森のアトリエ雑記
第16回 森のアトリエをカバンに詰めてみる
2026年06月24日

舞台公演の仕事をしていると、稽古期間に東京にカンヅメになったり、地方公演で長旅になったりして、しばらく森のアトリエに行けないことがあります。ああ、森が恋しい。
そこで、森のアトリエをカバンに詰めて持ち出すとしたら………。そんなふうに考えて、カバンの中身を選んでみました。題して、『移動アトリエ』。
カバンは、L.L.Beanの、トートバッグにしました。しっかりした帆布の生地。ポケットのついていない、バケツのようなシンプルなもの。ここに、ざくざくとお気に入りの仕事道具を詰め込んでいきましょう。
まずは、森のアトリエのほとんどを占めている、文房具と画材から。せっかくだから、いつも持ち歩いてるのとは違う、少し贅沢なラインナップにしてみましょう。
筆箱は、&Liebeというブランドの、レザーペンケースにしました。ラウンドジップ式で、お財布みたいなデザイン。革のいいにおいがします。
中に入れるペンはどれにしようかなあ。まずボールペンは、森を感じたいから、木軸のものにしよう。LAMY2000タクサス。お気に入りの1本です。このペンは1966年に発売されたんですけど、「2000年になっても色褪せないデザイン」という意味で「LAMY2000」と名付けられたんだそうです。それだけに、デザインはお見事です。シンプルで、洗練されていて……。ああ、僕も、そういう脚本を書けるようになりたいです。
シャーペンは使い慣れてるのがいいから、いつものやつ。ファーバーカステルのシャーペン、Grip Plus 0.7。軸の色は黒。軸がぶっとくて、持ちやすくて、かっこいい。「タフガイ」って感じです。無骨さもまた、森のアトリエにふさわしいキャラクター。ファーバーカステルは、ドイツのブランドで、世界最古の筆記具メーカーだそうです。芯は、ステッドラー。ステッドラーといえば、こちらもドイツの製図用品メーカーです。僕は18歳の頃から、デッサン用にステッドラー鉛筆を使い続けているので、とても愛着があるブランドです。
消しゴムは、せっかくだから可愛いやつにしよう。銀座の月光荘で買った、ラッパのマークの消しゴム。まだあんまり使ってないから、ちゃんと四角いです。
さあ。筆箱がパンパンになりました。でも、こいつらも持ち出したい。ファーバーカステルといえば、色鉛筆が有名で、森のアトリエにもたくさんあります。そうだ、色鉛筆も仲間に入れよう! 筆箱、ふたつ目。ラダイトの、白い布のペンケースがあるので、そこに24色。きれい!
迷うのは、ガラスペンです。割れ物だから、カバンに入れて持ち出さない方がいいだろうか……。いや、これは、実際に持ち出すわけではなくて、「持ち出すとしたら」って話なのだから、多少ロマンを優先させても構うまい。メンバー入り、決定。インクは、パイロットの「月夜」にしました。ターコイズ・ブルーっていうんでしょうか、緑がかった、青。というか、碧。好きな色です。
筆記用具があるということは、紙が必要ですね。絵を描いても、文章を書いてもいいように、モレスキンの方眼のノートを選びました。さらに、A4普通紙も欲しいな。なんでも書けるし、折り紙もできる。何枚かの束を、クリップボードに収めました。
ペン、紙、ときたので、次はハサミ。僕の苦手なことのひとつに「開封」があります。買ってきたお惣菜のラップ、レトルトカレー、調味油の袋、とにかく指先で開けるのが、下手。「こちら側のどこからでも切れます」は、どこからも切れません。裂いて開けるための切り込み、ななめに「にゅいん」とのびるだけで、切れません。あるいは逆に、ダイナミックに破れすぎて、粉末スープをぶちまけることも。しかし! ハサミがあればもう大丈夫。絶対に失敗しません。だからアトリエでは、工作以外にもハサミをしょっちゅう使います。これはラインナップに入れたい。ホームセンターで買った、ゴツめのScotchを選抜。

アトリエにいるとき、よくエプロンをつけています。ユニフォームみたいなものです。以前、東急ハンズで、マジック用品の実演販売員をやってたことがあります。そのとき支給されたハンズの店員用のエプロンを、とても気に入ったんです。それ以来、よくエプロンを着用するようになりました。服が汚れないのはもちろん、いいことがいろいろあります。例えばiPhoneをポケットに入れて座ると、股関節あたりがつっぱって邪魔でしょ? でもエプロンのポケットなら体勢に関係ありません。腹巻きみたいなものですから、お腹も冷えません。腰の帯を前で結ぶタイプのやつは、そこに手拭いをひっかけておくのに便利です。エプロンはいくつか持ってるけど、今回はずいぶん昔に買った、アウトドア用の一枚を選抜。
そんな、元マジック用品実演販売員の僕は、今でもよくマジックの練習をしています。お客さんは、鏡の中の自分。できないことを、練習してできるようになるのが好きなんです。森のアトリエには、トランプのコレクションが数百組あります。この中からひとつだけ持っていこう。尊敬するマジシャンの前田知洋さんにいただいた、タリホーというブランドの、前田さんエディションのやつにしよう。カードマジックには、マジック用のマットがあるといいんです。テーブルの上の、ステージって感じ。これもくるくると丸めて、バッグに差し込みます。
森のアトリエでは、よくお香をたきます。何種類かのお香と、お香立てや香炉と、マッチやライターが、とらやの羊羹の空き箱に収めてあります。この中から白檀のお香を選抜。細い木箱に、お香と、小さな香立て、ライターがピッタリ収まりましたので、セットにしました。
森のアトリエといえば、焚き火。でも、流石に焚き火台と薪をカバンに入れるわけには……。そうだ! あいつの出番だ! 以前この連載(第11回)でもご紹介した、木芯のロウソクです。一般的にロウソクの芯といえば、ヒモ状のものですよね。でもこれは、芯が薄い木の板。パチパチと音を立てて燃える様は、まるで小さな焚き火。こいつも、メンバー入り。
さあ、カバンが結構パンパンになってきました。もうそんなに大きなものは入れられません。
森のアトリエには約1000冊の蔵書があります。よし、この中から一冊だけ持ち出そう。今、天体観測をテーマにした演劇をつくっています。それにちなんで、宮沢賢治の詩集にしました。「星めぐりの歌」が載っています。ブックカバーをつけよう。もはやどこで買ったかも忘れた、ロウビキのクラフト紙のブックカバー。昔の無印良品かなあ……。革のボタンがふたつついていて、ヒモでくるくる巻いて閉じられるようになっています。
……といったところで、いったん、完成。ああ、なんて楽しい作業でしょう。大好きなアニメ映画『天空の城ラピュタ』の主題歌に、「♪ナイフ ランプ かばんにつめこんで」(*)という歌詞があります。ハサミとロウソクをカバンに詰め込みながら、思わず歌っていましたよ。
つづく
絵と文 小林賢太郎
*「君をのせて」
作詞:宮崎駿、作曲:久石譲
小林賢太郎(こばやしけんたろう)
1973年生まれ。横浜市出身。多摩美術大学卒。脚本家・演出家。コントや演劇の舞台作品、映像作品、出版など。2016年からアトリエを森の中に構えて創作活動をしている。
