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金田一秀穂さんの最新刊、『あなたの日本語だいじょうぶ?』が発売です

2023年07月12日

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時代が進めば、さまざまなことが変わります。
考え方に違いが出てきて、以前にはなかった課題が見出されるようになる一方で、新しい文化も生まれてきます。そうした中にあっても、ある程度の年齢になっている人間であれば、「リモート」よりも「対面」、「パソコン入力」よりも「万年筆で直筆」というように、より人間の気配が強いものに温かみを覚えて惹かれるのは当然のことでしょう。
だからといって、新しいものを否定する必要はまったくありません。
新しいものは便利だし、常に発見があります。
言葉にしても、常に変化があります。
  流行語。
  略語。
  新語。
昔からあった言葉でも、従来とは違った意味を与えられることもあります。だから、巷のにほん語はおもしろいのです。
いまの若い人たちは、とにかく書くのが早くて、文章が短い。何かの返事をするにもつい長くなってしまいがちですが、それをやっていてはダメ出しされてしまいます。とにかくスピードが重視されるので、ちょっと何かを説明しようとすれば、「ムダ!」、「無理!」などのひと言で済まされてしまうのです。
もうひとつ若い人の特徴として、〝半径5メートル以内のことなら言語化、文章化するのに長けているのに、50メートル離れたことは書けない〟ということ。興味の範囲がそういう枠内に限られているということなのでしょう。たとえば、いま食べているオムライスがどんな味なのかといったことはうまく説明できます。それこそインスタグラムやツイッターなどのSNSで鍛えられている面が強いからです。しかし、国会で議論されていることやウクライナで起きていることなどは書けないのです。
これから私たちは、自動翻訳機やチャットGPTのような世界と、理屈では説明しにくい世界の両極と、いかに付き合っていくかが求められるようになります。そうしたところまでを理解したうえでコミュニケーションを取っていく必要が出てきます。
コミュニケーションはもともと言葉だけで行うものではありません。言語力以外の部分も非常に大切になってきます。本書では、そんなことが分かる一冊です。(担当:永井)

別冊『食事と暮らし』発売です

2023年07月10日

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ご好評いただいた別冊『健康と暮らし』に続き、『食事と暮らし』が発売されました。
今回は巻頭に1960年の『暮しの手帖』から「3度の食事」の文を掲載しています。

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3度の食事人生かりに70年として、日に3度の食事とすれば、
お互い息をひきとるまでに、これでざっと8万回は食べるということになる。
その8万回のなかには、
遠足でとりかえっこしたにぎり飯もあれば、
恋人とさし向いでフォークを運んだランチも入っている。
病人の枕許でそそくさと片づけたサンドイッチも、
朝寝坊してあわてて流しこんだ牛乳も、
借金の言訳を考えながらすすったもりそばも、
受験勉強の図書館でかじったトーストも、
先生の目をぬすんで机の下で開いた弁当も、
サイフの中を暗算しながら百貨店の食堂でたべたラーメンも、
となりのおばさんからお裾分けの大根の煮〆も、
故郷へ帰る汽車のなかの冷えた駅弁も、同窓会のとんかつも、
スキー宿のカレーライスも、お寺で出された芋がゆも、
腹立ちまぎれに茶わんをこわして皿でたべた飯も、
昇給して一家そろってつついたとりなべも、
防空壕にしゃがんでたべたいり豆も、
あれもこれも、おもえば8万回のうちの1回ではある。

これは『暮しの手帖』が、独自に約1000世帯に食事調査を行い、その結果をもとに、まとめられた人気企画の冒頭です。
この文章に触れた時、感じたのは、食事は人生の同伴者であるということ。長い人生、山あり谷あり、ときには川を渡ることもあります。どんなときでも3食は1日の節目であり、食事を重ねることで、人生は長く続いていくのです。いままで、当たり前に思っていた3度の食事が、実は共に人生を過ごす存在だと気づかせてくれました。
それにもう一つ、1回の「おいしい」を8万回重ねることの大変さです。どんな時代でも、どんな状況でも、3度の食事が(しかも、おいしく)いただけるのは、食材を提供する人、料理する人、自分の健康、そして安心して食事ができる環境が整ってこそです。とくに家庭の料理は家事の一環です。料理しながらも、家族の健康や後片付け、家計のことなど、さまざまなことを考え、そのうえで、1日3回、何十年もおいしい食事を作り続ける……。本当に大変なことだと思います。
今回の特集では料理家に、自分の家族のために作るときの「3食の工夫」を教えてもらいました。それは、いまでも意識せずにやっていることや、簡単すぎて工夫とは言えないことも多いかもしれません。ただ、これらの小さな工夫をヒントにして、それぞれの家庭に役立つようにアレンジ、もしくは新たに作っていただければと思います。
それだけではありません。実は料理を食べている人にも読んでいただきたいのです。毎日の食事に「あなたの暮らしに合った工夫」がいくつも重ねられていることを知ると、もっと「おいしく」、「ありがたく」感じられるのではないでしょうか?

