1. ホーム
  2. > Blog手帖通信

戦後から現在、街の移り変わりを写す

富岡畦草・記録の目シリーズ『変貌する都市の記録』
富岡畦草・記録の目シリーズ『変貌する都市の記録』
富岡畦草・富岡三智子・鵜澤碧美 著・写真 白揚社
2,500円+税 装釘 岩崎寿文

 「昭和20年8月15日、第二次世界大戦決着。25日、私は所属していた谷田部海軍航空隊解散復員に伴い常磐線土浦駅から超満員列車に乗って東京駅へと向かいました。このとき東京駅へ近付くにつれ、街は無残な被害状況で、痛恨の極まり、多くの犠牲戦友への弔いも合わせ、この真実を歴史に残す必要性を痛感しました」(まえがきより)
 写真家の富岡畦草(けいそう)さんは、記録写真を撮り始めた動機をこう書いています。海軍航空隊で特攻隊の志願兵として終戦を迎えた畦草さんには、敗戦時の街の姿と、復興していくに違いないこれからの街の姿を写していくことが、とても大切なことだと思えたのでしょう。以来、約70年にわたって、東京の各地の街頭を撮り続けてきました。
 それも、移り変わりが分かりやすい「定点撮影」の手法を用いて。本に収められている撮影場所は、都内を中心に66地点。多くは、見開きのページに昭和30年代前後、昭和後期か平成初期、平成28~29年のものと、3つの時代の写真がレイアウトされています。
 たとえば「東京駅・丸の内中央口」は、昭和34年と50年、平成28年の3点。駅をセンターにとらえた3つの写真からは、周囲のビルが建て替えられていく様子が見てとれるのもさることながら、どれも駅前のどこかが工事中だという事が分かります。
 「東京タワー」は、昭和33年と平成29年の2点。しかも1枚目のタワーは、完成の三月半ほど前で、先頭部分が未完成の写真です。足元には、古びた木造平屋の大衆酒場と何かの商店、その奥遠くに見える煙突は、銭湯かもしれません。写真の解説には、タワーの資材に米軍戦車のスクラップが使われていることが触れられ「希望の象徴となった東京タワーは、敗戦の傷を乗り越えようと奮闘した国民の覚悟の象徴でもある」との一文が。
 この記録集は、戦後、日本がどのように復興してきたのかを考えるきっかけとなり、記憶のよすがともなるでしょう。また、考えを深めるのは後回しにして、昔の街並みや看板広告、人々のファッション、道を走る車やバイクの車種に注目するのも面白そうです。
 そして、この記録写真には、畦草さんと娘の三智子さん、孫娘の鵜澤碧美(うざわたまみ)さんの三代にわたって撮り続けられているという稀有な特長があります。親子代々の意志の連なりに、ただ敬服するばかりです。(菅原)

隠れた魅力を探しに

2017年12月13日

10DSC_0152

隠れた魅力を探しに
(91号「今日の買い物 名古屋へ」)

突然ですが、昨年行われたあるアンケートで「もっとも魅力に欠ける都市」の第一位に選ばれたのはどこか、ご存知ですか?
実は、名古屋市なのだそうです。
連載「今日の買い物」の取材で全国各地を訪れている編集者の岡本仁さんは、この結果に首を傾げてしまったといいます。なぜなら、モダニズム建築やパブリックアートに興味のある岡本さんにとって、「名古屋はただ歩いているだけで、宝物だらけの都市」とのこと。
名古屋取材から戻った岡本さんの写真を見せてもらうと、地下鉄のコンコースやホームの美しい壁画がずらり。こんなにすばらしい壁画にあふれているなんて……! とびっくりするとともに、目線を少し変えるだけで、街の印象は大きく変わるのだと実感しました。
つづけて岡本さんが見せてくださったのは、滞在中に何度も食べたという「きしころ」(きしめんの冷たいものをそう呼ぶのだそう)の写真や、いろいろなお店で食べ比べたというモーニング、鮮やかな色合いの有松鳴海絞りの手ぬぐい――。
岡本さんのお話を聞き終える頃には、すっかり名古屋に行きたくなってしまったのは言うまでもありません。(担当:井田)

