チューブ入り練り歯みがきの製造に成功し、大喜びした常子……

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ついにチューブ入り練り歯みがきの製造に成功し、大喜びした常子。
ああ、それなのに、まさか……「ポンッ! ポンッ!」って……。思わず目を覆ってしまいました。

実は、このエピソード、大橋鎭子が14歳のときに作った「オーシー歯みがき」がもとになっています。
大橋の母は、歯の悪い人でした。あるとき、診ていただいていた歯科医の先生が、満州に派遣されることになって、自分がいなくなっても作れるようにと処方を教えてくださったのが、きっかけでした。
「母の歯槽膿漏が治ってきた」と女学校の同級生に話すと、「お母さんが歯槽膿漏だから使いたい」と言われます。それで作ってさしあげたところ、ひとりのお母さんから、「売られたらどうでしょうか。歯槽膿漏の人が助かります」と請われ、はじめて売ることを考えたのです。

写真は、自伝『「暮しの手帖」とわたし』のために、大橋が最初に書いた原稿の一部分。
そう! この挿絵(上)の形は、まさに絵の具のチューブ(星野さんがヒントをくれたものと同じ!)です。
常子のあの嬉しそうな表情のとおり、大橋は完成した時、「大きな船に乗り込んで大海を渡り始めているよう」だったと綴っています。
ところが、翌朝、母の悲鳴で眼を覚まして……。どうなったのかは、もうみなさま、ご存じですね。

実は、このお話にはさらに続きがあります。
失敗の後すぐ、大橋は、「クリームが入っているような、陶器、あれなら大丈夫だろう」と思いついて、浅草の瀬戸物屋さんを訪ねるのです。「口が広くて、歯ブラシに練り歯みがきがつけやすい形にしたい」と相談し、完成した容器が、挿絵(下)の形。大橋のオーと、鎭子のシーを合わせたロゴも付けました。完成した「オーシー歯みがき」を、大橋は、堂々、丸ビルや朝日新聞社へ売りに出かけたのです。
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行動力もさることながら、どこか挑戦を楽しんでいるようなエネルギーが伝わってくるエピソード。
東堂先生の「あなたは? 挑戦なさっていますか」という言葉も、いっそう胸に響いてきます。

さてさて、三姉妹は今後、どんな挑戦をしてゆくのでしょう。ぜひ本屋さんで、お手にとってご確認ください。
(担当・長谷川)

ポケット版『「暮しの手帖」とわたし』
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暮しの手帖社 今日の編集部