森のアトリエ雑記
第15回〈ちょっと番外編〉『暮しの手帖』が取材に来たぞ
2026年05月27日

森のアトリエに、珍しくお客さんが来てくれました。『暮しの手帖』編集部の皆さんです。以前この連載で、『紙と私』という記事を書きました。その中で触れた、僕が趣味でやっている折り紙に興味を持ってくださって、「どれどれ、見せてみろ」ということになったのです。
『暮しの手帖web』で連載を続けること1年ちょっと。いよいよ『暮しの手帖』、本丸に乗り込んでいくわけです。ふっふっふ。
取材当日。担当編集者さん。ライターさん。カメラさん。こんな御三方が、かわいい車に乗ってやってきました。この日は晴天に恵まれ、暖かくて、森の緑が最高にきれいでした。いい日に来てもらえてよかった。いつも僕のことを舐め腐っているリスたちは、お客様にビビっているのか、一切姿を見せません。あいつら……。
アトリエ内に入ってきた御三方。皆さん、あっちを見たり、こっちを見たり。目がキラキラしています。そりゃそうでしょうね。文章だけで知っていた、あの実在するのかもわからないアトリエの中に、潜入成功したわけですから。
編集者さんから、手土産をいただきました。さあ読者の皆さん、あの、『暮しの手帖』の編集者さんの手土産ですよ。期待していいですよ。いざ、開封。品のいいーい缶に入った、品のいいーい焼き菓子! はー、品のいいーい美味しさ……。さらに、カメラさんからも、手土産が。紙でできた馬の張子をいただきました。白くて、素朴な、馬くん。アトリエの一部に、白いものをまとめて飾ってあるところがあるので、そこに加えました。
カメラさんに、
「撮っちゃいけないものはないんで、好きに撮ってください」
と言ったら、本当に好きに撮り始めて、面白かったです。どうぞどうぞ。
この日を迎えるにあたって、数日前からアトリエの片付けを始めていました。といっても、それほど散らかっていたわけでもないので、軽く。それに、あまりにも片付き過ぎているより、僕の日々の使用感が見えるのも、取材としてはいいのかなと思って。
とりえず、ここ最近の折り紙をお見せしようと、テーブルに並べておきました。編集者さんは、
「想像を超えてきた」
と言ってくれました。僕、手先がまあまあ器用な上に、凝り性なので、作り出すと止まらないんですよね。
インタビューがスタートしました。普段ひとりで過ごすことの多い森のアトリエに、僕以外の人が3人もいるわけですから、さぞ緊張するだろう。と思ったんですけど、御三方がとても和やかで、僕もすっかりリラックスしてお答えすることができました。リラックスし過ぎて余計なこともずいぶんしゃべった気がするので、そのへんは気を使ってカットしてもらおう。
インタビューを受けながらも、その場で折り紙を折ることに。カメラさんにカラフルな折り紙セットを見せて、
「何色で作りましょうか」
と尋ねると、
「銀で」
という意外な答え。よっしゃ。得意のミウラ折りで、立体的な紙の彫刻を作っていきます。これが楽しくて、おしゃべりしながらも、手が止まりません。僕と折り紙との出会いは……。おっと、これ以上は、本誌でお楽しみいただきましょうか。
さて、僕にとって取材を受けるのって、けっこう特別なことなんです。取材の申し込みは、それなりにいただくんですけど、ほとんどをお断りしています。理由は、いくつかあります。まず、多くの芸能職の人がやっているような、宣伝のための取材は、受けたくありません。そういう取材って、タイミングとしては新作の制作期間になります。エネルギーの全てを、作品に注いでいるタイミングです。「取材どころではない」というのが、お断りする理由です。取材を受けるということは、知らない人に会って話をするということ。写真を撮られたりするのも、けっこう心のカロリーを使うんですよ。1キロカロリーでも、作品の質を上げることに使いたいのです。だから、作品の宣伝という目的やタイミングではなく、スケジュールと心の余裕が許す範囲でのみ、取材はお受けしようと思っています。
今回取材を受けて、森のアトリエという僕の製造工場を公開するということの意味について、改めて考えました。完成した作品だけをお届けするのも、ひとつのやり方だと思います。しかし僕は、好きな映画や舞台の、メイキングの映像や本を見て育ちました。そして、その影響を受けて、映画や舞台を、職業にまでしました。もしかしたら、誰かが『暮しの手帖』のこの記事を読んで、
「小林賢太郎みたいに、自分の空間で作品をつくる仕事をしてみたい」
なんて思ってくれるかもしれない。表現職を目指す人の背中を押すことになるかもしれない。それなら、とても意味のあることです。そういう気持ちで、今回の取材をお受けしました。
今回の取材で、皆さんとたくさんお話をしました。そんな中で、担当編集者さんがおっしゃっていた、一番印象に残った言葉が……、
「人類の夢ですよ。ここは」
いやいやいや。確かに、まあまあ素敵な空間だとは自分でも思いますけど。「人類の夢」ではないですよ。人類の夢は、大谷翔平とか、アルテミス計画とか、そういうあれでしょうよ。え? 『暮しの手帖』さんよ。今後ともよろしくお願いします。この取材による記事は、『暮しの手帖』7月24日発売の43号に掲載予定です。
ちなみに、取材後に作った新作折り紙がこちら。材料は、普通の普通紙です。

つづく
写真と文 小林賢太郎
小林賢太郎(こばやしけんたろう)
1973年生まれ。横浜市出身。多摩美術大学卒。脚本家・演出家。コントや演劇の舞台作品、映像作品、出版など。2016年からアトリエを森の中に構えて創作活動をしている。
