「澄んだ空に 大きなひびきが」  ──編集長より最新号発売のご挨拶

2017年09月25日

90号表紙

「いつの間に もう秋! 昨日は
夏だつた……おだやかな陽気な
陽ざしが 林のなかに ざわめいてゐる
ひとところ 草の葉のゆれるあたりに」
    (「また落葉林で」立原道造)

8月が終わり9月となって、まだ続く夏の名残の陽気のなかで、真っ青な空や、夕焼け雲を見たり、虫の声を聴き、昼の短さや風のつめたさを感じる日々。
どの瞬間にも自動的に上の詩の一節が降りてくるのです。
「いつの間に もう秋!」
若い詩人が、秋の到来に感嘆符までつけて、びっくりしています。
戦前の繊細な詩人と同列で語っては叱られるのですが、本当に夏ははかなく、秋ってやつは、あっというまに忍び込んでくる(春の到来より圧倒的に早い)。
昨日は夏だったのに……とぼくもそう思う者です。毎年、まいとし。
わあ、もう二学期かあ、とびっくりしてきたのです。
わあ、あの子はもう長袖だ! とかね。

そして『暮しの手帖』も、もう秋号! であります。
このひと夏、この新しい秋のためにみんなで企画、準備し、紡いできた1冊をお届けします。
どの特集がみなさまのお気に召すでしょうか? ぜひお手にとってご覧いただければ幸いです。明日からしばらく、編集部員たちがそれぞれの記事のご報告をいたしますので、どうぞお楽しみに。

ところで、立原の上の詩にはこんな一節もあります。

「澄んだ空に 大きなひびきが
鳴りわたる 出発のやうに」

この詩はボードレール「秋の歌」に由来する。

「昨日は夏だった 今はもう秋!
不思議な音が鳴り響く 出発のごとく」(澤田訳)

詩人たちは、どんな音を秋の日に聴いたのでしょうね?
それも毎年、ミステリーのように思うことです。
その音は、ぼくには計り知れないけれど、「出発のやうに」や「COMME UN DEPART(コム・アン・デパール)」って唱えてみて、背筋のしゅっと伸びる、気持ちのいい季節。
90号、出発です。

編集長・澤田康彦


暮しの手帖社 今日の編集部