別冊編集長 古庄 修

単行本『毎日がつながる献立』発売です

2023年05月26日

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さあ今夜は何を食べよう、何を作ろうか。
今日も考えを巡らせて、ちょっと悩みます。料理って、毎日毎日ずっと続いていくものですから。多少は外食や買ってきたお惣菜にも頼ったとしても、それはなかなか大変なこと。何かいいアイデアはないものかと、この本の企画段階で考えました。そして、やはり毎回、何を作ろうかと考え始めるのではキリがないと思い至るのでした。「冷蔵庫にあれがあるから、あとはこうして……」という状態にできれば、気持ちからして段違いにラクになります。

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この本では、今日食べる料理と次のための下ごしらえで、2~3日のおかずをつなげるという方法を考えました。2日目は手早く出来上がるのはもちろん、同じ素材でも、まったく違った味わいの料理にできるのが大きなポイントです。それに常備菜や合わせ調味料などの作りおきを活用して、副菜や汁ものなどを組み合わせれば、献立もラクに決まります。

そして何より、有元葉子さん、坂田阿希子さん、瀬尾幸子さんという3人の人気料理家が考えてくださったアイデアがどれも秀逸なのです。先生方がふだん実際に行っている、工夫に満ちた料理のアイデア集と言える一冊です。

この本は、2015年に刊行してご好評をいただいた別冊『毎日がつながる献立』を書籍化したものです。
詳しくは、こちらをご覧ください。(担当:宇津木)

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あきらめなければ、佳き日がくる

2023年05月25日

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あきらめなければ、佳き日がくる
――編集長より、最新号発売のご挨拶

こんにちは、北川です。初夏らしい、爽やかで気持ちのよい気候になりましたね。
私が暮らす浅草は、つい先日(5月19日から21日)、「三社祭」が催されました。テレビなどの報道でご存じの方も多いでしょうか、100基近いお神輿が町中を練り歩く、たいへん賑やかで勇壮なお祭りです。
じつは私は、2019年の三社祭の最終日に浅草に越してきたのですが、その日は引っ越しで手いっぱいでそれどころじゃなく、翌年からは、コロナ下となってお祭りは縮小。ですから、本来のすがたの三社祭を見たのは今年が初めてでした。
お神輿を担ぐ人びと、沿道で手拍子を打つ人びとの顔を見ると、もうニコニコとして喜びが体中から溢れんばかり。朝から、お囃子の音色と威勢のよい掛け声がほうぼうから聞こえてきて、なんと言いますか、町中がスイングしているようなありさまでした。
ああ、人にはお祭りが必要なんだな。なんてことない日常を、淡々とたゆまずに送るためにも。手拍子を打ちながらそんなことを思い、ふと胸に浮かんだのは、「あきらめなければ、佳き日も訪れる」という言葉でした。コロナ下に味わったいろんな感情がどっと思い出されて、そんな言葉が浮かんだのかもしれません。
みなさんも、いまありありと思い出すコロナ下の印象的な出来事、言葉にして残しておきたいことがおありでしょうか。編集部では、そうした「コロナ下の暮らしの記録」を募っておりますので、ぜひ、下記よりお原稿をお寄せください。6月12日までお待ちしております。

https://www.kurashi-no-techo.co.jp/blog/information/20230502

前置きが長くなりましたが、最新号の24号のご紹介を。
表紙は、イラストレーターの長崎訓子さんによる「hop」。大きなホットドッグの上でスケートボードに乗る女の子がなんとも軽快で、元気をもらえるようなイラストレーションです。今号は、この女の子さながらに、自分の道を見いだして歩んできた、4人の女性が登場します。
1人目は、巻頭記事「わたしの手帖」にご登場の片桐はいりさん。個性派俳優として活躍し、小誌の創刊者がモチーフとなった朝ドラ『とと姉ちゃん』にも出演した片桐さんは、今年、還暦を迎えたそうです。若い頃とは違う自分を見つめて受け止め、力まずに、面白そうな仕事の話には乗ってみる。コロナ下を経て変わった心持ちについても、飾らずに語ってくださいました。
表紙に立てたコピー「鍛えるべきは愛嬌です」は、片桐さんの言葉。私はどきっとしましたが、みなさんはいかがでしょう。
2人目は、デザイナーのコシノジュンコさん。「わたしとお茶漬け」と題したインタビュー記事は、「お茶漬け」という身近な料理を通して、コシノさんの眼や感性を培ってきた、宝物のような思い出が語られます。
3人目は、小誌の連載でもおなじみの画家・ミロコマチコさん。ミロコさんが東京から奄美大島に移住したのは2019年の初夏のことですが、いまでは土地に根を下ろして暮らしている様子が連載からも伝わってきます。今回、「ミロコさんと地域の人びととの関わり」を取材してくださったのは、写真家の平野太呂さん。記事の結びの言葉を、私は何度か読み返しました。
〈暮らしとは、一人ではなし得ない。私にできることと、あなたができることの交換、その補い合いの連なり〉
ご自分の暮らしに引き寄せながら、お読みいただけたらうれしいです。

