台所に必要なものは愛情と合理性という一見真逆な、ふたつの視点なのかもしれません。」と締めています。

住まいの中でも台所は特殊な場所です。そこには多くの働きを求められます。
料理を「効率」よく、たくさんの食器や器具などを「収納」し、いつも「清潔」で……。さらに、居心地がよくなるような「こだわり」も大切。
今回の特集では暮らしを大切にしている9人の台所を「効率」、「清潔」、「収納」、「こだわり」という4つの視点で取材しています。それぞれの方の考え方や使い方に合わせた台所は、きっと、参考にしていただけると思います。
 
すべての人に満点な台所はありませんが、自分にとって満足できる台所を目指すことはできるはずです。小さな不便や不足を放置せず、ひとつひとつ解消してゆけば、自分にとって快適な台所に近づくのです。大規模なリフォームをするまでもなく、調理器具の収納場所を変えたり、引き出しの中を見直したり、必要な場所にフックを付けたり……。たとえば、布巾掛けの位置を10cm下げるだけでも台所は使いやすく、「自分らしい台所」になるのです。

別冊編集長 古庄 修

※詳細はこちらからご覧いただけます。

自分から開く

2023年11月25日

自分から開く
――編集長より、最新号発売のご挨拶

こんにちは、北川です。
祝日の一昨日、浅草の雷門通りを歩いていたら、豪勢な熊手の御守りを肩にかついで歩く人の姿がちらほらと。早いもので、鷲(おおとり)神社の「酉の市」でした。去年もこんな光景を見たことをありありと思い出すと、一年は本当にあっという間なんですが、若い頃のような焦燥感ではなく、ほっとする思いが湧き上がってきました。
「この一年、それなりにいろいろあったけれど、無事に過ごせたのだから、まあよかったじゃないか」というような。
世界のあちこちで続いている争いに目を向けると、ただ普通に暮らせることが、いっそうありがたく思えてくる。みなさまは、どんな思いを胸に今年を振り返っていらっしゃいますか。

今号の表紙画は、絵本作家のみやこしあきこさんによる「雪の街」。降りしきる雪のなか、車でどこかへ向かうクマさん。助手席には、プレゼントらしき赤い紙袋。
編集部のある人が、「ソール・ライターの赤い傘の写真みたいな雰囲気だね」と感想をもらしましたが、言い得て妙です。
『暮しの手帖』は年に6冊。どの号も力を入れてつくっていますが、この年末年始号は、とりわけ力こぶができるのです。いつもよりも、ゆったりとした心持ちで読んでくださる方が多いかもしれない。ふだんは離れて暮らす家族や、久しぶりに会う友人に、何かおいしいものをこしらえてあげたい、そう考える人もいらっしゃるだろう――そんなことを想像しながら企画を考え、いざ撮影するのは夏の暑い盛りです。一つひとつの記事については、それぞれの担当者が来週からご紹介しますね。

