「いま響く言葉」がいっぱいです

2023年09月25日

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「いま響く言葉」がいっぱいです
――編集長より、最新号発売のご挨拶

こんにちは、北川です。
わが家のご近所の浅草寺では、仲見世の軒先に紅葉のディスプレイがはためいています。先週までは、それが場違いに見えるほど日差しがギラギラしていましたが、ここ数日でずいぶん涼しい気候になりました。ほっとして体が緩むと、夏の疲れが出たりするもの。お変わりなくお過ごしでしょうか。
さて、今月11日に発売した『創刊75周年記念別冊 暮しの手帖』に続けて、このたびの26号は「創刊75周年記念特大号」です。
表紙画は、皆川明さんによる「安息」。2匹の猫が寄り添う乳白色のランプ、実はこれは、初代編集長の花森安治が愛用していたものです。ランプは、花森さん(私たちはそう呼んでいます)が編集長を務めた30年の間、表紙や挿画に幾度も描いたモチーフで、まさに『暮しの手帖』のシンボル。創刊号の表紙画をご覧いただくと、チェストの上に、愛らしいランプがちょこんとありますね。

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創刊した1948年は、東京はそちこちに焼け野原が残り、多くの日本人は傷ついた心や体を抱えながら、新たな価値観を求めて歩み始めた頃でした。衣食住に必要なものも、読み物も充分になく、これから先の展望も見えない。花森さんは、「まだ暗い世の中に、かすかでも、希望の灯火を灯すような雑誌でありたい」、そんな願いを込めてランプを描いたといわれています。
では、いまの時代が満ち足りているかといえば、そんなことはないんじゃないかと私は思います。もちろん、私たちは75年前よりもずっと多くのものに囲まれて暮らしてはいますが、自分のこれからの暮らし、この国や社会の行末、いろんなことに「よるべない思い」を抱えて生きている人は多いのではないかな。そう感じるのです。
今号は、私たちの初心である「ランプ」を表紙画として、「いまの暮らし」に向き合う一冊を編んでみたいと思いました。
いつもの『暮しの手帖』は、いろんな特集記事が9〜11本詰まった、「幕の内弁当」みたいなつくりですが、今回は16頁増やし、4つの大きな特集を組んでいます。

第一特集は「ずっと、食べていく」。私たちは生きる限り食べ続けなければならず、その礎となるのは「家のごはん」です。そうよくわかっていても、いろんな事情で思うようにつくれないこともあれば、理想を追い求めて疲れてしまうこともある、そんな声を聞いたりもします。
ならば、ふだんの料理記事ではこぼれてしまいがちな、「家のごはんって何だろう?」を掘り下げる特集を組めたらなあと思ったのです。登場する6名の方がそれぞれに語る、「家のごはんの物語とよりどころ」。お読みいただき、心を動かされたなら、そのお話に付随する料理をぜひつくってみてください。
この手で、自分を生かすものをつくれるって、いいものだな。そう感じるところから自分の暮らしを見つめて、自分なりの指針、「よりどころ」を見いだしていただけたらうれしく思います。

第二特集は「これからの暮らしの話をしよう」。これは、いつも連載してくださっている執筆陣の3名が、それぞれに「いま会いたい人」を訪ねて語り合う対談(鼎談)記事です。
ライターの武田砂鉄さんは、『海をあげる』などの著作で知られる沖縄の教育学者・上間陽子さんのもとへ。画家のミロコマチコさんは、10年来ワークショップを行なっている横浜の障害福祉事業所「カプカプ」へ。評論家の荻上チキさんは、作家の村田沙耶香さんと。
それぞれの記事は要約しがたく、とにかく読んでいただきたい、それに尽きます。世の中を見ていてモヤモヤとしていたことが、会話のやり取りを追ううちに、「ああ、そうだったのか」と気づきを得たり、「そういう考え方もあるのか」と明るい気持ちになったり。面白いのは、それぞれの会話のテーマが、「暮らし」でありながら「社会」でもあること。
自分の暮らしは、自分の手で工夫してつくっていく。それは本当のことですが、それだけではどうにもならないこともある、そう感じることはありませんか。この社会が、もっと居心地よいものであれば、私たちの暮らしも、もっと心地よくなるのかも。それにはどうしたらいいか、一緒に考えてみませんか。

第三特集は「あの人の本棚より 特別編」。人気連載の拡大版で、今回は5名の方の「本棚」が登場します。
第四特集は「コロナ下の暮らしの記録」。こちらは、読者のみなさまから投稿を募り、短い期間にもかかわらず、多くのご投稿をお寄せいただきました。職業や内容にバラエティーが出るよう、編集部で何度も読み返し、悩みながら選び出した18編をご紹介しています。切実な話もあれば、ほのぼのとした話もあり、見えてきたのは「一人ひとりのかけがえのない暮らし」そのもの。ご投稿くださったすべてのみなさまに、心よりお礼を申し上げます。

振り返ると、この一冊は、とりわけ「言葉」を大切にした内容になりました。それは概念的な言葉というより、「暮らしと結びついた言葉」です。読んであなたが考えたことを、あなたの言葉で、まわりの人に話していただけたら。または、ご感想をお寄せいただけたら、本当にありがたく思います。

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付録の大判ポスターは、先述の花森安治による創刊号の表紙画と、連載陣のお一人、ヨシタケシンスケさんによる「一人ひとりの暮らし」を一枚に。75年前の創刊から、「いま」に至るまで、ずっとずっと「あなたの手帖」でありたい。そんな思いを込めて編んだ、手前味噌ながら、力作の号です。いろんな言葉を胸に響かせながら、どうぞじっくりとお楽しみください。

『暮しの手帖』編集長 北川史織


暮しの手帖社 今日の編集部