1. ホーム
  2. > Blog手帖通信

別冊『おしゃれと暮らし』発売中です。

2022年06月14日

oshare_hyoushi

以前、木工作家さんを取材した時のことです。
木を膝で挟むようにして作業するため、ジーンズの膝の内側がすぐに擦り切れてしまうといいます。
彼女はそこに布を当て、様々な色の余り糸で縫い付けていました。
配色を楽しむかのように、自由奔放に布の上を走らせた糸は、とてもおしゃれに思えました。

『暮しの手帖』創刊編集長の花森安治は、1946年の『スタイルブック』の巻頭言で、こう述べています。

oshare4-5

oshare6-7

おしゃれ、といえば何か、さしせまった毎日の暮しとは係りのない、浮いた遊びごとか、ひまがあってお金があって、というひとたちでなければ出来ないことのように考えられてはいないでしょうか。
そんな風なおしゃれも、たしかにこの世の中にはあるかも知れない。
けれども、そんな、お金さえかければ美しくなれるとか、ひまがないから、おしゃれが出来ないとか、
毎日の暮しから浮き上がってしまった遊びごとなら、
私たちは、おしゃれのことなど考えることは要らないと思います。
ほんとのおしゃれとは、そんなものではなかった筈です。
まじめに自分の暮しを考えてみるひとなら、誰だって、
もう少し愉しく、もう少し美しく暮したいと思うに違いありません。
より良いもの、より美しいもの求めるための切ないほどの工夫、
それを私たちは、正しい意味の、おしゃれだと言いたいのです。
それこそ、私たちの明日の世界を作る力だと言いたいのです。
 
別冊『おしゃれと暮らし』を制作するにあたり、この言葉を大切にするように心掛けました。
作家の小川糸さん、刺しゅう作家の神津はづきさん、スタイリストの伊藤まさこさんなどから、
暮らしから生まれた「おしゃれ」の工夫を教わったり、
いま、クローゼットにある服で新鮮なコーディネートができる配色を考えたり、
誰もができるおしゃれのヒントを集めてみました。
ただ、ここにあるのはあくまでもヒントです。
暮らしの必要や生活を楽しくしたい、という気持ちに真摯に向き合い、試行錯誤を繰り返す、
その過程を楽しむ姿勢こそが「おしゃれ」なのかもしれません。

別冊編集長 古庄 修

oshare8-9

目次はこちらをご覧ください。
ご購入はお近くの書店、もしくはオンラインストアで。

今日をほがらかに生きる

2022年05月25日

c5_018_01_top

今日をほがらかに生きる
――編集長より、最新号発売のご挨拶

最近、instagramを見ていると、軒下の巣に寄り添うツバメのきょうだいたちの写真が次々に投稿されています。添えられたコメントからも、「季節の風物詩」を愛おしむ気持ちが伝わってきて、なんだか心がほのぼのします。こんなとき、私が決まって開くのは、学生時代から使っている『ハンディ版 入門歳時記』。燕、乙鳥、つばくろ、つばくらめ、初燕、飛燕……。例句として、こんな句が並んでいます。

夕燕われにはあすのあてはなき 一茶

町空のつばくらめのみ新しや 中村草田男

一句目に、いまのウクライナの人びとの状況を思わず重ねてしまったのは、私だけでしょうか。二句目は、若々しいツバメが颯爽と空をゆくさまが目に浮かぶようです。
さてさて、さわやかな季節の到来。最新号の表紙は、ツバメのまなざしでどこか異国の街を眺めるような、初夏の風のきらめきが感じられる絵です。広島在住の画家、nakabanさんに描き下ろしていただきました。

