暮しの手帖社 | 2 バレとりましたか?

2 バレとりましたか?

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87号刊行記念イベント 2017/4/10/19:00〜  「のんの愛する洋服づくり」
のん×澤田康彦(『暮しの手帖』編集長)
東京堂ホール(神田神保町/東京堂書店)  写真 長野陽一

巻頭特集「直線裁ちでつくる 春の はおりもの」で、ソーイングに挑戦した女優にして“創作あーちすと”の、のんさんとのトークイベントです。
趣味の縫い物のこと、『この世界の片隅に』のこと、最新刊のこと、質問コーナー……等々、「しゃべるのは苦手」というのんさんが、気づけばたっぷりお話ししてくれた貴重で愉しい記録です。
あっというまに満席となったイベントの、のんびりほっこり、笑いでいっぱいの幸福な空気感を、来られなかった皆様にもぜひお伝えしたく、できるだけ進行のままに再現しました。
のんさんの愛らしい、独特の間合いも、ぜひお楽しみください。
全5回でおとどけします。

2 バレとりましたか?

澤田 みなさん、今日はのんさんがつくった洋服を持ってきてもらっているんですよ。
〔ハンガーラック登場〕
お客さま わあ!〔「すてきー」「すごーい」の声、あちこちから〕
澤田 4着。これらはつくったうちの一部ですよね。
のん そうです。
澤田 つくった順に教えてください。
のん はい。ではこれ……トップスでーす。
澤田 自慢ポイントは何ですか?
のん 自慢ポイントは、この袖の広がったライン……始末したんですけど、中に折り込んでないところが、チャームポイントです。あとですね、ここすごくがんばったんです。初めて、テープ……えーと何とかテープを……えーとえーと……
お客さま 「バイアス」テープ!
のん あ、そう(笑)、バイアステープを初めて使って、つくったんです。ちょっとゆがんじゃってるんですけど、自分では気にいってます。
 次はこれ。NaniIRO(なにいろ)さんっていう作家さんのガーゼの布……絵の具を乗せた柄の作品が好きでつくってみたんですけど、このふわふわ袖がポイントです。流行ってる!
澤田 流行ってるんだ?
のん そう、流行ってる! そうだ、あと、ここがきれいになっているんです。「バイアス」テープのところ。〔場内笑&拍手〕
澤田 バイアス、覚えました。
のん 前のよりも技術が上がっているところがポイントです。
澤田 では、三つ目。

のん ワンピース。
お客さま (あちこちから)かわいーい!
のん こちらの生地もNaniIROさんです。ラインに気づかってですね、このまんまだとよく分からないんですけれど、着てみると、シュッとなる。何て言うのかな、着やせ効果のあるラインになっています(笑)。オードリー・へプバーンが着ているような50年代のシルエットに憧れてつくりました。ちょっと丈が短めですが。
澤田 おー、すごくきれいですね。

◆急いでるときでも大丈夫な服

澤田 そして、もうひとつ、こちらは奇抜な柄ですね。クマさんワンピース。
のん これは、ポイントは……前後ろどっちでもいいっていう。
お客さま へーー!
のん 楽ちんです。「あ、前後ろ逆だった!」っていうことがないんです。急いでるときでも大丈夫(笑)。
澤田 何でこの柄を選んだんですか?
のん クマたちが目に飛び込んできたんです。いつも面白い柄が気になっちゃうので。このワンピースはですね、『暮しの手帖』で直線裁ちの服をmatohu(まとう)さんに習ったあとに、つくったんですよ。ですので、直線のところを目立たせるように入れてみたんですよ。めちゃくちゃきれいに縫えるようになったんですよ!
澤田 つまり、この特集企画、やってよかったってことですね。
のん そうなんです! 襟がある服も、今まではこわくて挑戦できなかったんですけど、習って、まっすぐ縫えるようになって。
澤田 生地って、ひとりでふらっと買いに行くんですか? それ目的で?
のん そうですね。
澤田 今回取材したお店の人が、のんさんのことを「ときどき来られていますよ」って。「とても面白いものを選ばれます」っておっしゃっていました(笑)。
のん 一度、ふだん絶対使えないなって布を選んでしまって……ショッキングピンクのふわふわの、ぼこぼこのついた……。
澤田 ん?
のん 説明がむずかしいんですよね。へんてこなのを選んじゃって、失敗だったかも(笑)。
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◆すずさんの生活に触れてみたいなと