かくいう私は、「わたしの手帖 笑福亭鶴瓶さん」を担当し、7月初旬、大阪の帝塚山(てづかやま)へ向かいました。帝塚山は高級住宅地として知られているようですが、私が訪ねたのは、ごく庶民的な街並みにあるこぢんまりとした寄席小屋「無学」です。
もしかしたら、鶴瓶さんの落語家としての顔をご存じでない方もいらっしゃるかもしれません。それもそのはず、鶴瓶さんは20歳で六代目笑福亭松鶴(しょかく)師匠に弟子入りするものの、師匠からはまったく稽古をつけてもらえず、本格的に落語に取り組んだのは50歳を過ぎてから。まだ20年ほどのキャリアなんです。
「無学」は、もとは松鶴師匠の邸宅で、師匠亡き後に鶴瓶さんが買い取って寄席小屋に改築しました。若い頃の鶴瓶さんは、すぐ近くのアパートに住みながらここに通い、新婚生活もこの街で送ったといいます。
なぜ師匠は鶴瓶さんに稽古をつけてくれなかったのだろう?
鶴瓶さんが「無学」という場をつくり、24年もの間、地道に運営してきたのはなぜ?
そのあたりはぜひ記事をお読みいただくとして、取材でとくに心に残ったのは、鶴瓶さんの「人に対する垣根の無さ」でした。
はじめに「こんにちは、このたびはありがとうございます」とご挨拶すると、「あなた、前にも会ったことのあるような顔だね」とほがらかに鶴瓶さん。その一言で、場の空気はふっと和み、取材の緊張がほぐれます。
撮影では、照りつける日差しの下、帝塚山をぐるぐる歩き、20歳の頃に住んでいた可愛らしいアパートや、新婚時代に暮らしたアパートなどを案内してくださったのですが(前者は63頁にちらりと写っています)、道ゆく人が「あ、鶴瓶さん!」とたびたび声をかけてきます。鶴瓶さんは一人ひとりと自然体で会話を交わし、写真を求められれば応じ、なんだかとてもフラット。そう、NHKの『鶴瓶の家族に乾杯』のロケシーンそのものなんです。
「人といかに出会って、関わっていけるか。それが生まれてきた意味だと思う。だけど人生は短いからね。一番手っ取り早いのは自分から開くことだと思っているんです」
そう鶴瓶さんは語ります。
確かにその通りだなあ……と胸にしみたのは、私もそれなりに年齢を重ね、「あのとき、どうしてあの人にこれができなかったのだろう」というような後悔があるからかもしれません。
自分から開く。
山あり谷ありの人生を、人との結びつきを大切にしながら歩み、多才なキャリアを積み重ねてきた鶴瓶さん。「格言を言うぞ」というような肩ひじ張ったところは一つもなく、それでいて、「なるほどなあ」と胸に落ちる格言がぽんぽんと飛び出す。年末に、来し方行く末に思いを馳せながらお読みください。
ちなみに私は12月1日、池袋で催される鶴瓶さんの独演会を心待ちにしています。年末だから、夫婦の結びつきが胸を打つ「芝浜」が聴けるかな。鶴瓶さんの落語は、ふだんの鶴瓶さんの語りと変わらずあったかく、江戸の世界にすっと入り込めるのです。

さて、今号は特別付録として、トラネコボンボンさんの「世界を旅する猫のカレンダー」をつけました。
トラネコボンボンさんには、今年一年の目次画を手がけていただいたのですが、毎号どっさりといろんな絵が届き、アートディレクターの宮古さんが頭をひねってデザインする、その繰り返しでした。カレンダーも同じで、12カ月分を大幅に超える点数を描いてくださり、さあどれを選ぼうかと、何度か組み替えて悩んだものです。ぜいたくな悩みですね。
来たる年も、みなさまの暮らしに小さくとも温かな灯りをともせる雑誌がつくれるよう、編集部のみなで頑張りたいと思います。少し早いのですが、どうぞお身体を大切に、よい年末年始をお迎えください。今年もご愛読くださり、本当にありがとうございました。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

手話をことばとして生きる、写真家と家族の物語 『よっちぼっち 家族四人の四つの人生』刊行のお知らせ

2023年11月22日

人間は決してひとつになれない
そのことを本作は、
悲しいこととしてではなく、
うつくしいこととして書いている 
西 加奈子(小説家)  ――帯文より

今もっとも注目を集める写真家、齋藤陽道さんによる人気連載が待望の一冊になりました。

齋藤さんは「聞こえる家族」に生まれたろう者、妻のまなみさんは「ろう家族」に生まれたろう者。
そんなふたりの間には、聞こえる子どもがふたり――。
一家はそれぞれの違いを尊重しながら、手話で、表情で、体温で、互いの思いを伝え合って生きています。
本書は、美しい写真とともに紡がれたろうの両親による育児記であり、手話で子どもと関わり合うからこそもたらされた、気づきと喜びの記録です。

カバーの四つの白い器の模様には、ホットスタンプ(加熱型押し)を施しており、中表紙が薄っすらと透けるデザインになっています。
ぜひ、お手に取ってご覧ください。(担当:村上)

※目次はこちらからご覧いただけます。

「いま響く言葉」がいっぱいです

2023年09月25日

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「いま響く言葉」がいっぱいです
――編集長より、最新号発売のご挨拶

