1. ホーム
  2. > Blog手帖通信

思いがこもったスープをあなたに

2020年10月05日

李さん_DSC7544

思いがこもったスープをあなたに
(8号「李映林さんの思いやりのスープ」)

みなさんには故郷の味がありますか?
その味にまつわる思い出はありますか?

料理家の李英林(り・えいりん)さんは、韓国・済州島出身です。
自然の恵み豊かな島で、新鮮な海の幸・山の幸に囲まれて育ちました。
お母さまが作ってくれた四季折々のスープを、やがて日本で暮らすようになっても、
子どもたちへ伝えるために作り続けてきた李さん。

取材中、李さんが何度も何度も口にしたのは、
「食べる人のことを思いやり、心を込めて作れば、その思いは伝わるはず」という言葉です。

李さんは料理研究家のコウケンテツさんのお母さまでもあります。
わたしは以前、コウケンテツさんに『暮しの手帖のクイックレシピ』で「豆乳チゲ」を教わりました。
簡単にできるのに驚くほどおいしいので、これまでくりかえし作ってきたお気に入りのレシピです。
今回、李さんに教えていただいたのは、その原点といえる「豆乳の白いチゲ」。
李さんのお母さま、李さん、ケンテツさんへと受け継がれ、変化してきたそのレシピに、
味が伝わる、文化が伝わる、とはこういうことなのだ、と深く感動しました。

李さんのお話を聞いて、私も改めて、家族とともにした食事を思い出し、
台所に立つということに、思いを馳せてみました。

これから肌寒くなる時期に、おいしく滋養に満ちた3種のスープとともに、
李さんの心あたたまるお話を、ぜひ味わってみてください。(担当:平田)

いい尽くせない思い

2020年10月02日

詩と俳句と01_DSC7558

いい尽くせない思い
(8号「詩と俳句と人生と」)

7月のある日、小児科医の細谷亮太先生と詩人の工藤直子さんが編集部にお越しくださいました。
細谷先生は、昨年終了した連載エッセイ「いつもいいことさがし」の筆者として、おなじみかもしれませんが、今回はもう一つの顔、俳人・細谷喨々(りょうりょう)としての登場です。
お二人は、細谷先生が宗匠を務める句会のお仲間。「お互いの好きな俳句や詩を挙げてください」というこちらの依頼に、ご著書やお二人が参加する会の句集(なんと限定9部!)もお持ちくださいました。

対談が始まると、どんどんお話は弾みます。好きと感じる句や詩には、自分に通じるものがあるということ。コピーライターとして仕事で言葉を扱っていた工藤さんが、すっぱりやめて、書きたいときに書くようになったことや、腑に落ちないことを忘れずにいること。細谷先生は、診ている子どもたちが亡くなった時のつらい経験を、俳句に託して乗り越えてきたことなど。まさに、お二人の生きてきた道筋に言葉が寄りそってきたのを感じました。

どんどん広がるお二人のお話を分かりやすくまとめてくださったライターの成合明子さん、俳句の季節感や心の中の思いを絵にしてくださったshunshunさん、素敵な笑顔を撮影してくださった中村彰宏さん。対談のお二人とスタッフの力が合わさった記事となりました。引用させていただいた作品とあわせて味わっていただけたらと思います。

細谷先生の新しい単行本『いつもいいことさがし3』も発売中です。年齢を重ねて、役割が変わっても、生きていることが素晴らしいと綴られています。こちらもぜひご覧いただけたらうれしいです。(担当:高野)

詩と俳句_EDD2280
4点の写真:中村彰宏 撮影

詩と俳句_EDD2497
お二人の来し方を伺いながら、歴史を感じる写真も見せていただいた。細谷先生の右の写真は、母方の祖母の家の2階から通っていた仙台での医学生時代。左の写真は初めて『NHK俳句』の収録に出演した50代のころ。

詩と俳句_EDD2463
引っ越しも旅も多かった工藤直子さん。左の写真は、終戦後の引き揚げまでを過ごしていた台湾での小学校低学年のお正月。右の写真は、「のはらうた」を書いて、各地を講演して回っていた50代のころ。指先にトンボが止まる。

詩と俳句_EDD2507
右は、医学生のころの句も入っている、細谷先生の初めての句集『桜桃』。左は工藤さんが会社を辞めてから自費出版していた詩集をまとめた1冊。用紙も活字も自ら選りすぐって作った。

自宅に眠る、ハギレや包装紙が大変身

2020年10月01日

フォトフレーム_DSC7551

自宅に眠る、ハギレや包装紙が大変身
(8号「紙と布のフォトフレームづくり」)

いつか飾ろうと思いつつ、そのままになっている
思い出の写真やお気に入りの絵。
フレームに入れてきちんと飾りたいけれど、
いいフレームが見つからない……なんてことはありませんか?

