恋しいキッチン

カヒミ カリィ

第20回 お菓子を作る甘い口実

2026年11月04日

「わぁ、おいしそう! あなたよくスイーツ作るねぇ」

先日、わが家に遊びに来てくれた友人に手作りのデザートを出したら、そう言ってくれました。普段の料理にはあまり砂糖を使わず、甘いものも頻繁には食べないようにしているので、「そうでもないのよ〜」と反射的に答えたのですが、あとから指折り数えてみたら、確かに甘いお菓子をけっこう作っていることに気付きました。

誕生日やクリスマス、家族や友人が集まるとき。特に誰かからリクエストをもらえるとうれしくなって、どんなものを作ろうかと真剣に考え始めます。はて……そういえば、そもそも私はいつからお菓子を作るようになったのでしょう。

思い出したのは、6歳くらいのある日曜日の朝のこと。当時、本やテレビに出てくるお菓子作りに憧れていて、自分でも何か作ってみたくて仕方がありませんでした。その朝、家族がまだ寝ているうちに目が覚めた私は、ふとひらめいて、まだ薄暗い台所でこっそりお菓子作りを始めたのです。

とはいえ、6歳の子どもにできることなど限られています。そこで思いついたのが、家にあったリッツのクラッカーに、マヨネーズを生クリームのようにしぼり、その上に金平糖をパラパラと飾りつけるという、なんとも奇妙なお菓子でした。なぜマヨネーズと金平糖だったのか……今となっては謎です。おそらく味よりも、かわいらしいお菓子を自分の手で作ることが大切だったのでしょう。

ところが、起きてきた親に見つかり、朝っぱらから大目玉を食らってしまいました。せっかく夢中になって作っていたのにと、とても悲しかったことを覚えています。

10歳の頃、友達に誘われて、クリスマスケーキのデコレーションを体験できるクッキングイベントに参加しました。用意された黄金色の丸いスポンジに、泡立てたばかりの冷たい生クリームを塗り、ドキドキしながらクリームをしぼって飾りつけをするだけでしたが、それが私にとって初めての本格的なケーキ作りでした。しかも大好きなショートケーキ! 自分で作ったとは思えないようなきれいな仕上がり、そしてあのときのうれしさは、今でも忘れられません。

そのあと、雑誌や新聞で気になるレシピを見つけると切り抜いて、少しずつ一人でお菓子を作るようになり、中学生の頃には、NHKの料理本『きょうの料理』を見ながら、レモンシフォンパイを作りました。昨年、妹がそのパイの話をしてくれて、久しぶりに思い出しました。作った本人はすっかり忘れかけていたのに、食べた妹が覚えていてくれたことが、なんだかすごくうれしくて、「作ってみるね!」と即答したのですが、当時のレシピを探しても見つかりません。いろいろと調べて、記憶を頼りに再現してみることにしました。

そしてさっそく、妹たちと集まるときに手土産として持っていきました。「そうそう! このレモンの鮮やかな黄色に甘酸っぱい香り、懐かしい!」。ちょっと生地がかたかったかな? と反省点もありましたが、何十年も前に作っていたお菓子を、また家族でワイワイと食べられるなんて。お菓子には、こんなふうに昔の時間を連れてきてくれる楽しさもあるのだと、なんとも幸せな一日になりました。

娘のニキが生まれてからは、お菓子作りの楽しみがさらに増えました。特に好きだったのが、絵本などに出てくるパンやお菓子を一緒に作ることです。

例えば、絵本『おひさまパン』を読んだあとには、太陽の形をしたパンを焼いてみました。丸い顔の周りに小さくちぎった生地を並べて光を表現し、二人でオーブンを何度ものぞき込んで、やっと焼き上がると、焼きたての甘い香りが部屋中に漂い、まるで絵本の中から太陽が飛び出してきたようでした。

クマの形をしたパンはわが家の定番レシピです。このミルクたっぷりのパンは、焼き上がったら、首にかわいいリボンをつけます。ニキがお友達の家にお泊まりに行くときなどに、翌朝みんなで食べてもらえるように持たせることもあります。

