【朝日新聞掲載、武田砂鉄さんの書評――『花森安治選集 全3巻』】

2021年01月23日

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今朝の朝日新聞掲載の「好書好日」に、『花森安治選集 全3巻』の書評が掲載されました。評者は本誌連載「今日拾った言葉たち」でもお馴染みのライター・武田砂鉄さんです。
全文をこちらで読むことができます。

https://book.asahi.com/article/14128399

「雑誌『暮しの手帖』初代編集長が残した言葉をまとめた三冊の選集に共通するのは、個人の営みから社会を見渡す目線、そして、権力者が個人の営みを奪おうとするのを、もう二度と許さない決意だ。」とし、
この三冊の魅力をわかりやすく伝えてくださっています。

もう二度と戦争をしない世の中に、「暮し」が何よりも大切な世の中であってほしい。
花森の文章には、『暮しの手帖』の出版理念でもあるこの思いが貫かれています。
敗戦から激動の昭和を生き、庶民の「暮し」に寄り添いながら、一貫して庶民の味方であった花森が見つめていたこと。
ほんとうの美しさとはなにか、ほんとうの幸福とはなにか、国とはなにか……。
そして、自分たちの暮しは自分たちで守ろうと、ときに鬼気迫る筆致で訴えかけます。
まるでいまの日本の現状と展望を危惧して語っているかのようです。

「時系列ではなく、『美しく着ることは、美しく暮すこと』『ある日本人の暮し』『ぼくらは二度とだまされない』と題した三つのカテゴリーに分けて編まれており、この整理によって、花森の思いが再びの強度を宿して放たれている。」
と武田さんが書かれているように、
この三冊は、それぞれ「美学」、「愛」、「怒り」のテーマを持たせ、ひとつひとつが粒立ちした巻としてまとめ上げました。
そして、装釘は花森安治の装画を用い、函入り上製の、愛蔵したいと思っていただける本作りをしています。

花森がこの世を去ったのは1978年です。
私も現編集部員のみなも、残念ながら花森には一度も会ったことがありません。
そこで今回の編集にあたっては、彼が書き手として、また編集者として、
何にこだわり、何を大切にしてきたかを知るために、ご遺族や社のOB、ならびに花森を長年研究していらっしゃる世田谷美術館の学芸員・矢野進さんにご協力をいただきました。
みなさんのアドバイスをいただくなかでしみじみと感じたのは、
「花森安治は今も生きている」ということでした。
彼の提言やその人間性は、今もなお、みなさんの胸に生き生きと宿り、ことあれば導き、心に灯をともし続けているのです。

庶民のあたりまえの暮しを守るため、一本のペンを武器に挑んだ檄文の数々は、現代日本にも通じる魂の叫びでもあります。
世の中がますます不透明、不安定になっている今、花森の言葉には、自分がこれからどう生きるかを考えるヒントが数多く詰まっています。
この選集で花森という人物を読み尽くしてみてください。

「一難去って、また一難とは、このことだろう。
 やっと、オリンピックさわぎがおさまったとおもったら、こんどは万国博覧会だという。まったく、なんちゅうこっちゃ、である。」
――(3巻収録「お茶でも入れて11/運動会がすんだら博覧会」(1965年)より)

1964年開催の「東京オリンピック」と1970年の「大阪万博」を揶揄したこの一編は、とくに今刺さります。
ぜひ、書店でお買い求めください。(担当:村上)

そして、お知らせです!
◎神戸ゆかりの美術館「花森安治『暮しの手帖』の絵と神戸」展開催中

花森が描いた『暮しの手帖』の表紙原画を、関西で初めてお目にかける展覧会です。神戸は花森が生まれ育った街でもあり、開放的な港町の気風や、旧居留地から入る外国文化は花森の美的感覚に大きな影響を与えています。
会期は3月14日まで。
館内のショップでは、暮しの手帖社の書籍や、花森関連グッズも多数販売しています。
お近くの方は、ぜひお運びください。

花森安治『暮しの手帖』の絵と神戸
会期:2020年12月19日(土)〜2021年3月14日(日)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は開館)
会場:神戸ゆかりの美術館

詳細は、下記の神戸ゆかりの美術館公式サイトにてご確認ください。
https://www.city.kobe.lg.jp/a45010/kanko/bunka/bunkashisetsu/yukarimuseum/tenrankai/index.html


暮しの手帖社 今日の編集部