森のアトリエ雑記

小林賢太郎

第14回 うるうの森キャンプ場と、国際宇宙ステーション

2026年04月22日

暦の上では春になっても、油断はできません。まだまだ冷え込む夜もあります。宿敵、三寒四温。とて、寒い日は寒い日なりに、森のアトリエには楽しみがあります。夜、星空がきれいなのです。夜の森は、真っ暗です。しかも寒ければ、星空がよりくっきり見えます。例えば、都会で見るオリオン座は、等間隔にならんだ三つ星があって、その周りを4つの星が長方形に囲んでいますよね。これを、コンディションのいい日に森のアトリエから見ると……、その長方形の中に、細かい星々がいくつも見えるんです。そんな、きめ細かい光の点が、空全体に無数に広がる。それはもう、本当に美しいんですよ。

さて、そんな、天体観測ができる森のアトリエは、立地は斜面ですが、整地したので広くて平らです。車もバイクも停め放題。テントも張れれば、焚き火もできる。つまり、ほぼキャンプ場なのです。

キャンプ好きのスタッフさんから、「ここで友達とキャンプしていいですか?」と言われていたので、「どうぞどうぞ」となりました。世の中はキャンプブームが終わったそうですが、ここにプライベートキャンプ場、オープン! 僕は『うるう』という、森を舞台にした演劇をつくったことがあるので、『うるうの森キャンプ場』と名付けました。2名様、ご予約承りました。薪を割り、焚き火を囲み、呑んで食って、テントに泊まって、朝は近場で温泉入って、おつかれさん。というコース。ごゆっくり、お楽しみください。

こうして、僕がアトリエ勤務じゃない日に、スタッフがキャンプをしていたんですが……、ある事件が起こりました。

『うるうの森キャンプ場』でキャンプをしているはずのスタッフから電話がかかってきました。
「森のアトリエが停電しています。倒木で電線が切れました。電力会社の人が今から来てくれます」
とのこと。なんとまあ、それは大変だ。キャンパー2人に怪我はないとのことで、とりあえず安心。

翌朝。キャンパー2人を一晩放置していた『うるうの森キャンプ場』 のオーナー(僕)が出勤したら、連中はのん気にウッドデッキでお茶を飲んでいました。
「大丈夫そうだな」
「大丈夫です」
「倒木はどこだ」
「こっちです」
さっそく、一緒に現場を見に行く。

場所は、キャンプサイトから見て、アトリエの建物を挟んで反対側の森。ぶっ倒れたのは、直径60㎝超えの大木。アトリエの敷地の外に生えていたものが、敷地内にデーンと横倒しになっていました。このアトリエ史上、最大規模の事故です。

キャンパーらは当時の様子をこう語りました。
「ズドーン! という大きな音がして、屋外灯が消えました。焚き火とランタンの灯りがあったので、とくに困りませんでした。電力会社の人は、夜にもかかわらず、すぐに直しに来てくれました」
とのこと。屋外灯が復旧しても、倒木の全体像は暗くて見えず、どこからどう倒れてきたのかはわからないまま。朝になって見に来たら、このありさまだったらしい。『うるうの森キャンプ場』 、波乱のオープンでありました。

こういうことがあると、キャンプ用品って災害のときにも役に立つなあと思います。電気やガスや水道などのインフラが断たれても、温かい食事をとることができるのですから。ちなみに『うるうの森キャンプ場』には井戸もあります。

倒木の周りの木々も、よく見ると危険だということがわかりました。敷地のきわから、何本もの木が、アトリエに覆い被さるように生えているのです。そこで、倒れた木が生えていた土地を管理している方が、倒木の処理のついでに、周りにある木も安全な高さに伐採してくれることになりました。というわけで、大量の薪をタダでゲット。『うるうの森キャンプ場』、潤沢です。

後日、僕も『うるうの森キャンプ場』を楽しむことにしました。

狙っていた夜があるんです。僕が好きな天体イベント、国際宇宙ステーションの通過です。国際宇宙ステーションは、地上約400km上空を、時速約2.8万kmで周回する、サッカー場ほどの大きさの巨大な有人実験施設です。今もここで、宇宙飛行士たちが、さまざまなミッションをおこなっています。そんな国際宇宙ステーションは、動く星として、肉眼で見ることができます。明るさは、一番明るい一等星よりも、さらに明るいです。約90分で地球を1周するほどの高速で移動していますから、あきらかに他の星とは動きが違います。光の点が、スーッと夜空を通過するんです。

その日の通過は、西の空にまだうっすら明るさが残る時間帯。それでも、かなりはっきりと観測することができました。
僕はそんな光の点を見るたびに、
「ああ、あそこで今も、人が働いているんだな」
と、感動するのです。

さあ、宇宙にロマンを馳せながら、今夜は焚き火の炭で焼き鳥を炙ることにしました。すると、いい匂いに誘われて、いつものタヌキが見にきました。
「なんにもあげないよ」
「ちぇ」
タヌキは、森に消えていきました。

あたりはすっかり暗くなりました。空にはビシッと冬の大三角。シリウス、プロキオン、ベテルギウス。ああ、天体少年だった頃が懐かしいです。今、天体観測をテーマにした脚本を書いています。物語の登場人物たちは、星空を見上げて何を思うんだろう……。タヌキくんよ、おじさんは遊んでるように見えるかもしれないけど、これでも仕事になっているのだよ。

つづく

絵と文 小林賢太郎


小林賢太郎(こばやしけんたろう)
1973年生まれ。横浜市出身。多摩美術大学卒。脚本家・演出家。コントや演劇の舞台作品、映像作品、出版など。2016年からアトリエを森の中に構えて創作活動をしている。