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暮しの手帖だよりVol.22 summer 2020

2020年09月16日

dayori22

絵 ミロコマチコ

あなたが大切にしたい、
守りたい暮らしはどんなもの?
今号は、言葉を軸にして
「平和」のすがたを探りました。

文・北川史織(『暮しの手帖』編集長)

 

各地で新型コロナウイルスの感染者数が増えつつあり、気持ちが落ち着かない日々が続きます。このたび水害に遭われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。ご不便が一刻も早く解消され、苦しみや悲しみが癒されますように。

 

*

 

私たち編集部は、春から在宅勤務で制作を続けています。最新号は、撮影を始めようとした矢先に「緊急事態宣言」が出されたため、ある企画は内容を変え、いくつかの企画はギリギリまで撮影を日延べして、さらに発売日を4日延ばすことで、なんとか発行まで漕ぎつけました。お待たせしてしまい、申し訳ありません。
今号の大きなテーマは、「暮らしから平和を考える」。このテーマを考え始めたのは昨年の10月あたりのことで、私の頭にあったのは「戦争と平和」、そして「台風への備え」くらいでした。まさか、世界中の誰もが同じ困難と向き合い、「平和」の希求がこんなに切実なものになろうとは、思ってもみなかったのです。
正直に言えば、「撮影ができないかも」となったとき、過去の記事を再編集して頁をつくろうかとも考えました。それもお役に立つのなら、悪くない手段ですよね。でも、私はどうしても、新しくつくった記事を載せたかったのです。いま、みなさんと同じ空気を吸い、この苦しみを味わっている私たちが、精一杯のものをつくって差し出す。それが大事かもしれないと思いました。
じつは私自身が、このコロナ禍で、大きな不安に押しつぶされそうでした。まだ感染の危険があるなかで、スタッフを撮影に送り出していいのだろうか、という迷い。ビデオ通話で話はしていても、会わずに進めることでコミュニケーションに齟齬が生じ、ひいては出来に響くのではないか、という焦り。
どんな状況下でも、なるたけいい本をつくって、きちんと売りたい。いや、売らなければ、制作は続けていけない。世間でよく言われる、「いのち」と「経済」のどちらが大事なんだ? なんて問いかけは、答えようのないものとして重く胸の底に沈んでいました。そんなのは、どちらも大事に決まっているじゃないか。
みなさんのなかにも、そう心のうちで叫んだ方はいらっしゃるでしょうか? 私たちは、正解が一つではない世界を、迷いながら、悩みながら、歩んでいるんですよね。でも、なんとか自分で道を選んで、歩んでいかなくちゃいけない。それがおそらく、暮らしていくこと、生きていくことだから。

 

**

 

今号の巻頭記事は、「いま、この詩を口ずさむ」。6編の詩と、それに寄り添う写真や絵で構成したシンプルな頁です。
夜更けに食事をつくってテレビをつけると、この数カ月の困窮をぽつりぽつりと語る人が映ります。一方で、そんな他者の生活苦を顧みないような軽々しい言葉、あるいは、なんだか格好いいけれども実のない言葉を発する政治家がいる。SNSを覗くと、「それ、匿名だから言えるんじゃない?」と思うような、毒々しい誹謗中傷が飛び交っている。
言葉って、こんなふうに使っていいものだったっけ。ふと思ったのです。人をまっとうに扱うように、暮らしを自分なりに慈しむように、心から誠実に言葉を発していきたい。不器用でも、言葉は完璧なものじゃないとわかっていても。ここでは、そんな思いを呼び覚ましてくれる詩を選びました。
黒田三郎の「夕方の三十分」は、いまで言うワンオペ育児をするお父さんと娘の、夕餉の前のひとときを描いた詩です。ウィスキイをがぶりと飲み、幼い娘の機嫌をとりながら、夕食の玉子焼きなどをつくる父。そんな父の作業を娘はたびたび邪魔し、やがてひと悶着が起きます。
どんな家でも見られそうな情景ですが、最後の数行を読むと、心がしんとする。ああ、暮らしって、親子って、こういうものじゃないかと思う。ぜひ、島尾伸三さんによるモノクロームの写真とともに味わってみてください。「このところ、しゃべる機会がめっきり減って、口のまわりの筋肉が凝り固まっているようだ」という方、音読をおすすめします。