澤田 では続いて、こちらのもんぺの説明をお願いします。
のん これはですね、『この世界の片隅に』で、すずさんという女性の声を務めさせてもらったんですが、その中ですずさんが、着物をリメイクしてもんぺにするというシーンがあって。私も実際に浴衣を切って、つくってみたんです。すずさん独自、我流のやり方で、普通は全部糸をほどいてからつくるものだそうなんですけど、すずさんは、ざっくりとおなかのところを二つに分けてつくるやり方。劇中のそのやり方で、つくりました。
澤田 これはアニメで、今回のんさんは声優だから、演技するわけではないじゃないですか? それなのにわざわざつくってみるっていうのは?
のん すずさんの生活に触れてみたいなと思ったんです。
澤田 もんぺづくり、簡単?
のん わりと。一部、糸をほどいたりとか、ちょっとだけ手間はかかるんですけど。
澤田 みなさんも、いらない着物や浴衣があったら、つくってみてくださいね。
 『この世界の片隅に』についても少しうかがいたいのですが、このすずさんの声を演(や)るにあたって、一番意識したことはなんでしょう?
のん オトボケてるところです。
澤田 ああ、そうかあ。不思議ですね。主人公がオトボケなのに、泣かされてしまうという映画。
のん そうですね。オトボケがあるからこそ、というか。監督が一番大切にしていたことがそれで、「すずさんのオトボケていてチャーミングなところを大事にしてくれ」「きれいな声を出さなくていいんだ」っておっしゃっていて、それをベースに演(や)っていきました。
澤田 演(や)りながら泣いちゃうなんていうことはなかった? 泣くシーンはありましたよね。
のん そうですね。敗戦を知ったときのシーンですね。
澤田 あそこ、激烈でしたね。日頃おっとりしているすずさんが、あの場面だけ、誰よりも怒って泣いてました。
のん 声だけなんで、もっと表現を乗せていかないと、というのがあって、(実写の)身体表現とか、表情が見える表現よりも、声だけのアニメではもっと強く感情を出さないといけないというのがありまして。涙が出たときの鼻水が出る感じを出したいというときとかは、実際に泣かなきゃいけなかったですね。
澤田 “吐息”というのが多かったですね。息づかい。「はあ」とか、「ふう」とか、「ありゃあ」とか、そういうのは自分で意識してされるんですか?
のん 監督に教えていただいて。すずさんが「はっ」て驚いたりとか、水を運んでいるときとか、持ち上げるときとか、そういうときに“呼吸”を感じさせてほしいと。声優の方はみんなもう自分でそのタイミングをつくっているみたいで、そのことを監督から学びました。

◆役は自分に引きつけて

澤田 『創作あーちすと』の本の中の桃井かおりさんとの対談で、のんさんが「その役を解釈するときに、自分に引きつけて考えます。自分の感覚にあるものから『こういうことかな?』って考えていって……っていう感じ」とおっしゃっています。自分側に人物を引き寄せるって意識が働くアプローチなんですね。
のん そうですね。解釈するときに自分の中に似ている感覚というものはないかなと引っぱってきて、それを増幅させていくって感じです。
澤田 音録りのときは動いたりするんですか?
のん 動きたかったんですけど、動くとマイクが音を拾っちゃうので、我慢しました。「上下に動くのはどうですか?」とか「横はダメですか?」とか言ってみましたが、「いや、マイクから外れちゃうんで」って答えで、結果、動かない! っていう(笑)。
澤田 冒頭から、すずさんの息づかいが大きくて、すずさんが前に前に出てくるような映画だなと感じていました。音声の表現にとても神経を使った映画というか。その呼吸の向こうに、がんばるのんさんの姿を想像していました。みなさんもそうですよね?
お客さま 〔「はい」の声、あちこちから〕
澤田 ちなみに、一番気に入ってるすずさんのセリフは何でしょうか?
のん えーと……「バレとりましたか?」っていう。
お客さま (笑)
澤田 すずさんがハゲてることがバレるシーンですよね。なんでそこが好きなの?
のん あの描写、すごくびっくりしたんですよね。ハゲを気にしているっていうことを、こういうふうに表現するんだ! って。怒っているように、落ちこんでいるように見せといて……ハゲのせいか?(笑)
澤田 そうですね。あれ、最初、すずさんの行動や気持ちが見えないですよね。なぞかけ的に進んでいって、落とすのが独特でした。
のん 面白かったですね。
澤田 ぼくはね、「ここはどこね、いったい!」というセリフが好きでした。花街で迷子になったシーン。急にすごく素っ頓狂な、大きい声を出すじゃないですか。
のん はい……「ここはどこね、いったい!」って。
澤田 あ、いいなあ、その声、その声です! では、ぜひそういう風にお気に入りのセリフを言ってみてください。
のん はい。では……(呼吸を整えて)……「バレとりましたか?」。
〔場内大拍手〕
澤田 すごい! みなさん、今日は来てよかったですね。
〔つづく〕


暮しの手帖社 今日の編集部