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自分から開く

2023年11月25日

自分から開く
――編集長より、最新号発売のご挨拶

こんにちは、北川です。
祝日の一昨日、浅草の雷門通りを歩いていたら、豪勢な熊手の御守りを肩にかついで歩く人の姿がちらほらと。早いもので、鷲(おおとり)神社の「酉の市」でした。去年もこんな光景を見たことをありありと思い出すと、一年は本当にあっという間なんですが、若い頃のような焦燥感ではなく、ほっとする思いが湧き上がってきました。
「この一年、それなりにいろいろあったけれど、無事に過ごせたのだから、まあよかったじゃないか」というような。
世界のあちこちで続いている争いに目を向けると、ただ普通に暮らせることが、いっそうありがたく思えてくる。みなさまは、どんな思いを胸に今年を振り返っていらっしゃいますか。

今号の表紙画は、絵本作家のみやこしあきこさんによる「雪の街」。降りしきる雪のなか、車でどこかへ向かうクマさん。助手席には、プレゼントらしき赤い紙袋。
編集部のある人が、「ソール・ライターの赤い傘の写真みたいな雰囲気だね」と感想をもらしましたが、言い得て妙です。
『暮しの手帖』は年に6冊。どの号も力を入れてつくっていますが、この年末年始号は、とりわけ力こぶができるのです。いつもよりも、ゆったりとした心持ちで読んでくださる方が多いかもしれない。ふだんは離れて暮らす家族や、久しぶりに会う友人に、何かおいしいものをこしらえてあげたい、そう考える人もいらっしゃるだろう――そんなことを想像しながら企画を考え、いざ撮影するのは夏の暑い盛りです。一つひとつの記事については、それぞれの担当者が来週からご紹介しますね。

かくいう私は、「わたしの手帖 笑福亭鶴瓶さん」を担当し、7月初旬、大阪の帝塚山(てづかやま)へ向かいました。帝塚山は高級住宅地として知られているようですが、私が訪ねたのは、ごく庶民的な街並みにあるこぢんまりとした寄席小屋「無学」です。
もしかしたら、鶴瓶さんの落語家としての顔をご存じでない方もいらっしゃるかもしれません。それもそのはず、鶴瓶さんは20歳で六代目笑福亭松鶴(しょかく)師匠に弟子入りするものの、師匠からはまったく稽古をつけてもらえず、本格的に落語に取り組んだのは50歳を過ぎてから。まだ20年ほどのキャリアなんです。
「無学」は、もとは松鶴師匠の邸宅で、師匠亡き後に鶴瓶さんが買い取って寄席小屋に改築しました。若い頃の鶴瓶さんは、すぐ近くのアパートに住みながらここに通い、新婚生活もこの街で送ったといいます。
なぜ師匠は鶴瓶さんに稽古をつけてくれなかったのだろう?
鶴瓶さんが「無学」という場をつくり、24年もの間、地道に運営してきたのはなぜ?
そのあたりはぜひ記事をお読みいただくとして、取材でとくに心に残ったのは、鶴瓶さんの「人に対する垣根の無さ」でした。
はじめに「こんにちは、このたびはありがとうございます」とご挨拶すると、「あなた、前にも会ったことのあるような顔だね」とほがらかに鶴瓶さん。その一言で、場の空気はふっと和み、取材の緊張がほぐれます。
撮影では、照りつける日差しの下、帝塚山をぐるぐる歩き、20歳の頃に住んでいた可愛らしいアパートや、新婚時代に暮らしたアパートなどを案内してくださったのですが(前者は63頁にちらりと写っています)、道ゆく人が「あ、鶴瓶さん!」とたびたび声をかけてきます。鶴瓶さんは一人ひとりと自然体で会話を交わし、写真を求められれば応じ、なんだかとてもフラット。そう、NHKの『鶴瓶の家族に乾杯』のロケシーンそのものなんです。
「人といかに出会って、関わっていけるか。それが生まれてきた意味だと思う。だけど人生は短いからね。一番手っ取り早いのは自分から開くことだと思っているんです」
そう鶴瓶さんは語ります。
確かにその通りだなあ……と胸にしみたのは、私もそれなりに年齢を重ね、「あのとき、どうしてあの人にこれができなかったのだろう」というような後悔があるからかもしれません。
自分から開く。
山あり谷ありの人生を、人との結びつきを大切にしながら歩み、多才なキャリアを積み重ねてきた鶴瓶さん。「格言を言うぞ」というような肩ひじ張ったところは一つもなく、それでいて、「なるほどなあ」と胸に落ちる格言がぽんぽんと飛び出す。年末に、来し方行く末に思いを馳せながらお読みください。
ちなみに私は12月1日、池袋で催される鶴瓶さんの独演会を心待ちにしています。年末だから、夫婦の結びつきが胸を打つ「芝浜」が聴けるかな。鶴瓶さんの落語は、ふだんの鶴瓶さんの語りと変わらずあったかく、江戸の世界にすっと入り込めるのです。

さて、今号は特別付録として、トラネコボンボンさんの「世界を旅する猫のカレンダー」をつけました。
トラネコボンボンさんには、今年一年の目次画を手がけていただいたのですが、毎号どっさりといろんな絵が届き、アートディレクターの宮古さんが頭をひねってデザインする、その繰り返しでした。カレンダーも同じで、12カ月分を大幅に超える点数を描いてくださり、さあどれを選ぼうかと、何度か組み替えて悩んだものです。ぜいたくな悩みですね。
来たる年も、みなさまの暮らしに小さくとも温かな灯りをともせる雑誌がつくれるよう、編集部のみなで頑張りたいと思います。少し早いのですが、どうぞお身体を大切に、よい年末年始をお迎えください。今年もご愛読くださり、本当にありがとうございました。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