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そして4人目は、琉球料理家の山本彩香さん、88歳。「山本彩香 琉球料理の記憶を旅する」は、編集者で作家である新井敏記さんによる記事で、10年ほど前に撮られた料理写真を軸にして構成しました。
みなさんは、「琉球料理」と「沖縄料理」の違いはご存じでしょうか。私は恥ずかしながら、よくわかっていませんでした。中国料理と日本料理のよいところを取り入れ、宮廷料理として発展したのが「琉球料理」。それをベースにしながらも、戦後のアメリカ文化の影響を受けて変化したもの(たとえばスパム入りのゴーヤーチャンプルーなど)が「沖縄料理」、という区別があるそうです。
今回は、撮影はなかったものの、新井さんとともに山本さんの那覇市のお住まいを訪ねてお話を伺いました。山本さんはまず、いまでも欠かさずにお作りになっている「豆腐よう」を出してくださいました。これは角切りにして水抜きした豆腐に塩を振って慎重に発酵させ、さらに紅麹と泡盛に漬けて二次発酵させたもの。くさみや、塩のとがった味はまったくなく、トロリと濃厚でフレッシュチーズのようなうま味が口いっぱいに広がります。なんてまろやかでおいしいのだろう! ほかで味わってきた豆腐ようとはまったく異なるおいしさに驚かされました。この小さな珊瑚色の豆腐ようには、山本さんが歩んできた困難かつ冒険的な人生や、沖縄の歴史や文化が詰まっている、そんな思いもしました。
山本さんの丹念な料理はまさに職人芸、家庭で簡単に真似ができるものではありません。けれども、滋養があることを第一に、体によいものを食べさせたいという作り手の願いや愛情、土地の食材を創意工夫して生かしながら、毎日の料理を自分なりに楽しもうという心持ちは、いまの私たちが忘れがちな、大切なことのように思えました。料理は本来、義務やルールに縛られるものではなく、体を養い、健やかに自分らしく生きていくための「営み」の一つなんですよね。

今号も、日々の暮らしを楽しみ、じっくりと味わうためにお役立ていただきたい、いろんな記事を盛り込みました。あすから一つずつ、担当者がご紹介しますので、ぜひお読みください。
最後に、このたびの能登地方の地震で被害を受けられた方々に、心よりお見舞いを申し上げます。不便が一刻も早く解消され、もとの穏やかな暮らしが戻ってきますように。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

『新装保存版 暮しの手帖の基本料理』発売のお知らせです

2023年03月27日

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豚の角煮、肉じゃが、茶わん蒸し。ハンバーグにポトフ、カルボナーラ。そして麻婆豆腐やチャーハン、エビチリ。
まさにお馴染み、言わずと知れた人気の定番料理ですね。
では、みなさん。
豚の角煮って、どうやって作るの? そう聞かれたらいかがでしょう?
なんとなくは、わかっているつもり。でもそれでおいしく作れるかというと、心もとない。
そんな方も多いのではないでしょうか。
毎日の食卓には、ごく普通の食べ飽きないおかずが欠かせません。
目新しいものや見映えのする料理も、たまにはいいけれど、
定番のメニューこそ、本当においしく作りたいし、それを自分のものにしたい。

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この本では、そんなベーシックなメニューがずらり。
ミシュラン掲載の名店「かんだ」の神田裕行さん、フレンチのトップシェフ、オテル・ドゥ・ミクニの三國清三さん、
そして中国・北京生まれの人気料理研究家、ウー・ウェンさんの3人のレシピです。
暮しの手帖伝統の「一流の味を家庭に」という考えのもと、
基本的な定番料理こそ本当においしく作れるようにとまとめ上げた一冊なのです。
和洋中の豊富な料理を、すべてのレシピにさまざまなコツやポイントを記してご紹介し、
身近な材料や調味料で、無理なくおいしく作りやすいような工夫が随所になされています。
そしてさらに、和洋中それぞれのおべんとうや特別な日のごちそうメニューまで、ひと揃い。
この一冊があれば、普段の料理は万全です。
この本は、2013年に刊行しご好評をいただいた別冊『暮しの手帖の基本料理』と2014年の『暮しの手帖の基本料理2』を、再編集して書籍化したものです。

詳しくは、こちらをご覧ください。(担当:宇津木)

満足のゆく日々を送るために

2023年03月25日

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満足のゆく日々を送るために
――編集長より、最新号発売のご挨拶

こんにちは、北川です。
わが家は浅草の隅田川のほとりといってよい場所にあるのですが、この数日は、対岸(墨田区側の墨堤)の桜並木が満開で、まるで煙るように見えます。あんまりきれいだから、今日は早朝の光のもと、思わず写真を撮りました。
思い出すのは、2020年のいまぐらいの時季のこと。コロナ禍で、急きょリモートワークに切り替えて制作することとなり、自宅でひとり仕事をしていると、予定していた取材撮影が次々と延期や中止になりました。さあ、どうしよう。どうやって記事をつくろう。
悩みながら散歩に出ると、人影もまばらな浅草寺の境内で、桜の大木が両腕を広げるかのように咲き誇り、惜しみなく花びらを散らしていました。当たり前のことだけれど、人の世の事情や、私のこんな悩みとは丸きり無関係に、花は咲いて、渡り鳥はやってくる。それが悲しいような、どこか救われるような、なんとも複雑な気持ちを味わいました。
3年が経ち、いまでは普通に取材撮影ができるようになったわけですが、あのときの気持ちを忘れたくないと思います。自分がちっぽけな存在であり、この世界で生かされているのだと切に感じたこと。いろんな制約があるなかで、やはり制約のある暮らしを送っている方たちに、いったい何をお届けしたらいいのかと悩んだこと。人と会い、実際に見聞きして記事をつくるのが、どれだけ大事かということ。
きっと一人ひとりに、あの春には特別な記憶があるのではないかと思います。