c5_018_01_2_top

巻頭記事「わたしの手帖」で取材にお伺いしたのは、浪曲師の玉川奈々福さん。みなさんは、演芸場やYouTubeなどで浪曲を聴いたことはありますか? 私は両親(戦後生まれ)が聴いていた記憶もなく、以前は「はて、浪曲とは? 講談とはどう違うのかな」という認識でした。あれはちょうど2年前、6号(2020年の初夏号)の取材のときのこと。「はじめてのお楽しみ」という連載で浪曲がテーマとなり、浅草の「火曜亭」で玉川奈々福さんの浪曲を初めて聴いたところ、すぐさま虜になってしまったのです。
まず、登場人物たちはたいてい、熱血漢で情に厚く、おっちょこちょいだったり涙もろかったりと、やたら人間くさい。物語は基本的に、「人と人のつながりっていいものだな」と思えるような人情噺。そして、語りのあいまに挟まれる朗々とした歌声の素晴らしさといったら。胸にどすんと響き、涙が出て、くよくよしていた心もすーっと晴れていく……これはもう、くせになります。
一方で、浪曲はその「心を強く摑む技」ゆえに、第二次世界大戦中は戦意高揚に利用されたという歴史があります。戦後、日本人が経済的に豊かになり、人のつながりが薄れていくと、反比例して浪曲人気は落ち込んでいきました。いっときは、もはや懐古趣味、過去の遺物のようにも捉えられていた浪曲の世界に、なぜ、奈々福さんは飛び込んでいったのだろう? お話を聞いてみたいと思いました。
じつは奈々福さんはもともと、ある老舗出版社の編集者。鶴見俊輔さんや井上ひさしさんほか、錚々たる編者たちの力を得て日本文学全集を編んだ経歴もあり、「言葉」に対して豊かな感性をお持ちです。インタビューは、きらっと光る言葉がどんどん飛んできては、「なるほどなあ」と深くうなずくような、なんとも贅沢なひとときでした。
なかでも胸に残ったのが、「今日をほがらかに生きる」という言葉。いまは「不安の時代」とも言われ、私たちはつい、「○○すれば幸せになる」とか「○○しなければ将来は不安ばかり」といった惹句や宣伝文句に心をからめとられがちです。しかしながら、今日という一日にしっかりと向き合い、本音で誰かと語らって、おいしいごはんを味わい、満足をおぼえながら眠りにつく……たとえば、そんな自分なりの「幸せの指針」を持つことが、あんがい大事なのではないか。そう思うのです。
それは、社会の課題や、自分の暮らし以外のことには関心を持たなくていいとか、そういった意味合いではけっしてありません。自分の手を動かして築いた暮らしは、社会にしっかりと張った根っこ、ある揺るぎない価値観になる。そこから社会を見つめれば、この満ち足りた暮らしをどうしたら持続させていけるか、おのずと深く考えられるものではないでしょうか。
もうすぐ、選挙の季節がやってきます。何かを選ぶのは簡単ではないけれど、考え、語りあい、私たち一人ひとりの「こう生きていきたい」という願いを一票にたくす。いつだって、誰もが無関心ではいられないアクションです。
今号も、旬の素材を生かした料理、あの人におすそ分けしたいカステラ、夏服にぴったりの刺繍のブローチ、動物の福祉を考える記事など、暮らしのなかの「幸せ」や「大切なこと」のいろいろを編み、ぎゅっと詰め込んだ一冊をお届けします。どうか、お役に立てますように。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

いまもいつかは思い出になる

2022年03月25日

c5_017_01_top

いまもいつかは思い出になる
――編集長より、最新号発売のご挨拶

ここ東京では、あちこちで桜が花開く様子が見られるようになりました。ああ、いよいよ春がやってきたのだなあとうれしくなり、木々を見上げながら散歩するのが小さな楽しみになっています。いかがお過ごしでしょうか。
今号の表紙画は、フランスの画家、ポール・コックスさんによる「ずっと」。世界がコロナ禍に見舞われて2年が過ぎ、鬱々とした気持ちになりがちなときだからこそ、「ぶらっと散歩に出て、心を解放させよう」というテーマで絵を描いていただけないかとお願いしました。
やがて届いた絵には、手をつなぐ二人と、続いていく道。ポールさんが寄せてくださった言葉より、一部をご紹介します。
「愛する人との散歩を想い、ぼくはこれを描きました。絵の中の二人は、道の向こうに広がる世界を探検にいくのか、それとも家に戻るところなのか。そのどちらとも言えるでしょう。この穏やかな循環がずっとつづくことを祈って、この絵を贈ります」
二人の手が描く「M」の文字にも、さまざまな意味が込められていますが、それは「今号の表紙画」の頁をじっくりお読みいただけたらうれしいです。

