暮しの手帖社 | 3 91歳の手と、23歳の手と

3 91歳の手と、23歳の手と

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87号刊行記念イベント 2017/4/10/19:00〜  「のんの愛する洋服づくり」
のん×澤田康彦(『暮しの手帖』編集長)
東京堂ホール(神田神保町/東京堂書店)  写真 長野陽一

巻頭特集「直線裁ちでつくる 春の はおりもの」で、ソーイングに挑戦した女優にして“創作あーちすと”の、のんさんとのトークイベントです。
趣味の縫い物のこと、『この世界の片隅に』のこと、最新刊のこと、質問コーナー……等々、「しゃべるのは苦手」というのんさんが、気づけばたっぷりお話ししてくれた貴重で愉しい記録です。
あっというまに満席となったイベントの、のんびりほっこり、笑いでいっぱいの幸福な空気感を、来られなかった皆様にもぜひお伝えしたく、できるだけ進行のままに再現しました。
のんさんの愛らしい、独特の間合いも、ぜひお楽しみください。
全5回でおとどけします。

3 91歳の手と、23歳の手と

澤田 ところで、『暮しの手帖』はまもなく創刊70周年を迎えますが、今まで1ページ目、表紙をめくったところに女優が写っているものってなかったんですよ。
のん 初!?
澤田 そう。で、最近のを調べてみたら、40号、2009年6-7月号の5ページ目に登場するのが……これです〔と、雑誌を取り出す〕……ジェーン・バーキンさん。
のん の、次っ?
澤田 に、のんさん。しかも巻頭です。と、それだけが言いたくて持ってきたんです。
のん 光栄です。ありがとうございます。
澤田 では今回の『暮しの手帖』の巻頭特集についてお話ししていきたいと思います。
〔二つ目のハンガーラック登場〕
 これは今回撮影で使った洋服です。matohuのデザイナー、堀畑裕之さん、関口真希子さんがデザインしてくださり、私たちでつくったものです。長い丈のものもあるし、短いものもあります。大小もある。
のん かわいい。
澤田 そして、今日のんさんが着ているものが、まさに現物。自作の一着です。
のん はい。がんばりました!
澤田 これも、店長が「あの生地を選ばれたんですね!」って(笑)。
のん すごく扱いにくい生地だったので、時間がかかって。matohuさんといっしょにつくりました。
澤田 メキシカンな柄だね! ってみんなで言ってたんですけど。
のん そう、メキシカーン!
澤田 でも説明見たら「チロル」ってありました(笑)。ヨーロッパやん。なので、本当はチロリアン!
のん チロルに住んでるメキシコの人ってイメージです(笑)。
澤田 「直線裁ちのはおりもの」をつくる、という企画だったんですけど、このプラン、最初どう思われましたか?
のん 素敵! と思いました。直線だけでつくれるというのは魅力的ですよね。やっぱりカーブがあるとへんに曲がっちゃうので。そもそも私は、直線を、曲げずに縫うのもむずかしいから。
澤田 はおりものっていいですよね。春のスプリングコートとか、トップコートって言葉も響きもいいし。
のん まさにそうですね。快適で。
澤田 小さな子もお母さんも、老若男女で着られるっていう仕様です。『暮しの手帖』ではいつもそういうものを紹介していきたいと思っているんですよ。「男の人もつくりなさい!」って、まだやったことないぼくが言うのもどうかと思うんですけど、すごく願うんですよ。女性誌とは全然思っていないんです。

◆パン屋さんだあ~っ!

