今日の編集部
イベントレポート[前編]稲田俊輔 × 長谷川あかり「“献立の悩み”について語ろう」
2026年06月04日

4月上旬に暮しの手帖社より刊行した、『稲田俊輔のおそうざい十二カ月 旬を味わう一汁三菜』。刊行を記念して、4月28日に、ジュンク堂書店池袋本店にて著者トークイベントを開催しました。ゲストは、今回が初共演となる料理家・管理栄養士の長谷川あかりさん。著書やSNSなどで注目を浴びるお二人が、令和の献立についてさまざまに語り合いました。トーク内容を一部抜粋・再編集して、前後編でお届けします。
【第1章】初対面のお二人が考える共通点
編集部:ご著書やSNSの投稿などから、お二人には通じる部分があると思い、今回の対談をお願いしました。お互いはどう思われているのでしょうか?
稲田さん(以下敬称略):長谷川さんとお会いするのは今日が初めてなのですが、長谷川さんのレシピを拝見すると、どうも自分と重なる部分があるな、と思うことが多いんです。レシピの裏側にあるロジックとか、その、そのロジックが生まれた思想みたいな部分が、実はすごく近いのではないかなと思っていまして。
例えば、鶏肉をしょう油だけで味つけするとか、あるいは、魚を焼いたり煮たりせずにゆでちゃうとか。長谷川さんの有名なレシピで「酒蒸しハンバーグ」というものがありますよね。実は、僕のレシピでも「肉汁封鎖ハンバーグ」というものがありまして、仕上がりのビジュアルは全然違うんですが、ロジックは共通していて。今この時代に多くの人が求めている「簡単さ」とか「手軽さ」を考えると、自然と一致する方向に向かうのかなという、同時代性を、長谷川さんのレシピに感じることが多いんです。
ただ、困ったことに、自分が考えたものと似たレシピを見てしまうと、それをやりづらくなっちゃう(笑)。だから、同じロジック、同じ思想、同じ哲学から、同じ時代に似たものが導き出されるのは当然である、とはわかってはいても、「あ、これちょっとやめとこうかな」と思ってしまうんですね。僕はこの現象を勝手に「長谷川かぶり」と呼んでいます(笑)。
そんな長谷川さんが、『稲田俊輔のそうざい十二カ月』をどのように見られたのかを聞いてみたくて、今日を楽しみにしておりました。
長谷川さん(以下敬称略):ありがとうございます。本当に、恐縮すぎるお話を……。私の師匠の、スープ作家・有賀薫先生と稲田さんの交流を拝見していると、有賀先生と稲田さんも思想というか、ソウル(魂)が、かなり近いところからレシピが生まれていると感じます。
だから、私も稲田さんのレシピ見ると、どうしても引っ張られるので、同じようにならないように気をつけようと思ったりもしていたので、本当に今、冷や汗が止まらないです(笑)。
稲田:やはりそうですか。僕は今、家庭料理の本をたくさん作っていますが、実はこれまで、ほとんど読んだことがなかったんですよ。プロ向けの料理専門書しか読んでこなかったから、料理家の世界をほとんど知らないまま、この世界に来てしまったんです。
だから有賀さんのレシピを拝見した時に、「あ、自分と同じこと考えている方がこの世界にいらっしゃるんだ!」と思って。同じく、今井真実さんや長谷川さんにも、そういうシンパシーを感じていまして。僕は、このお三方と、「チーム有賀」というグループを自分の中で勝手に結成しております(笑)。
SNSでも、「長谷川あかりさんと稲田さんのレシピにお世話になっています」などの投稿を見ると、僕は勝手に、「うん、これからもチームの結束を高めていかねばならぬ」みたいな、誰にも頼まれていない使命感に駆られて、仲間意識を持たせていただいております。
長谷川:そんなふうに思ってくださっていたとは! 嬉しいです。