手話をことばとして生きる、写真家と家族の物語 『よっちぼっち 家族四人の四つの人生』刊行のお知らせ

2023年11月22日

人間は決してひとつになれない
そのことを本作は、
悲しいこととしてではなく、
うつくしいこととして書いている 
西 加奈子(小説家)  ――帯文より

今もっとも注目を集める写真家、齋藤陽道さんによる人気連載が待望の一冊になりました。

齋藤さんは「聞こえる家族」に生まれたろう者、妻のまなみさんは「ろう家族」に生まれたろう者。
そんなふたりの間には、聞こえる子どもがふたり――。
一家はそれぞれの違いを尊重しながら、手話で、表情で、体温で、互いの思いを伝え合って生きています。
本書は、美しい写真とともに紡がれたろうの両親による育児記であり、手話で子どもと関わり合うからこそもたらされた、気づきと喜びの記録です。

カバーの四つの白い器の模様には、ホットスタンプ(加熱型押し)を施しており、中表紙が薄っすらと透けるデザインになっています。
ぜひ、お手に取ってご覧ください。(担当:村上)

※目次はこちらからご覧いただけます。

「いま響く言葉」がいっぱいです

2023年09月25日

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「いま響く言葉」がいっぱいです
――編集長より、最新号発売のご挨拶

こんにちは、北川です。
わが家のご近所の浅草寺では、仲見世の軒先に紅葉のディスプレイがはためいています。先週までは、それが場違いに見えるほど日差しがギラギラしていましたが、ここ数日でずいぶん涼しい気候になりました。ほっとして体が緩むと、夏の疲れが出たりするもの。お変わりなくお過ごしでしょうか。
さて、今月11日に発売した『創刊75周年記念別冊 暮しの手帖』に続けて、このたびの26号は「創刊75周年記念特大号」です。
表紙画は、皆川明さんによる「安息」。2匹の猫が寄り添う乳白色のランプ、実はこれは、初代編集長の花森安治が愛用していたものです。ランプは、花森さん(私たちはそう呼んでいます)が編集長を務めた30年の間、表紙や挿画に幾度も描いたモチーフで、まさに『暮しの手帖』のシンボル。創刊号の表紙画をご覧いただくと、チェストの上に、愛らしいランプがちょこんとありますね。

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創刊した1948年は、東京はそちこちに焼け野原が残り、多くの日本人は傷ついた心や体を抱えながら、新たな価値観を求めて歩み始めた頃でした。衣食住に必要なものも、読み物も充分になく、これから先の展望も見えない。花森さんは、「まだ暗い世の中に、かすかでも、希望の灯火を灯すような雑誌でありたい」、そんな願いを込めてランプを描いたといわれています。
では、いまの時代が満ち足りているかといえば、そんなことはないんじゃないかと私は思います。もちろん、私たちは75年前よりもずっと多くのものに囲まれて暮らしてはいますが、自分のこれからの暮らし、この国や社会の行末、いろんなことに「よるべない思い」を抱えて生きている人は多いのではないかな。そう感じるのです。
今号は、私たちの初心である「ランプ」を表紙画として、「いまの暮らし」に向き合う一冊を編んでみたいと思いました。
いつもの『暮しの手帖』は、いろんな特集記事が9〜11本詰まった、「幕の内弁当」みたいなつくりですが、今回は16頁増やし、4つの大きな特集を組んでいます。

第一特集は「ずっと、食べていく」。私たちは生きる限り食べ続けなければならず、その礎となるのは「家のごはん」です。そうよくわかっていても、いろんな事情で思うようにつくれないこともあれば、理想を追い求めて疲れてしまうこともある、そんな声を聞いたりもします。
ならば、ふだんの料理記事ではこぼれてしまいがちな、「家のごはんって何だろう?」を掘り下げる特集を組めたらなあと思ったのです。登場する6名の方がそれぞれに語る、「家のごはんの物語とよりどころ」。お読みいただき、心を動かされたなら、そのお話に付随する料理をぜひつくってみてください。
この手で、自分を生かすものをつくれるって、いいものだな。そう感じるところから自分の暮らしを見つめて、自分なりの指針、「よりどころ」を見いだしていただけたらうれしく思います。

第二特集は「これからの暮らしの話をしよう」。これは、いつも連載してくださっている執筆陣の3名が、それぞれに「いま会いたい人」を訪ねて語り合う対談(鼎談)記事です。
ライターの武田砂鉄さんは、『海をあげる』などの著作で知られる沖縄の教育学者・上間陽子さんのもとへ。画家のミロコマチコさんは、10年来ワークショップを行なっている横浜の障害福祉事業所「カプカプ」へ。評論家の荻上チキさんは、作家の村田沙耶香さんと。
それぞれの記事は要約しがたく、とにかく読んでいただきたい、それに尽きます。世の中を見ていてモヤモヤとしていたことが、会話のやり取りを追ううちに、「ああ、そうだったのか」と気づきを得たり、「そういう考え方もあるのか」と明るい気持ちになったり。面白いのは、それぞれの会話のテーマが、「暮らし」でありながら「社会」でもあること。
自分の暮らしは、自分の手で工夫してつくっていく。それは本当のことですが、それだけではどうにもならないこともある、そう感じることはありませんか。この社会が、もっと居心地よいものであれば、私たちの暮らしも、もっと心地よくなるのかも。それにはどうしたらいいか、一緒に考えてみませんか。

