なんだか愉快な気持ちに

『おかお みせて』
『おかお みせて』 ほし ぶどう作
福音館書店 800円+税 ブックデザイン 佐々木暁

 通勤電車で赤ちゃんを連れた出勤中のお母さんを見かけるのは、最近それほど珍しいことではありませんね。お母さんに、前向き抱っこされた子と目が合うと、つい 「いないいないばー」なんてしてしまいます。時代は変わっても、「いないいないばー」をすると、にこにこと笑ってくれるのには、ほっとして心が和みます。
 『おかお みせて』は、初めて動物たち(もしかしたら誰か)と対面したら、ひょっとしてこんな対話になるのかなというお話です。こちらに背を向けた動物が、ページをめくると「おかお」を見せてくれる。そんな単純な動きの繰り返しです。もしやこれも一種の「いないいないばー」ではないでしょうか。
 そえられた文は最小限なので、読むたびに、あるいは見るたびに、自由にお話を膨らますことができます。絵は愉快でちょっぴり間抜けだけれど、それぞれの動物の特徴がやんわりと浮かび上がっていて、ほのぼのします。そしてこの本全体にゆったりとした余白が保たれているので、 読み手はその空間に浸って遊べます。
 ところで、パンダ、カピバラ、サーバルキャットやハシビロコウと、登場するのは、私の子ども時代には出会うことのなかった動物たちばかり。そこに時代感が盛り込まれているように感じます。
 本の大きさは19 × 18cmと小型で、角は丸く加工がほどこされた製本。持ち歩きにも配慮を感じる優しいあかちゃんの絵本です。ブックデザインは小社の『戦中・戦後の暮しの記録 君と、これから生まれてくる君へ』でお世話になりました佐々木暁さんです。(上野)


暮しの手帖社 今日の編集部