 

***

 

巻頭に続く記事をご紹介します。
○小林カツ代さん キッチンから平和を伝えたひと
作りやすいレシピと、明るくて親しみやすいキャラクターで知られた料理研究家の小林カツ代さん。彼女が生涯を通して平和を願い、その思いを文筆活動や講演の場で表現していたことをご存じでしょうか? 残された手帳のなかにも、思いの溢れる言葉がたくさん。手帳のほか、著作からもカツ代さんの言葉を引き、娘の石原まりこさん、弟子の本田明子さんにもお話を伺ってまとめました。

○身体をいたわる 夏の中国料理
夏バテなどで元気が出ないときは、日々の食事で身体を整える、食養生の知恵を取り入れてみませんか? 旬の野菜を生かし、ご飯が進むおかずを、料理研究家の荻野恭子さんに教わりました。

○着方いろいろ チベタンスカート
ブランド「えみおわす」が定番とするチベタンスカートは、直線裁ちの布を縫い合わせてつくる、筒状のシンプルな形。腰回りの紐をどう結ぶかなど、「着方」で印象が変わります。私も愛用していますが、ロング丈でも足さばきがよく、動きやすいのです。記事では、このスカートの着こなし方、つくり方をじっくりとご紹介。今回のためにデザインしていただいた「3色使い」もすてきです。どうぞ、ご自分らしいおしゃれを楽しんでみてください。

○アウトドアグッズで揃える わが家の防災リュック
避難時に必要なものを「衣食住」の3つに分けて考え、軽く機能的なアウトドアグッズで揃える提案です。たとえば、速乾性のあるアンダーウエア、避難所で着替えるときの目隠しにもなるレインポンチョ、防水性の高い小分け用の袋など。わが家に必要なものを考えて選び、パッキングすることで、防災への意識を高め、備えを強くします。

○はじめての台所仕事
日々の食事をまかなうことってどんなことか、子どもたちに伝えたい。そう考えてつくったこの記事は、メニューを考え、家にある材料をチェックして買い物へ行き、料理して片づけて……という流れを「ぐるぐる回る台所仕事」と名づけて、イラストで楽しく展開しています。料理だけすれば食卓が整うわけじゃないよ、ということですが、普段料理をしない大人もわかっていないことかもしれません。お子さんが挑戦したいと言ったら、どうか黒子に徹して見守ってください。

 

****

 

今号の表紙画は、画家のミロコマチコさんの描き下ろしの「月桃の花」です。自分でも意外なほど落ち込んでいたとき、「心を照らすような、希望を感じさせる絵を描いていただけませんか」と、ただそれだけをお伝えして待ちました。この絵が奄美大島から届いたときのうれしさと言ったら。「なんだか魔よけみたいだね」とみんなで言い合ったものです。
いまは、この号を傍らの本棚に立てかけ、ときどき表紙に目をやりつつ、秋号を制作しています。取材・撮影がふつうにできること、人と会って言葉を交わせることは、なんてうれしく、ありがたいんだろうと思いながら。私たち一人ひとりが、決して完璧ではないけれども、それぞれに愛すべき暮らしを抱えながら。
つまずいても、悩んでも、日々は続いていくのですね。どうかみなさん、お元気で。心身をいたわって、すこやかにお過ごしください。

 

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暮しの手帖だよりVol.21 early summer 2020

2020年06月12日

dayori21

絵 牧野伊三夫

言葉に力をもらいながら、
これからの暮らしのあり方を考えて。
在宅勤務のなかでつくりあげた、
初夏号をお届けします。

文・北川史織(『暮しの手帖』編集長)

