恋しいキッチン

カヒミ カリィ

第5回 パリの夏を思い出す、ひよこ豆コロッケと、爽やかクスクスサラダ

2025年08月06日

1990年代、20代後半から8年ほど、フランスのパリに住んでいたことがあります。当時は日本食材店が少なかったので、おいしい和食を作るのが少し難しかったのですが、フランス料理はもちろん、ベトナムやスペインなどさまざまな国のおいしいレストランが豊富で、八百屋や魚屋、チーズ屋など、グルメな食材店もより取り見取りです。和食が恋しくなることも時々ありましたが、それよりも新しい味を探索したり、レシピに挑戦したりして、ワクワク充実した食生活を送っていました。

早起きしてバスティーユやラスパイユなどの朝市に行くと、色とりどりの採れたて野菜や、見たことがないピカピカの魚やエビ、いろんな形のチーズやハムなどがズラリと並んでいて、さっきまで眠かったのに急におなかが鳴り出します。当時はインターネットがそれほど普及していなかったので、日本語のフランス料理本は貴重でしたし、見知らぬ食材やおいしそうなレシピを見つけた時は、辞書を片手にノートにメモしていました。

引っ越しが多い私のキッチン歴のなかでも、特に思い出に残っているのが、パリで初めて借りた家具付きアパルトマンのコンロです。1DKの小さな部屋でしたが、大家さんがアールデコのコレクターで、室内はまるで古いお城の一室のような雰囲気でした。訪れた人たちはみな、映画のセットのようなわが家に驚いていました。小さなキッチンにあるコンロ台の下に薪を入れるドアが付いているほど古めかしいものでしたが、取っ手に陶器が付いていたりと、装飾が美しいヴィンテージのもので、まるで立派なおままごとのような雰囲気。さらに驚いたことに大家さんのアイデアで、トップは薪でもガスでもなく、なんと現代的なIHにリメイクされていたのでした。シンクの上の窓からは、雰囲気のあるパリらしい屋根が並ぶ景色が広がっています。スコールのような雨が降る夏の午後に、ラタトゥイユなどを煮込みながら冷たいレモンジュースを飲み、ピカッゴロゴロと光る雷を見たりするのが好きだったなぁと懐かしく思います。

フランスと日本は異なる食文化ですが、共通点もたくさんあるように感じます。例えば、食材本来のおいしさが引き立つようシンプルで丁寧な調理法や、季節感を大切にする姿勢などです。どちらも旬の野菜や魚介、果物などを豊富に使用して、その食材の持つ風味を生かし、美しい盛りつけが特徴的です。パリにいた時に和食がそれほど恋しくならなかったのは、実は無意識にフランス人が作る料理の中に、そんな共通点を感じていたのかもしれないなと、その後アメリカに住んで思いました。

さて、今回ご紹介するのはそんなパリ時代に好物になり、私の定番料理になったタブレとファラフェルです。どちらも中東料理なのですが、特にタブレはもはやフランス料理と言ってもいいのでは? と思うくらいポピュラーな料理で、総菜屋などでもたくさんの種類を見かけます。「クスクス」という粒状のパスタと、みじん切りにした野菜を和えたサラダで、その爽やかさから特に夏に人気。バゲットとチーズ、白ワインと共にピクニックに持参したりもします。今回は基本的なレシピですが、エビやタコなどのたんぱく質を追加してちょっと豪華に仕上げるのも最高です。

ファラフェルは、パリのマレ地区にあるユダヤ人街で初めて食べてから虜になりました。ひよこ豆? と思う方もいるかもしれませんが、肉派の友人もこれがビーガン対応だなんて忘れるくらいすごくおいしい! と絶賛していました。焼きたてのピタパンに、ファラフェルとみじん切りにしたレタスを挟んで、ヨーグルトやごまのソースをトロリとかけて、ガブリと頂くのもたまりません。今回は相性の良いタブレとの組み合わせでご紹介しますね。

両方作る場合は、ファラフェルのタネとタブレを先に作って冷蔵庫で冷やしておき、食べる直前に揚げるのがおすすめ。揚げたての熱々カリッとしたファラフェルと、レモンとハーブが爽やかな冷たいタブレを一緒に味わってください。ちなみに今回のレシピはどちらも材料の量はめやすで、お好みでハーブの種類や量を増やすなど、おおらかに作ってみてください。その代わり、味つけはちょっと慎重に丁寧に! 今回のレシピに限りませんが、調味料は一気に入れず、少しずつ味見をしながら好みの味に仕上げていくのがコツ。シンプルな料理ほどちょっとした塩加減で味が変わってしまうからです。塩・コショー、レモンも種類はさまざま、体調や季節によっても味の感じ方が変わります。好みの味にととのえて、ぜひとも自分だけのレシピを作り上げてくださいね。

まだまだ猛暑が続きますが、どうぞすてきな夏をお過ごしください!