そういえば、ニキの3歳の誕生日には、本人のリクエストで、お人形のドレスを模したケーキを作ったこともありました。アメリカで売られている子ども向けのバースデーケーキは、とてもかわいらしくて人気があるのですが、色鮮やかなバタークリームで飾られたものが多く、私たちには少々甘すぎます。そこで、頑張って自分で作ってみようと思ったのです。とはいえ、ドレスのケーキ型など持っていないので、ステンレスのボールを型代わりにして生地を焼き、真ん中にお人形を差し込んで、生クリームでドレスのように飾りつけることにしました。食用着色料を使わず、ラズベリーとブルーベリーをつぶした果汁を使ってみることに。出来上がったケーキは、ふんわりとしたピンク色のドレスを着たお姫様になり大成功! 普段はなかなか作らない大がかりなケーキでしたが、娘はもちろん子どもたちも大喜びしてくれて、今でも作って良かったなと思います。

もちろん、いつもうまくいくわけではありません。ある年、クリスマスの時季にニキがスーパーでジンジャーブレッドハウスのキットを見つけたので、二人で作ってみることにしました。アメリカでは冬になるとクッキーで作るお菓子の家がよく売られています。私たちは喜々として説明書どおりに生地を焼き、組み立ててみたのですが、接着剤代わりのアイシングが、なぜかなかなか固まりません。二人で、手で押さえたりして苦労して壁と屋根を組み立てたものの、最後には見事に崩壊! しかも、クッキーは驚くほど甘く、あまりおいしくありませんでした。普段、お菓子作りでそこまで失敗することがない私は、すっかりがっかりして、もう二度と作るものかと思ったほどです。

ところが一年もたつと悔しさも風化するものです。私たちは懲りずに再挑戦することにしました。でも今度は崩れてほしくなかったので、市販のキットに頼らず、いろいろなレシピを調べ、ブルックリンの街並みのように小さなジンジャーブレッドハウスをたくさん作って、クリスマスケーキの上に飾ることにしたのでした。そしてこれが無事に大成功! それ以来、クリスマスの時季のわが家の定番になりました。ついでにクリスマスツリーに飾るクッキーも作ります。靴下や家の形をしたクッキーの一部をくり抜き、砕いたキャンディーを入れて焼くと、溶けたキャンディーが冷えて固まり、ステンドグラスのような小窓になるのです。ツリーの灯りが透けると、とてもきれいで、食べるのがもったいなくなります。

こうして振り返ってみると、私はずいぶん長い間、お菓子を作り続けてきたようです。子どもの頃は、ただ自分で作ってみたくて仕方がなかったお菓子。失敗もたくさん繰り返したけれど、いつの間にか、家族や友人と過ごす時間を楽しむ時間そのものになり、大切な思い出も増えていきました。作る前にレシピを探したり、材料をそろえたり、オーブンから漂う甘い香りを楽しんだり。そうした時間そのものが大好きで、そして、作ったお菓子を誰かと囲む時間も、また格別だなぁ、と気付きました。

友人に言われるまで、自分がそんなに頻繁にケーキを作っているとは思っていませんでしたが、どうやら私は、お菓子を作る口実があるとうれしくなる性分のようです。普段は甘いものを控えているなどと言いながら、実はかなりの甘党なのだと今さら自覚したこの頃です。

6歳の頃、リッツにマヨネーズと金平糖を飾っていた私が、今の自分を見たら、きっとジャンプして喜ぶことでしょう。どうやらあの頃から、何かを作ってみたいという気持ちは、少しも変わっていないようです。

文・写真 カヒミ カリィ



カヒミ カリィ
ミュージシャン、文筆家、フォトグラファー。1968年生まれ。
フランスで約8年、アメリカで約13年暮らし、2025年春に日本へ帰国。
『暮しの手帖』の連載「すてきなあなたに」にも寄稿。
Instagram:https://www.instagram.com/kahimikarie_official/