 

編集部にその封筒が届いたのは、4号が出てしばらく経った頃ですから、2月半ばくらいだったでしょうか。中身は、一冊の詩の雑誌と丁寧な直筆のお手紙で、「今度、私たちの雑誌で石垣りんさんの特集を組むので、そこに文章を寄せてくださいませんか」とのご依頼でした。
正直、困ったなと思いました。石垣りんさんの詩は、もちろんいくつかは知っていますが、詩を愛する人たちの雑誌に何を書けるだろうか。
でも、無下にお断りするのも失礼ではないかと思い、その方へメールをお送りしました。自分は適任ではないと思いますが、おすすめの一冊があればそれを読んで考えたいと思います、いかがでしょうか。
そして教えていただいたのは、『空をかついで』(童話屋刊)という、文庫本サイズの愛らしい詩集です。私は何度か読み返し、心に触れる詩は何編もあったものの、やっぱりうまく言葉にできそうになく、お断りしてしまったのでした。

 

*

 

時は流れて東京の桜が満開を過ぎた頃、私たち編集部員は在宅勤務態勢で6号の校正作業をスタートさせました。
私の一日といえば、簡単な朝食をとって身なりを整えたら、机の前に座り、あとはひたすらパソコンや校正紙とにらめっこ。はっと気づけば昼はとうに過ぎていて、大急ぎで何かをつくって食べ、また机に向かう。次に我に返ると、とっぷりと夜は更けている……という有様でした。

遅い晩ごはんを食べながらテレビをつけると、先の見えない日々のなか、つらい思いをしている人びとの姿が映ります。思わず、涙が出てきます。
この試練は、私たちに何をもたらすのだろう。雑誌はこんなとき、何ができるのだろう。必死の制作も自己満足に思え、真っ暗闇にボールを投げるような気分になりました。
そんなときでした、あの詩集を寝る前に開くようになったのは。
一編を読むと、しばらく頭のあたりに留まっていますが、やがてすっと胸にしみ込む瞬間がある。生きること、暮らすことへの切実な思いや発見が、丹念に磨かれて「言葉」のかたちをとり、それはいつか必要とされるまで、ただそこで待っている。
安直な励ましの言葉ではないからでしょう、本当の意味で慰められた思いがしたのです。

そこで思い出したのが、6号の巻頭記事の取材のとき、科学者の中村桂子さんが引用した詩でした。
まど・みちおさんの「空気」。一部をご紹介します。

 

〈ぼくの 胸の中に


いま 入ってきたのは


いままで ママの胸の中にいた空気


そしてぼくが いま吐いた空気は

もう パパの胸の中に 入っていく

同じ家に 住んでおれば


いや 同じ国に住んでおれば


いやいや 同じ地球に住んでおれば


いつかは


同じ空気が 入れかわるのだ


ありとあらゆる 生き物の胸の中を (後略)〉

『まど・みちお全詩集』(理論社刊)より

 

生き物の科学を研究してきた中村さんは、この詩にあるように、「(人が)生き物として生きる以上、中と外をきっちり分けることなんてできない」と話します。
「地球に優しく」なんて言い方は「上から目線」。私たちは、他の生き物とのつながりのなかで生きているのだから、「中から目線」で暮らしを見て、根っこにある幸せを考えなければならないと。

取材は「コロナ禍」が始まる前のことでしたが、いま読むと、その言葉の一つひとつに胸をつかれます。
もちろん、私たちには暮らしへの夢や欲もありますから、ここでいきなり悟って「小さな暮らし」に切り替えるのはむずかしいかもしれません。けれども、いま何を変えていけば、この苦難を将来の糧にできるのか。社会のために、自然環境のために、そして自分のために。
私自身、まだ答えは出せていませんが、闇に目を凝らすようにして考え続ける日々です。

 

**

 