澤田 のんさんは、ファッション撮影とかは得意ですか? 楽しい?
のん 楽しいです。好きです。
澤田 ぼくにとっても、久々のロケ撮影でした。あまり予算のない『暮しの手帖』で、珍しくロケバスを用意して。うれしかったですね。みんなが早朝約束した時間に集まって、プロたちがそれぞれの仕事をきびきびとこなして……。
のん いいですよねえ。
澤田 いいですよねえ!
のん あ、私、この撮影の帰りにパン屋さんで、パンを買いました。
澤田 あ! すみません、お弁当出さないで(焦)。
のん や、そういうことではなくって(笑)、なんか日頃、初めてのお店に入ることがあまりないんですよ。でもこの日は街に出て、『暮しの手帖』の撮影が楽しくて、とても気分よくなって、帰りに歩いていたら、「パン屋さんだあ~っ!」って(笑)。
澤田 麻布十番でしたね。
のん そう。かわいいパン屋さんで、思わず買いました。美味しかった。
澤田 のんさんは、『暮しの手帖』って、直線裁ちを創刊号からやっているって知ってました?
〔スライドで、創刊号のファッション写真を見ながら〕
のん あ、かわいい。「直線裁ちのデザイン」だ。
澤田 モデルは大橋鎭子。
のん わ、とと姉ちゃんですね!
澤田 そうです。創刊が1948年。創刊から自分の手で服をつくっていこうっていう精神のままにここまで来て、今回も、のんさんの手で服をつくっていただいて、またこんなふうに20年30年後も続いていくんだろうなあ、続いていってほしいなあ……と思いますね。
 今回の87号が出たときに、「ひきだし」っていう定例ページを書いていただいている渡辺尚子さんというライターさんからメールが来たんです。それがとてもうれしい文章だったので、その中の一部を紹介させてもらいますね。

「『暮しの手帖』の87号がとっても良くて、それを伝えたくてメールしました。
花森さんのことばの隣に、のんさんの真剣なまなざしのあの写真があることに、まず、力をもらいました。花森さんのことばは、今日も生きているな、と感じました。
そのあとは、のんさんのあの扉写真の手に惹きつけられてしまいました。
女優がものをつくる演技をしているときの手ではなくて、あれは、ものつくりが、ものをつくっているときの指先。
この人は、ものつくりなんだ! と、ハッとしました。
私がうれしかったのはもうひとつ、カンタの望月さんと、のんさんが、同じ号に載ったことです。
64ページの、望月さんがカンタに針を刺そうとしている手と、のんさんの、布にはさみを入れようとしている手は、どちらもまごうことなき、ものつくりの手だと思います。
ものつくりの魂は、作品のなかに宿っているのではなくて、こんなふうに、手から手へ手から手へ手から手へ……と気が遠くなるほど繰り返されながら受け渡されて続いていく、その生活のなかに息づいているのだ、と91歳の手と、23歳の手を見ていて、感じました。
そのことに、大きな勇気をもらいました」

〔場内大拍手〕
のん やったー! ありがとうございます。
澤田 ぼく自身が、『暮しの手帖』ってこういうことなんだな、と教えていただいたようなメッセージでした。
のん 本当に望月さんのカンタ刺繍が素晴らしくて。全部手縫いですよね。
澤田 そうです。
のん 身近にあるものをモチーフにするんですよね。葉っぱとか。これはどのように縫っているんだろう?
澤田 それは望月さんに聞いていただきたい!
のん あ、はい(笑)。
澤田 偶然なんですよね、91歳と23歳が同じ号で、同じ1冊の中で手を使って、ものをつくっているって。でも必然なのかな、『暮しの手帖』においては、とも思いました。
のん 91歳というと……もしかすると今のすずさんと同じくらいかも。
澤田 あ、そう!? それも素晴らしいことですね。
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◆何でも毎回失敗しながらです

澤田  ちなみに今号の『暮しの手帖』、ここのページがよかったとかってありますか? この記事がよかった、とか。編集長のエッセイがよかったとか。
のん あ、えーと、今の望月さんのページ、すごく素敵でしたね。ほかには……ごはん!
澤田 ごはん?
のん えーと、そう、パスタ! 貝殻のマカロニの料理。
澤田 コンキリエですね。
のん イワシとグリンピースのオイルパスタ……か。美味しそう! って思いました。
澤田 のんさんは料理はする方ですか?
のん するっちゃするんですけど……いつも同じものばかりつくるんです。知らない食材とか、使いなれていない食材に挑戦することがなくて。
澤田 得意料理は何ですか?
のん ハンバーグとかですかね。自分が好きなので。こねるところから。刻んだ野菜を入れて、練って。煮込みハンバーグが好きですね。でも毎回上手くいかないんですよね(笑)。
澤田 あ、そうなんですか! ソーイングのときもそうおっしゃってましたね。
のん そうですね。何でも毎回失敗しながらです。
澤田 上達のもとはそれですよね。
〔つづく〕


暮しの手帖社 今日の編集部