11DSC_0152

新しい家庭の味に出合いました

2017年12月12日

05DSC_0152

新しい家庭の味に出合いました
(91号「リゾットの新提案」)
本格的なリゾットが、おうちでも簡単に作ることができたら、なんて嬉しいのだろう。という思いからはじまった企画です。
ブイヨンやダシを使わず、お鍋ひとつで仕上がる手軽さで、具材も入った、食べごたえのあるリゾットならば、きっと素敵な食卓になるだろう。
と、編集部でのイメージはどんどんふくらんでいきました。
そんな多くの問題を解決し、素晴らしいレシピを教えてくださったのは、料理家の脇雅世先生です。家庭で身近な食材を使い、ダシを使わず、米を洗わず、お鍋ひとつで完成するボリュームのあるリゾットは、まるでチャーハンを作るような手軽さです。
具材のうま味が、ふっくらとしたお米にしっかり馴染み、ほおばるごとに笑顔になれる、あたたかなリゾットを、ぜひご家庭でお試し下さい。(担当:山崎)

夜空を見上げたくなる、物語の数々

写真で見る 星と伝説 秋と冬の星
『写真で見る 星と伝説 秋と冬の星』野尻抱影 文 八板康麿 写真
偕成社 1,600円+税 装釘 三上祥子(Vaa)

 太古より、人々は夜空を見上げ、輝く星々を神や動物に見立て、さまざまな物語を紡いできました。ギリシャはもちろん、中国や日本でも。
本書は、秋と冬の星座にまつわる世界各地の伝説と、美しい星空の写真を掲載しています。底本となっているのは、野尻抱影の名著『星と伝説』。秋はペガスス座やペルセウス座、冬はおうし座やりゅうこつ座など、それらの星座にまつわる9編のお話が収められており、たっぷりのカラー挿絵が入っています。
例えば、オリオン座。四角形を描く星のなかに、並ぶ三つ星。おそらく、みなさんもご覧になったことがあるかと思います。
 ギリシャではオリオン座は、太い棍棒を持って野山の獣を狩る勇者の姿とされました。勇者オリオンは、月と狩りの女神アルテーミスと恋仲になるのですが、彼女の兄、日の神アポローンによって悲劇の死を迎え、やがて星になったのだとか。
 ところ変わってアイヌの人たちは、オリオン座の三つ星をイウタニ(米を搗く杵)と呼び、これは働き者の三人の若者が星になったもの。こんなふうに同じ星座でも、それぞれの時代に、それぞれの場所で、違った伝説が生まれたことがわかります。
 ほかにも、多情の大神ゼウスに、夫の浮気を怪しむ妃ヘーラ。娘のアンドロメダを溺愛する、親ばかの母・カシオペヤ。物語のおもしろさもさることながら、「人間くささ」や「戒め」は、時代を超えて、人類の不変のテーマなのかしら、と思ったり。
 解説によると、地球からアンドロメダ銀河までの距離は230万光年。私たちがいま見ているのは、230万年前に放たれた光なのです。そして「アンドロメダ銀河は数十億年後に、われわれがいる銀河と合体すると考えられて」いるそうです。悠遠のかなたに広がる銀河と、それを見るちっぽけな私。
 オリオン座の隣はおうし座で、その下にあるのはエリダヌス座……。当初はのっぺりと見えていた星の写真が、読み進めるほどに、時間と空間の厚みをもって、眼前に迫ってくるように感じられました。
 本書では、それぞれの星の解説や見つけ方、コラムなども充実しています。これからの季節、ますます夜空を見上げたくなる一冊です。(圓田)

人はいろいろ、家族もいろいろ

2017年12月08日

14DSC_0152

人はいろいろ、家族もいろいろ
(91号「家庭教育支援法案から考える 家族ってなんだ」)

