新刊のご案内

編集長より、最新号発売のご挨拶

2025年05月22日

――編集長より、最新号発売のご挨拶
こんにちは、島﨑です。気持ちのよい、緑の風が吹いていますね。皆さま、お元気でお過ごしでしょうか。

2カ月ぶりのご挨拶、『暮しの手帖』最新号発売のお知らせです。
本号も、暮らしに役立ち、日々を楽しむ記事をたくさん詰め込みました。まず、読みものをふたつ、ご紹介しましょう。奇しくも、どちらも舞台は京都です。

私が担当した巻頭企画「ウトロのオモニと農楽隊」では、宇治市はウトロ地区を訪ねました。ウトロ地区には、朝鮮半島にルーツを持つ方々が多く住んでいます。皆さまはこの地域にコミュニティーができた経緯を、ご存じでしょうか。戦前から続く地区の歴史、かつてあった暮らし、現在もそこに生きる方々の思いをお伺いしました。
一方、「聴竹居の物語り」の主役は、ウトロから西に15キロほど離れた乙訓郡大山崎町にある家屋「聴竹居」です。「聴竹居」とは、建築家の藤井厚二が1928年に建てた自邸の名。この家には至るところに、合理的、かつ、美しく住まう工夫がなされています。豪奢な造りにため息が出ると同時に、「快適な住まいとはどのようなものだろう」と自分の暮らしに引きつけて考えさせられもする。それがこの建築のおもしろいところです。

さてお次は、料理記事についてです。
小誌には毎号、二つのタイプの料理記事を掲載したいと考えています。言うなれば「助かる」料理と、「楽しむ」料理の記事です。
毎日の食事の支度は、なかなかに大変な仕事です。家族のお腹を満たす任を負うのも、疲れている時に自分のために庖丁を握るのも。どちらにもそれぞれしんどさがありますよね。ですからまず、「助かる!」と思っていただけるようなレシピをお届けしたいのです。
例えば、本号でいえば、この物価高の中、いつも手頃な値段で売り場に並んでいる魚のいろいろな食べ方をご紹介する「あんな食べ方、こんな食べ方 アジとイワシ」。それから、野菜たっぷりのパエリアをフライパンひとつで作る「白崎裕子さんの好きな野菜で手軽にパエリア」はきっと大いに、皆さまのお役に立つことと思います。
一方で、「料理の楽しみ」もぜひ、お伝えしたい。「台湾パイナップルケーキとお茶の楽しみ」はまさにそんな頁です。パイナップルケーキといえば台湾旅行の定番土産ですが、出来立ての熱々を召し上がったことはありますか? これがもう、えも言われぬおいしさなのです。「本当?」と思われた方、ぜひ試してみてくださいね。自分で作る醍醐味を味わっていただけるはずです。

長くなってきましたが、最後にもうひとつだけ、おまけ話を。
この号のゲラを校正していて、何度読んでも、にっこりしてしまう箇所がありました。それは、前号よりスタートした連載「稲田俊輔の新おそうざい十二カ月」のレシピの一節でした。
この連載は、南インド料理店「エリックサウス」を営む料理人・稲田俊輔さんに、毎号、その時季の旬の食材を使ってさっと作れる一汁三菜を2献立分、ご紹介いただくというものです。36号の「七月の献立」では「鶏ときゅうりのオリーブしょう油」というひと品が登場します。そのレシピに、こんなひと言が添えてあるのです。
「(ゆでた鶏は)裂きたてが一番おいしいので、味見と称して絶対につまみ食いしてくださいね」
この部分を読むたび、私はうれしくなります。「そうそう、これこれ」と思うのです。少々お行儀が悪くても、料理をする人には、それくらいのお楽しみがなくちゃ。そして、そんなささやかな喜びが案外と、日々の炊事を励ましてくれるものなのだ、とも。

暑さがやってくる前のわずかひと時、輝くような季節です。どうか健やかにお過ごしになられますように。そして『暮しの手帖』が本号も、皆さまの暮らしのお役に立ちますようにと願っています。

『暮しの手帖』編集長 島﨑奈央

暮しの手帖 第5世紀36号へ