きっと未来に続きます

『本を贈る』
『本を贈る』
著者 笠井瑠美子、川人寧幸、久禮亮太、島田潤一郎、橋本亮二
藤原隆充、三田修平、牟田都子、矢萩多聞、若松英輔
三輪舎 1800円+税 装釘・装画 矢萩多聞

 厚みのわりに驚くほど軽量のこの本は、贈るように本をつくり、届ける10人の思いがつまったエッセイ(小論)集です。編集者、装釘家、校正者、印刷や製本、取次、営業に従事する人、書店員、本屋、そして批評家と、本をつくるところから読者に届くまでには実に多くの人や仕組みがかかわりあっていることに気づきます。
 私の周辺には本を溺愛する仲間がたくさんいます。つい先日も「事務的に本づくりをしていたら本が可愛そう」というほど本に情熱と愛情をそそいでいるデザイナーとの話に心打たれたばかりです。私たちは見かけがカッコイイ本にどうしても目を奪われがちです。でも、そこを到達点にするより、つくる過程でいちいち「これでいいのか?」と問い、共に制作する人たちと自分たちができうるその時の最高の形は何かを探り、心を寄せることが大事だと教えてもらいました。このデザイナーも贈るように本をつくるひとりだなと思います。そして次の工程へと見送るような気持で思いのバトンをつなげて行く……。
 『本を贈る』にエッセイを寄せた10人が深く本とかかわる仕事に就くようになった理由はそれぞれですが、好運な出会いとともに心揺さぶられる事象と遭遇し、誰かと「わかちあいたい」という衝動が何よりの原動力となっています。それがたったひとりの相手であろうと100万人であろうと、近しい人であろうと知らない誰かであろうと。
 「本はもう終わりだ」と囁かれて時が経ちますが、「贈るように本をつくり届ける」人たちの存在がある限り、本の未来の光は灯し続けられると感じた嬉しい1冊です。これから本をつくる仕事をされたい方にも読んでいただきたいなと強く思います。(上野)


暮しの手帖社 今日の編集部