こんにちは、北川です。
わが家のご近所の浅草寺では、仲見世の軒先に紅葉のディスプレイがはためいています。先週までは、それが場違いに見えるほど日差しがギラギラしていましたが、ここ数日でずいぶん涼しい気候になりました。ほっとして体が緩むと、夏の疲れが出たりするもの。お変わりなくお過ごしでしょうか。
さて、今月11日に発売した『創刊75周年記念別冊 暮しの手帖』に続けて、このたびの26号は「創刊75周年記念特大号」です。
表紙画は、皆川明さんによる「安息」。2匹の猫が寄り添う乳白色のランプ、実はこれは、初代編集長の花森安治が愛用していたものです。ランプは、花森さん(私たちはそう呼んでいます)が編集長を務めた30年の間、表紙や挿画に幾度も描いたモチーフで、まさに『暮しの手帖』のシンボル。創刊号の表紙画をご覧いただくと、チェストの上に、愛らしいランプがちょこんとありますね。

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創刊した1948年は、東京はそちこちに焼け野原が残り、多くの日本人は傷ついた心や体を抱えながら、新たな価値観を求めて歩み始めた頃でした。衣食住に必要なものも、読み物も充分になく、これから先の展望も見えない。花森さんは、「まだ暗い世の中に、かすかでも、希望の灯火を灯すような雑誌でありたい」、そんな願いを込めてランプを描いたといわれています。
では、いまの時代が満ち足りているかといえば、そんなことはないんじゃないかと私は思います。もちろん、私たちは75年前よりもずっと多くのものに囲まれて暮らしてはいますが、自分のこれからの暮らし、この国や社会の行末、いろんなことに「よるべない思い」を抱えて生きている人は多いのではないかな。そう感じるのです。
今号は、私たちの初心である「ランプ」を表紙画として、「いまの暮らし」に向き合う一冊を編んでみたいと思いました。
いつもの『暮しの手帖』は、いろんな特集記事が9〜11本詰まった、「幕の内弁当」みたいなつくりですが、今回は16頁増やし、4つの大きな特集を組んでいます。

第一特集は「ずっと、食べていく」。私たちは生きる限り食べ続けなければならず、その礎となるのは「家のごはん」です。そうよくわかっていても、いろんな事情で思うようにつくれないこともあれば、理想を追い求めて疲れてしまうこともある、そんな声を聞いたりもします。
ならば、ふだんの料理記事ではこぼれてしまいがちな、「家のごはんって何だろう?」を掘り下げる特集を組めたらなあと思ったのです。登場する6名の方がそれぞれに語る、「家のごはんの物語とよりどころ」。お読みいただき、心を動かされたなら、そのお話に付随する料理をぜひつくってみてください。
この手で、自分を生かすものをつくれるって、いいものだな。そう感じるところから自分の暮らしを見つめて、自分なりの指針、「よりどころ」を見いだしていただけたらうれしく思います。

第二特集は「これからの暮らしの話をしよう」。これは、いつも連載してくださっている執筆陣の3名が、それぞれに「いま会いたい人」を訪ねて語り合う対談(鼎談)記事です。
ライターの武田砂鉄さんは、『海をあげる』などの著作で知られる沖縄の教育学者・上間陽子さんのもとへ。画家のミロコマチコさんは、10年来ワークショップを行なっている横浜の障害福祉事業所「カプカプ」へ。評論家の荻上チキさんは、作家の村田沙耶香さんと。
それぞれの記事は要約しがたく、とにかく読んでいただきたい、それに尽きます。世の中を見ていてモヤモヤとしていたことが、会話のやり取りを追ううちに、「ああ、そうだったのか」と気づきを得たり、「そういう考え方もあるのか」と明るい気持ちになったり。面白いのは、それぞれの会話のテーマが、「暮らし」でありながら「社会」でもあること。
自分の暮らしは、自分の手で工夫してつくっていく。それは本当のことですが、それだけではどうにもならないこともある、そう感じることはありませんか。この社会が、もっと居心地よいものであれば、私たちの暮らしも、もっと心地よくなるのかも。それにはどうしたらいいか、一緒に考えてみませんか。

第三特集は「あの人の本棚より 特別編」。人気連載の拡大版で、今回は5名の方の「本棚」が登場します。
第四特集は「コロナ下の暮らしの記録」。こちらは、読者のみなさまから投稿を募り、短い期間にもかかわらず、多くのご投稿をお寄せいただきました。職業や内容にバラエティーが出るよう、編集部で何度も読み返し、悩みながら選び出した18編をご紹介しています。切実な話もあれば、ほのぼのとした話もあり、見えてきたのは「一人ひとりのかけがえのない暮らし」そのもの。ご投稿くださったすべてのみなさまに、心よりお礼を申し上げます。

