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この町に根を張って

2024年04月08日

この町に根を張って
(29号「三春町から、こんにちは」)
福島県三春町で器と生活雑貨の店「in-kyo」を営む長谷川ちえさん。東京から三春町へと生活の場を移したのは、2016年のことでした。
長谷川さんには、『まよいながら、ゆれながら』という著書があります。東日本大震災から2年経って発表されたこの本は、長谷川さんが懇意にしていた福島市の果樹園「あんざい果樹園」についてのルポルタージュ。原発事故後、一家がどのような決断を迫られ、どのようにそれぞれの道を選んでいったのかを静かな筆致で綴っています。
とどまるもいい、ほかの土地へ行くのもいい。本の中で、ひとりひとりに寄り添い、それぞれの決断を肯定していた長谷川さんは、どのような思いで、自身の三春町への移住を決めたのでしょう。あの日から13年、今も変わらず心の中に「重石を持ち続けている」という長谷川さんに、当時考えていたことや、現在の心境、穏やかでやさしい三春の日々について綴っていただきました。(担当:島崎)

シンプルだからおいしい

2024年04月04日

シンプルだからおいしい
(29号「味つけはこれだけです」)

小社刊のロングセラー『おそうざい十二カ月』に掲載されている「キャベツと豚肉とはるさめのしょう油炒め」が、SNSでたびたび話題になります。投稿を読んでみると、使う調味料が「しょう油だけ」なのに、想像以上のおいしさになることに驚いている人が多いよう。さまざまな調味料を組み合わせて味つけすることに慣れている現在だからこそ、「こんなにシンプルでいいのか!」という意外性があるのでしょう。

シンプルな味つけは、作りやすくて食べ飽きないのがいいところ。日々の食事づくりでは、そんな料理をいくつか覚えておくと心強いものです。
今回は、稲田俊輔さん、堤人美さん、近藤幸子さんの3人に、「塩だけ」「しょう油だけ」で味つけするレシピを教えていただきました。「これだけで本当においしくなるの?」と実験気分で、まずは一度つくってみてください。

わが家では、稲田さんの「鶏の漬け焼き」が子どもに大人気で、何度も食卓にのぼっています。こんなに簡単でいいのかと不安になるくらいのレシピなのですが、出来上がってみれば大満足のおいしさ。味つけを失敗することがないので、疲れていても何も考えずに作れるのがうれしいところです。このレシピにまつわるエピソードが綴られた、稲田さんのエッセイもお楽しみに。(担当:田村)

酒粕と出合い直す春

2024年04月04日

酒粕と出合い直す春
(29号「春こそ、酒粕」)

みなさんは、酒粕はお好きですか? 栄養豊富なことから、食事に取り入れたいと一度は買ったことがあるのでは。ただ、独特の風味があり、好みが分かれる食品でもありますね。

この企画では、どなたもおいしく食べられる酒粕料理を、料理家の安田花織さんに教わりました。安田さんは、国内外のさまざまな土地に根ざした食の知恵を学び続け、酒粕についても、長年研究しています。
今回は、酒粕を柔らかく扱いやすくした「酒粕ペースト」をまず作り、にんじんとドライマンゴーのマリネ、漬け玉子、菜の花とひじきのナムルなど6品に展開。そのほか、酒粕をそのまま使った板粕のハーブオイル漬け、レアチーズケーキもご紹介します。

「春こそ」とおすすめしているのは、体が冬の間に溜めた老廃物を排出するのを助けてくれるから。そして、日本酒の製造が終わるのもちょうど今頃で、いろいろなタイプの酒粕が出回るから。よく見かける板粕のほか、練り粕やバラ粕でも作れます。
「酒粕の原料はお米。どこかもわっとした風味が気になるときは、果物やハーブ、レモン果汁や果実酢を合わせると、コクとうま味はそのままに、フレッシュな味わいになりますよ」と安田さん。

どのお料理も「んん⁉(これが酒粕?)」とうなってしまう、驚きのおいしさです。酒粕ペーストは汁ものや炒めもの、ポテトサラダなど、いつもの料理にもひとさじ、ふたさじ加えて使ってみてください。新しい酒粕のおいしさにきっと出合えます。(担当:佐々木)

お母さん、これ読んで!