c5_017_01_2_watashi

表紙の右端には、毎号たいていは巻頭記事のタイトルをキャッチコピーとして立てています。今号は「いまもいつかは思い出になる」。ふるさとの家族と長らく会えずにいたり、家庭や職場で以前とは異なる苦労があったりと、誰もが少なからず苦しみを抱きながら暮らしているいま、小さくとも、胸に灯りをともすような言葉を掲げられたらと思いました。
この記事で取材したのは、エッセイストの吉本由美さん。ふるさとの熊本市から高校卒業後に上京し、セツ・モードセミナーで学んだり、映画雑誌『スクリーン』の編集者となったり、インテリアスタイリストの草分けとして活躍したり。東京で40年余り、つねに心の赴くまま、「行き当たりばったり」に暮らしてきたという吉本さんは、11年前、両親の介護をきっかけに熊本に戻ることを決めます。
2日間にわたる取材では、ふるさとと言えども様変わりしている熊本で、どんなふうに友人をつくり、楽しみを見つけて暮らしていらっしゃるのか……といったお話をお伺いしました。そんな話題のなかで、吉本さんがふと漏らした「人生は懐古趣味がいいのよ。思い出すって、楽しいことだから」という言葉に、はっとしたのです。
「懐古趣味」というと、なんだか後ろ向きにも思えますが、私たちはおそらく、過去の小さな出来事を胸に反芻させて温かな気持ちになったり、誰かがかけてくれた言葉を励みにしたりして、「いま」を懸命に生きているのではないでしょうか。そして、そんな「いま」も、いつかは思い出になる。思い出すことが、人生の楽しみであり、喜びであるというのは、年齢を重ねるごとに実感することなのかもしれません。

今号は「ふるさと」をキーワードにした記事が、そのほか2本あります。ひとつは、「わたしの好きな ふるさとのお菓子」。8名の方たちに、味わうとほっとして素の自分に戻れる、郷里のお菓子について教えていただきました。
あとひとつは、「小林夫妻のピノ・ノワール この土地と生きる」。故郷である長野県原村に戻り、土地を耕し、ワインをつくることで、自然を守りながら暮らす。そんな小林夫妻の生き方について、編集部員が綴りました。
ご存じのように、遠い空の下、ふるさとを追われ、日常を奪われて、死におびえながら生きる人たちがいます。なんてことのない暮らしが、いかにかけがえのないものなのか、「平和」とはなんて脆いものなのか……みながそう実感し、不安を覚えるなかで、「平和を守るとはいったいどんなことか」、さまざまな議論が持ち上がっています。
議論ができるうちは、つまり、みなが自分の考えを口に出し、たとえ決着がつかなかったとしても、話ができるうちはいいでしょう。しかし、はやばやとある一つの意見にまとめあげられ、「違う」と考える人が声を上げられなくなる、それはとてもこわいことです。
「わたし」がどんな暮らしを送っていきたいか、どうしたら幸せに生きられるのか。たとえ自分に子どもがいなかったとしても、いまを生きる子どもたちにどんな未来を手渡していきたいか。自分の足もとから、社会を、この世界を見つめてじっくりと考えて議論していくことは、けっして「平和ボケ」ではないと私は思います。
「大義」よりも「暮らし」を礎にして、本当の民主主義とは何なのか、ぶれずに考える。それは77年前の過ちをもとに、私たち『暮しの手帖』が創刊してから伝え続けてきたことで、これからも変わらずに伝えていきたいと考えています。
なんだかカタくなりましたが、みなさまの日々が、穏やかで、春の喜びに満ちたものとなりますように。どうか、心身健やかにお過ごしください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

『昔話の扉をひらこう』の書評が掲載されました(朝日新聞・3/19)

2022年03月22日

20220322

3/19(土)朝日新聞朝刊に、
小澤俊夫 著 『昔話の扉をひらこう』の書評『ことばは「音」 語ってあげて』
(吉川一樹さん評)が掲載されました。  

***
子どもの頃の温かい記憶を呼び覚ますとともに、未来へのメッセージに満ちている。
……2人の息子との「ことば」をめぐる鼎談も収録。音楽家の次男・小沢健二さんと意気投合したのは、ことばはまず「音」であること。視覚・文字情報に偏る現代にあらがう一冊だ。(一部引用)
***

昔話研究の第一人者である著者は、「子どもは社会の末っ子。今、不安の多い時だからこそ、暮らしのなかで、生の声でお話をしあう時間を大切にしてほしい」と願います。
人と人をつなげる昔話の力、声の力、語りの秘密等、お話を例に交えながらその豊かな世界をご案内します。