振り返ると、この一冊は、とりわけ「言葉」を大切にした内容になりました。それは概念的な言葉というより、「暮らしと結びついた言葉」です。読んであなたが考えたことを、あなたの言葉で、まわりの人に話していただけたら。または、ご感想をお寄せいただけたら、本当にありがたく思います。

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付録の大判ポスターは、先述の花森安治による創刊号の表紙画と、連載陣のお一人、ヨシタケシンスケさんによる「一人ひとりの暮らし」を一枚に。75年前の創刊から、「いま」に至るまで、ずっとずっと「あなたの手帖」でありたい。そんな思いを込めて編んだ、手前味噌ながら、力作の号です。いろんな言葉を胸に響かせながら、どうぞじっくりとお楽しみください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

最新刊『新装保存版 暮しの手帖のシンプルレシピ』発売中です

2023年09月22日

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最新刊『新装保存版 暮しの手帖のシンプルレシピ』発売中です。

世の中に、「簡単レシピ」「時短料理」などをテーマにした良い料理本がたくさんありますね。でも、数あるなかでもこの本は、ちょっとひと味違います。『暮しの手帖』がご提案するのは、単に「早く簡単に」というだけの料理ではありません。バラエティ豊かな手法と味わいの、本当においしいレシピだけをご紹介しています。
この本は、2014年に刊行した別冊『暮しの手帖のシンプルレシピ』を書籍化したものです。私たち社員の間でも、「うちの台所でいちばん活躍している一冊」という声の多いレシピ集です。読者の皆様にも、とてもご好評をいただき、このたび永久保存版の単行本として刊行しました。

「早く簡単に」だけではないこの本の特徴は、次の3つの考え方です。
①「少ない材料と手順で作る料理」 これは文字通りシンプルなレシピです。シンプルな作り方だからこそ、素材自体のおいしさを生かすコツがあります。それに加えて、②「ほうっておいておいしくなる料理」 タレに漬け混んだり、じっくり煮込んだり、オーブンで焼いたり。時間がおいしくしてくれるから、しばし手が離せるのもうれしいところです。そして、③「作り置きを活用する料理」 そのまま一皿になる常備菜、仕上げのひと手間で完成するおかずの素、ばっちりおいしく味が決まるタレや合わせ調味料など。冷蔵庫にあるとうれしい作り置きをいくつかの料理に展開します。
レシピ指導は、「分とく山」総料理長の野﨑洋光さん、料理家のウー・ウェンさん、渡辺有子さん、飛田和緒さん。上記の3つの考え方の料理を、和洋中の多彩な料理を教えていただきました。レパートリーも広がるバリエーション豊かな内容で、毎日の食卓にお役立ていただけます。詳しくは、こちらをご覧ください。(担当:宇津木)

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75周年の「奇跡」、ありがとうございます

2023年09月11日

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75周年の「奇跡」、ありがとうございます
――編集長より、『創刊75周年記念別冊』発売のご挨拶

こんにちは、北川です。
じつは、今年の3月あたりから、私たち編集部は本誌と並行して、『創刊75周年記念別冊』をコツコツと制作していました。ようやく完成し、手にとってパラパラとめくると、本誌が仕上がったときとはまた違った感慨が湧き上がってきます。うれしいなあ。
表紙の絵は、初代編集長の花森安治が描いた、1世紀5号(1949年10月発行)の表紙画です。ちょっと並べてご覧いただきましょう。今回の別冊の表紙のほうが色鮮やかで、ディテールもくっきりとして美しいと思われるはずですが、これはまったく同じ絵なんですよ。
それだけ印刷技術が進歩したということですが、もしもこれを花森さんが見たら、悔しいような、うれしいような、なんとも複雑な気分になるんだろうなと想像します。