2024年04月02日

お母さん、これ読んで!
(29号「岩田美津子さんとてんやく絵本」)

皆さんは、図書館や書店で、点字つきの絵本を見かけたことはあるでしょうか。
生まれつき全盲の岩田美津子さん。岩田さんが子どもを授かった四十数年前、点字つきの絵本は、まだ市販されていませんでした。読み聞かせをせがむ子どもに、応えたい。そんな思いにつき動かされ、岩田さんは知人やボランティアの手を借りて、絵本の点訳に着手しました。
この企画は、点字つき絵本の出版・普及の礎を築いた、岩田さんのこれまでを追ったものです。「どんな子にも本を読む楽しみを」と話す岩田さん。明るくパワフルなその人柄や、読書のバリアフリー化をめぐる現状について、多くの人に知っていただけたらと願っています。(担当:島崎)

安全に、美しく

2024年03月28日

安全に、美しく
(29号「ワレモノ梱包術」)

以前、撮影のために、道具バイヤーの日野明子さんから食器類を送ってもらった時のこと。大きなダンボール箱を開け、上面の緩衝材を取り除くと、1つずつきれいに包まれた食器が出てきて、その無駄のない梱包に感激しました。そして、丁寧に梱包することは、送る相手への思いやりでもあるのだと気づいたのです。

ワレモノの梱包というと、まず引っ越しが思い浮かびますが、最近はフリマアプリなどを利用して、手持ちの食器を売る方も増えていると聞きます。そんな時、破損を防ぎ、かつ美しく梱包ができたなら……。そう考えて、日野さんにコツを伝授していただく記事を編みました。

ご紹介しているのは、平皿、コップ、ワイングラス、急須の梱包方法と、梱包したものをダンボール箱に詰める方法、そして大きさの合わないダンボール箱の幅や高さを縮めるアイデアです。どなたでも簡単にできるように、写真を多く使って、手順を丁寧に追いました。
覚えておけばいつかきっと役に立つ、永久保存版です。どうぞご活用ください。(担当:田村)

自分たちで、作って食べる

2024年03月27日

自分たちで、作って食べる
(29号「檀太郎さんと檀晴子さん 二人の台所から」)

ともにエッセイストとして活躍する、檀太郎さんと檀晴子さん。お二人は15年ほど前に住み慣れた東京を離れ、福岡市の離島、能古島(のこのしま)で暮らしています。食の分野に造詣の深いお二人。島ではどんなふうに過ごし、日々、どんな料理を作っていらっしゃるのか。暮らしはどんなふうに変わったのか……お話を伺いたくて、昨年末に能古島を訪ねました。
着いて早々、案内してくださったのは、ご自宅のすぐそばにある、それぞれの畑。そこには、ブロッコリーやカリフラワー、大根やねぎ、香菜などなど、20種類以上の野菜が栽培されていて、食べ頃のものを手際よく収穫していきます。
「でも、私は育てるのが下手で、何年経ってもまだまだ下手で。葉物野菜は虫食いで穴だらけだし」と晴子さん。「でも、おいしいの」と微笑む様子に、自分たちの手を動かして作る喜びを垣間見た気がしました。
誌面では、能古島に移住してからよく食卓にのぼるようになったという「エビの中華ふう炒め」と「かつお菜のパスタ」の作り方もご紹介しています。食に深い愛情を持つお二人だからこそ生まれた、工夫に富んだレシピをお楽しみください。(担当:井田)

お店の味を再現できます

2024年03月26日

お店の味を再現できます
(29号「ふーみんさんの元気の素」)

「ふーみん」の愛称で親しまれ、多くのファンを持つ料理人・斉風瑞(さい・ふうみ)さん。東京・青山の「中華風家庭料理 ふーみん」を25歳で開き、70歳まで厨房で中華鍋をふるっていました。78歳となる現在も変わらずとても元気。1日1組限定で、予約制の小さなレストラン「斉」を営んでいます。

ふーみんさんは、ご両親は台湾人ですが、生まれも育ちも東京です。お母様から受け継いだ台湾の家庭料理をアレンジして提供していく中で、お客様とのやりとりから新しい料理が生まれていきました。
今でも「ふーみん」の人気メニューである「ねぎワンタン」や「納豆チャーハン」も、そうして生まれたもの。これらのメニューも、「斉」で客層や調理場の変化に伴って進化し続けています。