「家族なのに」。「家族だから」。よく聞く言い回しですよね。でも、こういう言葉を耳にするたび、私の心には、言いようのないモヤモヤが立ち込めます。「なのに」「だから」。これらの言葉の選択が、「家族」にまつわる、ある一定の価値観やイメージの強要を象徴しているように思えるからです。
たとえば「家族なのにつめたい」と言うとき。そこでは「家族はあたたかいものだ」という前提が共有されています。
あるいは、「家族だから助け合う」と言えば、「そうするのが当然だ」というニュアンスが伝わりますよね。
でもでも、とそこで私は思うのです。「家族」はひとつひとつ、そして人それぞれに違うものなのだから、そういうふうに十把一絡げにすることなんか、本当はできないんじゃないかしら、と。
今回の企画は、そんな私の「モヤモヤ」から生まれたものです。現在準備されている、「家庭教育支援法案」という法律案を切り口に、「個人と家族」の関係性や、「社会と家族」の位置づけ、あり方について、改めて考えます。
コラムニストのジェーン・スーさん、作家の山崎ナオコーラさん、同じく作家の佐川光晴さん、社会学者の岸政彦さん、文筆家のアーサー・ビナードさんに、「家族」について語っていただく頁もあります。皆さんがいま一度、「私の家族」について考えるきっかけになれば幸いです。(担当:島崎)

すてきで便利な、この冬の相棒。

2017年12月06日

16DSC_0152

すてきで便利な、この冬の相棒。
(91号「ふたりの手袋」)

このところぐんと寒くなり、手袋の出番がやってきました。
みなさんはどんなものをお使いですか?
ニット作家のすぎやまとも先生は、「手袋を編むのなら、指にフィットしてあたたかい5本指が断然おすすめ」と言います。
わたしは人一倍手が小さいので、既製品では指先が余ってしまい、悲しい思いをしてきました。ですから、自分の指にぴったりに編めると聞いて、ときめいたのです!(もちろん、長くも、太くも、細くも編めますよ。)
それならば、と、さらに先生にリクエストをしてみました。
「手袋をしたまま、指先が自由に使える工夫ができませんか?」
こうして特別に考えていただいたのが、今回の手袋です。
ポイントは指先のカバー。一見普通の5本指ですが、カバーをはずせば指が出て、携帯電話の操作などができる優れものです。
5本指を編むのは難しそうに思うかもしれません。
わたしも初めはそうだったので、試作を繰り返し、写真をたくさん使って丁寧に作り方を解説しました。この通りに手を動かせば、いつの間にか慣れて、編むのが楽しくなると思います。
女性用、男性用のすてきな編み地をご紹介しています。贈り物にもぜひお役立てください。(担当:平田)

17DSC_0152

・『暮しの手帖』91号買物案内「ファスナーボタンエイド」について

2017年12月05日

『暮しの手帖』91号の115頁でご紹介した商品、
「ファスナーボタンエイド」について、
誤って、東京都台東区の株式会社ウィズ様に
お問い合わせの連絡が入るという事例がありました。
読者の皆様、ならびに株式会社ウィズ様に
ご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。
正しくは、大阪市西区にある株式会社ウィズです。
ファスナーボタンエイドをお求めになる際には、
お近くの介護用品店などで注文なさるか、
下記に電話をして、「暮しの手帖を見た」と伝えて
ご注文ください。