第三特集は「あの人の本棚より 特別編」。人気連載の拡大版で、今回は5名の方の「本棚」が登場します。
第四特集は「コロナ下の暮らしの記録」。こちらは、読者のみなさまから投稿を募り、短い期間にもかかわらず、多くのご投稿をお寄せいただきました。職業や内容にバラエティーが出るよう、編集部で何度も読み返し、悩みながら選び出した18編をご紹介しています。切実な話もあれば、ほのぼのとした話もあり、見えてきたのは「一人ひとりのかけがえのない暮らし」そのもの。ご投稿くださったすべてのみなさまに、心よりお礼を申し上げます。

振り返ると、この一冊は、とりわけ「言葉」を大切にした内容になりました。それは概念的な言葉というより、「暮らしと結びついた言葉」です。読んであなたが考えたことを、あなたの言葉で、まわりの人に話していただけたら。または、ご感想をお寄せいただけたら、本当にありがたく思います。

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付録の大判ポスターは、先述の花森安治による創刊号の表紙画と、連載陣のお一人、ヨシタケシンスケさんによる「一人ひとりの暮らし」を一枚に。75年前の創刊から、「いま」に至るまで、ずっとずっと「あなたの手帖」でありたい。そんな思いを込めて編んだ、手前味噌ながら、力作の号です。いろんな言葉を胸に響かせながら、どうぞじっくりとお楽しみください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

最新刊『新装保存版 暮しの手帖のシンプルレシピ』発売中です

2023年09月22日

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最新刊『新装保存版 暮しの手帖のシンプルレシピ』発売中です。

世の中に、「簡単レシピ」「時短料理」などをテーマにした良い料理本がたくさんありますね。でも、数あるなかでもこの本は、ちょっとひと味違います。『暮しの手帖』がご提案するのは、単に「早く簡単に」というだけの料理ではありません。バラエティ豊かな手法と味わいの、本当においしいレシピだけをご紹介しています。
この本は、2014年に刊行した別冊『暮しの手帖のシンプルレシピ』を書籍化したものです。私たち社員の間でも、「うちの台所でいちばん活躍している一冊」という声の多いレシピ集です。読者の皆様にも、とてもご好評をいただき、このたび永久保存版の単行本として刊行しました。

「早く簡単に」だけではないこの本の特徴は、次の3つの考え方です。
①「少ない材料と手順で作る料理」 これは文字通りシンプルなレシピです。シンプルな作り方だからこそ、素材自体のおいしさを生かすコツがあります。それに加えて、②「ほうっておいておいしくなる料理」 タレに漬け混んだり、じっくり煮込んだり、オーブンで焼いたり。時間がおいしくしてくれるから、しばし手が離せるのもうれしいところです。そして、③「作り置きを活用する料理」 そのまま一皿になる常備菜、仕上げのひと手間で完成するおかずの素、ばっちりおいしく味が決まるタレや合わせ調味料など。冷蔵庫にあるとうれしい作り置きをいくつかの料理に展開します。
レシピ指導は、「分とく山」総料理長の野﨑洋光さん、料理家のウー・ウェンさん、渡辺有子さん、飛田和緒さん。上記の3つの考え方の料理を、和洋中の多彩な料理を教えていただきました。レパートリーも広がるバリエーション豊かな内容で、毎日の食卓にお役立ていただけます。詳しくは、こちらをご覧ください。(担当:宇津木)

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75周年の「奇跡」、ありがとうございます

2023年09月11日

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75周年の「奇跡」、ありがとうございます
――編集長より、『創刊75周年記念別冊』発売のご挨拶

こんにちは、北川です。
じつは、今年の3月あたりから、私たち編集部は本誌と並行して、『創刊75周年記念別冊』をコツコツと制作していました。ようやく完成し、手にとってパラパラとめくると、本誌が仕上がったときとはまた違った感慨が湧き上がってきます。うれしいなあ。
表紙の絵は、初代編集長の花森安治が描いた、1世紀5号(1949年10月発行)の表紙画です。ちょっと並べてご覧いただきましょう。今回の別冊の表紙のほうが色鮮やかで、ディテールもくっきりとして美しいと思われるはずですが、これはまったく同じ絵なんですよ。
それだけ印刷技術が進歩したということですが、もしもこれを花森さんが見たら、悔しいような、うれしいような、なんとも複雑な気分になるんだろうなと想像します。

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この別冊の大きなテーマは「自己紹介」です。
戦後まもない東京では、いろんな雑誌が雨後の筍のように創刊されたそうですが、1948年9月20日に産声をあげた『暮しの手帖』も、その一つでした。当初から広告をとらなかったこの雑誌が、75年もの間、時代の変化に揉まれながらも残ることができたのは、なぜなのだろう。創刊からいまに至るまで、変わらず抱き続けている理念って?
もしかしたら、『暮しの手帖』を長くお読みいただいている方にとっては「基本の知識」かもしれない「自己紹介」も、冒頭でコンパクトにわかりやすくまとめてみました。巻末には、日本の戦後の歴史とともに歩んだ『暮しの手帖』の主なトピックを「年表」に。
もう一つ軸にしたのは、読者の方に綴っていただく、「『暮しの手帖』にまつわる人生の物語」です。
表紙をめくった頁にある、「これは あなたの手帖です」から始まる花森さんの言葉の通りで、『暮しの手帖』を単なる雑誌というよりも、個人的な「手帖」のように思ってくださる方も多いように感じています。たとえば余白に感想を書き入れたり、心に留まった文章に線を引いたり。また、編み物の記事などは、「いまは忙しくてなかなか編めないけれど、仕事をリタイアしたら、きっと」と付箋をつけておき、掲載から10年後に念願かなって編んだ、といったお話を何度か伺ったこともありました。
そこで、「あなたの暮らしを変えた記事、心に残る記事を教えてください」と投稿を募ったところ、思った以上にたくさんの方からご投稿をお寄せいただき、うれしい悲鳴でした。それらのご投稿と、該当する記事の誌面を一緒にレイアウトして並べてみたところ、一つひとつに人生のドラマがあって、素晴らしい。やっぱりこの雑誌は「読者とともに歩んできた雑誌」なのだなあと、しみじみとありがたく思いました。