前置きが長くなりました。
春がめぐってくると、まわりの自然から湧き出るようなエネルギーを感じるからでしょうか、何か新しいことを始めたり、日々のルーティンを見直したくなったりするものです。今号は、そんな気分に応える記事を企画しました。
八百屋さんの店頭で竹の子を目にすると、まだちょっと高いかなあと思いつつ、「そろそろ、あの方法で竹の子ご飯を炊こうか」と考えます。「あの方法」とは、巻頭記事「春を味わう和のおかず」で、日本料理店店主の林亮平さんに教えていただいた下ごしらえのこと。米ぬかで下ゆでするのはおなじみの方法ですが、林さんはそのあと続けて「ダシで煮る」という方法をとります。こうすると、煮汁に竹の子の風味が移り、その煮汁で竹の子ご飯を炊けば、竹の子の風味満点……というわけです。ほら、作ってみたくなりませんか?
そのほか、土いじりをしたい方には「吊るせる観葉植物 緑のハングボール」がおすすめですし、「あのひとの花時間」を読めば、一輪でも花を生けたくなるはず。手を動かす楽しみを味わえる「直線裁ちでつくる みんなのワンピース」、日ごろのケアを見直すための「元気な素肌を育むスキンケア」、起床時の縮こまった体を簡単ストレッチで伸ばす「ウォーミングアップの手帖」などの記事を揃えています。

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春、新学期の気分で、新連載もスタートしました。料理家の長尾智子さんによる「楽に作れるアイデアひとつ」です。
この連載について長尾さんとご相談を始めたのは、確か、昨年の7月あたりだったと思います。家の料理はなるべくシンプルなものがよいし、作りやすく、そして食べやすいことが、どんな世代の人にも大事。長尾さんはそんなことをおっしゃいました。
自慢ではありませんが、私は毎日仕事に追われていまして、お世辞にも「ゆとりのある暮らし」を送っているとは言えません。だから、外食に救われることもあれば、「今日はコロッケを買って、あとはサラダを添えて済ませちゃおう」なんて日もあるのですが、そんな日が続くと疲れてしまうんですよね。やっぱり、いろいろあった一日の終わりに、たとえ簡単なものでも自分でこしらえた料理をゆっくりと味わうと、「あしたも頑張ろうかな」と思いながら眠りにつける。この連載は、私のような人にも活用していただけたらなあと思い、冒頭にはこんなことを書きました。

たとえ疲れているときでも、いえ、疲れているときこそ、
自分でさっと作った料理で心身を満たしたいものです。
楽に作れて食べやすい、そんな料理のアイデアを
長尾智子さんに教わりましょう。
初回は「水炒め」。
まずは春キャベツでお試しあれ。

この「水炒め」は、野菜のみならず肉にも使える便利な調理法で、おいしくてお腹にやさしく、もう何度も作っています。肉にはツナソースをかけるとたいへん美味なのですが、じつは塩・コショーでも十分ですし、しょう油をちょっとたらしたり、アリッサのようなお好みの調味料を添えても。一人分ならフライパンひとつで、肉料理と付け合わせを同時に仕上げられますよ。

どんなに忙しくても、自分で暮らしの手綱をしっかり握って、満足のゆく日々を送るために。今日も、あしたも、倦まずに生きるために、この一冊をご活用いただけたらうれしい。今号も、そんな思いを込めて編みました。表紙画は、安西水丸さんの作品「メロンと船」。どうぞ書店で見つけてくださいね。
また、ひとつお知らせです。このたび新しい試みとして、定期購読をオンラインストアでお申込みいただけるようにいたしました。離れて暮らすご家族への贈り物に、もちろん、ご自身のために、ぜひご活用くださいませ。
広告をとらない『暮しの手帖』は、一冊一冊の購読料のみで支えられて、この秋に創刊75周年を迎えます。雑誌の世界において、これはひとつの「奇跡」と言っていいでしょう。ご購読くださっているみなさまには、感謝しかありません。どうかこれからも、『暮しの手帖』をご愛読いただけますよう。
春は体調もゆらぎやすい季節です。ご自愛されて、よき日々をお過ごしください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

◎暮しの手帖オンラインストア 定期購読ページ
https://www.kurashi-no-techo.co.jp/teiki/

別冊『健康と暮らし』発売されます。  健康と幸せは近い場所にあるのかもしれません。

2023年03月20日

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「健康って何だろう?」
この本を企画したときに、まず考えたのはそこでした。

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世界保健機関の憲章前文には健康の定義があります。
「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」
もちろん、病気にかからないことは大切です。
そのために運動をしたり、食事に気を付けたり、健康法を試したり……。ただ、病気にならないために苦しい思いをすることは、「満たされた状態」なのでしょうか?
大切なのは、無理なく、おいしく、楽しくできる方法を見つけること。特集では、さまざまな方が実践している健康法を取材しました。
運動や食事、考え方、そして実行できる時間など、自分の暮らしに取り入れやすいものあれば幸いです。

