恋しいキッチン

カヒミ カリィ

第19回 落ち葉の街のパンプキンパイ

2026年10月07日

家族でニューヨークへ引っ越したのは、2012年、巨大ハリケーン「サンディ」がアメリカ東部に上陸した数日後のことでした。

私たちが住むことになったブルックリンのパークスロープ周辺は高台に位置し、避難対象外のエリアでした。レッドフックやダンボなど近隣の水辺の街が激しく冠水するなかでも比較的安全で、避難所のような状態を保っていたのですが、それでも、大きな街路樹が道をふさぐように何本も倒れてしまっていて、駐車していた車を押しつぶし、電柱や街灯はなぎ倒されていました。

ニューヨークで毎年恒例となっている大規模なハロウィーン・パレードも、39年の歴史のなかで初めて中止に。子どもたちが大好きな近所のプロスペクト・パークも、安全のため完全に閉鎖されてしまい、みんなとてもがっかりしていました。

けれども後に、パーク内で倒れたたくさんの木の切り株や丸太を再利用して、子どもたちが遊べる「自然の遊び場(Zucker Natural Exploration Area)」というプレイグラウンドが作られることになったのです。つらい災害の記憶を、未来につながるかたちで残す取り組みで、素晴らしいアイデアでした!

町内の住民たちも、ハロウィーンの代わりになる楽しいイベントを企画していました。私たちはまだニューヨークに住み始めたばかりでしたが、ニューヨーカーの行動力や、困ったときに自然に助け合う温かさに、とても感心してうれしく思いました。

街がどうにか落ち着きを取り戻してきた頃、パークスロープの街路は赤や黄色の落ち葉に覆われ、それはまるで美しい絨毯のようでした。歩くと、足元からカサカサと心地よい音がします。娘のニキはまだ3歳でしたが、小さな足が半分も隠れてしまうくらいの枯葉の道を楽しそうに歩いたり、葉っぱをすくっては飛ばしたりしていました。

アメリカは秋から冬にかけて、ハロウィーン、感謝祭、クリスマスと楽しい大イベントが続きます。週末になると、手料理を持ち寄って家族や友人たちがワイワイと集まり、ランチやディナーを大人数で楽しむ家庭が多いのですが、そんなときによく見かけるのが、アルミホイルなどに包んだ手作りのパンプキンパイを片手に、枯葉の道を颯爽と歩くニューヨーカーの姿でした。

到着して1カ月後の感謝祭の日、大家さんにお招きいただき、初めて手作りのパンプキンパイを食べました。シナモンなどのスパイスが豊かに香る、甘くてしっとりしたパンプキンパイ。そのおいしさは想像以上で、私の好物が増えた! と思いました。多分、私が最初に好きになったアメリカの家庭料理のひとつだったと思います。それから、いったい何度このパンプキンパイを作ったことでしょう。いまでは、すっかりわが家の定番レシピになりました。

アメリカのパンプキンパイに使われる缶詰のパンプキンピュレは、実はジャック・オー・ランタンに使う大きなオレンジ色のかぼちゃではありません。日本かぼちゃやバターナッツかぼちゃに近い、果肉のきめ細かな品種が主に使われています。

アメリカの家庭でパンプキンパイを作るときは、缶詰のピュレを使うことが多いのですが、日本では手に入りにくいものです。そこで今回は、日本でよく売られている栗かぼちゃを使って作ります。缶詰のピュレよりも、かぼちゃの甘味や風味が引き立ち、よりおいしく仕上がります。もしピュレが少し余ったら、牛乳でのばして、塩・コショーで味をととのえ、スープにしてもおいしくいただけます。

これからどんどん涼しくなり、秋が深まっていく季節にぴったりのパンプキンパイです。ぜひ作ってみてくださいね!

文・写真 カヒミ カリィ



アメリカの定番 パンプキンパイ

材料(径23cmのパイ皿1台分+飾り用)
パイ生地
・薄力粉(または中力粉)…300g
・バター(食塩不使用)…180g(冷蔵庫で冷やしておく)
・砂糖…24g
・塩…4g
・冷水…65〜90g

フィリング
・かぼちゃ…約1/2コ(種とワタを除く前で600〜700gほど)
A
・砂糖…150g
・塩…小サジ1/2杯
・シナモンパウダー…小サジ1杯
・ジンジャーパウダー…小サジ1/2杯
・ナツメグパウダー…小サジ1/4杯
・オールスパイスパウダー…小サジ1/4杯
B
・玉子…2コ
・生クリーム…180ml
・牛乳…120ml

