小さなひかりに目を留めて

本屋さん_『どこにいるの イリオモテヤマネコ』
新版『野草の手紙 ~草たちと虫と、わたし 小さな命の対話から~』
ファン・デグォン 著 清水由希子 訳
自然食通信社 1,700円+税  装釘 橘川幹子

 1985年、独裁政権下の韓国、著者のファン・デグォンさんは、スパイの濡れ衣を着せられ、投獄されました。怒りとやるせなさで荒れ狂うような数年を経て、ファンさんはある日、刑務所内の空き地にわずかばかり生えている、野草たちに目を留めます。

 本書は、ファンさんが刑務所内で野草を観察し、育て、食べ続けた記録です。妹ソナさんに向けた書簡を後日にまとめたもので、そこに綴られる言葉はユーモアと愛情に満ち、ファンさんの真摯で謙虚なこころがよく伝わってきます。ファンさん自身による、愛らしいスケッチがついているのもうれしいところです。

 文中に登場する植物には日本名が記されており、また一部には韓国名も併記されているので、インターネットや図鑑で調べながら読むと「ああ、この草はこんな名前だったのか」「韓国ではこう呼ばれているのだな」などと、さらに楽しめます。名もない草花などと言うけれど、それはただ、私たちが知らないでいるだけなのですね。

 深くて暗い絶望のなか、ファンさんはきっと、草花に小さなひかりを見たのでしょう。ひびわれて壊れかけたファンさんのこころに、いつしか無数の草花が根づき、茂っていった。30歳からの13年と2カ月。その長すぎる受刑生活を思うとき、ファンさんの平和に満ちた文章の重さ、尊さがなおのこと胸にせまってきます。(島崎)


暮しの手帖社 今日の編集部