文・写真 カヒミ カリィ



ファラフェル(中東風ひよこ豆コロッケ)

材料(作りやすい分量/約20コ分)
・ひよこ豆(乾燥)…125g
※水煮だと揚げる時に形がくずれるので、乾燥のものを使うこと。
・薄力粉、揚げ油…各適量
A
・玉ねぎ(ざく切り)…小1/4コ分
・パクチー、またはパセリ(両方で/ざく切り) …1束分
・にんにく(すりおろす)…1片分
・クミンパウダー…小サジ2/3杯
・塩…小サジ1/4杯
・コショー…少々

タヒニソース
・白練りごま…大サジ2杯
・レモン汁…大サジ1杯
・にんにく(すりおろす)…少々
・ハチミツ…小サジ1杯
・塩…適量
・水…大サジ2杯ほど

ヨーグルトソース
・プレーンヨーグルト…大サジ4杯
・レモン汁…小サジ1杯ほど
・ハチミツ…小サジ1/2杯
・にんにく(すりおろす) …好みで少々
・クミンパウダー…少々
・塩、コショー、オリーブ油…各適量

作り方
1 ひよこ豆はたっぷりの水に一晩(12時間以上。夏場は冷蔵庫で)浸してもどし、ザルに上げて水気をきります。
2 タヒニソースを作ります。ボールに材料を入れて混ぜます。水はサラッとするくらい加えます。塩は少しずつ加えて味をととのえます。
3 ヨーグルトソースを作ります。ボールに材料を入れて混ぜます。塩・コショーは少しずつ加えて味をととのえます。レモン汁は好みで増やしても結構です。仕上げにオリーブ油をまわしかけます。
4 フードプロセッサーに1とAを入れ、ひよこ豆の粒感が少し残るまで撹拌します。◎ペースト状にしすぎない方が形成しやすくなります。
5 4を冷蔵庫に約1時間おいてから、直径3cmほどに丸めます。空気を抜くようにギュッと握り、形がくずれないようにします。この時、器に水を入れて近くに置き、時々手に水をつけると、手にペーストがつきにくくなります。
6 5に薄力粉をうすくまぶします。揚げ油を170℃に熱し、うすく色づくまで揚げ、一度取り出します。◎形がくずれやすいので、油に入れてすぐは箸で触らないようにしましょう。しばらくして浮き上がってきたら、触っても大丈夫です。
7 油を180℃ほどにし、6を再び油に入れ、こんがりするまで揚げます。
8 器に盛り、好みでハーブ適量を盛りつけます。タヒニソースやヨーグルトソースをつけていただきます。



タブレ(フランス風クスクスのサラダ)

材料(作りやすい分量)
・クスクス…120g
・紫玉ねぎ(みじん切り/水にさらす)…1/2コ分
・きゅうり(みじん切り)…1本分
・トマト(みじん切り)…1コ分
・イタリアンパセリ、ミント、バジルなど(みじん切り) …カップ1/2~1杯分
・オリーブ油…大サジ2杯
・レモン汁…大サジ2杯
・ハチミツ…大サジ1杯
・塩、コショー…各適量

作り方
1 大きめのボールにクスクスを入れ、オリーブ油、塩1つまみを加えて混ぜます。
2 1に沸騰した湯120mlを加え、素早くよく混ぜます。ラップをして10分ほどおきます。
3 みじん切りにした野菜とハーブを加え、よく混ぜます。レモン汁とハチミツを加え、塩・コショーを少しずつ加え、味をととのえます。
4 冷蔵庫で冷やし、しっとりとして味がなじんだら出来上がり!



カヒミ カリィ
ミュージシャン、文筆家、フォトグラファー。1968年生まれ。
フランスで約8年、アメリカで約13年暮らし、2025年春に日本へ帰国。
『暮しの手帖』の連載「すてきなあなたに」にも寄稿。
Instagram:https://www.instagram.com/kahimikarie_official/