出来ない理由は並べない

2022年08月09日

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出来ない理由は並べない
(19号「絵描き・やまぐちめぐみ 愛らしさは、つよさ」)

こんにちは、編集長の北川です。
『暮しの手帖』は5世紀1号より、毎号の表紙画をさまざまな作家の方に依頼するようになりました。「大変ではないですか?」とよく聞かれますが、ええ、じつに大変です。以前よりまめにギャラリーをめぐるようになりましたし、いつも作家を探しています。
8号で取材を受けてくださった原宿のカフェ「シーモアグラス」にお伺いしたときのこと。お店の奥にかかっていた、大きな絵に目が惹きつけられました。鮮やかなブルーの海にただよう小舟、海と溶け合うような夜空。どこか寂しげでメルヘンチックなこの絵の作者は誰だろう? 店主の坂本織衣さんに尋ねると、2015年に若くしてお亡くなりになった、やまぐちめぐみさんの絵だと教えていただきました。
それから数日後、料理家の枝元なほみさんを取材でお訪ねしたところ、見覚えのあるタッチの青い絵が飾られていました。ああ、ここにも、やまぐちめぐみさんがいた!

今回の記事は、めぐみさんの絵がたたえる独特な世界観と、彼女が歩んだ49年の人生の一端を紹介したい、そんな思いから編みました。
31歳で家族と別れて単身上京し、30代半ばで絵を描きはじめ、制作の傍らお菓子を焼いて暮らしを立てた、めぐみさん。自分のことを「人見知り」だと称していたそうですが、驚くほど多くの友人がいて、病を得てからも変わらぬ付き合いをしました。
執筆を担ってくださったのは、やはり友人だったライターの石川理恵さん。石川さんは、めぐみさんがSNSに残した日記を丹念にたどり、印象的な言葉をいくつも掬いあげては、原稿に生かしてくださいました。たとえば、こんな言葉です。

何かをはじめる時 
「出来ない理由」を人はいくらでも並べてみせて
「だからまだ、」とか「できっこない」って 
人に向けてだけではなく自分に向けて言うけど
私は出来る理由をまず、自分に向けて並べるようにする。
(2008年12月21日の日記より)

愛らしさは、つよさ。彼女の言葉と絵から、そんなタイトルがふと浮かびました。めぐみさんの残した唯一無二の愛らしい世界に、じっくりと浸っていただけたらうれしいです。(担当:北川)


暮しの手帖社 今日の編集部