◎詳しくは、こちらをご覧ください。

野菜が主役のベストレシピ集ができました。

2022年03月16日

haruyasai_top

暮しの手帖別冊『春野菜 夏野菜 決定版レシピ』が3月16日に発売となりました。
この本は、季節の野菜のおいしさを生かしたレシピを集めた一冊です。

これまで『暮しの手帖』は、たくさんの料理を掲載してきました。
そのなかに眠っている、格別おいしいレシピを丁寧に掘り起こして厳選したベストレシピ集です。

haruyasai_08-09

haruyasai_48-49

ふきのとうや竹の子、柔らかな新玉ねぎや春キャベツなど、
まさに今だからこそ味わえる春野菜を使った料理、
トマトやきゅうり、なす、ゴーヤーやピーマンなど、パリッとみずみずしい夏野菜の料理。
そして、手早くぱぱっと作れるシンプルな野菜料理や
肉や魚介と野菜の取り合わせが絶妙な料理など、いろいろなテーマに沿ってレシピを選びました。

穏やかとは言えない日常が続いても、家庭でおいしい料理を食べたら、
少しだけ、ほっとできますよね。
ご馳走でなくてよいのですから、季節の野菜の味わいを、
シンプルでおいしい料理を楽しみましょう。
旬の食材って、そのままの味を生かすのが一番ですから。
くわしくはこちらのページをご覧ください。(担当:宇津木)

haruyasai_68-69

haruyasai_82-83

『昔話の扉をひらこう』増刷のお知らせです!

2022年02月16日

20220216-1

昔話研究の第一人者、小澤俊夫さんの著書『昔話の扉をひらこう』が、たくさんの方に好評いただき、この度、増刷の運びとなりました。

この本は、「不安なことの多い時代だからこそ、暮らしのなかで、生の声で語り合う時間を大切にしてほしい」と願いを込めて、小澤俊夫さんが昔話に見つけた大切なメッセージや、今伝えたい想いを、力強くもやさしい語り口でまとめた一冊です。
70年以上昔話の研究をつづける小澤さんは、昔話のほんとうの姿は、「語られている時間のあいだにだけ存在し、語り終えれば消えてしまう」と話します。
そして、「これから世の中へ出かけて行く子どもたちに、どうぞあなたの声でお話を聴かせてやって下さい」と願うのです。声は、目に見えないからこそ深く心に残り、子どもが安心して生きて行くことを支える力がある、と。

本を手にとってくださった方々からは、こんな声が届いています。
「著者の、子どもへのまなざしがあたたかい。読んでいると、やさしい心が伝わってくる」
「さっそく子どもに昔話を語ってみたら、案外よく聴いてくれた」
「昔話は、人の心を癒したり、コミュニケーションを育む力があることを知った」などなど。

後半には、とっておきの昔話を17話収録。子どもとおとなが一緒にたのしめます。
また、巻末の鼎談「子どもとことば」(小澤俊夫×小澤淳×小沢健二)も、読みごたえたっぷりと大好評! バイリンガルの子どもたちがことばを獲得していくエピソードや、「ことば」について、親子で語り合った貴重な記録です。

どうぞ扉をひらいて、そのゆたかな世界を感じてみてください。

◎詳しくは、暮しの手帖社オンラインストアをご覧ください。
◎「暮しの手帖」16号では、昔話研究者の小澤俊夫さんと作家の中脇初枝さんとの対談「昔話が教えてくれること」を特集しています。ぜひ、あわせてご覧いただけたらうれしいです。(担当:佐藤)

20220216-2

裏表紙には、きつねが一匹、ひっそりと。秋山花さんが描いてくださいました。扉の絵の栞付き。
ブックデザインはL’espaceの若山嘉代子さん、印刷は長野県松本市に工場のある藤原印刷さんです。

暮らしもひとつのアートになる

2022年01月25日

c5_016_01_top

暮らしもひとつのアートになる
――編集長より、最新号発売のご挨拶

このところ、6時くらいに目覚めると東の空が明るく、気持ちまで晴れやかになります。寒さ厳しい日々ですが、確実に、季節は春に向かっているんですね。いかがお過ごしでしょうか。
今号の表紙を目にされたら、懐かしいような、切ないような気持ちで、胸がきゅっとなるかもしれません。絵本作家の酒井駒子さんによる、「いちご」。幼い子が、家族で食べようと洗って置いてあったいちごを、無心に食べています。自分も、わが子も、こんな時期があったのだなあ。いや、もしかしたら、いまちょうどこんな情景が身近な方もいらっしゃるかもしれませんね。
編集部員のなかにも働く親は多く、感染拡大によって、休園となる保育園も増えていると聞きます。先の見えない日々が続くと、心身がじわっと疲れてくるものですが、毎日のおだやかな暮らしが、私たちを支える「確かなもの」であってほしい。今号は、そんな思いを込めて編みました。