【第2章】長谷川あかりさんが語る、『稲田俊輔のおそうざい十二カ月』の魅力
編集部:長谷川さんに、『稲田俊輔のおそうざい十二カ月』についてどう思われたか、お聞きしたいです。
長谷川:コントユニット・ダウ90000の蓮見翔さんのポッドキャストに出演した際に、自分の中で初めて言語化できて、しっくりできた言葉があって。蓮見さんは最近、「M-1グランプリは流行っているけど、お笑いは流行ってない」というキラーワードで注目を浴びていて、私もそれに引っ掛けて、「レシピは流行っているけど、料理は流行ってない」と言ったんです。
日々、SNSでは、派手で、おいしそうで、作りやすそうで、タイパ(タイムパフォーマンス)やコスパ(コストパフォーマンス)が良さそうなレシピがたくさん流れてきます。でも、楽しく料理できている人ってどのくらいいるんだろうと思うと、あまりいないんじゃないかなと思うんです。
こうした現状の中で、読ませていただいた『稲田俊輔のおそうざい十二カ月』は、流行っているレシピではない気がするんですよね。コスパやタイパがよくて、すごく簡単、を売りにしているわけではなく。でも、読み解いていくとすごく洗練されていて、奥行きはあるのに、全然日常にフィットするぞ、今一番必要とされていて、抜け落ちている提案が詰まっているな、と。なので、私は、レシピ本なのですが、読み物としても楽しませていただいています。
稲田:僕も最終目標としては、料理は楽しいものである、ということに気づいてもらうためには、どういうレシピであるべきか、と常に考えているような気がします。
今回の本で、「省く手間、省かない手間」というテーマでエッセイを書きました。いたずらにタイパ、コスパが良いものを目指すのではなく、それはあくまで結果論であり、省いたらパフォーマンスが落ちてしまうような手間を省かないために、省けるところを省こう、と言っているんです。僕は基本的に、せっかちで、ものぐさなんですよ。長谷川さんも、噂では「かなりのせっかち」だとちらっとお聞きしたんですけど。
長谷川:私、「日本せっかち選手権」を開催したら、かなり上位に行けると思います(笑)。
稲田:やっぱりそうですか(笑)。だから、最初に言った、ロジックの裏にある思想が共通しているのは、何のことはない、「せっかち」という言葉で説明がつく。せっかちだからこそ、無駄は無くしたい。でも、必要なことは絶対手放せない、その切り分けは、徹底していると思いますし、やはり長谷川さんのレシピに同じことを感じますね。
【第3章】“地味なおかず”の良さを広めたい
編集部:『稲田俊輔のおそうざい十二カ月』は、弊社から1969年に発刊した『おそうざい十二カ月』のオマージュという形でスタートしました。
稲田:料理には流行があって、自分もそれを知った上で、昭和の『おそうざい十二カ月』を見た時に、普遍的で、ミニマルさを感じました。足し算しすぎないっていうのかな。しょう油だけで煮るとか、塩だけで味つけするとか。そういうのが、すごくかっこよく見えて。言うなれば、昭和の人たちって家で毎日懐石料理食べていたようなもんじゃないかと。見方次第なんですよ。シンプルすぎて「貧しい料理」と見ることもできますが、「これぞまさに懐石料理」っていうふうに解釈することもできる。
今、流行っているレシピとは違うかもしれないけれど、違うからこそ、これをもう一回現代に呼び戻したら、これとんでもなくこう楽しいことになるぞ、と思いました。
編集部:そんな地味なおかずを、単品で紹介するより、「一汁三菜」の形で、見せることによって、その良さが伝わるのではないか、と稲田さんが提案してくださったんです。
稲田:今だから言いますけども、「一汁三菜」の体裁をとったら、どれだけシンプルな料理でも載せられるっていう思惑がありました。「これ、さすがにシンプルすぎて、レシピって言っちゃダメでしょ」「これでお金をいただいたらまずいんじゃないか」と思うような料理でも、堂々と載せられる、っていうね。
本で紹介したものだと、例えば、「焼きいもレモン」という料理。これは、スーパーで買ってきた焼きいもを切って、レモンを切って添えます。以上。
長谷川:最高!
稲田:ほかのおかずをしっかり作った時は、抜け感を出したいなと、意図的にやりました。

稲田俊輔さんお気に入りの、「焼きいもレモン」が登場する献立。
長谷川:献立のリズム感とバランス感覚が、さすがです。私が『シンプルだから悩まない! ワンパターン献立』という本を作ったのも、「切った野菜に、みそを添えてください」と書くためだったんです。なので副菜のパートで、「めかぶに紅しょうが混ぜたもの」、とか「かぶをジリジリ焼いたもの」などを載せたのですが、それが言えればよかったんです(笑)。
稲田:完全にこれ、思想がかぶってる! 「かぶをジリジリ焼いたもの」は僕のレシピにもあって、完全に「長谷川かぶり」です。
長谷川:実は本当に価値のあるものは、レシピとして認められないような部分にこそ価値があるんじゃないかな、と。これを言っていいのか、毎回悩みながら結局言っちゃうんですけど、世の中にレシピ多すぎると、実は思っています(笑)。
稲田:世の中の人は、新しいレシピを常に求めているように見えますが、実は求めているものはレシピそのものではないんじゃないかな。
献立では、その時の気分次第で、すごくマッチするものと、そうではないものがありますよね。だから、「かぶをジリジリ焼いたもの」とかを堂々と提案したいです。
編集部:この本の中で、長谷川さんが特に気になったレシピはありますか?
長谷川:私がすごく好きなのは、「塩バター肉じゃが」。もう、ときめきが止まらなくて! 味つけは塩だけですよね。
最近、揺り戻しだと思うんですが、調味料少ない方がバズるみたいな世界に移行してきていると感じます。私が料理家になる前は、卵黄がトロッとして、チーズがトローンと溶けて、ごま油、にんにく、めんつゆ、みたいな組み合わせのレシピが多かった印象です。
ところが今は、「塩だけで味つけする」みたいなものが求められている気がしています。この「塩バター肉じゃが」はもう、大バズりの予感です(笑)。一ファンとして「広めたい!」という気持ちになります。
編集部:ほかに、長谷川さんが気になったレシピはありますか?
長谷川:今の気分だったら、「カンパチのオクラしょう油」。日本酒を添えていただきたい。今日は絶対、お酒の話をするだろうなと思いました(笑)。
稲田:この本の裏テーマとして、自宅で小料理屋さんができるっていうのは意識していました。
長谷川:お酒好きな方はぜひ。特に、吉田類さんが出没しそうなタイプの酒場が好きな方は、お家でそれがやれますのでおすすめです(笑)。
写真 長谷川珠実
【関連本】
◎好評発売中
『稲田俊輔のおそうざい十二カ月 旬を味わう一汁三菜』稲田俊輔 著
◎6月11日(木)発売・ご予約受付中
別冊 暮しの手帖『日々を助ける パパッとごはん』
*長谷川あかりさんによる「洗いもの いやいやレシピ」をご紹介しています。