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この別冊の大きなテーマは「自己紹介」です。
戦後まもない東京では、いろんな雑誌が雨後の筍のように創刊されたそうですが、1948年9月20日に産声をあげた『暮しの手帖』も、その一つでした。当初から広告をとらなかったこの雑誌が、75年もの間、時代の変化に揉まれながらも残ることができたのは、なぜなのだろう。創刊からいまに至るまで、変わらず抱き続けている理念って?
もしかしたら、『暮しの手帖』を長くお読みいただいている方にとっては「基本の知識」かもしれない「自己紹介」も、冒頭でコンパクトにわかりやすくまとめてみました。巻末には、日本の戦後の歴史とともに歩んだ『暮しの手帖』の主なトピックを「年表」に。
もう一つ軸にしたのは、読者の方に綴っていただく、「『暮しの手帖』にまつわる人生の物語」です。
表紙をめくった頁にある、「これは あなたの手帖です」から始まる花森さんの言葉の通りで、『暮しの手帖』を単なる雑誌というよりも、個人的な「手帖」のように思ってくださる方も多いように感じています。たとえば余白に感想を書き入れたり、心に留まった文章に線を引いたり。また、編み物の記事などは、「いまは忙しくてなかなか編めないけれど、仕事をリタイアしたら、きっと」と付箋をつけておき、掲載から10年後に念願かなって編んだ、といったお話を何度か伺ったこともありました。
そこで、「あなたの暮らしを変えた記事、心に残る記事を教えてください」と投稿を募ったところ、思った以上にたくさんの方からご投稿をお寄せいただき、うれしい悲鳴でした。それらのご投稿と、該当する記事の誌面を一緒にレイアウトして並べてみたところ、一つひとつに人生のドラマがあって、素晴らしい。やっぱりこの雑誌は「読者とともに歩んできた雑誌」なのだなあと、しみじみとありがたく思いました。

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もしも私が「心に残る記事」を選ぶとしたら……と考えたときに真っ先に浮かぶのは、1世紀49号(1959年)の連載「ある日本人の暮し」です。この連載は、市井の人びとの悲喜こもごもある暮らしぶりを花森自ら取材・執筆したルポルタージュで、映画のワンシーンのようなモノクローム写真の力も相まって、胸に迫るのです。
どの回も心に残りますが、私がもっとも好きなのは、この1世紀49号の回で、タイトルは「共かせぎ落第の記」。鉄道機関士である夫とその妻が、時にすれ違いがあって悩みながらも、慈しみあいながらつましく暮らしていく心情が綴られた記事です。
じつは7年前、まさにこの記事の主人公である川端新二さん・静江さんご夫妻から「読者アンケートはがき」をいただき、そこにはこんな言葉がしたためられていました。
「第1世紀49号の『ある日本人の暮し』に登場させていただきました。今から57年前のことです。貴誌は全部、大切に持っています。当時、若かった私共夫婦も、今では合わせて170歳になりました。熱烈な、『暮しの手帖』の応援団のひとりと自負しております」
すごい! ああ、この川端さんご夫妻にお会いしたい! 
当時の編集長だった澤田さんに話をしたところ、「取材に伺ってみたらどう?」と勧められ、記事にしたのは4世紀84号(2016年)。今回の別冊には、この記事を再編集して掲載しています。モノクロームの写真は、当時のネガが発掘できたので、新たにデータ化して印刷しました。これがとても美しいので、どうぞ写真もじっくりとご覧になってください。

75年の間、手から手へとバトンをつなぐようにして発行し続けてきた『暮しの手帖』。広告をとらない雑誌ですから、購読してくださる方々がいらっしゃらなければ、けっして成し遂げられなかったメモリアルです。まさに「奇跡」だなあと思うのですが、これは手前味噌ではなくて、つねに伴走してくださる読者の方が起こしてくださった奇跡。心より、お礼を申し上げます。
そのほかの内容としては、往年の名作料理をいまに作りやすい解説を添えてまとめた「とじ込みレシピ集」や、「すてきなあなたに」「家庭学校」などロング連載の秘話を紹介する記事、花森安治の愛らしい絵を刺繍にして楽しむ記事など、ちょっと欲張って盛りだくさんになりました。付録の「花森安治 挿画ステッカー」は、スマホやパソコン、お手紙などにどうぞ。
秋の夜長に、お茶でも飲みながらゆっくりと楽しんでいただきたい、面白くって温かな一冊に仕上がりました。ぜひぜひ、お手に取ってご覧ください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