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今回、取材した、おいしい食事や気持ちのいい運動、民藝の器、そして、小さな島の住民が支える祭り……。それらに共通するのは「健やか」であることでした。そして、最後に医師の稲葉俊郎さんと、エッセイストの阿川佐和子さんの対談(23日に、このブログにて、少しだけその内容を紹介します)を聞いているときに、こう感じました。
肉体、精神、社会がそれぞれに関りながら満たされた状態が「健康」ならば、それは「幸せ」ととても近い場所にあるのでしょう。

みなさんの体や心はもちろん、周りの人々や社会が健やかでありますように。

別冊編集長 古庄修

※詳細はこちらからご覧いただけます。

随筆集『あなたの暮らしを教えてください』全4冊 第1集『何げなくて恋しい記憶』、第2集『忘れないでおくこと』刊行のお知らせ

2023年03月16日

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『暮しの手帖』創刊75周年を記念して、
豪華執筆陣で贈る随筆集『あなたの暮らしを教えてください』全4冊をお届けします。
『暮しの手帖』では、毎号「あなたの暮らしを教えてください」という依頼のもと、各界でご活躍のさまざまな方々に随筆の寄稿をお願いしています。
本シリーズは、2007年以降の随筆作品から選りすぐり、4つのテーマに分けた随筆アンソロジーです。

著者は、文学界を代表する作家をはじめ、人気漫画家、気鋭のコラムニスト、画家、料理家、音楽家、スポーツ選手、俳優、声優、研究者、書店員などなど。
あっと驚く多彩な顔ぶれを、ぜひ「目次」でご覧いただきたいところですが、ここに少しだけご紹介します。

第1集『何げなくて恋しい記憶』のテーマは、「家族、友人、恩師との話」。
著者:三浦しをん、山田太一、多和田葉子、池澤夏樹、森 絵都、萩尾望都、内田春菊、
片桐はいり、辻村深月、ジェーン・スー、内田 樹、山崎ナオコーラ、イッセー尾形、
大竹しのぶ、俵 万智、坂本美雨、カヒミ カリィ、増田明美 ほか全70名

第2集『忘れないでおくこと』は「日々の気付きにまつわる話」。
著者:町田 康、江國香織、ヤマザキマリ、保阪正康、片岡義男、半藤一利、角田光代、
木内 昇、三木 卓、ほしよりこ、西 加奈子、吉行和子、赤川次郎、益田ミリ、椎名 誠、
高畑充希、堀込高樹、村田諒太、中島京子、大江千里 ほか全67名

個性豊かな書き手が、それぞれの日々や心が動いた出来事を綴った珠玉の作品群。
それらは、小さな「暮らしの物語」であり、何げない日常の尊さが心に染みます。
第3集『居心地のいい場所へ』、第4集『美味しいと懐かしい』は5月下旬刊行予定です。
どうぞお楽しみに。(担当:村上)

※詳細は第1集はこちらから、第2集はこちらからご覧いただけます。

『小さな思いつき集 エプロンメモ』刊行のお知らせ

2023年02月27日

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1954年から続く長期人気連載「エプロンメモ」の最新刊ができました。
「エプロンメモ」は、家庭でのちょっとした思いつきや工夫を読者からお寄せいただき、簡潔な「メモ」にしてまとめている連載です。
その内容は、食べもの、着るもの、おしゃれ、住まい、子どものこと、人とのお付き合い、身体のことなど、身のまわりすべてに及びます。
たとえばこんなふうです。

●保冷剤
ゆで玉子などを冷ますとき、何度も水を替えずに、保冷剤をたくさん入れた水で冷やせば、水の節約になります。保冷剤は繰り返し使えるので、ケーキなどに付いてきたら、冷凍庫に入れて取っておくようにしています。

●ガムを取る方法
服や床についてしまったチューインガムをきれいに取るには、氷を布に包んで、ガムのついているところにあてます。ガムが冷やされて固まり、簡単に取ることができます。

●バゲットの袋
バゲットが包まれていた縦長の袋は、細長い野菜を入れるのにぴったりです。紙袋には、泥つきのごぼうややまいもを、保存用のポリ袋には、セロリや長ねぎなど水気の多い野菜を入れて、冷蔵庫で保存しています。

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私たちは、誰かのひとかけらの工夫がきっかけになって、明るい光が差したり、思いがけぬほど力づけられたりするものではないでしょうか。「エプロンメモ」が長く愛されている理由は、ここにあると思っています。
本書は、すぐに役に立つ628編を、早春、春、初夏、夏、秋、冬の季節に分けて収録しました。読者と編集部が一緒に作り上げた、まさに暮らしの知恵袋です。
歳時記のようにも、小さなお話としてもお楽しみいただけます。
どれかひとつでも、ふたつでも、あなたのお役に立ちますように。(担当:村上)

※詳細はこちらからご覧いただけます。

普通をしっかりやっていく

2023年01月25日

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普通をしっかりやっていく
――編集長より、最新号発売のご挨拶

