土井善晴さんと若者たち

2018年10月04日

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撮影は暑い盛りでした。撮影終了後、大きなスイカを切り分けてくれる土井さん

土井善晴さんと若者たち
(96号「料理力って何でしょう?/土井善晴さん」)

その日、久しぶりの土井善晴さんとの撮影を前に、私は緊張で固まっていました。
土井さんのキッチンスタジオに、3人の若者たちを招いての撮影。
いつもアドリブ感満載の、セッションのような土井さんとの撮影ですが、今回はさらに予測不能です。土井さんと若者3人とのやり取り、響き合いで、話しの矛先がどこに向くか分からないのは勿論、どんなお料理が出来上がるのかも未知数だったからです。
なぜこんなにドキドキする撮影になったかといいますと、
「心が動くことを大事にしたい」という土井さんのお気持ちを、事前の打ち合わせで伺っていたから。「台本があると、心が動かないんですよ。話すことは、相手の反応を見て決めたい」というお話に深く頷き、「汁飯香(味噌汁、ご飯、お漬物)のお話しをしていただくという以外は、なにも決めずに臨みましょう!」ということになったのです。
当日、私は自分がするべきことで頭がいっぱいでしたが、一番大変だったのは、きっと土井さんです。なにしろ、初対面の若者たちを前にして、会話がどんな方向に転がっていくか分からない。そのうえ料理も手ほどきしなくてはいけない。きっと入念に準備してくださったことと思います。
印象的だったのは、開始早々、「料理ができるようになりたい」と言った学生に、先生が「できるよ」と即答したこと。「できるようになるよ」ではなく、「できるよ」。その言葉の明るさにみんながほほ笑み、スタジオの空気がふっとゆるみました。
若者たちは、この日の料理教室を心から楽しんでくれました。炊きたてのご飯のいいにおい、味噌汁に玉子を落とす小さな贅沢、じっくりと時間をかけて作る焼き飯の楽しさ――。なんてことのない日常の料理に、これだけの喜びがあると気付いたみんなの顔は、キラキラと輝いていました。
おにぎりを頬張る表情の、うれしそうだったこと! 若い人が持つパワーに、心を動かされた一日でした。
本当は誰しもが、料理力を持っている。そんな土井さんのメッセージを、みなさんにも実感していただけると嬉しいです。(担当・田島)


暮しの手帖社 今日の編集部