ひとって可愛い

2023年07月25日

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ひとって可愛い
――編集長より、最新号発売のご挨拶

こんにちは、北川です。
早いもので、今日は最新号の発売日。私は焦りながらこの原稿に向かっています。どうしてこう、なんでもギリギリにやるのかなあ……と自分にツッコミを入れ、いや、子どもの頃からそうだったじゃないかと、夏休みの読書感想文を思い出したりします。ああ。
仕事や家庭でいろんなことがあり、なんだかくさくさするなあ、というとき。または、ちょっと「人間疲れ」しちゃったなあというとき。みなさんは、どんなふうに気分転換をされますか?
私は「寄席」に行きます。寄席って何? と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、むかし東京にはそちこちにあったという、演芸専門の小屋です。落語をはじめ、漫才、マジック、紙切り、ジャグリング……と、さまざまな芸人さんたちが入れ代わり立ち代わり舞台に現れては、10~15分くらいの芸を披露して、さっと退く。
編集部のある神田と、浅草の住まいのあいだには、「鈴本演芸場」(上野)と「浅草演芸ホール」という二つの寄席があります。仕事でちょっと気分が落ち込むと、帰りにふらっと立ち寄って(寄席はどのタイミングでも入れます)、2時間ばかりアハハと笑う。すると、あら不思議、温泉に入ったあとのように心身がぽかぽかとくつろぐんですよ。
巻頭記事「わたしの手帖」には、そんな寄席でおなじみの落語家、春風亭一之輔さんにご登場いただきました。落語好きじゃない方も、〈『笑点』の新メンバー〉といえば、きっとお顔が浮かぶことでしょう。

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さて、落語家が本編に入る前に場を温めるような話をする、それを「まくら」と呼びまして、身辺雑記的な話をしたり、政治家や芸能人の不祥事をちくっと皮肉ったりするのが定番でしょうか。これが誉め言葉になるのかどうか、私は以前から、一之輔さんがまくらで語る「家族の話」が好きでした。
クールで、歯に衣着せぬ物言いがじつに爽快な夫人。きっと賢い子なのだろうなあと想像する、人間観察に優れた発言をする3人の子どもたち。一人ひとりの個が立っていて、だから身内の話をしても客はしらけず、おおいに笑える。考えてみれば、落語って、人のヘンで可笑しみを誘うところ、情けない失敗談、どうにも治せない悪い癖等々がもとになっているわけで、ちゃんと「人」を見ていなければできない話芸なのかもしれません。
そんなことを考えつつ臨んだ取材ですが、はたして一之輔さんは、人を見る目に優れた方でした。けれども、けっして突き放してはいなくて、どこかあったかい。タイトルの「ひとって可愛い」は、「ほら、偉い人って隙があって『可愛い』じゃないですか」という一之輔さんの言葉からとっています。
他人の弱点や失敗がどうにも許せないとか、そういう自分がイヤになってしまうとか、私たちは生きるなかで日々いろいろありますよね。そんなとき、自分の状況や心理も含めて、ちょっと引いたところから眺めてみる。今日は今日、あしたはあしたの風が吹くと考えて、しくじっても、あんまりクヨクヨしない。落語には、そんなふうに促してくれる不思議な力があるような気がします。
肩の力が抜けた一之輔さんのお話から、寄席に行った帰りのような、リラックスした気分を味わっていただけたらうれしいです。

表紙画は、酒井駒子さんの「ねむり」。あどけない子どもの昼寝姿は、もう無条件に可愛いものですが、酒井さんがこの絵に寄せてくださった言葉を読むと、はっとさせられます。子どもはもちろん、誰もが安心して眠れる世界、それをひとつの言葉にしたら、「平和」なのかもしれません。
「もう二度と戦争を起こさないために、一人ひとりが暮らしを大切にする世の中にしたい」
毎回くり返すようですが、それが『暮しの手帖』の創刊時からの理念です。
今号は「表参道・山の手大空襲を語り継ぐ」という特集記事を編み、空襲を体験した3名の方々と、地元の戦災を語り継ぐ活動をされている「山陽堂書店」店主の遠山秀子さんの思いをお伝えしています。記事では、むごたらしい空襲の話ばかりではなく、それ以前に確かにあった、穏やかで平和な暮らしの情景を描きこみました。そこには、いまの私たちの暮らしと何ら変わらない、「日々のささやかな喜び」が満ちています。
そしてまた、体験者の方々が、いまなぜこのつらい話を私たちに託すのか。どうか、結びのほうに盛りこんだメッセージをお読みください。肉声ではなくても、その言葉の強さに打たれるはずです。

最後に、このたびの大雨による災害を受けられた方々に、心よりお見舞い申し上げます。一刻も早く、もとの穏やかな暮らしが戻ってきますように。
暑さがたいへん厳しい日々が続きますが、みなさま、お身体を大切にお過ごしください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織


暮しの手帖社 今日の編集部