答えのない「もごもご話」。

本屋さん_親になるまでの時間
『親になるまでの時間 前編 ゆるやかな家族になれるかな?』
浜田寿美男 著 ジャパンマシニスト社 1,600円+税  装釘 納谷衣美

 「分かりにくい」ということに惹かれます。答えを一つに絞れない複雑な事柄にこそ、人生の真理や面白みが潜んでいる気がするからです。私は未経験ですが、「子どもを育てる」ことは、まさにそんな事柄なのではないでしょうか。

 子育てについての答えではなく、考える材料を提示するという方針のもとで1993年に創刊した『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』という季刊誌があります。雑誌の形で刊行してきたこれまでのスタイルから、一つのテーマを深掘りする単行本スタイルにリニューアルした第一弾がこの本。一冊まるごと発達心理学・法心理学者の浜田寿美男さんの言葉で綴られており、7月にはこの後編が刊行されます。

 意表を突かれるのが、浜田さんがまず子どもの「発達」「心理」を語ることに疑問を呈していること。どちらの言葉も、子どもを単体で、または子どものある部分だけを取り出して見る危険性をはらんでいると語ります。なにか事が起こったときに、その子の性格・性質のせいだけにしていないか。そしてその性格・性質は教育によって変えられる、と思っていないか――。「人間も自然のひとつ、そして自然はみな多様なもの」「『発達』は個人を単位に考えてすむものではなくて、つねに周囲の人やものの『世界』とセットで成り立つ」という浜田さんの考えが全体を貫き、ご本人が恐縮交じりに言うところの「あいまいではっきりしない」「もごもご話」で綴られる本書を読んだあとは、街で出会う子ども一人ひとりの、個性的な輪郭が浮き彫りになって見えてくるようになりました。驚くべき変化。(田島)


暮しの手帖社 今日の編集部