さて、気を取り直して、巻頭に続く記事をご紹介しましょう。

私は数年前に『暮しの手帖のクイックレシピ』という別冊をまとめたことがあり、その際、「切る手間を省けば、時短になるんだな」と実感しました。
忙しいときは、みじん切りやせん切りのある料理を敬遠しがちではありませんか? では逆に、切ることが得意で好きになったら、料理はもっとラクで楽しくなるんじゃないかな。
「庖丁仕事はリズムにのって」は、そんな発想で企画しました。

まずは、指導者の渡辺麻紀さんに、編集部のキッチンでいろんな切り方のレッスンを受けました。姿勢や庖丁の握り方、まな板の扱い方などの基本も。数時間後、担当の平田と佐藤がせん切りする様子は、まさしく「リズムにのって」いる。
ああ、切ることってこんなに楽しかったのか! そんな感動と発見を盛り込んだこの記事、ぜひ、お役立てください。

新連載「有元葉子の旬菜」は、いまや薄れつつある食材の旬やその背景を知り、季節に寄り添う料理をこしらえながら、日々の食を見つめ直すという内容です。
今回登場するのは、新れんこん、新にんにく、新ごぼうと、「新」がつく野菜。たとえば新ごぼうをごく細切りにし、さっと湯通しすると、食感も香りも損なわない。それを刻んだニラ入りのしょう油ダレで和えるサラダは、まさにこの時季だけの味わいです。
野菜は自然の一部であり、キッチンは自然とつながっている。そんな実感が湧いてくる頁です。

「干物をいろんな食べ方で」は、「魚をもっと食べたくても、日持ちしないから買いにくい。ならば、干物を活用してみるのは?」と、担当の田島が発想して生まれました。
ツレヅレハナコさんの「アジの干物のたっぷりディルのせ」、田口成子さんの「アジの干物と葉野菜の炒めもの」などの料理はいずれも、ひと皿で野菜もたっぷりとれるのがうれしいところです。
お酒のおつまみに、お昼ごはんにと、いろいろ活用できますよ。

ところで、みなさんの家には、割れたり欠けたりしたままの器がありませんか? 
もしかしたら、こうお考えでしょうか。「金継ぎはなんとなく知っているけれど、プロに頼むほどの高価な器でもないし、自分でやるのはむずかしそう。でも、愛着があるから捨てられない……」。
そんな方のための記事が、「至極やさしい金継ぎ教室」です。指導の山下裕子さんに相談し、道具も手順も、省けるところはなるべく省いてシンプルに。初心者ばかりの編集部員を生徒にした教室を開き、どんなポイントで迷うのかなど、しっかり取材してつくりあげた記事です。
たとえ思い通りに美しく仕上げられなかったとしても、自分で繕うと、なぜだか愛着が増す。それも金継ぎのいいところですね。


最後にご紹介したいのは、「等身大の介護」。
執筆者の一条道さんは、35歳のときから5年間、母を自宅で介護する傍ら、『かいごマガジン そこここ』を創刊しました。若くして大変な経験をされてきたのだなあ、と思うのですが、一条さんと話すと、気負いやつらさは感じさせず、じつに朗らかなのです。
記事では、自身のやりたいことも大切にしながら試行錯誤して見つけた介護のかたちを綴り、さらに、介護生活を模索中の二組のご家族を取材しています。
「人は一人ひとりが違っているのだから、介護のかたちもさまざまなはず」と一条さん。
タイトルに添えたコピーは、「無理しない、抱え込まない、でもちゃんと向き合う」。介護のプロにも頼りながら、ストレスをため込まずに向き合っていくにはどうしたらいいか、考えるヒントにしていただけたら幸いです。

 

***

 

いまはウイルス感染拡大の影響で、介護の現場を支える方々も、ご家族も、ふだん以上の苦労があると聞きます。どうか、この社会がごくふつうに助け合い、支え合う姿に変わっていけますように。
緊張感のある日々が続きますが、みなさま、お身体をいたわってお過ごしください。