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もしも私が「心に残る記事」を選ぶとしたら……と考えたときに真っ先に浮かぶのは、1世紀49号(1959年)の連載「ある日本人の暮し」です。この連載は、市井の人びとの悲喜こもごもある暮らしぶりを花森自ら取材・執筆したルポルタージュで、映画のワンシーンのようなモノクローム写真の力も相まって、胸に迫るのです。
どの回も心に残りますが、私がもっとも好きなのは、この1世紀49号の回で、タイトルは「共かせぎ落第の記」。鉄道機関士である夫とその妻が、時にすれ違いがあって悩みながらも、慈しみあいながらつましく暮らしていく心情が綴られた記事です。
じつは7年前、まさにこの記事の主人公である川端新二さん・静江さんご夫妻から「読者アンケートはがき」をいただき、そこにはこんな言葉がしたためられていました。
「第1世紀49号の『ある日本人の暮し』に登場させていただきました。今から57年前のことです。貴誌は全部、大切に持っています。当時、若かった私共夫婦も、今では合わせて170歳になりました。熱烈な、『暮しの手帖』の応援団のひとりと自負しております」
すごい! ああ、この川端さんご夫妻にお会いしたい! 
当時の編集長だった澤田さんに話をしたところ、「取材に伺ってみたらどう?」と勧められ、記事にしたのは4世紀84号(2016年)。今回の別冊には、この記事を再編集して掲載しています。モノクロームの写真は、当時のネガが発掘できたので、新たにデータ化して印刷しました。これがとても美しいので、どうぞ写真もじっくりとご覧になってください。

75年の間、手から手へとバトンをつなぐようにして発行し続けてきた『暮しの手帖』。広告をとらない雑誌ですから、購読してくださる方々がいらっしゃらなければ、けっして成し遂げられなかったメモリアルです。まさに「奇跡」だなあと思うのですが、これは手前味噌ではなくて、つねに伴走してくださる読者の方が起こしてくださった奇跡。心より、お礼を申し上げます。
そのほかの内容としては、往年の名作料理をいまに作りやすい解説を添えてまとめた「とじ込みレシピ集」や、「すてきなあなたに」「家庭学校」などロング連載の秘話を紹介する記事、花森安治の愛らしい絵を刺繍にして楽しむ記事など、ちょっと欲張って盛りだくさんになりました。付録の「花森安治 挿画ステッカー」は、スマホやパソコン、お手紙などにどうぞ。
秋の夜長に、お茶でも飲みながらゆっくりと楽しんでいただきたい、面白くって温かな一冊に仕上がりました。ぜひぜひ、お手に取ってご覧ください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

ひとって可愛い

2023年07月25日

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ひとって可愛い
――編集長より、最新号発売のご挨拶

こんにちは、北川です。
早いもので、今日は最新号の発売日。私は焦りながらこの原稿に向かっています。どうしてこう、なんでもギリギリにやるのかなあ……と自分にツッコミを入れ、いや、子どもの頃からそうだったじゃないかと、夏休みの読書感想文を思い出したりします。ああ。
仕事や家庭でいろんなことがあり、なんだかくさくさするなあ、というとき。または、ちょっと「人間疲れ」しちゃったなあというとき。みなさんは、どんなふうに気分転換をされますか?
私は「寄席」に行きます。寄席って何? と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、むかし東京にはそちこちにあったという、演芸専門の小屋です。落語をはじめ、漫才、マジック、紙切り、ジャグリング……と、さまざまな芸人さんたちが入れ代わり立ち代わり舞台に現れては、10~15分くらいの芸を披露して、さっと退く。
編集部のある神田と、浅草の住まいのあいだには、「鈴本演芸場」(上野)と「浅草演芸ホール」という二つの寄席があります。仕事でちょっと気分が落ち込むと、帰りにふらっと立ち寄って(寄席はどのタイミングでも入れます)、2時間ばかりアハハと笑う。すると、あら不思議、温泉に入ったあとのように心身がぽかぽかとくつろぐんですよ。
巻頭記事「わたしの手帖」には、そんな寄席でおなじみの落語家、春風亭一之輔さんにご登場いただきました。落語好きじゃない方も、〈『笑点』の新メンバー〉といえば、きっとお顔が浮かぶことでしょう。

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さて、落語家が本編に入る前に場を温めるような話をする、それを「まくら」と呼びまして、身辺雑記的な話をしたり、政治家や芸能人の不祥事をちくっと皮肉ったりするのが定番でしょうか。これが誉め言葉になるのかどうか、私は以前から、一之輔さんがまくらで語る「家族の話」が好きでした。
クールで、歯に衣着せぬ物言いがじつに爽快な夫人。きっと賢い子なのだろうなあと想像する、人間観察に優れた発言をする3人の子どもたち。一人ひとりの個が立っていて、だから身内の話をしても客はしらけず、おおいに笑える。考えてみれば、落語って、人のヘンで可笑しみを誘うところ、情けない失敗談、どうにも治せない悪い癖等々がもとになっているわけで、ちゃんと「人」を見ていなければできない話芸なのかもしれません。
そんなことを考えつつ臨んだ取材ですが、はたして一之輔さんは、人を見る目に優れた方でした。けれども、けっして突き放してはいなくて、どこかあったかい。タイトルの「ひとって可愛い」は、「ほら、偉い人って隙があって『可愛い』じゃないですか」という一之輔さんの言葉からとっています。
他人の弱点や失敗がどうにも許せないとか、そういう自分がイヤになってしまうとか、私たちは生きるなかで日々いろいろありますよね。そんなとき、自分の状況や心理も含めて、ちょっと引いたところから眺めてみる。今日は今日、あしたはあしたの風が吹くと考えて、しくじっても、あんまりクヨクヨしない。落語には、そんなふうに促してくれる不思議な力があるような気がします。
肩の力が抜けた一之輔さんのお話から、寄席に行った帰りのような、リラックスした気分を味わっていただけたらうれしいです。

