恋しいキッチン

カヒミ カリィ

第17回 買い物かごに夏を集めて

2026年08月05日

先日、NYに住んでいる日本人の友人が、夏休みの帰省中にわが家へ遊びに来てくれました。さて、何を作ろうかと考えた時、自然と日本の夏らしい食材を少しずつ集めたくなりました。海外に長く住んでいたからこそ、日本では普通に店先に並んでいるものが、実はとてもぜいたくな食材に見えることがあります。

その日の献立は、ウナギのちらし寿司、みょうがと青じそのせん切りをのせた冷ややっこ、しょうがと大根おろしたっぷりの焼きなすのおひたし、とうもろこしの素揚げ、バジルの花穂をのせたミニトマト、ウリのぬか漬け、なめこと三つ葉のおみそ汁、そしてデザートに冷やした白桃のミント添えにしました。ちらし寿司の酢にはウナギのタレを少し混ぜ、錦糸玉子と塩もみしたきゅうりをのせます。冷ややっこには、しぼりたてのごま油としょう油を少々。ミニトマトには、沖縄の塩をパラパラと。

ウナギ、みょうが、青じそ、なめこ、三つ葉、ウリ、白桃。日本にいると、季節になれば何げなく買えるものばかりですが、アメリカではなかなか手に入りにくかったり、見つけても高かったり、香りや鮮度が少し損なわれていたりしました。豆腐も、日本で買うものはやはり味が繊細で、冷ややっこにするだけでごちそうになります。三つ葉や青じそ、バジルの花穂、そしてミントはわが家の小さな庭で育てているものなので、お店で売っているものよりもたくましく、香り豊かで爽やかです。

東京のスーパーでみょうがを手に取りながら、ふと海外で暮らしていた頃のマーケットの景色を思い出しました。NYでよく通っていたGrand Army Plaza Greenmarketや、ランカスターのLancaster Central Marketの天井の高い建物、パリのモンマルトルの丘の途中にあった八百屋。あの街角の匂いがふと蘇り、急に近くなったように感じました。場所は違っても、私はいつも市場やスーパーで、その土地の季節を探していたのだと思いました。

NYやパリのマーケットは、野菜や果物が山積みに並んでいるのが美しくて見るだけで楽しく、夏になるとトマトやとうもろこし、桃やベリーの香りが、辺り一面に広がります。引っ越したばかりの頃は、日本ではあまり見かけないターキーの手作りソーセージや、ズッキーニの花、あひるやガチョウの玉子など、ちょっとした博物館に来たような気分になっていました。あひるの玉子でオムレツを作ったり、ガチョウの玉子を使って、絵本の『ぐりとぐら』にでてくるようなカステラを焼いてみたりしたこともあります。

アメリカの夏料理として思い出すものは、意外にはっきりした輪郭を持ってないことに気付きました。広い国ですし、私自身も色々な料理を自由に作っていたからかもしれません。それでも、ロブスターロールを手に入りやすいエビで作ったシーフードロールや、スイカとフェタチーズのサラダ、甘く煮た黄桃にビスケット風の生地をのせて焼くピーチコブラー、冷やして食べるキーライムパイなどは、夏の思い出として残っています。

ランカスターでは、歩いていけるLancaster Central Marketへ通うのが楽しみでした。1730年に創設された、アメリカで現存する最も古いマーケットと言われています。地域の新鮮な野菜やお肉、地元の食材を使ったチーズ、アーミッシュの手作りのジャム、焼きたてのソフトプレッツェル。素朴で力強い食べ物が並ぶあの市場は、東京やNYとはまったく違う豊かさがありました。モラセスという糖蜜を使ったアーミッシュ伝統のパイ、Shoofly pieも大好きでした。名前の由来が面白くて、冷ましている間に、甘い蜜の匂いに誘われて寄ってくるハエを「Shoo!(シッ! あっちへ行って!)」と追い払わなければならなかったことから名付けられたのだそう。少しきな粉のような香ばしさがあり、初めて食べた時は、遠い土地の味なのにどこか懐かしい気がして、不思議に思ったものです。

パリでの買い物は、また別の楽しさがありました。私はシャトー・ルージュの辺りに住んでいたので、モンマルトルの丘の途中にある八百屋や肉屋が集まる通りでよく買い物をしました。夏にはブルーベリーを買ってタルト・オ・ミルティーユを焼いたり、ポロねぎとじゃがいもでヴィシソワーズを作って、冷蔵庫でキンキンに冷やしたりしました。ビーツのローストサラダ、フェンネルとオレンジのサラダ、きゅうりのヨーグルトサラダ。ゆでたアーティチョークを、手作りのマヨネーズで食べるのも好きでした。今思い出すと、なんて楽しい夏の食卓だったのでしょう。

東京、NY、ランカスター、パリ。暮らした街によって、夏の味は少しずつ違います。けれど、誰かを迎える時に考えていることは、どの街にいても同じだったように思います。その人に、今この場所でいちばんおいしい季節を食べてもらいたい。珍しいものや豪華なものでなくても、この土地の今を感じるものを少しずつ食卓に並べたい。そう思いながら、私は買い物かごに夏を集めているのかもしれません。

NYから来た友人と食卓を囲みながら、みょうがやウナギ、白桃を喜んでくれるのを見て、私はとてもうれしくなりました。季節は、カレンダーだけで知るものではなく、店先に並ぶ野菜や果物、誰かのために選ぶ献立の中にもあります。これからもスーパーや市場を歩きながら、その時々の小さな季節を見つけていきたいです。

文・写真 カヒミ カリィ


カヒミ カリィ
ミュージシャン、文筆家、フォトグラファー。1968年生まれ。
フランスで約8年、アメリカで約13年暮らし、2025年春に日本へ帰国。
『暮しの手帖』の連載「すてきなあなたに」にも寄稿。
Instagram:https://www.instagram.com/kahimikarie_official/