今回ご紹介するのは、ふーみんさんが様々な料理のベースとして使っている「肉ダシ」。これを使った「しょう油らーめん」は、スープを飲み干したくなる滋味深いおいしさです。「ふーみん」の隠れ人気メニューという「豆腐そば」は、にんにくがゴロゴロ。ねぎ、しょうがも入って、滋養がつきそうな一品です。そして、肉ダシをとった後のひき肉を無駄なく活用した「肉みそ」は、ご飯のお供に最適で、編集部で試作した時も大好評でした。お店で人気の「たらこ豆腐」、「ねぎワンタン」も家庭で再現できますよ。
調味料は至ってシンプルでも、少しの手間を惜しまないことで、しっかりとしたおいしさに仕上がります。自宅でもこんなにおいしく作れるんだ、と驚くこと間違いありません。(担当:小林)

普通の暮らしのありがたさ

2024年03月25日

自分の持ち場でできること
――編集長より、最新号発売のご挨拶

こんにちは、北川です。
つい先日、閉店間際のスーパーでせわしく買い物をしていると、大ぶりの筍が目に入りました。一本980円也。まだちょっと高い気がするけれど、筍ご飯が浮かび、手が伸びていました。
昨年の23号の記事「春を楽しむ和のおかず」にならい、筍をゆでたら、すぐさま一番ダシの煮汁で煮る下ごしらえを。その煮汁で炊きこむ筍ご飯は、香りがよく、まさに春の味がしました。
年齢を重ねるにつれて、食材の旬をとらえて味わうことが、しみじみと嬉しく、ありがたく思います。皆さまは、どんな春の日々をお過ごしですか?

今号の表紙画は、香川在住の画家・山口一郎さんによる「march of colors」。生きる喜びがみなぎるようなこの絵、じつは、ある有名な曲の歌詞をマスキングテープに書き、コラージュしてつくられています。
どんな曲か、そしてそこに込められた山口さんのメッセージは? ぜひ、169頁をお読みください。

前号の「最新号発売のご挨拶」で、石川県珠洲市で被災した体験を綴ったところ、思いがけず多くの方々から温かいメッセージをお寄せいただきました。ありがとうございます。
わずか数日の出来事でしたが、帰京してしばらくは、蛇口から湯水が出ることや、トイレが普通に流せることに、安堵とありがたみを感じたものです。
そして、この号で取材をした、ある記事の言葉がたびたび胸に浮かびました。巻頭記事の「わたしの手帖」で、作家でジャーナリストの内田洋子さんが語ってくださった、こんな言葉です。

まずは自分を大切にする。
心と身体が元気なら、
側にいる弱い人から助けていこう。
その範囲を徐々に広げていければ
社会が良くなっていくのではないか。

被災された方々に思いを寄せて、自分なりにできることはないかと考える。あるいは、少し飛躍するようですが、ウクライナやガザで犠牲になっている弱い立場の人びとのことを思い、この悲惨な戦いをなんとか終えられないものかと考える。皆さまの中には、おそらくそんな方が多いのではないかと想像します。
自分の暮らしをいつくしみ、大事に思うからこそ、他者の暮らしが損なわれたときの痛みも鋭く感じられる。同時に、「たった一人の自分に何ができるのか」と、無力感を覚える方もいらっしゃるのではないでしょうか。SNSの投稿などを読んでいるとそう感じますし、じつは私も同じです。
だからこそ、内田さんの言葉にはハッとさせられ、胸に小さな灯りがともった気がしました。私は私の立場から、「自分の持ち場でできること」を考え、諦めずにやり続けていこうと。
内田さんは、長年イタリアで暮らしながら、現地のニュースを日本に伝える通信社を一人で営んでこられた方です。階級が根づいているヨーロッパ社会で、異邦人だからこそ入り込んで目にできたこと。街角のバールで隣り合わせになった人びとに気楽に話しかけ、裏社会の話題から若者の最新事情までをキャッチする取材力。いわば人間力がたくましく、人間観察にすぐれた内田さんの言葉は、強くて明晰で、どこか温かいのです。