株式会社ウィズ
電話:06-6536-9990

『子どもに食べさせたい すこやかごはん』

2017年12月04日

ごはん_表紙DSC_0088

毎日のごはんで元気なからだをつくる。
健康に育つカギは「和食」にありました。

 子育て真っ最中のおかあさんのグループ「おかあさんの輪」が、ついに待望の「ごはんの本」を完成させました。
前作の、素朴で安心な手作りおやつのレシピ集『子どもに食べさせたいおやつ』(2007年刊)は、「これなら私にもできる」と思える手軽さとユニークなアイデアから、現在も多くの読者の支持を得ています。これまで編集部には「今度はごはんの本を!」というご要望がたくさん寄せられていました。
 そんな読者の信頼のあついおかあさんの輪のみなさんですが、集まるようになったきっかけは、自身の子どもがアトピー性皮膚炎や気管支ぜん息、鼻炎などのアレルギー体質だったことからでした。「薬にばかり頼りたくない」、「もっと強いからだになってほしい」、そんな同じ思いを抱えるおかあさん仲間なんです。
「からだをつくる毎日のごはんで、体質を改善させたい」。そう願って毎日試行錯誤のくり返し。お互いに食の知識を深め合い、励まし合い、学び合うなかで、子どもにアレルギーがあるかないかにかかわらず、その輪は次第に広がってゆきました。今では、小中学校で食育の授業や、調理の指導をする活動も行っています。
さて、おかあさんの輪が考える子どものからだに良いごはんとはいったいどんなもの? おかあさんの輪は、素朴な疑問に着目しました。
「子どもたちの世代にアレルギーが増えてきているのはどうして……?」。そして、シンプルなことを実践してみることにしたのです。それは「アレルギーが今ほど多くなかった頃のごはん」に戻ってみよう! ということ。つまり、日本で昔から食べられてきたごはんの食べ方、「お米、味噌汁、お漬け物」を土台とした、穀物と野菜が中心の食事。たんぱく質も昔のように、魚や豆のおかずから。油や砂糖は少しだけといった具合です。
これを基本にして毎日のごはんを作り続けたおかあさんたち。すると、ゆっくりではありますが、からだの根本が整うようにして、子どもと、一緒に食べていた自身の体調も良くなっていったと言います。
本書では、そんなおかあさんの輪が日々試行錯誤してたどり着き、子どもにも好評だったと太鼓判を押す86品を紹介しています。野菜たっぷりの滋味豊かなおかずや、良質なたんぱく質を摂るための魚介と大豆のおかず。どれも身近な食材で、かんたんな調理で作れます。また、ぬか漬けの作り方や、だしの取り方、おすすめの調味料や油のこと、おべんとうのアイデア13種類なども。
あたたかくて優しいイラストをお寄せくださったのは、小学校の国語の教科書(光村図書)でお馴染みの大野八生さんです。
子どものすこやかな成長を願う方々に、ぜひご活用していただきたい一冊です。
詳しい内容は、下記のリンクよりご覧ください。(担当:村上)
http://www.kurashi-no-techo.co.jp/books/b_1180.html

ごはん_01DSC_0088

ごはん_02DSC_0088

ごはん_03DSC_0088

ごはん_04DSC_0088

ごはん_05DSC_0088

ごはん_06DSC_0088

そのまま食べておいしい、作りおきにもうれしい

2017年12月04日

03DSC_0152

そのまま食べておいしい、作りおきにもうれしい
(91号「まとめて蒸して、どう食べる? いろんな蒸し鶏」)

「今日、なに食べたい?」
と聞くと、週に一度は、「蒸し鶏!」と返ってくる鶏好きの家族のおかげで、すっかり蒸し鶏マスターになりました。でも、毎週食べていると、タレを変え、付けあわせを変えても、どうしても飽きてしまうし、保存しておいた蒸し鶏もうまくアレンジできない……。

そんなわが家の事情からうまれた企画ですが、料理家の堤人美さんが教えてくださった蒸し鶏は、わが家の食卓への登場頻度が週に一度から二度に増えてしまいそうなくらい、とびきりおいしいレシピでした。

これまでは鍋で茹で蒸ししていましたが、今回のレシピではフライパンで手軽に、さらにおもいきって、4枚の鶏肉をまとめて蒸してしまうのです(26cmのフライパンはぎゅうぎゅうです)。

2枚はあたたかいうちにいただき、残りは冷蔵(冷凍)保存。アレンジレシピは、ポトフに、チリソース、和え麺に、サンドイッチとさまざまな料理に変身します。火が通っているので、フライドチキンだって短時間で作れます。
お正月にぜひ作っていただきたい、むね肉入りの「大根とにんじんのなます」。まろやかな味わいで、酢のものが苦手な子どもや男性でも食べやすいでしょう。

わがスタッフも、この撮影以来、毎週蒸し鶏を作っているとのこと。
本当に、心からおすすめします!(担当:小林)