表紙画は、酒井駒子さんの「ねむり」。あどけない子どもの昼寝姿は、もう無条件に可愛いものですが、酒井さんがこの絵に寄せてくださった言葉を読むと、はっとさせられます。子どもはもちろん、誰もが安心して眠れる世界、それをひとつの言葉にしたら、「平和」なのかもしれません。
「もう二度と戦争を起こさないために、一人ひとりが暮らしを大切にする世の中にしたい」
毎回くり返すようですが、それが『暮しの手帖』の創刊時からの理念です。
今号は「表参道・山の手大空襲を語り継ぐ」という特集記事を編み、空襲を体験した3名の方々と、地元の戦災を語り継ぐ活動をされている「山陽堂書店」店主の遠山秀子さんの思いをお伝えしています。記事では、むごたらしい空襲の話ばかりではなく、それ以前に確かにあった、穏やかで平和な暮らしの情景を描きこみました。そこには、いまの私たちの暮らしと何ら変わらない、「日々のささやかな喜び」が満ちています。
そしてまた、体験者の方々が、いまなぜこのつらい話を私たちに託すのか。どうか、結びのほうに盛りこんだメッセージをお読みください。肉声ではなくても、その言葉の強さに打たれるはずです。

最後に、このたびの大雨による災害を受けられた方々に、心よりお見舞い申し上げます。一刻も早く、もとの穏やかな暮らしが戻ってきますように。
暑さがたいへん厳しい日々が続きますが、みなさま、お身体を大切にお過ごしください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

金田一秀穂さんの最新刊、『あなたの日本語だいじょうぶ?』が発売です

2023年07月12日

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時代が進めば、さまざまなことが変わります。
考え方に違いが出てきて、以前にはなかった課題が見出されるようになる一方で、新しい文化も生まれてきます。そうした中にあっても、ある程度の年齢になっている人間であれば、「リモート」よりも「対面」、「パソコン入力」よりも「万年筆で直筆」というように、より人間の気配が強いものに温かみを覚えて惹かれるのは当然のことでしょう。
だからといって、新しいものを否定する必要はまったくありません。
新しいものは便利だし、常に発見があります。
言葉にしても、常に変化があります。
  流行語。
  略語。
  新語。
昔からあった言葉でも、従来とは違った意味を与えられることもあります。だから、巷のにほん語はおもしろいのです。
いまの若い人たちは、とにかく書くのが早くて、文章が短い。何かの返事をするにもつい長くなってしまいがちですが、それをやっていてはダメ出しされてしまいます。とにかくスピードが重視されるので、ちょっと何かを説明しようとすれば、「ムダ!」、「無理!」などのひと言で済まされてしまうのです。
もうひとつ若い人の特徴として、〝半径5メートル以内のことなら言語化、文章化するのに長けているのに、50メートル離れたことは書けない〟ということ。興味の範囲がそういう枠内に限られているということなのでしょう。たとえば、いま食べているオムライスがどんな味なのかといったことはうまく説明できます。それこそインスタグラムやツイッターなどのSNSで鍛えられている面が強いからです。しかし、国会で議論されていることやウクライナで起きていることなどは書けないのです。
これから私たちは、自動翻訳機やチャットGPTのような世界と、理屈では説明しにくい世界の両極と、いかに付き合っていくかが求められるようになります。そうしたところまでを理解したうえでコミュニケーションを取っていく必要が出てきます。
コミュニケーションはもともと言葉だけで行うものではありません。言語力以外の部分も非常に大切になってきます。本書では、そんなことが分かる一冊です。(担当:永井)

別冊『食事と暮らし』発売です

2023年07月10日

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ご好評いただいた別冊『健康と暮らし』に続き、『食事と暮らし』が発売されました。
今回は巻頭に1960年の『暮しの手帖』から「3度の食事」の文を掲載しています。

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3度の食事人生かりに70年として、日に3度の食事とすれば、
お互い息をひきとるまでに、これでざっと8万回は食べるということになる。
その8万回のなかには、
遠足でとりかえっこしたにぎり飯もあれば、
恋人とさし向いでフォークを運んだランチも入っている。
病人の枕許でそそくさと片づけたサンドイッチも、
朝寝坊してあわてて流しこんだ牛乳も、
借金の言訳を考えながらすすったもりそばも、
受験勉強の図書館でかじったトーストも、
先生の目をぬすんで机の下で開いた弁当も、
サイフの中を暗算しながら百貨店の食堂でたべたラーメンも、
となりのおばさんからお裾分けの大根の煮〆も、
故郷へ帰る汽車のなかの冷えた駅弁も、同窓会のとんかつも、
スキー宿のカレーライスも、お寺で出された芋がゆも、
腹立ちまぎれに茶わんをこわして皿でたべた飯も、
昇給して一家そろってつついたとりなべも、
防空壕にしゃがんでたべたいり豆も、
あれもこれも、おもえば8万回のうちの1回ではある。

