森のアトリエ雑記

小林賢太郎

第3回 ブンチリ

2025年05月28日

森のアトリエに、何度かテレビカメラが入ったことがあります。オンエアを見た人から「片付いていて、きれいな仕事場ですね」的なことを言われました。いやいや。いやいやいやいや。直前に猛烈に大掃除してるんですよ。普段はもっと、がっちゃがちゃです。なぜここに? ってところに一升瓶が立ってたり、まあまあ大きい虫が机の上で死んでたり、執筆に疲れた劇作家が床に転がってたりします。

ひとつの作品の発表が終わり「これから新作に向かうぞ」っていうとき、よくアトリエの大掃除&模様替えをします。僕、製作中はほとんど片付けないんです。資料やらメモやらなんやらで、散らかり放題になります。それを全部片付けて、きれいに掃除して、ごっそり模様替えをするんです。そうして、気持ちも新たに、新しい作品に挑みます。

というわけで、片付けスタート。

まずは、いったん座って、途方に暮れます。
「よくもまあ、ここまで散らかしたなあ……」
なんて、ひとごとのような気持ちで眺めます。それでも不思議と、片付けるのが面倒くさい、という気持ちにはなりません。時間制限もないですからね。自分のペースで、楽しみながらやっていきます。

とりあえず、ひとつ、目についたものを手に取ります。はい、片付けスタート。一度手に取ったものは絶対なんとかする、というルールです。しまう場所が決まっていなくても、捨てるかしまうか判断ができていなくても、とにかく手に持つ。そして、どうにかするまで手から離してはいけない。そうプログラムされた片付けロボになるのです。どうしていいか分からないものを、後回しにしないテクニックです。これの連続で、次々とモノモノが片付いていきます。

次、床掃除。

ルンバがいるので、ある程度きれいです。ルンバは、言わずと知れたロボット掃除機。うちのは「ルンさん」と名付けました。こないだ、行方不明になりました。家出したかと思いましたが、探したら図書室にいました。壁を見てじっとしてました。あまり自分を見つめ直さないでほしいです。転職はできないぞ、ルンさん。

ルンさんの定時を待たずに自分でやるのが、虫拾い。多いんですよ、森には、虫が。ホウキで死んでる虫を掃き掃除します。どうやって室内に入ってくるんだ。死にに来ないでほしいです。掃き掃除には、ブンチリが大活躍しています。文化チリトリです。駅のホームなんかで見かける、立ったまま使える、あれです。ブンチリを使うようになってからというもの、掃き掃除のフットワークが格段に軽くなりました。目についたゴミだけをパッと回収。はい完了。ああ気持ちいい。みなさんのお家でも、床で死んでる虫の掃除には、ぜひブンチリを。

ホウキの毛は、ゴミを弾いてくれる硬めのやつが好きです。幅は狭めで、持ち手は長め。腰を曲げずに、まっすぐ立ったまま掃くスタイル。お気に入りのホウキの柄は木製で、お尻の部分にネジフックをねじ込んであります。「?」の形のやつ。これで、壁にヒョイと引っ掛けています。ブンチリと一緒に。

掃除機は、何台もあります。ダイソンのハンディクリーナー、京セラの集じん機、マキタの充電式掃除機。舞台セットの模型や小道具作りなど、木工の作業中はハンディ掃除機を使っています。ノコギリを一回使うごとに、ブィーンって10秒くらい。床に木くずが溜まっちゃうと、作業しているうちに足の裏でいろんなところに拡散させちゃうんですよね。京セラの集じん機は、電動工具でブィーンってやるときに、ブィーンってやります。マキタの充電式掃除機は、各フロアに1台ずつ、計3台もあります。ずいぶん長くガシガシ使っていますが、一回も壊れたことがありません。さすが、世界の。ちなみに、庭掃除の際のブロワーや草刈機もマキタのを使っています。マキタ様、お世話になっております。

さあ、全体がきれいになったら、次は模様替えです。

これが、スポーツみたいで好きなんですよ。以前、トレーニングジムに通っていたときのこと。ダンベルを持ち上げて下ろすときに、「違う場所に下ろしたい」と思いました。だって、同じ場所に戻すなんて、意味がないじゃないですか。せめてどこかに運びたい。そういう意味で、部屋の模様替えというのは最高の筋トレです。重い家具を、持ち上げて、移動して、下ろす。アトリエには、ヒキダシが36杯もある大きなチェストがあります。とても重いので、そのままでは動きません。そこで、ヒキダシを全部抜いて、本体だけにして、下に “ カグスべール ” をかませれば、ひとりでも動かせます。最後にヒキダシをひとつずつ戻して、移動完了。模様替えは、はっきりとプランを立てたりしません。なんとなくで始めて、いろんなパターンを試しながら、パズルのように配置を楽しんでいきます。

家具がどいたら、裏に溜まってたホコリを、ここぞとばかりに掃除します。快感です。ランナーズハイってありますけど、掃除er’s high(ソウジャーズ・ハイ)ってありますよね。やってるうちに、どんどん気持ちが乗ってきて、次はあそこを、ついでにこっちも、という具合に、掃除が止まらなくなる。ああ、いつまででもやっていたい。

片付けと掃除と模様替え。いつも数日かかります。だらだらとやり続けて、終わりが見えてこないときもあります。まずい、片付け道楽をいつまでも楽しんでないで、ぼちぼち新作の執筆に取り掛からなければ……。そんなときには、とっておきの裏技があります。アトリエに友達を招く予定を入れてしまうのです。「新作の途中経過、見に来ない?」みたいな感じで誘っちゃう。するとどうでしょう。来客予定日までに、きれいにせざるを得ないのです。

さあさあ、アトリエはすっかりきれいになりました。ここから、またどんどん散らかしてまいりますよ。あ、虫だ。Let’s ブンチリ。

つづく

絵と文 小林賢太郎


小林賢太郎(こばやしけんたろう)
1973年生まれ。横浜市出身。多摩美術大学卒。脚本家・演出家。コントや演劇の舞台作品、映像作品、出版など。2016年からアトリエを森の中に構えて創作活動をしている。