使い込まれた漆器のように

2024年02月09日

使い込まれた漆器のように
(28号「小さな家を建てるなら」)

こんにちは、編集長の北川です。
かれこれ15年ほど前、前職の時代に訪れた家が、ずっと忘れられずにいました。東京・国立市の住宅地の一画、24坪弱の敷地に建つ、こぢんまりとした家です。
なるたけ余分なスペースをとらないように、いわゆる「玄関土間」はなし。天井の低い短い廊下を歩き、階段を上がると、思わず「わあ」と歓声がもれました。明るくて伸びやかなリビング・ダイニングの空間が、ぱーっと広がっていたのです。これはたぶん、狭い空間から上がっていったから、余計に広々として感じられたのでしょう。
そんなメリハリの利かせ方のほかにも、この家には、「居心地のよさ」をもたらす工夫があちこちに。15年ぶりに再訪し、住み手であり設計者でもある田中敏溥(としひろ)さんに、詳しくお話を伺いました。

田中さんいわく、施主のほうに必要なのは「暮らしの哲学」だと言います。というとカタく思えるかもしれませんが、要するに、「自分たちはどう暮らしていきたいか」という強い思いと実践があれば、「限られたスペースやお金の割り振り方」といったことも自ずと見えてくるのでしょう。
今号には「漆器を使ってみませんか?」という特集記事があるのですが、住まいは暮らしにとって「大きな器」のようなもの。使い込まれた漆器が深みのある艶をまとうのと同じく、30年という家族の営みが刻まれた住まいは、本当に「よい歳の重ね方」をしています。

ちなみに田中さんは東京藝術大学の建築学科卒で、恩師の一人に、住宅建築の名手として知られる吉村順三さんがいます。現在、東京・東陽町の「ギャラリーエークワッド」では、「建築家・吉村順三の眼(まなざし) アメリカと日本」を開催中です。住宅にご興味のある方、必見ですよ。(担当:北川)

◎展覧会「建築家・吉村順三の眼(まなざし) アメリカと日本」


暮しの手帖社 今日の編集部