これは『暮しの手帖』が、独自に約1000世帯に食事調査を行い、その結果をもとに、まとめられた人気企画の冒頭です。
この文章に触れた時、感じたのは、食事は人生の同伴者であるということ。長い人生、山あり谷あり、ときには川を渡ることもあります。どんなときでも3食は1日の節目であり、食事を重ねることで、人生は長く続いていくのです。いままで、当たり前に思っていた3度の食事が、実は共に人生を過ごす存在だと気づかせてくれました。
それにもう一つ、1回の「おいしい」を8万回重ねることの大変さです。どんな時代でも、どんな状況でも、3度の食事が(しかも、おいしく)いただけるのは、食材を提供する人、料理する人、自分の健康、そして安心して食事ができる環境が整ってこそです。とくに家庭の料理は家事の一環です。料理しながらも、家族の健康や後片付け、家計のことなど、さまざまなことを考え、そのうえで、1日3回、何十年もおいしい食事を作り続ける……。本当に大変なことだと思います。
今回の特集では料理家に、自分の家族のために作るときの「3食の工夫」を教えてもらいました。それは、いまでも意識せずにやっていることや、簡単すぎて工夫とは言えないことも多いかもしれません。ただ、これらの小さな工夫をヒントにして、それぞれの家庭に役立つようにアレンジ、もしくは新たに作っていただければと思います。
それだけではありません。実は料理を食べている人にも読んでいただきたいのです。毎日の食事に「あなたの暮らしに合った工夫」がいくつも重ねられていることを知ると、もっと「おいしく」、「ありがたく」感じられるのではないでしょうか?

別冊編集長 古庄 修

単行本『毎日がつながる献立』発売です

2023年05月26日

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さあ今夜は何を食べよう、何を作ろうか。
今日も考えを巡らせて、ちょっと悩みます。料理って、毎日毎日ずっと続いていくものですから。多少は外食や買ってきたお惣菜にも頼ったとしても、それはなかなか大変なこと。何かいいアイデアはないものかと、この本の企画段階で考えました。そして、やはり毎回、何を作ろうかと考え始めるのではキリがないと思い至るのでした。「冷蔵庫にあれがあるから、あとはこうして……」という状態にできれば、気持ちからして段違いにラクになります。

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この本では、今日食べる料理と次のための下ごしらえで、2~3日のおかずをつなげるという方法を考えました。2日目は手早く出来上がるのはもちろん、同じ素材でも、まったく違った味わいの料理にできるのが大きなポイントです。それに常備菜や合わせ調味料などの作りおきを活用して、副菜や汁ものなどを組み合わせれば、献立もラクに決まります。

そして何より、有元葉子さん、坂田阿希子さん、瀬尾幸子さんという3人の人気料理家が考えてくださったアイデアがどれも秀逸なのです。先生方がふだん実際に行っている、工夫に満ちた料理のアイデア集と言える一冊です。

この本は、2015年に刊行してご好評をいただいた別冊『毎日がつながる献立』を書籍化したものです。
詳しくは、こちらをご覧ください。(担当:宇津木)

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あきらめなければ、佳き日がくる

2023年05月25日

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あきらめなければ、佳き日がくる
――編集長より、最新号発売のご挨拶

こんにちは、北川です。初夏らしい、爽やかで気持ちのよい気候になりましたね。
私が暮らす浅草は、つい先日(5月19日から21日)、「三社祭」が催されました。テレビなどの報道でご存じの方も多いでしょうか、100基近いお神輿が町中を練り歩く、たいへん賑やかで勇壮なお祭りです。
じつは私は、2019年の三社祭の最終日に浅草に越してきたのですが、その日は引っ越しで手いっぱいでそれどころじゃなく、翌年からは、コロナ下となってお祭りは縮小。ですから、本来のすがたの三社祭を見たのは今年が初めてでした。
お神輿を担ぐ人びと、沿道で手拍子を打つ人びとの顔を見ると、もうニコニコとして喜びが体中から溢れんばかり。朝から、お囃子の音色と威勢のよい掛け声がほうぼうから聞こえてきて、なんと言いますか、町中がスイングしているようなありさまでした。
ああ、人にはお祭りが必要なんだな。なんてことない日常を、淡々とたゆまずに送るためにも。手拍子を打ちながらそんなことを思い、ふと胸に浮かんだのは、「あきらめなければ、佳き日も訪れる」という言葉でした。コロナ下に味わったいろんな感情がどっと思い出されて、そんな言葉が浮かんだのかもしれません。
みなさんも、いまありありと思い出すコロナ下の印象的な出来事、言葉にして残しておきたいことがおありでしょうか。編集部では、そうした「コロナ下の暮らしの記録」を募っておりますので、ぜひ、下記よりお原稿をお寄せください。6月12日までお待ちしております。