ツヤ出し用の卵液(溶き混ぜる)
・卵黄…1コ分
・水…小サジ1杯

作り方
パイ生地を作る
1 ボールに薄力粉、砂糖、塩を入れてゴムベラで混ぜ合わせます。冷えたバターを1〜1.5cm角に切り、ボールに加えます。カードでバターを刻み、細かくなったら、両手で擦り合わせます。細かなパン粉状になり、ところどころ小さなバターの粒が残る位で止めます。
2 冷水55gを加え、フォークでざっくり混ぜます。手でひとつまみ握り、まとまるか確かめます。くずれるようなら水を少しずつ足します(水は最大で35g足してもよいです)。生地をひとまとめにして、3/4をパイ用に、残りを飾り用に分けます。それぞれを平たい円盤状にし、ラップで包んで冷蔵庫で1時間休ませます。

かぼちゃを加熱し、ピュレにする
1 かぼちゃは種とワタを除き、皮つきのまま3cm角に切ります。
2 耐熱ボールにかぼちゃを入れ、水大サジ1杯を振ります。ふんわりとラップをかけ、600Wの電子レンジで5〜7分加熱します。竹串がスッと通るまで、足りなければ1分ずつ追加で加熱して様子を見ます。ボールに残った水分は捨てます。
3 粗熱が取れたら皮を除き、果肉をフードプロセッサーやブレンダーで撹拌し、ピュレ状にします。

パイ皿に生地をしく
1 打ち粉をした台で、生地を厚さ約3mm、直径約30cmに延ばします。
2 生地をパイ皿に沿わせてしきます。底と側面の境目に、生地がたまらないように、生地を指で押さえながらぴったりとしきします。皿のフチから生地を2cmほど残して、キッチンばさみで切ります(残った生地は飾り用の生地として使います)。
3 はみ出た生地はフチに沿って下に折り込み、二重にして厚みを出します。折り込んだ部分を皿のフチより少し高く立ち上がるようにして、フチを波形にします。片手の人さし指をフチの内側に置きます。反対の手の親指と人さし指で生地を外側からつまみ、内側に置いた人さし指に向かって押します。生地が小さな山と谷になるように、指を少しずつずらしながら一周くり返して、波形に整えます。
4 パイ皿ごと冷蔵庫で30分以上冷やします。

飾りの葉っぱを焼く
1 飾り用の生地を厚さ3〜4mmに延ばし、葉っぱなど好みのクッキー型で抜きます。竹串やナイフの背で葉脈をつけ、天板に並べます。型がない場合は、ナイフで自由に形を作っても結構です。ツヤ出し用の卵液を、ハケで葉っぱの表面にごくうすく塗ります。好みでグラニュー糖適量(分量外)をまぶします。
2 180℃に予熱したオーブンで8〜12分焼きます。焼き上がるとさらに色が濃くなるので、フチがきつね色になったところで取り出します。
3 アミの上で粗熱を取り、完全に冷めたら密閉容器に入れて常温で保存します。

パイ生地を空焼きする
空焼きとは、フィリングを入れる前にパイ生地だけを先に焼いておくことです。底が湿りにくくなり、香ばしく仕上がります。
1 冷やしたパイ生地の底に、フォークで数カ所穴をあけます。丸形に切ったオーブンシートをしき、その上にアルミホイルを重ね、パイ用の重石(または乾燥豆や生米)を生地のフチまで入れます。
2 195〜200℃に予熱したオーブンで12〜15分焼きます。オーブンシートごと重石を取り除き、底が乾くまでさらに5〜8分焼きます。焼き色がつきすぎる前に取り出し、アミの上に置きます。
3 熱さが落ち着いたら、温かいうちにツヤ出し用の卵液と水をボールによく溶き、全体にうすく塗り、冷まします。
◎卵液の膜が、フィリングの水分から生地を守り、底が湿りにくくなります。

フィリングを流し入れて焼く
1 フィリングを作ります。ボールにかぼちゃのピュレ360g、Aを入れてゴムベラでよく混ぜます。Bを加え、泡立て器でなめらかになるまで混ぜます。
2 空焼きしたパイ生地に、フィリングを流し入れます。170〜175℃に予熱したオーブンで50分ほど焼きます。中央近くに竹串を刺し、液状のフィリングがついてこなければ焼き上がりです。フチが先に濃く色づいたら、アルミホイルをかぶせてさらに焼きます。
3 焼き上がったら、アミの上で粗熱を取ります。焼きたては、フィリングの中央が少し揺れる位の柔らかさで大丈夫です。冷ますと落ち着いたかたさになります。玉子と乳製品を使っているので、常温に置くのは焼き上がりから2時間以内をめやすにし、その後冷蔵庫へ入れます。4時間以上、できれば一晩冷やすとフィリングが落ち着き、切り分けやすくなります。
4 飾りの葉っぱを、いただく直前にのせます。切り分けてから型から出し、好みで泡立てた生クリーム(分量外)を添えて、どうぞ!


カヒミ カリィ
ミュージシャン、文筆家、フォトグラファー。1968年生まれ。
フランスで約8年、アメリカで約13年暮らし、2025年春に日本へ帰国。
『暮しの手帖』の連載「すてきなあなたに」にも寄稿。
Instagram:https://www.instagram.com/kahimikarie_official/