恋しいキッチン

カヒミ カリィ

第6回 雨の日も晴れの日も、東莱(トンネ)風パジョン

2025年09月03日

アメリカに住んでいた頃、夏に日本へ帰省する時はよく韓国・ソウルを経由して数日滞在していました。いつも泊まっていたのは北村韓屋村(プクチョンハノクマウル)という地域で、韓屋(ハノク)という伝統家屋が今でも多く残り、小さなカフェや雑貨屋などもある雰囲気のいいすてきな所です。

長いフライトの後に韓国の古い街並みを散歩していると、まるでタイムトリップしたかのような不思議な気持ちになるのです。近所の八百屋で果物を買ったり、骨董屋をのぞいたりしているうちに少し時差ぼけが落ち着き、それから再び飛行機に乗るとあっという間に東京に到着する感じが心地よくて、いつもその短い滞在を満喫していました。

ところで私は映画を観ていると、おなかがすいてたまらなくなることがあるのですが、イタリアや韓国の映画は特においしそうな食事のシーンが多くて悩ましいのです。私が住んでいたアメリカのランカスターにはおいしい韓国料理店がないので、余計に居ても立ってもいられなくなり、いつの頃からかコチュジャンやアミ(アミエビ)の塩辛などを取り寄せて作ってみたり、庭でエゴマの葉やチャメ(マクワウリ)という果物なども育てたりするようになりました。韓国料理は食べるほどに癖になるのはなぜでしょう。

この春、日本に帰国してからは、ずっと慌ただしくしていて一度も韓国へ行けていないのですが、東京にはおいしい韓国料理店がたくさんあるので幸せです。さて今回ご紹介するのは、すっかりわが家の定番になった韓国料理の一品、海鮮ねぎチヂミです。

チヂミというと、短く切った野菜などの具材を全て生地の中に混ぜ込んで焼くものが多いのですが、これはもう少し凝った作り方で、韓国の南東部の都市・釜山(プサン)の東莱(トンネ)という地域でよく作られているレシピです。東莱風は、まず細ねぎを長めに切って生地に浸したものをきれいに並べて軽く焼き、その上に具材を入れた生地を流し入れ、玉子は生地の中に入れずに、最後に溶いて上から全体にまわしかけて焼くのが特徴です。日本のお好み焼きで言うと、焼きそばや目玉焼きで層を作る広島風のような感じでしょうか。手をかけた分、具材や玉子のおいしさがより際立ち、また並んだ緑色のねぎが美しくウットリしてしまいます。

チヂミという言葉は慶尚道(キョンサンド)地方の方言『チヂム』に由来するそうで、韓国の標準語では『ジョン』と言われることが多いそう。『パ』はねぎという意味、なのでこのねぎ焼きチヂミは『トンネパジョン』と呼ばれています。釜山は韓国最大の港町、だから魚介がたっぷり入っているのですね。

ところで韓国では雨の日にチヂミを作ることが多いと聞きました。理由はいろいろあるようですが、チヂミを焼く時の油がはねる音が雨の降る時の音と似ていることや、家に残っている材料で簡単に作れるので雨の日に買い物に行かずに済むから、という説が有力でしょうか。

そんな手軽に作れて、軽食にもなるチヂミですが、今回のレシピは、この一品でもご馳走な気分になるおいしいレシピです。香ばしく焼き上げるコツは、グルテンを少なくするために薄力粉に片栗粉を混ぜて冷水を使い、生地は柔らか過ぎないこと、そして油を多めに使ってカリッと焼き上げることでしょうか。また、細ねぎはなるべく重ならないように並べるとおいしくなるように思います。そして熱々のものをいただくこと!タレや他の料理は先に準備して、ぜひ焼きたてのカリカリ、もちもちのチヂミを召し上がってくださいね!

文・写真 カヒミ カリィ



東莱風パジョン(海鮮ねぎチヂミ)

材料(直径約20cm1枚分)
・好みの魚介(エビ、イカ、アサリのむき身など)…100〜150g
・溶き玉子…1コ分
・細ねぎ…1/2束
・ニラ、にんじん、玉ねぎ…各10g
・薄力粉、ごま油、サラダ油…各適量

生地
・薄力粉…60g
・片栗粉…50g
・塩…1つまみ
・冷水…120ml

つけダレ(作りやすい分量/混ぜ合わせる)
・長ねぎ(みじん切り)…大サジ1杯
・白いりごま…小サジ1と1/2杯
・にんにく(すりおろし)…小サジ1/3杯
・しょう油…大サジ3杯
・酢…大サジ1杯
・砂糖、ごま油…各小サジ2/3杯
・粉唐辛子またはコチュジャン…小サジ2/3杯

作り方
1 細ねぎの半分を長さ3等分に切ります。残り半分は左右を変えて置き、同じように切ります。こうすると先と根元がバランスよく混ざります。
2 ニラは長さ4cmに切ります。にんじんは長さ3cmのせん切りに、玉ねぎはうす切りにします。
3 ボールに生地の薄力粉を入れ、1のねぎをまぶして、バットに取り出します。ボールに残りの生地の材料を加えて、泡立て器でよく混ぜます。
4 魚介は食べやすい大きさに切り、別のボールに入れて、薄力粉大サジ1杯をまぶします。3の生地大サジ3杯を加えて混ぜます。
5 3の生地のボールに細ねぎを入れ、生地をまとわせます。
6 フライパンを中火で熱し、油(ごま油とサラダ油を半々)を引きます。◎油は多めの方がカリッと焼き上がるのでおすすめです。
7 5の細ねぎを菜箸やトングで引き上げ、余分な生地をボールに落とし、フライパンに並べます。◎この時、ねぎに生地をつけ過ぎないようにしましょう。また、なるべく重ならないように、うすく並べましょう。
8 ボールに残った生地に2の野菜を入れて軽く混ぜ、7の上に均等にのせます。
9 4の魚介を8の上に均等にのせ、上から溶き玉子を少しずつまわしかけます。
10 強めの中火にして火を通します。端の方がカリカリと固まってきたら、裏返します。◎裏返す時は、鍋のフタや大きめの皿などを使うとよいでしょう。油が多めなのでやけどしないように、気をつけて慎重に。
11 まわりから油を少し足し、中火でカリッと焼き上げます。両面においしそうな焼き色がつき、具に火が通ったら完成! 庖丁で食べやすく切り分けます。細ねぎが長いので食べやすく切り、箸で割くようにして取り分けても。あれば、糸唐辛子や唐辛子(分量外)で飾りつけると、すてきなアクセントになります。タレをつけていただきましょう。



カヒミ カリィ
ミュージシャン、文筆家、フォトグラファー。1968年生まれ。
フランスで約8年、アメリカで約13年暮らし、2025年春に日本へ帰国。
『暮しの手帖』の連載「すてきなあなたに」にも寄稿。
Instagram:https://www.instagram.com/kahimikarie_official/