こんにちは、北川です。
この冬いちばんの寒気が列島に流れ込んでいるとのことで、大雪に見舞われた地域では、いろいろお困りの方もいらっしゃるでしょうか。路面凍結もこわいですから、みなさま、どうぞご安全にお過ごしください。
今号の表紙画は、イラストレーターの水沢そらさんによる「春よ、こい」。草むらに花々が咲き乱れ、蝶やイモムシが生を謳歌している――そんな絵で、ひと足早い「春爛漫」をお届けします。函館市出身の水沢さんは、子ども時代、この時季は春を待ち焦がれていて、これはそんなときに思い描いていた春の表現だそうです。
水沢さんが絵に寄せてくださった言葉(169頁)より。
〈そういえば今は亡き父も毎年飽きもせずに言っていました。「はやく春、来ねえかなぁ。寒いの飽きたなぁ」って〉

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思えば、巻頭記事「湯宿さか本 坂本菜の花さん 普通をしっかりやっていく」の取材撮影で能登半島にある石川県珠洲市を訪れたのは、昨年の11月半ば、紅葉真っ盛りの時季でした。いまはすっかり雪景色だと聞きます。
「湯宿さか本」がどんな宿か、もしかしたらご存じの方もいらっしゃるかもしれません。宿をつくった坂本新一郎さんが自ら掲げたキャッチコピーは、「いたらない、つくせない宿」。いわゆる観光地にあるわけでもなく、温泉が湧いているわけでもない。客室には、鍵もテレビもトイレもなく、客は囲炉裏のある広間にいちどきに集まって、夕食・朝食をとります。
客の都合に合わせてくれるホテルなどに慣れていると、ちょっと面食らうかもしれませんが、これがとても心地よく、「叶うならば、あと一日いたいなあ」と思うのです。なぜでしょう?
一つは、坂本さん家族が手分けしてつくる、心尽くしのお料理。そばがき、鰤大根、焼きおにぎりなど、素朴に見える料理が、なんて洗練されていておいしいことか。もう一つは、一家の人柄と暮らしぶりでしょうか。新一郎さん、妻の美穂子さん、娘の菜の花さん。早朝から、炭に火をおこしたり薪をくべたりと、とにかく一日中、ほとんど休む間もなく働いているご家族ですが、自分たちの「まかない」はつどつどきちんとつくり、楽しみを忘れず、暮らしをおざなりにしていません。言葉を交わすと、ユーモアに満ちていてあったかく、人との会話ってこうありたいなあと思うのです。
説明が長くなりましたが、今回の記事の主役は、新一郎さんから宿の経営を引き継いだ菜の花さん、23歳。私が菜の花さんを知ったはじまりは、編集部の人に誘われて観たドキュメンタリー映画『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』でした。
映画は、沖縄のフリースクール「珊瑚舎スコーレ」に通う菜の花さんが、この学校の夜間部に通う地元のおじい・おばあ(戦争中に学べなかった方たちです)と触れ合い、やがて沖縄に横たわる基地問題に目を向けて学校の仲間たちと取材をしたり、新聞にコラムを書いたりする姿が描かれます。外からやってきた十代の菜の花さんだからこそ見えるもの。他者を思いやりながらも、恐れずに、素直に語られる言葉。「この人にお会いしてみたいなあ」と思い、はじめて「さか本」を訪ねたのは2020年の11月でした。
その頃の菜の花さんは、実家に戻り、宿の仕事を始めて2年ばかり。毎日の仕事と暮らしを自分の手で回していく大変さに向き合い、そんな中で、社会とどうかかわっていけばいいのか、悩み、もがいている……ように見えました。そう、私たちには一人ひとりに「守るべき暮らし」があるがゆえに、日々は本当に忙しく、よくないとわかっていても、社会の問題をスルーしてしまうことがあるんじゃないでしょうか。
それから2年、久しぶりにお会いした菜の花さんは、なんだか顔つきがすっかり「大人」になっていました。所作はいっそうきびきびとして無駄がなく、「覚悟を持って働いていると、人はこういうふうに変わっていくのだなあ」と思ったものです。
普通をしっかりやっていく。
この記事のタイトルとしたのは、菜の花さんがふと漏らした言葉です。「普通」を「日常」と置き換えるなら、いま、「普通」を大切にすることはむずかしくなっている、そう思うのは私だけでしょうか。どんな人も、自分の生き方を否定されずに、のびやかに生きていくこと。どんな子どもも充分に食事をとれて、学びたい道があれば、不自由なく進める。そうしたことが、本当に「普通」になることを望みます。
そのためにはどうしたらいいのか、未来のために何を選んでいけばいいのか、自分の暮らし、すなわち足元から考えていきたい。そう願って、この記事を編みました。お読みいただき、ご自身の暮らしに重ね合わせながら考えていただけたらうれしいです。

そのほかにも、沖縄の離島を舞台にした「伊平屋島に生きる理由 是枝麻紗美さんとクバの葉の民具」、「アフガニスタンから来たバブリさん」、「憲法を語ろう」などの読み物、旬の魚介やレモンを楽しむ料理記事、韓国の手仕事「ポジャギ」の記事などを揃えました。あすから、担当者が一つずつご紹介します。
年が明けてはや1カ月が経とうとしていますが、今年も私たちがこの手を動かして、精いっぱい暮らしを楽しんでいけますように。寒さ厳しい日々が続きます、どうぞご自愛ください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

思い通りにいかなくたって

2022年11月25日

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思い通りにいかなくたって
――編集長より、最新号発売のご挨拶