https://www.kurashi-no-techo.co.jp/blog/information/20230502

前置きが長くなりましたが、最新号の24号のご紹介を。
表紙は、イラストレーターの長崎訓子さんによる「hop」。大きなホットドッグの上でスケートボードに乗る女の子がなんとも軽快で、元気をもらえるようなイラストレーションです。今号は、この女の子さながらに、自分の道を見いだして歩んできた、4人の女性が登場します。
1人目は、巻頭記事「わたしの手帖」にご登場の片桐はいりさん。個性派俳優として活躍し、小誌の創刊者がモチーフとなった朝ドラ『とと姉ちゃん』にも出演した片桐さんは、今年、還暦を迎えたそうです。若い頃とは違う自分を見つめて受け止め、力まずに、面白そうな仕事の話には乗ってみる。コロナ下を経て変わった心持ちについても、飾らずに語ってくださいました。
表紙に立てたコピー「鍛えるべきは愛嬌です」は、片桐さんの言葉。私はどきっとしましたが、みなさんはいかがでしょう。
2人目は、デザイナーのコシノジュンコさん。「わたしとお茶漬け」と題したインタビュー記事は、「お茶漬け」という身近な料理を通して、コシノさんの眼や感性を培ってきた、宝物のような思い出が語られます。
3人目は、小誌の連載でもおなじみの画家・ミロコマチコさん。ミロコさんが東京から奄美大島に移住したのは2019年の初夏のことですが、いまでは土地に根を下ろして暮らしている様子が連載からも伝わってきます。今回、「ミロコさんと地域の人びととの関わり」を取材してくださったのは、写真家の平野太呂さん。記事の結びの言葉を、私は何度か読み返しました。
〈暮らしとは、一人ではなし得ない。私にできることと、あなたができることの交換、その補い合いの連なり〉
ご自分の暮らしに引き寄せながら、お読みいただけたらうれしいです。

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そして4人目は、琉球料理家の山本彩香さん、88歳。「山本彩香 琉球料理の記憶を旅する」は、編集者で作家である新井敏記さんによる記事で、10年ほど前に撮られた料理写真を軸にして構成しました。
みなさんは、「琉球料理」と「沖縄料理」の違いはご存じでしょうか。私は恥ずかしながら、よくわかっていませんでした。中国料理と日本料理のよいところを取り入れ、宮廷料理として発展したのが「琉球料理」。それをベースにしながらも、戦後のアメリカ文化の影響を受けて変化したもの(たとえばスパム入りのゴーヤーチャンプルーなど)が「沖縄料理」、という区別があるそうです。
今回は、撮影はなかったものの、新井さんとともに山本さんの那覇市のお住まいを訪ねてお話を伺いました。山本さんはまず、いまでも欠かさずにお作りになっている「豆腐よう」を出してくださいました。これは角切りにして水抜きした豆腐に塩を振って慎重に発酵させ、さらに紅麹と泡盛に漬けて二次発酵させたもの。くさみや、塩のとがった味はまったくなく、トロリと濃厚でフレッシュチーズのようなうま味が口いっぱいに広がります。なんてまろやかでおいしいのだろう! ほかで味わってきた豆腐ようとはまったく異なるおいしさに驚かされました。この小さな珊瑚色の豆腐ようには、山本さんが歩んできた困難かつ冒険的な人生や、沖縄の歴史や文化が詰まっている、そんな思いもしました。
山本さんの丹念な料理はまさに職人芸、家庭で簡単に真似ができるものではありません。けれども、滋養があることを第一に、体によいものを食べさせたいという作り手の願いや愛情、土地の食材を創意工夫して生かしながら、毎日の料理を自分なりに楽しもうという心持ちは、いまの私たちが忘れがちな、大切なことのように思えました。料理は本来、義務やルールに縛られるものではなく、体を養い、健やかに自分らしく生きていくための「営み」の一つなんですよね。

今号も、日々の暮らしを楽しみ、じっくりと味わうためにお役立ていただきたい、いろんな記事を盛り込みました。あすから一つずつ、担当者がご紹介しますので、ぜひお読みください。
最後に、このたびの能登地方の地震で被害を受けられた方々に、心よりお見舞いを申し上げます。不便が一刻も早く解消され、もとの穏やかな暮らしが戻ってきますように。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

『新装保存版 暮しの手帖の基本料理』発売のお知らせです

2023年03月27日

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豚の角煮、肉じゃが、茶わん蒸し。ハンバーグにポトフ、カルボナーラ。そして麻婆豆腐やチャーハン、エビチリ。
まさにお馴染み、言わずと知れた人気の定番料理ですね。
では、みなさん。
豚の角煮って、どうやって作るの? そう聞かれたらいかがでしょう?
なんとなくは、わかっているつもり。でもそれでおいしく作れるかというと、心もとない。
そんな方も多いのではないでしょうか。
毎日の食卓には、ごく普通の食べ飽きないおかずが欠かせません。
目新しいものや見映えのする料理も、たまにはいいけれど、
定番のメニューこそ、本当においしく作りたいし、それを自分のものにしたい。

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この本では、そんなベーシックなメニューがずらり。
ミシュラン掲載の名店「かんだ」の神田裕行さん、フレンチのトップシェフ、オテル・ドゥ・ミクニの三國清三さん、
そして中国・北京生まれの人気料理研究家、ウー・ウェンさんの3人のレシピです。
暮しの手帖伝統の「一流の味を家庭に」という考えのもと、
基本的な定番料理こそ本当においしく作れるようにとまとめ上げた一冊なのです。
和洋中の豊富な料理を、すべてのレシピにさまざまなコツやポイントを記してご紹介し、
身近な材料や調味料で、無理なくおいしく作りやすいような工夫が随所になされています。
そしてさらに、和洋中それぞれのおべんとうや特別な日のごちそうメニューまで、ひと揃い。
この一冊があれば、普段の料理は万全です。
この本は、2013年に刊行しご好評をいただいた別冊『暮しの手帖の基本料理』と2014年の『暮しの手帖の基本料理2』を、再編集して書籍化したものです。

詳しくは、こちらをご覧ください。(担当:宇津木)

満足のゆく日々を送るために

2023年03月25日

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満足のゆく日々を送るために
――編集長より、最新号発売のご挨拶