日本ではコロナ下で「自助、共助、公助」という言葉が唱えられ、「その順序は違うのでは? まずは公助ではないか」という批判が集まりました。私もそう思います。
ただ、「自助」や「共助」が不要かと言えば、もちろんそんなことはなく、自分の足で立って暮らしを営む力や、まわりの人に手を差し伸べて助けることは、やはり大切でしょう。
本当の意味での個人主義とは何か。世界でさまざまな弱者が生まれるいま、私たちはどう生きていけばよいか。ぜひ、内田さんの言葉に耳を傾けてみてください。
この記事のタイトルは「どんな色にも意味がある」。色とは、私たち一人一人の、決して一つではなく優劣のつけられない「生き様」そのものなのです。

さて、最後に一つ、お願いがあります。
26号の「コロナ下の暮らしの記録」に続き、来年34号の掲載をめざして「災害時の暮らしの記録」の投稿を募ることにしました。地震や水害などの自然災害により、避難所や在宅避難で暮らしを送ったご経験をお持ちの方に投稿をお願いしています。
平時の暮らしでは見えてこないこと、ご経験から得た知恵や教訓を、誌面でお伝えできたら幸いです。詳しくは、下記をご覧ください。

https://www.kurashi-no-techo.co.jp/blog/information/20240325

そのほか10本の特集記事は、明日より一つずつ、担当者がご紹介しますね。
寒の戻りのためか、桜の開花予想は少し外れたようですが、春はもうすぐそこに。身体をいたわりながら、どうかゆったりとお過ごしください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

春。山菜の季節ですね。

2024年03月01日

先週の晴れた日に、東京郊外を自転車で走っていたら、あちこちの家の庭先にミモザの黄色が。目に眩しく春を感じました。そして河原の空き地や畑の脇などには、菜の花の黄色が広がっています。菜の花の香りも漂って、いっそう春らしさを感じた日でした。そのあと見たスーパーの野菜売り場では、菜の花や春豆が並んでいました。もうすぐ3月には、筍やうど、ふきなど、山菜の出盛りになりますね。

いま、新刊単行本の『有元葉子 春夏秋冬うちの味』が大好評発売中です。
この本では、四季折々の旬の食材を生かしたシンプルな料理を掲載しています。著者の有元葉子さんが、実際に日ごろから作っている料理の数々です。ふきは、ふきと油揚げの炒め煮、ふきの葉のふりかけ、ふきみそ、生うどのふきみそ添えなどをご紹介しています。葉つきのものを買って、葉っぱを炒めてふりかけを作るのが有元家のお決まりだそう。うどは、生うどのほか、うどの皮のきんぴらもご紹介しています。葉っぱや皮も余すことなく味わって、春の山菜ならではの香りや食感を楽しみます。そしてこの時季に欠かせないのが、筍ですね。

米ぬかと一緒に下ゆでしておけば、ある程度日持ちしますから、定番の若竹煮をはじめ、さまざまな料理を作って楽しむことができます。この本では、ゆで方はもちろん、若竹煮のほかに筍と真鯛の揚げものをご紹介。揚げものは、うす衣でカリっと香ばしく、これまた旬の桜鯛と一緒に揚げて、木の芽を散らします。
わかめと筍で作る若竹煮もそうですが、旬の食材には「出合いもの」といって、同じ季節の海のもの、山のものなどを合わせていただく、昔からの楽しみ方があります。この組み合わせがまたおいしいのです。香りや食感の相乗効果の妙。それは自然の理にかなったおいしさです。

季節を問わず多くの食材が手に入る便利な世の中ですが、「その季節だけのおいしさ」というものを、心待ちにしていただく。そんな料理のおいしさと食卓の楽しみは格別です。この本は、春夏秋冬のそうした料理の数々を、有元さんの暮らしのなかからご紹介していただいた一冊なのです。
この本の中から少しずつでも、料理と食卓の楽しみを暮らしに取り入れてみてはいかがでしょうか。(担当:宇津木、写真:馬場晶子)

本の概要はこちらからご覧いただけます。

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使い込まれた漆器のように

2024年02月09日

使い込まれた漆器のように
(28号「小さな家を建てるなら」)

