雪の博士の物語

2021年12月07日

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雪の博士の物語
(15号「雪の博士 中谷宇吉郎さんの家族アルバム」)

「雪は天から送られた手紙」との言葉を残した、中谷宇吉郎(なかや・うきちろう)さん(1900~1962)は、雪の結晶の美しさに魅せられ、世界で初めて人工的に雪の結晶を作ることに成功した加賀市片山津温泉出身の物理学者です。
科学で人々の幸せに役立ちたいと願い、雪や氷の研究に人生を捧げました。

わたしは2年前、写真家の石塚元太良(いしづか・げんたろう)さんから中谷宇吉郎さんの家族のアルバムがすばらしいと聞き、宇吉郎さんの愛用品や研究にまつわる品々を撮影した写真を見せていただく機会がありました。
帽子やメガネ、雪の結晶を写したプレートなど、その一つ一つに物語と愛情を感じ、ご家庭ではどのようなお父さんだったのだろう? と、思いを馳せたことがこの企画のはじまりです。

次女で「霧のアーティスト」である中谷芙二子さんは、何冊にも及ぶご家族のアルバムを大切に保管されていました。
見せていただくと、年月を経た白黒の写真には笑顔があふれ、あたたかい時間が流れていました。
戦前、戦後の激動の時代を過ごした、ご家族の歴史がぎゅっと詰まっているアルバムです。
拝見してしばらくは胸がいっぱいで、言葉にできない気持ちになりました。

三女でニューヨークに在住のピアニストの中谷三代子さんは、リモート取材で宇吉郎さんとの楽しい思い出をたくさん語ってくださり、最後にこう仰いました。
「父の奥には、いつも親切な心がありました。
自分の子どもたちにさえ、親切だったように思います」

どんな状況にあっても、親切な心や、思いやりの気持ちを大切にされていた宇吉郎さんの姿に、本当の優しさ、本当の強さを教えていただいたように思います。
石塚元太良さんのすてきな写真、ご家族のアルバム写真とともに、雪の博士の素顔の物語を、ゆっくりお読みいただけるとうれしいです。(担当:佐藤)


暮しの手帖社 今日の編集部