 

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暮しの手帖だよりVol.20 spring 2020

2020年04月10日

dayori20

絵 堀内誠一

心が塞ぎがちないまだからこそ、
日々の暮らしを大切にしたい。
春、まっさらな気持ちを呼び覚ます、
新鮮味のある企画をそろえました。

文・北川史織(『暮しの手帖』編集長)

 

あれは確か正月三が日あたりのこと、本棚の奥から引っ張り出して久しぶりに読んだ本があります。
沢村貞子さんの随筆集『私の台所』(暮しの手帖社刊/現在品切れ)。赤い更紗模様の装釘はかなり色あせていて、裏には100円の値札が貼りついたままです。私がこの本を古本屋で買ったのは、もう20年以上前、二十歳の頃でした。
親元を離れて、自活の一歩を踏み出したあの頃。一口コンロのついた、おままごとみたいなミニキッチンで料理するのも、掃除や洗濯も、ごみ出しさえも新鮮で楽しかった、あの頃。
自分の「暮らし」というものをおずおずと築き始めたばかりの私にとって、沢村さんが描きだす年季の入った暮らしの味わい方は、ただ想像をめぐらせて憧れる世界でした。
たとえば、ドラマの収録で遅くなりそうなとき、沢村さんはお弁当をこしらえていくのですが、その献立は、青豆ご飯、みそ漬けの鰆の焼物、庭で摘んだ木の芽をのせた鶏の治部煮、菜の花漬けやお新香など、旬の味覚がちょっとずつ詰まっていて、たまらなく美味しそうなのです。
塗りのお弁当箱は、深夜に帰宅したらすぐにぬるま湯で洗って拭き、きちんと乾かしておく。ああ、どんなに忙しくても、こうして暮らしを慈しむって、素敵だな。こんな大人になれたらな。ワンルームのアパートで、若かった私はため息をつきながら読んだものでした。
翻っていま、そんな暮らしが築けているかと言えば、いやはや、これがまったくなのです。
それでも、慌ただしい一日の終わりに簡素な食事をつくり、好きな器に盛ってもぐもぐと味わっていると、じんわりと幸せを感じ、また明日も頑張ろうと思える……そんな心持ちは、この本が育ててくれた気がします。

 

*

 



さて、今号の巻頭の言葉は、この随筆集の一編「あきていませんか」から文章を引いて綴ってみました。
沢村さんのような人でさえ、毎日同じことをくり返していると、気持ちがドンヨリと淀むことがある。そんなときは、「どんな小さなことでもいい、とにかく目先きをかえることである」と彼女は書いています。
それで思い当たるのは、朝ごはん。ついルーティンでお定まりのメニューを並べ、内心飽きながら食べてはいませんか? 
一つ目の料理企画「つながる朝ごはん」では、料理家の手島幸子さんが10年来実践している朝食の知恵をお伝えしています。
たとえば、豚肉をまとめてゆでておき、ある日はみそ汁に入れて豚汁風にし、またある日は、さっと炒めてしょうが焼きにする。野菜は買ってきた日に切ったりゆでたりと下ごしらえをして、数日にわたって使う。
そんな工夫で、旬を感じられるさまざまな献立を、毎朝15分くらいでととのえているのです。
「こんなまめまめしいこと、自分には無理!」と思うかもしれませんが、ご紹介するアイデアから一つでも試してみると、その便利さに気づくはず。私は夕ごはんに活用しています。

 

**

 

「春野菜をシンプルに食べたい」では、新じゃが、菜の花、新にんじん、うどなど6種の春野菜の、ごく簡潔な調理法を長尾智子さんに教わりました。特別な調味料やスパイスは使っていないのに、なぜか洒落た味わいで、まさに「目先きをかえる」料理ばかり。
私が何度もつくっているのは菜の花のソテー。にんにくの香りをうつした油でじりじりと焼くだけですが、半熟玉子をソース代わりにいただくと、とても美味しいのです。
そのほか、「ラム肉料理入門」は、最近入手しやすくなったラムチョップやラムのうす切り肉、ステーキ用のもも肉で、照り焼きや焼きそばといった親しみやすいメニューをつくるご提案です。
「ラムはちょっと苦手」という方、騙されたと思って、ぜひお試しください。