こんにちは、編集長の北川です。
かれこれ15年ほど前、前職の時代に訪れた家が、ずっと忘れられずにいました。東京・国立市の住宅地の一画、24坪弱の敷地に建つ、こぢんまりとした家です。
なるたけ余分なスペースをとらないように、いわゆる「玄関土間」はなし。天井の低い短い廊下を歩き、階段を上がると、思わず「わあ」と歓声がもれました。明るくて伸びやかなリビング・ダイニングの空間が、ぱーっと広がっていたのです。これはたぶん、狭い空間から上がっていったから、余計に広々として感じられたのでしょう。
そんなメリハリの利かせ方のほかにも、この家には、「居心地のよさ」をもたらす工夫があちこちに。15年ぶりに再訪し、住み手であり設計者でもある田中敏溥(としひろ)さんに、詳しくお話を伺いました。

田中さんいわく、施主のほうに必要なのは「暮らしの哲学」だと言います。というとカタく思えるかもしれませんが、要するに、「自分たちはどう暮らしていきたいか」という強い思いと実践があれば、「限られたスペースやお金の割り振り方」といったことも自ずと見えてくるのでしょう。
今号には「漆器を使ってみませんか?」という特集記事があるのですが、住まいは暮らしにとって「大きな器」のようなもの。使い込まれた漆器が深みのある艶をまとうのと同じく、30年という家族の営みが刻まれた住まいは、本当に「よい歳の重ね方」をしています。

ちなみに田中さんは東京藝術大学の建築学科卒で、恩師の一人に、住宅建築の名手として知られる吉村順三さんがいます。現在、東京・東陽町の「ギャラリーエークワッド」では、「建築家・吉村順三の眼(まなざし) アメリカと日本」を開催中です。住宅にご興味のある方、必見ですよ。(担当:北川)

◎展覧会「建築家・吉村順三の眼(まなざし) アメリカと日本」

ハンセン病療養所で歌う思いは

2024年02月08日

ハンセン病療養所で歌う思いは
(28号「そこにはいつも歌があった」)

みなさんは、ハンセン病について、どれほどご存じでしょうか。
私は10年くらい前、ひょんなことから沖縄は名護にある療養所「愛楽園」の資料館を訪ねるまで、ほとんどなんの知識も持ち合わせていませんでした。知っていたのは、「かつて大変に差別された伝染病だな」というくらい。
特効薬ができるまで、患者の方がどれほど苦しんだか。戦後に「治る病気」と判明してからも、どれだけ苛烈な差別に晒されたのか。正直に言えば、今回、この特集を編むまで、きちんとは理解できていなかったでしょう。
沢知恵(ともえ)さんは、そのハンセン病の療養所に、幼いころから通い続けている人です。最初は見舞い客として。長じて歌手になってからは、園内でコンサートを行ない、また、岡山大学の大学院で、かつて園内で歌われた「園歌」の研究も行なってきました。
沢さんは、「入所者を『単なるかわいそうな被害者』として語りたくない」と言います。彼らが負った影の部分だけでなく、その人生において経験した光の部分も語り継ぎたいと。
この特集では、沢さんの、静かながら熱い思いを伺うとともに、昨秋、岡山県にある療養所・長島愛生園で行われたコンサートの様子もお伝えしています。沢さんの歌は、CDやサブスクリプションで聴くことができます。ぜひ、『消印のない手紙』や『愛生園挽歌』などの療養所にまつわる歌に耳を傾けながら、記事を読んでいただけたらと思います。(担当:島崎)

旬の野菜をたっぷりと。

2024年02月07日

旬の野菜をたっぷりと。
(28号「有元葉子 冬の葉野菜で作る、とっておきの2品」)

冬の寒さに備えて甘味を増し、1年で最もおいしくなる冬の葉野菜。青々と深い緑の葉がこんもりとしたほうれん草、まるまると大きく葉の巻きが詰まった白菜。年間を通しておなじみの野菜ですが、夏とは段違いの味わいです。
このページでは、新刊『有元葉子 春夏秋冬うちの味』から、ほうれん草と白菜をたっぷり使った2つの料理をご紹介しています。この本は、近年うすれつつある「食の旬」を真ん中に据えて、季節ごとの食材のおいしさを生かした料理を提案しています。また「ちゃんと食べる」ということの大切さ、暮らしの根っこを支える「食」の大切さなど、有元さんならではのエッセイも充実した一冊です。
今回掲載しているのは、「ほうれん草と豚肉のスパゲティ」と「白菜鍋」。どちらの料理も、旬の野菜の魅力を生かした、シンプルな2品。今夜の食卓にすぐに役立つレシピです。(担当:宇津木)


暮しの手帖社 今日の編集部