巻頭の記事は、写真家の茂木綾子さんの歩みを紹介する、「結んで、開いて、旅をする」。思えば、この記事の取材で淡路島を訪ねたのは、昨年の9月半ばのことでした。
神戸の舞子駅で電車を降りて高速バスに乗り換え、少し走ると、透明感のある海がひろがる景色が続きます。ああ、きれいだなあ。茂木さんは13年前、スイスから家族4人で淡路島に移住し、廃校を改装して「ノマド村」を開きました。ノマド、すなわち「遊牧民」に自身をなぞらえる茂木さんは、ここを地域の人びととアートを分かち合う場にしようと考えたのです。
ところで、コロナ禍となってから、「芸術は不要不急か」という議論があり、私たちはこれまでになく、アートが自分の人生にもたらす力について考えることとなりました。自分のことを振り返れば、自宅に一人こもって仕事をしていた時期、手もとにある絵や写真集を観ることで、心を遠くへ飛ばすことができました。気持ちがざわざわと落ち着かないときは、バッハの『無伴奏チェロ組曲』をずっとかけていたことも思い出します。11号の取材で、南桂子さんの銅版画をたっぷり観られたときのうれしさといったら。アートはけっして不要不急ではなく、やっぱり必要なんだと実感したと言えばいいでしょうか。
今回の記事を編むにあたり、私が茂木さんの話に耳を傾けながら考えたのは、「アートが地域にもたらすものって何だろう」ということでした。いっとき、バブルの頃までは、日本各地に立派な美術館などの「箱物」がつくられましたが、そこに「魂」がないと、つまり、いまを見つめてアートを生み出す人、よりよいかたちで提示できる人がいないと、それはただの「箱」になってしまいます。
茂木さんと夫のヴェルナーさんが築いた「ノマド村」は、立派な「箱物」ではなく、周囲の人たちと土壁を塗るなどしてつくり、手の跡や体温を感じさせる「居場所」でした。ここで暮らしながら、アートを分かち合うって、どういうことなのか。その答えは、「結んで、開いて、旅をする」というタイトルに込めましたので、ぜひ、お読みください。

そのほか今号は、「『手前味噌』は楽しい」「ハーブの香る暮らし」「アイロンがけのおさらい」「こてらみやさんのDIY」など、暮らしのなかで手を動かす楽しみをたくさん提案しています。
ともすれば、暮らしは繰り返すうちに、マンネリ化して澱んでしまったりするものですが、そこに新たな風を吹き込み、まっさらな目で見つめて、自分の手を動かして楽しんでみる。それができたなら、暮らしもひとつのアートになるのではないかと思うのです。
みなさまの大切な暮らしのなかで、この一冊が少しでも心を潤し、お役に立つものでありますように。どうかお身体を大切にお過ごしください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

昔話研究の第一人者、小澤俊夫 著『昔話の扉をひらこう』いよいよ発売!

2022年01月19日

mukashibanashi220119_1_

この本は、昔話の研究を70年以上続けられる小澤俊夫さんが、
「不安なことの多い今だからこそ、毎日の暮らしのなかで、生の声でお話をしあう時間を大切にしてほしい」と願い、昔話に秘められる大切なことを初めての方にもわかりやすく紡いだ一冊です。
わたしたちの祖先が何世代にもわたって語りついできた昔話は、名もない庶民みんなで作ってきた、かけがえのない伝承文化財です。つましい暮らしのなかわたしたちの民族がどんなことを思い、生きてきたのか、お話の形でしみこんでいて、語りかけてくれるのです。

mukashibanashi220119_2

今回の本を作るにあたって、たくさんの時間を小澤さんと話し合いました。手にとってくださった方に、すぐにお話に親しんでもらえるよう、「小さなお話集」も収録しています。
打ち合わせの時に小澤さんが、「このお話、おもしろいんだよ」と、小さな昔話を語ってくださることもあったのですが、そのあたたかい声と素朴で味わい深いお話は、忙しさでバタバタしていたわたしの心をすーっと癒して、やわらかい気持ちにしてくれました。昔話の不思議な力を感じた体験でした。