04DSC_0152

編集部員がおすすめ本を紹介します。

2017年12月01日

15DSC_0152

編集部員がおすすめ本を紹介します。
(91号「本屋さんに出かけて」)

「最近、本が読まれなくなった」と聞きます。たとえば電車では、たくさんの人が手にしているのはスマホです。インターネットは便利でコンテンツも豊富ですから。でも、同じ車両に数人は、本を開いている人が必ず数人はいます。少なくなりつつあるのかもしれないけれど、まだまだ本は読まれているし、これからも読まれていくことでしょう。もちろん、私たち出版社は、これからも魅力ある本を作っていかなければなりません。

などと書いている私は、10代後半までほとんど本を読まない子どもでした。でも、ある作家の作品に出合い、小説をよく読むようになり、歳を追うごとに、いろいろな作品へと読書の幅は広がっていきました。心の成長と感受性が変化する年頃で、よいタイミングだったのでしょう。みなさんもそんな出合いがありませんでしたか?

さて本題です。「本屋さんに出かけて」のページは、編集部員の皆が最近読んだ本を、それぞれが読んだ感想を含めてご紹介するものです。小誌は隔月刊ですから、2カ月に一度、ひとり数冊ずつ提案して、その中から毎号8冊を選んでご紹介しています。実際に本屋さんの店頭で出合った本を購入して読んでいます。
一般的に雑誌などの書評欄というのは、文学者や批評のプロの執筆者に依頼して、書いていただくというのが多いでしょう。それを、編集部員が担うというのは、いささか不相応の感があります。でも、だからこそ、本の読者のひとりとして、わかりやすくお伝えできるのではないか、と考えています。

今号でご紹介しているのは、谷山彩子さんの『文様えほん』、佐藤雅彦さんの『新しい分かり方』、寺本紗穂さんの『あのころのパラオをさがして』、若菜晃子さんの『街と山のあいだ』、在本彌生さん写真の『熊を彫る人』、阿部岳さんの『ルポ 沖縄 国家の暴力』、『山の家クヌルプ』、『お父さん、だいじょうぶ? 日記』の8冊です。絵本から社会派ルポまで、多彩なラインアップ。それぞれ、編集部員の心に響いたのは何なのか、私たちの言葉で素直にご紹介しています。

また、毎号誌面ではご紹介しきれなかった、すてきな本がたくさんあります。それらは、小社のウェブサイトの「Blog 手帖通信」とフェイスブックにも、web版「本屋さんに出かけて」でご紹介しています。こちらもぜひご覧ください。

そういえば先日、吉祥寺の書店で、小学生くらいの女の子が、佐藤雅彦さんの『新しい分かり方』をとても熱心に立ち読みしていて、戻ってきたお母さんに「これすごくおもしろいよ!」とちょっと興奮気味に話しているシーンに居合わせました。たぶん、そのあとお母さんは買ってくれたのではないでしょうか(と思いたい)。この本の内容からして、まさに知的好奇心に目がキラキラ! という感じで、なぜかとてもうれしくなってしまいました。
偶然、本屋さんで出合った本。そのページをめくるたび、少しずつ世界が広がる。それは何歳になっても経験できる、素晴らしい体験ですね。私たち編集部員は、今日も本を読み、そこのすばらしさをお伝えしたいと考えます。ぜひ皆さんも本屋さんへ足を運んでみてください。(担当:宇津木)

ことばにならないおもい

詩集 見えない涙
『詩集 見えない涙』 若松英輔 著
亜紀書房 1,800円+税 装釘 名久井直子

 みなさんはどんな時に詩集を手にするでしょうか。『見えない涙』の著者・若松英輔さんはご自身が厄年を迎えるまで、本当の意味で詩に触れていなかったと、あとがきに書いています。
詩は黙読するより、朗読を聴くのが好きな私は、やはり自分で読む時も声に出します。おそらく、そうするたびに新しい感情と新しいことばに出会うからかもしれません。
 とても美しい、愛らしい、嬉しい、あるいは、すごく淋しい、哀しい、恐ろしいというような感情は、日々の暮らしの中で度々沸き起こってくるのですが、いざ、その気持ちを人に伝えようとすると、ことばにならないもどかしさを感じることがあります。
 目前で大きな感銘を受ける出来事が起きたとして、一方で、自分のことばがつたなすぎて言語化できず、心拍数だけが、ただただ上がり気味という始末。そんな感情だけが体のどこかに宿っていて、たまたま開い頁の詩の一行に、そのすべてが表れていると、はっとして、ことばと気持ちの整理がつきます。
 
