暮しの手帖だよりVol.24 winter 2020-21

2020年12月30日

dayori23

絵 きくちちき

身体をいたわり、心にしみいる、
「冬の贈り物」のような一冊を。
そんな思いを込めて編んだ、
特大号をお届けします。

文・北川史織(『暮しの手帖』編集長)

 

このところ、気温がぐっと下がったせいでしょうか、街のあちこちで燃えるような紅葉を目にします。土地によっては、もう初雪を見たという方もいらっしゃるかもしれませんね。
最新号の表紙は、降りしきる雪の中を踊るように駆け回る、3頭の鹿が描かれています。作者は、絵本作家のきくちちきさん。2012年にデビューしてから20冊以上の絵本を手がけ、19年の秋には、武蔵野市立吉祥寺美術館で「きくちちき絵本展 しろとくろ」が催されました。私も伺いましたが、のびやかな線で紙いっぱいに描かれた動物たちの絵を、子どもも大人も魅入られたように見つめていました。一人で静かに、目を輝かせて観ている女性が多いのも印象的でした。
会場には、ちきさんがご自身で製本された、いわゆる「手製本」も何冊か展示されていました。やわらかそうな紙に描かれた、優しい色合いの小さな絵本。手に取ることはできませんでしたが、めくってみたいなあと見つめました。

 

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それから1カ月後、5号の記事「ぼくらが家について考えたこと」の取材で、ちきさんを訪ねました。アトリエはお住まいの2階にあり、机の前の大きな窓には、里山の風景がゆったりと広がっています。絵を描くとき、ちきさんは机に紙を置き、立って筆を走らせるそうです。
取材をひと通り終えた頃、一緒にいた編集部の上野さんが、「ちきさん、よろしかったら、あの手製本を見せていただけませんか?」と頼みました。彼女もやっぱり、あの絵本が気になっていたんですね。4冊ほど拝見したなかで、私たちがたいへん心惹かれたのが、『しろいみつばち』という作品でした。
物語の舞台は、さまざまな虫や花々が息づく原っぱ。主人公の「みつばち」と「のばな」は仲良しですが、あるとき、のばなはみつばちにこう言うのです。「みつばちは いいわね わたしは どこへもいけない」。そして、自分の真っ赤な花びらに飽きてしまった、純白になりたいと話します。みつばちは、その願いをかなえたくて、思いをめぐらせる。すると、季節はずれの雪が降ってきて……。
9号は、この『しろいみつばち』を綴じ込みの特別付録とした特大号です。と言っても、手製本をそっくり掲載したのではなく、ちきさんが物語を練り直し、まったく違ったタッチの絵で描き下ろしてくださいました。
制作の打ち合わせを始めたのは、3月初旬。私たちはすでにマスク姿でした。世の中の状況はめまぐるしく変わって、編集部も4月から在宅勤務を始めたのですが、家に閉じこもって孤独に仕事をする日々、ちきさんから届く生命力あふれる絵には、ずいぶんと心をなぐさめられました。物語を貫くのは、誰かを真っ直ぐに想う優しさと、せつなさ。ぜひ、じっくりとお読みください。

 

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せっかくなので、今回はちきさんに、制作についてお話を伺いました。
——この物語はどのように着想したのでしょうか?
 「あるとき、自転車に乗って近所へ出かけたら、顔の横を何匹かの雪虫が飛んでいきました。その瞬間、〈雪の降るなか虫が飛んでいくような絵〉がふわっと見えて、雪とみつばちの物語を描こうと思いました。物語を想像していると、のばなも自然と登場しました」
——絵本に寄せるメッセージを、ぜひ。
 「この絵本は、何気ない日常からふと浮かんだものですが、現実にはあり得ない物語です。なぜ思いついたのか不思議でしたが、いま思うと、北海道で育ったぼくが雪の降らない遠い土地で暮らすなか、雪虫を見た瞬間、懐かしさと安心感のようなものを覚えたのかもしれません。みつばちと自分を重ねて、雪のなかで喜びを感じたかったのでしょうか。でも、ちょっと悲しいお話でもあるので、その頃、さびしかったんでしょうかね……。みなさんには、温もりや優しさを少しでも感じていただけたら嬉しいです」

 

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この一年、おそらく多くのみなさんが、不安や孤独、胸苦しさを感じながら、息を詰めるようにして過ごしてきたのではないでしょうか。最新号は、ちきさんが絵本に寄せた想いのように、温もりや優しさ、いたわりを込めた記事をそろえました。一部をご紹介します。
○蒸籠を使ってみませんか?
身体に優しい蒸し料理のご提案です。朝夕と蒸籠を活用している料理家のワタナベマキさんに、手間なく失敗なく、2品を同時に熱々で仕上げる「献立術」を教わりました。満足感のある主菜のほか、スープなどの副菜、常備菜まで。台所を汚さず、洗い物も少なくて済む蒸籠は、忙しい人にこそおすすめの道具です。選び方や使い方のコツも解説しています。
○3皿のご馳走
「フランスでは、前菜、主菜、デザートの3皿が献立の基本で、それは特別な日も同じ。品数より大切なのは、心ゆくまでおしゃべりして、楽しい時間を過ごすことなんです」。そう語る料理家の上田淳子さんに、気張らずにつくれる前菜、主菜を計7種教わりました。デザートは無理をせず、お店で求めてはいかがでしょう。お好みの料理で3皿のコースを組み立て、大切な人とお楽しみください。
○ぬくもりのアイピロー
在宅ワークで目や肩が疲れたとき、このアイピローで温めると、心までほっとほぐれるのを感じます。中身は小豆とラベンダー。電子レンジで温めて使い、カバーを外して洗えるつくりです。手縫いでも3時間あればつくれますので、まずは自分用に、そして贈り物にもどうぞ。
○贈り物をすてきに包めたら
ハンカチや手袋、お菓子やワインなど。贈る相手の顔を思い浮かべながら、自分の手で心を込めて包んだら、気持ちがぐっと伝わります。身近な素材を生かして遊び心をプラスした、さりげなく洒落たラッピングを丁寧にお伝えします。 
○愛しめでたし、張り子の正月飾り
張り子は、新聞紙と和紙、油粘土などを材料に、誰でも手軽につくることができます。ご紹介するのは、干支の丑、富士山、招き猫、だるまといった縁起物の張り子。大掃除を終えたら、しめ縄に飾りつけて、来る年に福を招きましょう。

 

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変わらぬ日常がありがたく、愛おしい。そうしみじみと感じる一年でした。私たちが編んだ「冬の贈り物」の一冊をめくりながら、心からくつろいでお過ごしいただけたらうれしいです。みなさんに、穏やかな年末年始が訪れますように。

 

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◎リーフレット「暮しの手帖だより」は、一部書店店頭にて配布しています。
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暮しの手帖社 今日の編集部