このところ、ベッドに入って眠ろうとすると、飼い猫が懐のあたりにするっともぐり込んできます。ぬくぬくと温かくて、ああ、幸せ。私はこれを「懐猫の季節」と呼んでいるのですが、つまりそれだけ寒くなってきたということですね。お元気でお過ごしでしょうか?
考えてみると、この猫(名前はア太郎と言います)がわが家にやってきたのは2年近く前で、9号の記事「看取りのために、飼い主ができること」がきっかけでした。監修してくださった獣医師の髙橋聡美先生の動物病院がわが家からほど近く、「近所で保護された子猫がいる」とご紹介いただいたのでした。「かわいそうな猫がいるならば、引き取ろうか」という、なんというか、いま思えば上から目線な気持ちで譲り受けたのですが、いざ一緒に暮らしてみると、愉快だったりハラハラさせられたりで、仕事に追われる一人の暮らしにおおいに起伏が生まれました。
こちらが世話をしているようでいて、じつは、いろんなものを受け取っている。そういうことは、人と動物の関係性にかかわらず、この世界にいろいろあるのだろうなあ……そんなことを考えます。
前置きが長くなりました、ごめんなさい。
今号の表紙は、香川在住の画家・山口一郎さんによる「Hello,Goodbye」。この絵が編集部に届いて開封したとき、まわりにいた人たちから歓声が上がりました。
「かわいい!」「スカーフにしたい!」
雪の降る夜、さまざまな人や動物、雪男のような親子たちなどが行き交っています。雪だるまが先導する4人組は、『アビイ・ロード』のビートルズでは?(「裸足のポールがいるから、間違いない」とコメントする人あり) ひと仕事終えたサンタがトナカイと連れ立って歩き、ツリーや門松が運ばれて、杖をついたおしゃれなカップルは手をつないで歩いている。
じっと見ると、いろんな発見があって、心がぽかぽか温もってくるよう。私はこの表紙の校正紙を、自宅の壁に飾っています。「どうか、よい年末年始を過ごせますように」。今号には、そんな思いを込めた記事を揃えました。

「年末年始、わが家の逸品」は、「この季節になると決まって食卓にのぼり、そして家族がよろこぶ料理があったものだなあ」と思い出して企画しました(ちなみに、水戸にあるわが実家のそれは「あんこう鍋」でした)。料理家の方が腕を振るう「逸品」のほか、スタイリストの高橋みどりさん、作家の小川糸さんがエッセイとレシピをお寄せくださいました。どれも意外なほどやさしく作れますので、ふだんの食卓にもぜひどうぞ。
「おじいちゃんのお菓子と型」は、明治生まれのある男性が愛用した、お菓子の型から始まる物語。お孫さんから「おじいちゃんのお菓子」の記憶を取材し、残された型からお菓子を再現した、たいへんな労作です。こちらのレシピはクリスマスにおすすめです。

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「わたしの手帖」にこのたびご登場くださったのは、画家のささめやゆきさん。絵本や本の挿画で目にするささめやさんの絵は、なんとも言えない郷愁と感傷を誘われ、ほんの少し官能的でもあって、いったいどんな方なのだろう? と想像をめぐらせていました。一緒に本づくりをされたことのある翻訳家の伏見操さんにご紹介いただき、いざ、鎌倉の丘の上に建つご自宅へ。ささめやさんはウッドデッキに腰を下ろして、チャリティー企画に出すという「招き猫」に絵を描いておられました。
大学を卒業後、大手出版社で臨時社員をしていたという、ささめやさん。「臨時」と言っても文学全集を編み、たっぷり残業もして、正社員となんら変わらない仕事をしているのに、待遇はまったく違う。それに異議を唱える労働争議にかかわると、会社から肩たたきにあい、辞めることになります。わずかな退職金を手に、パリへ、ニューヨークへ。放浪暮らしのなか、まったくの独学で絵を描き、画家として歩み始めたのでした。
「できないってことは、べつにマイナスじゃない」とささめやさんはおっしゃいます。描きたいもの、描くべきものが見えているわけではなく、描いては考え、間違えたら、そこからまた考えて描いて……としているうちに、思いもよらない面白い絵ができている。間違いは、神様からの贈りものなんだ。
お話を聞くうちに、それは絵だけのことではなく、ささめやさんの人生全般に通じる話なのだと思えてきました。できなくてもいい、間違えてもいい。思い通りにいかなくたって、それはそれでいい。
アトリエでの取材中、妻のあやさんが大きなお盆を持って現れ、ハーブティーとパンを出してくださいました。このパンが、いい香りで、もちっとした食感で、とてもおいしい。聞けば、あるお寺の和尚さんから譲り受けた天然酵母を使って、ささめやさんが焼き続けているとのこと。ハーブティーは庭のハーブをブレンドしたもの、服や帽子はあやさんのお手製、家の土壁や窓ガラスもDIYで。そんな調子で、手を動かす暮らしがしっくりと身についているお二人なのでした。
ほんとうの豊かさとは、満足して生きるとは、どういうことなのだろう。ささめやさんにお会いしてから、そんなことを時折考えます。年末が近くなると、この一年の出来事をおのずと振り返りますし、同時に、これから先のことにも自然に思いが向いていくものですね。
「わたしの手帖」のほかにも、今号は心を動かされる読み物が充実しています。料理を作ったり、編み物をしたりするあいまに、どうぞゆっくりとお楽しみください。あすから、記事を担当した編集部員が一つずつ内容をご紹介します。