こんにちは、北川です。
わが家は浅草の隅田川のほとりといってよい場所にあるのですが、この数日は、対岸(墨田区側の墨堤)の桜並木が満開で、まるで煙るように見えます。あんまりきれいだから、今日は早朝の光のもと、思わず写真を撮りました。
思い出すのは、2020年のいまぐらいの時季のこと。コロナ禍で、急きょリモートワークに切り替えて制作することとなり、自宅でひとり仕事をしていると、予定していた取材撮影が次々と延期や中止になりました。さあ、どうしよう。どうやって記事をつくろう。
悩みながら散歩に出ると、人影もまばらな浅草寺の境内で、桜の大木が両腕を広げるかのように咲き誇り、惜しみなく花びらを散らしていました。当たり前のことだけれど、人の世の事情や、私のこんな悩みとは丸きり無関係に、花は咲いて、渡り鳥はやってくる。それが悲しいような、どこか救われるような、なんとも複雑な気持ちを味わいました。
3年が経ち、いまでは普通に取材撮影ができるようになったわけですが、あのときの気持ちを忘れたくないと思います。自分がちっぽけな存在であり、この世界で生かされているのだと切に感じたこと。いろんな制約があるなかで、やはり制約のある暮らしを送っている方たちに、いったい何をお届けしたらいいのかと悩んだこと。人と会い、実際に見聞きして記事をつくるのが、どれだけ大事かということ。
きっと一人ひとりに、あの春には特別な記憶があるのではないかと思います。

前置きが長くなりました。
春がめぐってくると、まわりの自然から湧き出るようなエネルギーを感じるからでしょうか、何か新しいことを始めたり、日々のルーティンを見直したくなったりするものです。今号は、そんな気分に応える記事を企画しました。
八百屋さんの店頭で竹の子を目にすると、まだちょっと高いかなあと思いつつ、「そろそろ、あの方法で竹の子ご飯を炊こうか」と考えます。「あの方法」とは、巻頭記事「春を味わう和のおかず」で、日本料理店店主の林亮平さんに教えていただいた下ごしらえのこと。米ぬかで下ゆでするのはおなじみの方法ですが、林さんはそのあと続けて「ダシで煮る」という方法をとります。こうすると、煮汁に竹の子の風味が移り、その煮汁で竹の子ご飯を炊けば、竹の子の風味満点……というわけです。ほら、作ってみたくなりませんか?
そのほか、土いじりをしたい方には「吊るせる観葉植物 緑のハングボール」がおすすめですし、「あのひとの花時間」を読めば、一輪でも花を生けたくなるはず。手を動かす楽しみを味わえる「直線裁ちでつくる みんなのワンピース」、日ごろのケアを見直すための「元気な素肌を育むスキンケア」、起床時の縮こまった体を簡単ストレッチで伸ばす「ウォーミングアップの手帖」などの記事を揃えています。

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春、新学期の気分で、新連載もスタートしました。料理家の長尾智子さんによる「楽に作れるアイデアひとつ」です。
この連載について長尾さんとご相談を始めたのは、確か、昨年の7月あたりだったと思います。家の料理はなるべくシンプルなものがよいし、作りやすく、そして食べやすいことが、どんな世代の人にも大事。長尾さんはそんなことをおっしゃいました。
自慢ではありませんが、私は毎日仕事に追われていまして、お世辞にも「ゆとりのある暮らし」を送っているとは言えません。だから、外食に救われることもあれば、「今日はコロッケを買って、あとはサラダを添えて済ませちゃおう」なんて日もあるのですが、そんな日が続くと疲れてしまうんですよね。やっぱり、いろいろあった一日の終わりに、たとえ簡単なものでも自分でこしらえた料理をゆっくりと味わうと、「あしたも頑張ろうかな」と思いながら眠りにつける。この連載は、私のような人にも活用していただけたらなあと思い、冒頭にはこんなことを書きました。

たとえ疲れているときでも、いえ、疲れているときこそ、
自分でさっと作った料理で心身を満たしたいものです。
楽に作れて食べやすい、そんな料理のアイデアを
長尾智子さんに教わりましょう。
初回は「水炒め」。
まずは春キャベツでお試しあれ。

この「水炒め」は、野菜のみならず肉にも使える便利な調理法で、おいしくてお腹にやさしく、もう何度も作っています。肉にはツナソースをかけるとたいへん美味なのですが、じつは塩・コショーでも十分ですし、しょう油をちょっとたらしたり、アリッサのようなお好みの調味料を添えても。一人分ならフライパンひとつで、肉料理と付け合わせを同時に仕上げられますよ。

どんなに忙しくても、自分で暮らしの手綱をしっかり握って、満足のゆく日々を送るために。今日も、あしたも、倦まずに生きるために、この一冊をご活用いただけたらうれしい。今号も、そんな思いを込めて編みました。表紙画は、安西水丸さんの作品「メロンと船」。どうぞ書店で見つけてくださいね。
また、ひとつお知らせです。このたび新しい試みとして、定期購読をオンラインストアでお申込みいただけるようにいたしました。離れて暮らすご家族への贈り物に、もちろん、ご自身のために、ぜひご活用くださいませ。
広告をとらない『暮しの手帖』は、一冊一冊の購読料のみで支えられて、この秋に創刊75周年を迎えます。雑誌の世界において、これはひとつの「奇跡」と言っていいでしょう。ご購読くださっているみなさまには、感謝しかありません。どうかこれからも、『暮しの手帖』をご愛読いただけますよう。
春は体調もゆらぎやすい季節です。ご自愛されて、よき日々をお過ごしください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

◎暮しの手帖オンラインストア 定期購読ページ
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暮しの手帖社 今日の編集部