 

***

 

すっかり暖かくなってきたこの頃、シャツやカットソーの出番ですね。お手持ちのシャツなどに、たんぽぽの花や綿毛、ツリーなどの愛らしい刺繍をほどこして、また新鮮な気持ちで着てみませんか? 
「ちいさな刺繍で春じたく」は、そんな手芸の企画です。指導してくださったのは、神戸のファッションブランド「アトリエナルセ」デザイナーの成瀬文子さん。
ご自身がお子さんの持ち物に気ままに楽しんで刺してきたそうで、今回の刺繍もむずかしい技法は使っていません。サテン・ステッチで十字に刺すだけの、大人っぽいモチーフも素敵です。


 

****

 

「40歳からの、自由になるメイク」は、『暮しの手帖』にはちょっと珍しい企画だと思われるかもしれませんね。
でも、メイクもお洒落の一つですし、ときにはこれまでのやり方を変えてみると、新しい気持ちで自分に向き合えるかも。毎朝、惰性や義務感でメイクをするのは、なんだかもったいないと思うのです。
ヘアメイクアップアーティストの草場妙子さんが教えてくださったのは、眉、肌、リップに焦点をあてた、ミニマムなメイクです。ファンデーションは驚くほど薄づきですが、肌本来のつやが生かされて、みずみずしく見える。アイラインは省いてもマスカラをしっかり塗ることで、目元がきりっとする。
私はもともと、ミニマムならぬ朝5分の手抜きメイクをしてきたのですが(笑)、教えていただいた方法を意識したら、手順がよりシンプルになったぶん、一つひとつを丁寧にやってみようという気持ちになりました。
単なるノウハウではなく、読んで「なるほどなあ」という勘所をつかみ、自分に合わせて生かせる、そんな頁になっています。

 

*****

 

最後にご紹介したいのは、「子どもの虐待を、『かわいそう』で終わらせない」。
「虐待」と聞くと、「なぜこんなことがくり返されるのか」と怒りを感じる方も多いかもしれません。あるいは、子育て中であるなら、「他人事じゃない」と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。
今回の企画は、虐待をされた人をさまざまに支援している高橋亜美さんと、虐待をしてきた人の回復をサポートする森田ゆりさんへの取材を軸にしています。
なぜ虐待は起こるのだろう? それはあくまで家庭内の問題で、当人たちが向き合えばいいことなのだろうか。社会のなかの一人として、私たちができることはあるのだろうか。たとえ、自分は虐待をしていなくても、子どもがいないとしても。
簡単には解決できない問題ではありますが、そんなことを考えながらお読みいただけたらと思います。

 

******

 

いまは新型コロナウイルスの影響で、大変つらい思いをされている方も数多くいらっしゃいます。外出もためらわれ、先が見えない状況のなか、どうにも欝々とした気分になりがちですね。
こうした状況だからこそ、自分たちの暮らしにじっくりと向き合い、いろいろなことを見つめ直してみるのはどうだろう。私はそう考えています。自分の手で毎日の食事をつくる意味。食材や日用品がふつうに手に入るありがたさ。
情報に踊らされず、他者に不寛容にならず、背すじをすっと伸ばして、日々を大切に歩んでいけたらと願うばかりです。
私たちのつくったこの一冊が、何かしらのヒントになれたら幸せです。どうか、心身健やかにお過ごしください。

 

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暮しの手帖だよりVol.19 early spring 2020