91歳の小澤俊夫さんが、これまでどんなふうに歩まれてきたか、そこで見つけたメッセージも編んでいます。2人の息子さんとの鼎談(長男 小澤淳さん、次男 小沢健二さん)も収録。
大切なことをぎゅっと詰めて、森ときつねの表紙カバーで包みました。装画は秋山花さん、ブックデザインはレスパースの若山嘉代子さんです。
どうぞ、お手にとってご覧いただけるとうれしいです。(担当:佐藤)

◎詳しくは暮しの手帖社オンラインストアをご覧ください。
◎小澤俊夫さんのあたたかい声は、ラジオ「昔話へのご招待」(FM FUKUOKA)で聴くことができます。

暮しの手帖別冊『お金の手帖』が発売になりました

2021年11月26日

e_2105_01

お金と暮らしは切っても切り離せないもの。
とても身近な存在なのに、どうしてお金との付き合いは、
こんなに難しいのでしょうか?

「将来が心配で、お金を使うのがこわい」
「お金についてわからないこと、迷うことが多すぎる」
「お金のことを語るのは卑しいという気持ちがあり、家族と話し合えない」
事前に行ったお金についてのアンケートでは、こんな声が並びました。

e_2105_03

そこで私たちは、この本を
お金についての不安な気持ちに寄り添うものにしよう、と決めました。
「なんのためにいくら貯めたら安心なのか、よくわからない」
「家計簿をつけるべきですか? 続ける自信がありません」
「税金が高過ぎる。吸い取られている感じで、つらいです」
みなさんから届いた正直な声を、家計や経済の専門家に投げかけ、
そのやりとりから一冊を作りました。
気になるところだけを拾い読みできる、
Q&A形式にもこだわりました。

e_2105_04

家計の整え方だけでなく、日本経済が抱える課題についても、
かわいいイラストとやさしい文章で、わかりやすく解説しています。
今の日本の状況がわかれば、家計の中で必要な備えが、
自然に浮かび上がってくるからです。

e_2105_02

前編は「経済を通じて社会を知ろう」と題し、
年金、少子化、貧困、働き方、税金など、今の日本を知るための
重要なトピックスを揃えました。

後編は「家計の不安を取りのぞこう」と題し、
基本的な家計の整え方から、住宅費用、教育費、老後資金、
保険、投資に至るまで、充実の内容。
特別ふろくとして、ズボラさんでも記入できる
家計の「年間決算シート」「定年後の収入見える化シート」もついています。

また「新しい窓を開ける」というインタビュー集では、
従来のお金の価値にとらわれない
ヤマザキマリさん、松村圭一郎さん、植本一子さん、伊藤洋志さんが、
家計・経済についての新しい視点を語ります。

読むうちに、「今も未来も、きっと大丈夫」。
そんなふうに気持ちが変わっていくはずですよ。(担当:田島)

心しずかに暮らしを見つめるために

2021年11月25日

c5_015_01_top

心しずかに暮らしを見つめるために
――編集長より、最新号発売のご挨拶

在宅ワークをしていると、飼い猫が腕にぴったりとくっついて、からまってきます。夜寝るときも同じで、こちらはぬくぬくと幸せです。暖冬といっても、寒くなったんだなあと思うこの頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。
いろいろあったこの一年、年末年始に、心しずかに暮らしを見つめる一冊をお届けしたい。今号は、そんな思いをこめて編みました。
表紙画は、デザイナーの皆川明さんによる「北の森の朝」。
依頼を差し上げたときの手紙を読み返すと、「先行きに不安を感じる人が多いいま、『心の安堵』や『深い幸せ』をテーマに描いていただきたい」とあります。そののちのやり取りで、「冬の澄んだ空気を深呼吸するような」というイメージが浮かび、やがて受けとったのがこの絵。ちいさな花々が寄り添って息づく様子は、なんだか私たち人のようだと思いませんか。