最後に。ちょっと早いのですが、今年も『暮しの手帖』をお読みくださり、ほんとうにありがとうございます。広告のない『暮しの手帖』は、購読料のみで支えられていますが、来秋には創刊75周年を迎えます。そのことに社員一同が驚き、奇跡のようだと感じ、そして深い感謝の気持ちをおぼえています。来年も、こころざしを持ち、精いっぱいに、暮らしに寄り添う誌面づくりを続けていきたいと考えています。
どうかみなさま、心身を休めながら、よい年末年始をお過ごしくださいませ。

◎昨年の冬号でご好評いただいた付録カレンダー、今年も同じサイズで制作しました。題して、「ちいさな物語カレンダー」。
画家の植田真さんの描き下ろしの絵が12カ月分、少年とキツネが登場し、めくるたびに物語が浮かびます。最後のページには、物語を締めくくるような美しい絵がいっぱいに。どうぞお楽しみください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織

誰かの言葉が力になる

2022年09月24日

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誰かの言葉が力になる
――編集長より、最新号発売のご挨拶

「列島を台風が駆け抜けると、トランプを裏返すように秋になりましたね」
つい先日、そんなふうに始まるメールをいただき、ひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込みました。お元気でお過ごしでしょうか。台風による被害に遭われた方にお見舞いを申し上げます。もとの暮らしが早く取り戻されますように。
夏の思い出といえば、7月末に香川県の善通寺図書館にお招きいただき、「暮しの手帖のつくりかた」と題した講演を行いました。およそ100名の方たちを前に、『暮しの手帖』の創刊の理念から現在の制作の様子まで話をさせていただいたのですが、こんなとき、「もっと話がうまかったらなあ」としみじみ思います。いや、ただ「うまい」というより、声に自分の感情がにじみ出て、相手の胸に流れ込むように話せたらいいのに、と。思い出したのは、今号の不定期連載「わたしの手帖」で取材にお伺いした、アナウンサーの山根基世さんの言葉です。
〈声には必ず、心がくっついています。
いつどんな瞬間に言葉を発しても、
人を傷つけない、下品にならない自分をつくることが、
アナウンサーの最終目標なのね〉
私たちの声は内面を映し出すものであり、「話す」とは人格をさらすことだと山根さんはおっしゃいます。「ついうっかり」発した言葉は、じつは心の奥底で考えていたことなのかもしれない。
そうした視点で、ふだんの会議や打ち合わせ、はたまた国会中継まで、「声」にじっと耳を傾けてみると、けっこういろんなことがわかるような気がしました。声に、言葉に、力がほしい。その場をごまかすとか、誰かを論破して打ち負かすとか、そうした力ではなくて、うわべではない「心」が伝わるような話し方がもっとできたなら、この世界は少しずつでも変わっていくのかもしれないな。そう感じています。

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さて、この「わたしの手帖」は、私が編集長を引き継いだ4号から始めた不定期連載ですが、裏テーマ(?)の一つは「人生の先輩の話を聞きに行く」です。自分たちよりやや年下の方のもとへ伺うこともありますが、人生の迷いや挫折、日々のちょっとした、でも確かな喜びや幸せなどを、格好つけずに話してくださる方たちに取材を受けていただいてきました。
山根さんには、放送人としてのこころざしが磨かれたいくつかの転機をお聞かせいただき、なかでも印象深かったのは、25年ほど前にNHKのドキュメンタリー番組『映像の世紀』のナレーションをされたときのお話です。当時、40代半ばを過ぎていた山根さんは、女性特有の体調不良もあり、十分な声が出ずにいましたが、「これを伝えるのが使命だ」という強い思いが「声」となったといいます。
考えてみれば、私は当時の山根さんとほぼ同年齢で、この一年ばかりは、これまでにない不調に悩まされてきました。若いときよりは少しばかり仕事の経験値が上がっているので、なんとかしのいでいますが、「いったいいつまで続けられるかなあ」などと弱気になることもあります。女性のなかには、頷いてくださる方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかしながら、山根さんのお話、「仕事は自分のためではなく、ある〈こころざし〉のために」を聞いたとき、胸にさっと光が差し込むような気がしました。「自分のために」だけでは力が出なくても、私も出版人の一人として、まだできること、やるべきことがあるんじゃないかな……と思えたのです。
ある人が思いを込めて話してくださった言葉は、きっと誰かの力になる。そう信じて、毎号、一つひとつの記事を編んでいます。今号のそのほかの読み物の特集は、お菓子のパッケージなどでおなじみの画家の生きざまを紹介する「鈴木信太郎とその仕事」、9名の方たちがとっておきについて綴る「日記本のすすめ」、画家の牧野伊三夫さんの「銭湯、酒場、ときどきカレー 描きたくなる旅 富山編」と、どれも読みごたえたっぷりです。秋ならではの滋味深いおいしさの料理もご紹介しておりますので、どうぞお試しください。心をうるおし、身体をほっと休めながら、よき日々を過ごせますように。

『暮しの手帖』編集長 北川史織


暮しの手帖社 今日の編集部