2020年02月10日

dayori20

絵 片桐水面

編集長のバトンを受け継ぎ、
心も新たに誌面をリニューアルしました。
ごくふつうの暮らしのなかにある、
深い幸せを掘り下げた一冊です。

文・北川史織(『暮しの手帖』編集長)

 

穏やかに晴れたお正月の朝、ゆったりと流れる隅田川を自宅から眺めながら、この原稿を書いています。
はじめまして、1月24日発売の早春号より編集長を務めます、北川史織と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
早春号をお手に取っていただいたら、「あれ? どこか変わったみたいだ」と思う方もいらっしゃるでしょう。そう、この号より、新たなデザイナーを迎えて、表紙のロゴやおなじみの連載のレイアウトもリニューアルを図りました。より読みやすく、軽やかで心地よいデザインをめざしましたので、ぜひご覧ください。

 

*

 

『暮しの手帖』は、今年9月には創刊72周年を迎えます。親子三代で読み続けてくださる方も多いこの雑誌の、9代目編集長というバトンを手渡されたとき、自分はいったい何ができるだろう、何をしたらいいのだろうかと考えました。
これまで副編集長を務めてきた間も、懸命に考えながら誌面づくりをしてきたつもりでしたが、やはり、これほど深く考えたことはなかったかもしれません。
胸に浮かんだのは、以前、日本橋の老舗ばかりを取材したとき、あるお店の会長さんがおっしゃった言葉でした。
「暖簾は守るものじゃない。磨き、育てるものだよ」
そして教えられたのが、歴史の長い和菓子店が「いつも変わらない味だね」とお客さんから言われるためには、ときに小豆などの産地を変えたり、砂糖の配合をわずかに調整するといった工夫をし続けているという話でした。
時代とともに材料の風味も変われば、食べ手の嗜好も変わっていく。「変わらない味」をつくり続けるには、同じことをやっていればいいわけではなく、変えていく努力が必要なのだと。
私たちの雑誌で考えてみれば、いつまでも変わらない拠りどころのように感じてくださる読者もいれば、つねに時代を見据えて新たなチャレンジをしてほしいと願う方もいらっしゃるはずです。もしかしたら、一人の方からも、その両方を求められているのかもしれない。
変えてゆくことを恐れず、しかし、上っ面の流行には流されず。そうして1号1号、必死で考えて編んでいったら、この「暖簾」を育てられるのかもしれないな。そう考えるようになりました。

 

**

 

早春号の内容を考え始めたとき、まず芽生えたのは、「〈ふつうの暮らし〉に向き合う一冊にしたい」という思いでした。ハレとケでいうならケを掘り下げて、そこにある楽しみやよろこび、できれば悲しみまで、きちんと掬い上げる一冊にできたらと思ったのです。
私たちつくり手自身が、〈ふつうの暮らし〉にどれだけ心を寄せて、そこに何を見出し、自分たちなりの言葉で語り表せるだろう。地味なテーマですから、これは一つの挑戦でした。
巻頭記事は、長野県の小さな集落で暮らす、砺波周平さん、志を美さんご家族を取材し、彼らの素の言葉をちりばめました。
周平さんは写真家ですが、集落では御柱祭などに引っ張り出される働き手であり、ときに面倒な人づきあいにも面白さを見出しながら、ここでの暮らしを丸ごと受け入れて愛おしんでいる。
それは、こんな言葉に表れています。
〈3年前から、地域のお祭りに参加しています。すごい人がごろごろしていて、お酒の席ではのんだくれている人も、お祭りではめちゃ頼れてかっこいい。人には尊敬できるところがそれぞれにあって、深くつきあえばつきあうほど、それが見えてくる〉
この記事のタイトルは、「丁寧な暮らしではなくても」。
誰かの「いいね!」を気にしながら暮らさなくたっていい。正直に、素のままで、一生懸命に暮らしていこう。「それでいいし、充分じゃない? って思うの」と話す、志を美さん。ああ、本当にそうだなと、深くうなずきました。

 

***

 

