恋しいキッチン
第2回 春を呼び込む、風来坊な魚介のクラムチャウダー
2025年04月30日
今回はどんなレシピをご紹介しようかな、と考えていた夕方の帰り道、魚屋さんでおいしそうなアサリを見かけました。この春、日本へ引っ越してきて、新しいわが家からすぐ近くにその魚屋さんはあります。お刺し身がおいしいと評判で、『サザエさん』に出てきそうな懐かしい雰囲気が何とも良い感じ。アメリカにも良い魚屋さんはありますが、新鮮でピカピカと輝く魚や、ゆったりと呼吸をしているのが感じられる貝類はとても美しくて、やはり日本のお店の品質は段違いだなぁと毎回感心しています。さっそくアサリを400gほどお願いすると、「アサリの旬が春と秋なのは、産卵に向けて栄養を蓄える時季だからなんですよ」と教えてくださいました。
家に帰り、アサリの砂抜きを始めます。アサリが浜辺にいる状態を想像して、海水程度の塩水にヒタヒタに浸たし、薄暗い場所で3時間ほど休ませます。この手順は子どもの頃からの楽しみで、つい食材ということを忘れて観察してしまいます。最初は用心していたアサリがだんだんとリラックスして水管を伸ばし、水をピューッと吹き出す様子を見ていると、何だか情が湧いてきて料理するのが忍びなくなってくるのですが……。近頃は砂抜き済みのものも多いけれど、時間に余裕がある時は、ぜひ砂抜きが必要な元気なものを買ってみてくださいね。
さて、新鮮な貝はさっとお酒で蒸したり、アミにのせて焼いて口をパカッと開けたところにちょっとしょう油をかけたような、シンプルな食べ方が一番好きです。アメリカに住んでいた頃は、リトルネッククラムやチェリーストーン(ホンビノス貝)と呼ばれる日本のアサリよりも少し大きめの貝を使って、ボンゴレスパゲッティやクラムチャウダーをよく作っていました。アメリカのクラム(二枚貝)は、アサリというよりちょっとハマグリに似ていて、身が大きく味がしっかりしているので、ちらし寿司を作る時などにすまし汁にしても合います。
ところで、アメリカ発祥のクラムチャウダーは2種類あることをご存じでしょうか? 一つはニューイングランド風と言われる牛乳や生クリームを加えた濃厚な味わいの白いチャウダーで、もう一つはマンハッタン風のトマトベースにタイムの風味が爽やかな赤いチャウダーです。どちらも好きで時々作るのですが、どちらかというとニューイングランド風はだんだんと寒くなってくる秋に食べたくなることが多いので、今回はこれからの季節に合うマンハッタン風をアレンジした魚介のチャウダーをご紹介しますね。
基本のクラムチャウダーは、ニューイングランド風もマンハッタン風も、炒めたべーコンを入れてコクを出すものが主流ですが、私の周りには肉類を食べない人も結構いるので、べーコンを入れないで作ることも多いです。けれどあっさりし過ぎないようにしたいなと考えていた時、パリに住んでいた頃に好物だったフランスの魚介スープ「ブイヤベース」を思い出しました。そこでコクを出すには白ワインと数種類の魚介類を入れたら良いかも? と思い、アレンジしているうちにわが家風のレシピが出来上がりました。
先日、改めてクラムチャウダーについて調べてみると、その昔、ボストン近辺に漂着したフランス人漁師の発案だという説があるようで、その名もフランスの大鍋(chaudière)が語源とされるらしく、偶然にもブイヤベースのレシピを取り入れるアイデアは遠くないのかもしれません。一か所にとどまらない、私らしい風来坊なクラムチャウダーに仕上がりました。
今回は、アサリの他にエビとカキを使いましたが、他にもイカやタラ(魚は白身がおすすめ)などもおいしいですし、もちろん基本のべーコンとアサリでも、または手軽にアサリの缶詰やシーフードミックスを使っても良いと思います。おいしく仕上げるコツは、アサリやエビがかたくならないよう火を通し過ぎないこと。けれども、くれぐれも火を通すように気を付けてくださいね。
また野菜は、玉ねぎ、にんじん、セロリ、じゃがいもが定番ですが、今回はおいしそうな春キャベツを買ったばかりだったので少し入れてみました。その他にも、しめじやマッシュルームなどのきのこをみじん切りにして加えても、コクが出ます。ハーブは、今回はタイムとローレルを入れましたが、タラゴン、ディル、パセリなど入れるレシピもよくありますのでお好みでアレンジしてください。要は西洋風魚介鍋なので、和風のお鍋のように手に入りやすい具材で、おおらかに作ってみてくださいね!
文・写真 カヒミ カリィ
『春を呼び込む、風来坊な魚介のクラムチャウダー』
材料(4人分)
・アサリ(カラつき)…400g
・エビ(カラつき) …200g
・カキ(あれば/半分に切る) …6粒分
・玉ねぎ(みじん切り) …1/2コ分
・にんじん(1cm角に切る) …1/2本分
・セロリ(みじん切り) …1/4本分
・春キャベツ(大きめのみじん切り) …1枚分
・じゃがいも(1cm角に切る) …2コ分
・にんにく(みじん切り) …2片分
・トマトの水煮(ホール/つぶす)…1缶
・白ワイン…カップ1杯
・ローリエ…1~2枚
・タイム(生またはドライ) …小サジ1杯
・オリーブ油…大サジ1杯
・塩、コショー…各適量
・サワークリーム…適量
・レモン…適宜
・好みのハーブ(みじん切り)…適宜
作り方
1 アサリは、カラを水洗いします。ボールに塩15gと水カップ2と1/2杯を入れて混ぜ、塩分3%の塩水を作ります。アサリをヒタヒタに浸し、アルミホイルをかぶせ、3時間ほどおいて砂抜きをします。
2鍋にオリーブ油を中火で熱し、玉ねぎとにんにくを入れ、しんなりとするまで炒めます。アサリを加えて強火にかけ、白ワインを加え、フタをして蒸し焼きにします。アサリの口が開いたら火を止めて、アサリを取り出します。
3 にんじん、セロリ、キャベツを加えて、中火で軽く炒めます。トマトの水煮と水カップ3杯を加えて火を強め、再び沸いたらローリエとタイムを加えてフタをして、中火で10分ほど煮込みます。
4 鍋を煮込んでいる間に、2のアサリの半分を、カラから身を取り出します。エビは背ワタを取り、半分はカラをむき、身を半分に切ります。
5 じゃがいも、アサリ、エビ、カキを加え、再び沸いたらフタをして、中火で10分ほど煮込みます。◎この時、カキに充分火が通るよう必ず10分は煮込みますが、煮込み過ぎてじゃがいもが溶けてしまったり、魚介がかたくなったりしないように注意してください。
6 魚介に火が通ったら、塩・コショーで味をととのえます。器によそい、好みでサワークリーム、ハーブをのせたり、レモンをしぼったりしても結構です。
カヒミ カリィ
ミュージシャン、文筆家、フォトグラファー。1968年生まれ。
フランスで約8年、アメリカで約13年暮らし、2025年春に日本へ帰国。
『暮しの手帖』の連載「すてきなあなたに」にも寄稿。
Instagram:https://www.instagram.com/kahimikarie_official/