何気ない日々をいつくしむ ——編集長より、最新号発売のご挨拶

2021年01月25日

表紙右_DSC7859

こんにちは、北川です。
数日前、在宅ワーク中に、できたてほやほやの10号が届きました。
校正で何度も読んでいても、こうして「本」となった一冊を手に取り、重みを感じながらぱらぱらと読むのは、やっぱりとてもうれしいものです。
今号の表紙画は、おぎわら朋弥さんの「凧あがる」。
この絵をおぎわらさんにご依頼したのは昨秋のことでしたが、一冊に込める思いとして、
「何気ない日常こそ、かけがえのないもの」
「同じ地平で生きる、私たちへ」
という言葉をお伝えし、描く題材を考えていただきました。
「身近にある風景から考えてみますね」とおぎわらさんはおっしゃり、数週間後に受け取ったのが、この絵です。
公園の一角のような原っぱに、凧あげをするお父さんと少年、犬と散歩する人、ボールを蹴る人、寄り添って歩くカップルと、いろんな人が描かれています。
水を流したような早春の空に、夕焼けの色がすーっと混じる美しさ。
なんだか、自分も絵のなかの一人となり、高い空を見上げて、きりっと冷えた空気を胸いっぱいに吸い込むかのような、のびやかな気持ちになったものです。
なんてことない、けれども「かけがえのない」ある一日のひととき。
みなさんも、これに近い情景が胸に浮かぶでしょうか?

このところ思うのは、人は「頑張って」という言葉だけでは、なかなか頑張り続けられないなあ、ということでしょうか。
もちろん、日々の暮らしは、それなりに頑張らなければ回っていかないものですが、家庭で、職場で、淡々と頑張っている人たちが、心底疲れたときに「助けてほしい」と言えているかどうか。
「私はまだ恵まれているほうだ」といった言葉で自分をなだめて、心も身体も疲弊してはいないか。それが心配なのです。

 

詩_DSC7861

今号の巻頭には、いまだからこそ読んでいただきたい、五つの詩を置きました。
まど・みちおさん、谷川俊太郎さん、工藤直子さんによる「生きる」をテーマとした詩は、声に出して読むとゆっくり胸に落ち、いま、私たちが置かれたこの状況を、俯瞰した目で見つめることができる気がします。
続く記事、「迷惑かけたっていいじゃない」は、少し顰蹙を買いそうなタイトルかもしれませんが、けっして、「他人に迷惑をかけても好きに生きようよ」という内容ではありません。
この記事の主役は、横浜市で自主幼稚園「りんごの木」を40年近く続けてきた、柴田愛子さん。子どもから大人まで、すべての人と真正面から対等にかかわってきた柴田さんの言葉は、こんなふう。
「迷惑をかけ合える関係をどれだけつくっていけるかが、生きやすさにつながっていくと思うんです。みんな人にはいいところばかり見せているけれど、たいへんなときに支え合える相手がいることが、いちばん大事なのよ」
私は、「人にはいいところばかり見せている」に、どきっとしました。そうだな、自分はちょっと格好つけていて、そして迷惑をかけていないつもりになっているのかもしれないな、と。
この記事は、それこそ「助けてほしい」と言いにくい人に読んでいただきたいですし、少々めんどうでも人とかかわり合いながら、「助けて」が言える社会をつくっていけたら——そんな願いを込めて編みました。

年明け早々に緊急事態宣言が出されて、私たちは、なるべく出社を控えながら、次号、次々号を制作しています。
どんなことがあっても、日々の暮らしはたゆみなく続いていく。それをどう工夫して、楽しんで、満足して生きていけるか。
みなさんと同じ地平で生きる私たちが、悩んだり、笑ったり、ときに怒ったりしながら、今年も一号一号、等身大の雑誌づくりを続けていきたいと考えています。
どうぞ今年も、『暮しの手帖』をお支えください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織


暮しの手帖社 今日の編集部