恋しいキッチン

カヒミ カリィ

第3回 朝から幸せ! 甘い香りがゆったり漂うズッキーニブレッド

2025年06月04日

ある爽やかな初夏の日曜日、娘が友人宅にお泊まりした翌朝に、茶色い紙袋を大切そうに抱えて帰ってきました。

「お母さん、やばいよ。これ、すごくおいしいの!」。どれどれ……ガサゴソと袋を開けると、中には甘い香りの素朴な焼き菓子が入っていました。

ペンシルベニア州ランカスターに引っ越すまで、私たちはズッキーニブレッドの存在を知りませんでした。調べてみるとNYのカフェなどでも時々見かけるようですが、家庭菜園でも定番の野菜だからでしょうか、ランカスターのような田舎では夏になると家庭でよく作られるお菓子のようです。

娘がお土産に持ち帰ったズッキーニブレッドは、友人宅の近所にあるアーミッシュの家族が経営しているマーケットのもので、店の裏にある畑でとれた大きなズッキーニを使って作られています。娘は友人宅で朝食時に初めて、トーストしてバターをのせたものを食べて、すごくおいしくて驚いたらしく、帰り道にさっそく店に立ち寄って買ってきてくれたのでした。それ以来、わが家ではすっかり定番になったのです。

この春、日本に帰国して、娘に「アメリカにいた時の食べ物で恋しくなるものある?」と聞いてみたら、「やっぱりズッキーニブレッドかなぁ。そろそろ季節なんじゃない? お母さん、作ってくれる?」とリクエストをもらいました。そういえば、私が日本に住んでいた13年ほど前はスーパーでズッキーニをあまり見かけなかったように思うのですが、最近はいろいろなお店で見かけます。昨日も近所のスーパーで新鮮なズッキーニが1本98円で売られていました。日本語のレシピを検索してみたところ、日本ではまだあまり知られていないようだったので、これは皆さんにご紹介したい! と思ったのでした。

ズッキーニがたっぷり入ったヘルシーなパウンドケーキです。意外にも野菜っぽいクセは全くなく、ズッキーニの水分でしっとりと仕上がります。素朴な甘い香りがたまりません。

スライスしてトーストすると、表面はカリッとして中はしっとり、そこにバターをのせて溶けていく様子を見ながらかぶりつくと、何とも言えないおいしさです。

アメリカでは、パンケーキなどにもべーキングパウダーと重曹を一緒に使うレシピをよく見かけます。詳しくはまた別の機会にお話ししたいと思いますが、これが化学反応を利用したおいしくなるコツなので、ぜひダブル使いをしてみてくださいね。べーキングパウダーだけで作る場合は、量を倍(小サジ1と1/2杯)にしてください。

砂糖は、アメリカではブラウンシュガーとグラニュー糖を半々で使うレシピが多いのですが、私は今回てんさい糖を使ってみました。砂糖によって味わいは変わりますが、どれでも作れますので、いつも使っているお好きな砂糖を使ってみてくださいね。

植物油は、アメリカのレシピではキャノーラ油を使うことが多く、またヘルシー志向の方のためにオリーブ油やアボカドオイルをおすすめしているレシピもあります。私は今回、クセがなくて素材の味が引き立つ米油を使ってみました。

NYに住んでから知ったのですが、アメリカではお菓子作りのバニラの香り付けには、バニラエクストラクトというものが主流です。バニラエクストラクトは、バニラビーンズをアルコールに漬けて香り成分を抽出したもの、バニラオイルはバニラの香り成分を油に溶かしたもの、そしてバニラエッセンスは、香り成分をアルコールに溶かしたもの。焼き菓子にはエッセンスよりもエクストラクトやオイルが向いていますが、互いに代用可能です。でも香りの強さが異なるので、少量ずつ試して調整することが大切です。アメリカでは「大丈夫かな?」と思うほどエクストラクトを多めに入れるレシピが多いのですが、日本ではあまり使われていないので、バニラオイルを少し量を減らして使うことにしました。

クルミの他にも、ピーカンナッツや松の実、ピスタチオなどを加えるのもおすすめです。おやつ用にはチョコレートチップを入れたものも人気です!

これから始まる夏の間、きっと何度もスーパーでズッキーニを見かけるでしょう。ズッキーニがこんなにおいしいケ-キになるなんて、目からうろこです。ぜひお試しくださいね!

文・写真 カヒミ カリィ



ズッキーニブレッド

材料(約9.5×26.5×6cmのパウンド型1台分)
・ズッキーニ…2本(約300g)
・クルミ(ロースト)…50~60g(カップ2/3杯ほど)
・玉子…2コ
A
・小麦粉…200g
※アメリカらしくするなら中力粉がおすすめ。薄力粉、または、薄力粉と強力粉を半分ずつでも。
・シナモンパウダー…小サジ1杯(好みで)
・ベーキングパウダー…小サジ3/4杯
・重曹…小サジ3/4杯
・塩…小サジ1/2杯
B
・砂糖…170g
・植物油…カップ3/4杯
・バニラオイル…20滴

作り方
1 オーブンを180℃に予熱します。型に植物油(分量外)を塗るか、クッキングシートをしきます。
2 ズッキーニは、チーズおろしやスライサーなどで削るか、せん切りにします。クルミは粗く刻みます。
3 ボールにAを入れ、泡立て器で混ぜ合わせます。◎薄力粉と強力粉を混ぜて使う場合は、一度ふるいましょう。
4 3に2を加え、ゴムベラでよくからめます。
5 別のボールに玉子を軽く溶きほぐします。Bを加え、泡立て器でよく混ぜます。
6 4に5を加え、ゴムベラで粉気がなくなるまで混ぜます。型に生地を流し込みます。
7 180℃のオーブンで、45分〜1時間ほど焼きます。竹串を刺してみて、生地がつかなければ焼き上がりです。◎焼き目がついていてもさらに焼く場合は、アルミホイルを軽くかぶせて、様子を見ながら焼きましょう。
8 オーブンから取り出し、型に入れたまま15分ほど冷まします。型から外してケーキクーラーに移します。

◎完全に冷めてから、食べやすい厚さに切ります。軽くトーストし、バター(分量外)を塗っていただくのがおすすめです。
◎完全に冷めてから、ラップでしっかり包み、冷蔵庫で保存します。時間が経つと、よりしっとりします。



カヒミ カリィ
ミュージシャン、文筆家、フォトグラファー。1968年生まれ。
フランスで約8年、アメリカで約13年暮らし、2025年春に日本へ帰国。
『暮しの手帖』の連載「すてきなあなたに」にも寄稿。
Instagram:https://www.instagram.com/kahimikarie_official/