料理記事3本は、いずれも「家のごはんができること」を見つめ直した内容とし、冒頭には、こんな言葉を添えました。
〈ただおいしいだけの料理なら、外食でじゅうぶん間に合うかもしれないけれど、あなたの身体を心からいたわる料理は、あなたの手でしかつくれない。
ときに面倒でも、とにかく自分の手を動かして、つくって、食べて、生きていく。
食を人任せにしないことは、いのちの手綱を自分でしっかり握ることなのです〉
告白すれば、私自身が「丁寧な暮らし」とは程遠く、終電になんとか乗り込んで、夜更けに慌ただしく料理することもしばしばです。それでも、自分の味ってやっぱりほっとするし、疲れが癒えるし、満足して一日を締めくくれるんですよね。
自宅で何度もつくり、もうすっかり覚えてしまった記事が、「白崎裕子さんの野菜スープの法則」です。
野菜と塩だけでつくるのに、固形スープの素を使うよりも格段にコクの深いおいしさに仕上がる秘けつは、「塩使い」にあり。「料理って科学なんだ」と、その面白さに目覚めていただけるはずです。ぜひ、お試しください。
「気楽に作ろう、養生水餃子」は、昨年の梅雨どきに編集部の台所で開かれた、料理教室がもとになっています。
先生は、中国整体師である棚木美由紀さん。漢方の知識に基づいて考案された水餃子は、あんに使う2種の材料の組み合わせで、身体の不調に働きかけます。たとえば、冷えがつらいときにおすすめという「にんじんとラム肉の水餃子」を頬張ると、身体がすぐさまぽかぽかしてくるのですから、不思議です。
もちっとした皮は、めん棒を使わず手だけで、意外なほど簡単につくれます。
「自分の体調に目を向けるきっかけにしていただけたら」という棚木さんの言葉に、はっとしました。私たちは、日ごろアタマで食べるものを選び、身体が悲鳴を上げても知らんぷりしがちかも。身体の奥からの声に耳を澄ませ、自分をきちんといたわることは、家でつくるごはんだからできること。
養生水餃子を楽しんでつくって味わい、そんな気づきを得ていただけたら、とてもうれしいです。
そのほか、「何てことない和のおかず」は、旬の野菜が主役の、ごく簡単なおかず10品をご紹介しています。一汁一菜の献立に、どうぞお役立てください。

 

****

 

小さくて使い勝手のよい四つの台所を取材した記事が、「ひと工夫ある台所」。「現状維持」が基本の賃貸マンションの台所でも、「なるほど、こうして収納をつくれるのか」といったアイデアをご紹介しています。
食べることを大事にしているから、賃貸でも小さくても、工夫を凝らす。使う人の愛がひしひしと伝わってくる、質素でも実のある台所は、やっぱり素敵です。

最後にご紹介したいのは、〈ふつうの暮らし〉にある悲しみを掬い上げた記事「母を送る」です。
筆者は、料理家の高山なおみさん。昨夏に、90歳の母・照子さんを看取った日々を、当時の日記を交えて綴ったこの随筆の読後感は、ただ悲しいというだけに留まりません。
一つひとつ、できないことが増えていき、意識が濁っても、食べて飲み、生きようとする母の姿。高山さんはこう書いています。
〈私は母のそばにいるとき、A4サイズの紙束とペンを持って、ただじっと見ていました。人がどのようにして体を使い切り、この世から旅立つのか、毎日母から教えてもらっていました〉
私たちの暮らしは、ただ楽しいことばかりではなく、その先にはこうした〈終わり〉がそっと横たわっている。だから余計に、何気ない日々が愛おしいのかもしれません。

一年の始まりは、これからの暮らしをどう紡いでいきたいか、思いを巡らせる季節です。そんなとき、この一冊を開いて、心静かに向き合っていただけたら幸せです。
寒さはこれからが本番、どうかお身体をいたわってお過ごしください。

 

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暮しの手帖社 今日の編集部