心しずかに暮らしを見つめるために

2021年11月25日

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心しずかに暮らしを見つめるために
――編集長より、最新号発売のご挨拶

在宅ワークをしていると、飼い猫が腕にぴったりとくっついて、からまってきます。夜寝るときも同じで、こちらはぬくぬくと幸せです。暖冬といっても、寒くなったんだなあと思うこの頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。
いろいろあったこの一年、年末年始に、心しずかに暮らしを見つめる一冊をお届けしたい。今号は、そんな思いをこめて編みました。
表紙画は、デザイナーの皆川明さんによる「北の森の朝」。
依頼を差し上げたときの手紙を読み返すと、「先行きに不安を感じる人が多いいま、『心の安堵』や『深い幸せ』をテーマに描いていただきたい」とあります。そののちのやり取りで、「冬の澄んだ空気を深呼吸するような」というイメージが浮かび、やがて受けとったのがこの絵。ちいさな花々が寄り添って息づく様子は、なんだか私たち人のようだと思いませんか。

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巻頭記事は「わたしの手帖 オリジナルでいこう」。
今回、取材にお伺いしたのは、介護施設で働く森岡素直(もとなお)さんと、絵を描く仕事をする中井敦子さん。お二人の間には昨年末、待望の赤ちゃん、満生(まを)さんがやってきました。
じつは、素直さんは女性として生まれついた人で、ゆえにお二人は婚姻関係を結ぶことができせん。たがいに心ひかれ、寄り添って暮らし、新しいいのちを育てていく、という点では、ごくふつうのカップルであるにもかかわらず。
私がお二人とはじめてお会いしたのは昨年のいまごろで、中井さんのおなかには満生さんがいました。ざっくばらんにいろんな話をし、この方たちを記事としてご紹介したいなあと思ったものの、いったいどんな記事にしたらいいものか、しばらく考えあぐねました。
誰もが「家族」になれる社会に、少しずつでも変わっていけたらいい。満生さんの、そして、すべての子どもたちの未来のために。
そんなお二人の願いを受けとりながらも、うまく言えないのですが、このメッセージが「主義主張」として太字で記されるような記事ではなく、隣にいる人の「暮らしの物語」として受け止めてもらえる読み物にできたらいいな……そんな思いが浮かび、「わたしの手帖」がしっくりくるのではないかと考えました。
「わたしの手帖」は、「どんな人の胸にも、暮らしのなかで摑んだ、きらめく言葉が書かれた手帖がある。そんな言葉を見せていただき、読む人と分かち合いたい」というコンセプトで続けているシリーズ企画です。しぼった文字数と写真で構成された、いわば「余白」の多い記事ですが、読む方には、ご自分の暮らしと重ね合わせて何かを感じとり、ひととき足を止めて考えていただけたら、うれしい。今回の記事についても、そう願っています。

そのほか、『暮しの手帖』ともゆかりのある、物理学者で随筆家でもある中谷宇吉郎博士の横顔を娘さんたちが語る「雪の博士 中谷宇吉郎さんの家族アルバム」、版画家のわだときわさんの「ままならないから、豊か」という人生の物語を綴った連載「てと、てと。」など、人の生きざまが胸にしみいる読み物をそろえました。
年末年始の季節、腕を振るって分かち合いたい料理やケーキ、贈り物にもぴったりな「猪谷さんの靴下」など、「つくること」を楽しむ記事にも力を入れました。来週から、担当者が一つずつご紹介しますので、ぜひお読みください。

また、今号には特別付録として、「山口一郎 暮らしのカレンダー」を綴じこみました。山口一郎さんは、今年1年間の目次絵を描いてくださった画家で、私もじつは大ファン。部屋には山口さんの抽象画を置いて日々眺めています。
小ぶりなカレンダーですが、山口さんの絵は実物以上に大きく見えるといいますか、のびやかで、心をふっと解放させてくれるような明るさがあります。カレンダーを入れた封筒と表紙には、来年の干支の寅が描かれています。封筒は、本誌を開いた真ん中(ノドと言います)のミシン目からきれいに切り取ることができますので、大掃除を終えたら、この寅の絵も飾っていただけたらうれしいです。
それぞれの人が、それぞれの持ち場で頑張り、踏ん張って、日々をまわしてきたような一年でした。自分の暮らしが、じつは多くの人によって支えられている、そのことにあらためて、感謝の思いも湧いてきます。
どうか、みなさまの年末年始が、心おだやかで、幸せなものでありますように。お身体を大切にお過ごしください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織


暮しの手帖社 今日の編集部