c5_015_01-2a_top

巻頭記事は「わたしの手帖 オリジナルでいこう」。
今回、取材にお伺いしたのは、介護施設で働く森岡素直(もとなお)さんと、絵を描く仕事をする中井敦子さん。お二人の間には昨年末、待望の赤ちゃん、満生(まを)さんがやってきました。
じつは、素直さんは女性として生まれついた人で、ゆえにお二人は婚姻関係を結ぶことができせん。たがいに心ひかれ、寄り添って暮らし、新しいいのちを育てていく、という点では、ごくふつうのカップルであるにもかかわらず。
私がお二人とはじめてお会いしたのは昨年のいまごろで、中井さんのおなかには満生さんがいました。ざっくばらんにいろんな話をし、この方たちを記事としてご紹介したいなあと思ったものの、いったいどんな記事にしたらいいものか、しばらく考えあぐねました。
誰もが「家族」になれる社会に、少しずつでも変わっていけたらいい。満生さんの、そして、すべての子どもたちの未来のために。
そんなお二人の願いを受けとりながらも、うまく言えないのですが、このメッセージが「主義主張」として太字で記されるような記事ではなく、隣にいる人の「暮らしの物語」として受け止めてもらえる読み物にできたらいいな……そんな思いが浮かび、「わたしの手帖」がしっくりくるのではないかと考えました。
「わたしの手帖」は、「どんな人の胸にも、暮らしのなかで摑んだ、きらめく言葉が書かれた手帖がある。そんな言葉を見せていただき、読む人と分かち合いたい」というコンセプトで続けているシリーズ企画です。しぼった文字数と写真で構成された、いわば「余白」の多い記事ですが、読む方には、ご自分の暮らしと重ね合わせて何かを感じとり、ひととき足を止めて考えていただけたら、うれしい。今回の記事についても、そう願っています。

そのほか、『暮しの手帖』ともゆかりのある、物理学者で随筆家でもある中谷宇吉郎博士の横顔を娘さんたちが語る「雪の博士 中谷宇吉郎さんの家族アルバム」、版画家のわだときわさんの「ままならないから、豊か」という人生の物語を綴った連載「てと、てと。」など、人の生きざまが胸にしみいる読み物をそろえました。
年末年始の季節、腕を振るって分かち合いたい料理やケーキ、贈り物にもぴったりな「猪谷さんの靴下」など、「つくること」を楽しむ記事にも力を入れました。来週から、担当者が一つずつご紹介しますので、ぜひお読みください。

また、今号には特別付録として、「山口一郎 暮らしのカレンダー」を綴じこみました。山口一郎さんは、今年1年間の目次絵を描いてくださった画家で、私もじつは大ファン。部屋には山口さんの抽象画を置いて日々眺めています。
小ぶりなカレンダーですが、山口さんの絵は実物以上に大きく見えるといいますか、のびやかで、心をふっと解放させてくれるような明るさがあります。カレンダーを入れた封筒と表紙には、来年の干支の寅が描かれています。封筒は、本誌を開いた真ん中(ノドと言います)のミシン目からきれいに切り取ることができますので、大掃除を終えたら、この寅の絵も飾っていただけたらうれしいです。
それぞれの人が、それぞれの持ち場で頑張り、踏ん張って、日々をまわしてきたような一年でした。自分の暮らしが、じつは多くの人によって支えられている、そのことにあらためて、感謝の思いも湧いてきます。
どうか、みなさまの年末年始が、心おだやかで、幸せなものでありますように。お身体を大切にお過ごしください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

揺るぎない暮らしのすがた

2021年09月25日

c05_014_aisatu

揺るぎない暮らしのすがた
――編集長より、最新号発売のご挨拶

窓を開けて仕事をしていると、川辺のグラウンドから、野球少年たちの歓声が聞こえてきます。風が心地よく、見上げる青空は高い。ようやく、ひと息つける季節がめぐってきましたが、いかがお過ごしでしょうか。
今号の表紙画は、イラストレーターの秋山花さんによる、「on the wind」。黄金色の空を、紙飛行機に乗った2匹の犬がすーっと飛んでいきます。まさに、風まかせの気ままな旅。うらやましいな。
まだいろいろと不自由な状況ですが、せめて心はどこか遠くへ飛ばして、すがすがしい空気を胸いっぱいに吸い込みたい。今号は、そんな思いをこめた特集を組みました。

一つは、巻頭特集の「山の版画家 大谷一良さん」。青や緑を基調とした山々の風景画は、ひととき眺めていると、心が静まっていくようです。
大谷一良さん(1933~2014年)は学生時代、串田孫一さんが部長の山岳部で活動しつつ独学で版画を始め、卒業後は商社マンとして働きながら、文芸誌『アルプ』の表紙画や挿画などを手がけました。超多忙な日々、制作はもっぱら休日をあてて行っていたそうですが、いったいどうしたら、そんな二足の草鞋を履けるのだろうと思います。その作品世界は世事とは無縁、澄みきって見えます。
実在の山ではなく、「自分のなかにある山」を描き続けたという大谷さん。だからこそ、その「山」にはふしぎな抽象性があり、見る人がそれぞれに抱く「山」の記憶やイメージ、何か揺るぎないものを呼び覚ますのかもしれません。