人が
 何かを語るのは
 伝えたいことがあるからではなく
 伝えきれないことがあるからだ
 言葉とは
 言葉たり得ないものの
 顕(あら)われなのである
 だからこそ
 語り得ないことで
 満たされたときに
 人は
 言葉との関係を
 もっとも
 深める
 (「風の電話」から一部抜粋)

 「燈火」「記念日」「薬草」「詩人」「読めない本」「仕事」「見えないこよみ」「青い花」ほか全26編が収められた若松さん初の詩集は、まるで私たちに贈る魂の声のように響いてきます。一粒一粒のことばに、人が涙する時の輝きと曇りを秘めて……。
 詩の清楚な空気感と息を合わせたような装釘は、名久井直子さんによるものです。(上野)

みんなを助けてくれる「良い魔女」のようです

2017年11月30日

動画は取材時の様子を5分弱にまとめたものです

みんなを助けてくれる「良い魔女」のようです
(91号「松岡享子さんと雪のブローチ」)

この企画は、児童文学者の松岡さんの「雪のブローチを作っているのを、ぜひ紹介してほしい」というお話から始まりました。東日本大震災後に陸前高田を訪問した松岡さんは、市内の小友(おとも)小学校に毎学期訪問して本を贈っています。ブローチの売り上げが、その活動の費用に充てられているのです。

撮影に伺ったご自宅は、かつては、子どもたちがやって来て、本を借りたり、お話を聴いたりする「松の実文庫」でした。黄色の外観は親しみやすく、ピアノと暖炉のある部屋と本棚にいっぱい書籍が詰まっている部屋があり、どちらも窓からは光が入って、とても居心地がいいのです。トップのブローチや人形、裁縫道具など、それに松岡さんご自身を撮影しました。

手芸好きの松岡さんは、「こんなに楽しいこと、みんなも作ればいいのに」とおっしゃいます。材料は古着のセーターやフェルト、刺しゅう糸、牛乳パック、ブローチピンなど手に入りやすいものばかり。ブローチの直径は4~5センチほど。撮影の合間にも、松岡さんはどんどん手を動かして作っていきます。習いながら、雪の結晶を刺している私たちは、その手の速さにまったくついていけません。見る間に、雪の結晶が出来上がり、魔法のようです。

5頁で松岡さんが手にしているネコの人形は、出てきた時はひげが少しとれていて、しょんぼりしているふうでした。ところが、松岡さんが箒から1本抜いて、さっとひげをつけてあげると、ネコの表情が生き生きとしてきました。即興でネコと女の子になって話す松岡さんの声は、会話とは違う張りと表情があります。すっかり引き込まれてしまいました。

子どもの頃から、本を読むのも、友人にお話をするのも、手を動かして手芸をするのも大好な松岡さん。古着のセーターと余り布から作った人形で、子どもたちにしていたお話が本になった『なぞなぞのすきな女の子』など、大好きなことすべてが現在につながっていることを実感しました。まるで、みんなを楽しくするものを出してくれる、童話の「良い魔女」のようです。

ただし、お金は魔法のようには出てきません。松岡さんが創設者のひとりとなっている、東京子ども図書館は公的助成金がなく、出版や人材育成などの事業収入と、寄付やバザーの売り上げなどで活動しています。「良い魔女」の活躍を私たちも助けることができます。

「松岡享子さんと雪のブローチ」をご覧いただき、魔法の一端に触れてください。(担当:高野)

01DSC_0152


暮しの手帖社 今日の編集部