もう一つの特集「手と足と、知恵を使って生きていく」の舞台は、新潟県の山あいにある小さな集落、「中ノ俣」です。著者は、ここに20年来通い続ける写真家の佐藤秀明さん。棚田が広がる山村の四季折々の風景と、そこで暮らすお年寄りたちの日々を撮った写真には、「まだ日本にもこんな暮らしが残っていたのだなあ」と思わされる、驚きと懐かしさがあります。
親しく交流するお年寄りたちは、たとえ足が弱ってきても田畑を懸命に耕す働き者ばかりで、藁細工でも山菜料理でも、ささっと器用にこしらえてしまう。大きな笑顔がすてきで、厳しい自然とともに生きながらも、暮らしをめいっぱい楽しんでいるのです。
佐藤さんは、仲ノ俣に着くと棚田のてっぺんに向かい、そこで集落を見下ろして、流れる空気を感じながらしばし過ごすといいます。
「天日干しされた稲の香りを含んだ風が吹いてくる、秋の昼下がりがたまらなくいい。その甘さを含んだ風は、肺の中に入ってきて体全体に広がってゆく」
ああ、そんな空気を吸い込んでみたいなあ、と思わされる、実感のこもった一節です。

制作中、初校を読みながら気づいたのですが、この特集2本はどちらも、文中の肝となる部分で「揺るがず」「揺るがない」という言葉が使われていました。もしかしたら、いまそうしたものを、私たちが求めているということでしょうか。
自粛生活も1年半になると、外に楽しみを求められないぶん、本当の意味で「暮らしを楽しむ」って何だろうと、よく考えるようになりました。一つにそれは、ともすればただ流れていく一日一日のなかで、誰もが行う日常茶飯にどう工夫して「楽しみ」を見いだせるかな、という「能動的な自分」が必要な気がします。
新米が手に入ったら、おいしく炊いて、シンプルなおかずで味わってみる。手もとにある余った毛糸で、家事に役立つ愛らしい小ものを編んでみる。いまだからこそ、「公助」って何なのか、考えてみる。
今号も、暮らしを能動的に楽しみ、しっかり向き合って考える、そんな特集記事をそろえました。お茶でも淹れて、ゆっくりと読んでいただけたらうれしいです。どうぞ、健やかな日々をお過ごしください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

暮しの手帖別冊『気分を大事に 続ける料理』が発売になりました

2021年09月16日

e_2104

「料理するの、楽しい!」という日もあるし、「料理するの、しんどいなあ」という日もある。
「何を作ろうかな」とワクワクする日もあるし、「あ~もう、考えるのもいや」という日もある。
私たちは、日々、いろいろの気分を抱えながら、台所に立ち続けていますよね。

この本は、そういう自分の体と頭、心の状態と気分を大事にしながら、「よしよし、それなら今日はこんな方法で、自分に優しくしよう」と料理したり、食べることができるといいな、と考えて編みました。
頑張って気持ちを奮い立たせたりせず、あるがままの自分を受け止めて、無理のない方法を選んで料理するのです。
気分や合う方法は、人によってさまざまでしょうから、できるだけたくさんの個性豊かな方々にご指導いただきました。

e_2104_68-69

e_2104_100-101

1章「考えないで作る料理」は、「考えて決める、それがしんどい……」という時に、
2章「時間を味方にする料理」は、「夜はバタバタ、時間があるうちに作っておきたい……」という時に、
3章「食べて養生する料理」は、「なんだか食欲すら落ちてきたみたい……」という時に、
4章「買ってひと手間、満足ごはん」は、「とにかく疲れた、すぐ食べたい……」という時に、
5章「夢中になって楽しむ料理」は、「料理って楽しい!」そう実感したい時に、役立つレシピです。

さらに特別取材「わたしの続ける気持ちと料理」では、タブラ奏者のU-zhaanさん、漫画家のよしながふみさん、モデル・女優の滝沢カレンさん、やり過ごし料理研究家のやまもとしまさんの4名に、台所に立つモチベーションをお聴きしています。

総勢15名の、やさしさが詰まったエピソードとレシピで、どんな日も減ってしまうお腹を温かく満たし、明日の元気につなぐことができますように。(担当:長谷川)

e_2104_14-15


暮しの手帖社 今日の編集部