今回ご紹介するのは、
そんな写真や絵を入れる「手づくりのフォトフレーム」です。

厚紙に布を貼って美しい箱をつくる、
「カルトナージュ」という技法をアレンジ。
特別な道具や材料は使いません。
ベースとなる厚紙は色紙(しきし)で代用し、
布も、ハギレなどの小さなもので充分です。
包装紙などでもすてきですよ。

今回教えてくださるのは、
愛知県で活動している、カルトナージュ作家の木谷美華さん。
手づくりが大好きな親子(サリュコワ・マリアさん、小夏ちゃん)が、
木谷さんに習って3連のフォトフレームづくりに挑戦しました。
6歳くらいからなら、カッターの扱いにさえ気をつければ
一緒に楽しんでつくることができます。

まずは一度、手順通りにつくってみてください。
要領がわかれば、次からはサイズや形を変えて、
お好きなようにアレンジもできるでしょう。
贈りものにもぴったりです。

私は何より、使い道はないけれど捨てられずにいた
お気に入りのハギレや包装紙が、フォトフレームに生まれ変わって、
身近に飾ることができたことがとても嬉しかったです。

写真は、試作中の様子と、できあがった3連フレームです。
こんなに少しの道具と材料でつくれます。
ぜひお試しください。
(担当:小林)

フォトフレーム03

フォトフレーム02

新刊 別冊『おいしく食べきる料理術』発売中です。

2020年09月30日

表紙_正体DSC7581

新刊 別冊『おいしく食べきる料理術』発売中です。
(別冊『おいしく食べきる料理術』)

今年、外出自粛の期間を経て、多くの人が、家にいる時間が増えました。
家で食事をとることが多くなり、普段は料理をする習慣がない人たちも、
台所に立つ機会が増えたそうです。そうすると、以前は外での仕事で忙しくしていて見えていなかった家の中のことが、いくつも見えてきますね。
思いの外、自分の家の台所のゴミが多いことに気づいた人もいるでしょう。もちろん兼ねてから、それが気になっていた人も多いでしょう。
「もったいないなぁ」と。
その捨てたものの中には、食べられたはずのものがあるからです。
それがいわゆる「食品ロス」とか「フードロス」と呼ばれるもの。
日本では、全体量のおよそ半分が家庭から出ているそうです。
本当にもったいないですね。農業や漁業の営みで生産された食料資源をムダにすることになりますし、自然環境にもよいわけがありません。食料自給率が低い日本だからなおさらです。また、お金を支払って購入した食べものですから、自らのお金をムダにしていることにもなります。
そして何より、食べものを捨ててしまうときの、「もったいないなぁ」という気持ちをなくしたいと思うのです。
よりおいしく、ムダなく料理する工夫がうまくできたら。
買った食材を献立に生かし、家にあるもので手早く料理する。
それこそが「料理上手」です。毎日の台所仕事はもっと楽しくなりますし、食卓は心豊かなものになるはず。
そんな工夫とアイデアをご紹介する本を作りたい。
そう考えて、私たちは小社のウエブサイトと『暮しの手帖』の誌面で、アンケートを実施し、その実際の事情を知ることから始めました。実に663名というたくさんの方々にお答えいただきました。
この本では、7人の料理家の方々に、おいしく食べきる台所術と129品のレシピを教えていただきました。有元葉子さん、飛田和緒さん、大原千鶴さん、荻野恭子さん、上田淳子さん、こてらみやさん、ワタナベマキさんです。
ちょっと手を動かすことで、食材のおいしさを長持ちさせる。いままで捨てていた部位をおいしく食べきる。冷蔵庫にあるものだけでおいしいひと品を作る。料理の工夫って楽しいものです。みなさんもぜひ、「もったいない」というモヤモヤなくして、「料理上手」を目指してみてください。
きっとこの本がお役に立てることと思います。(担当:宇津木)

この本の詳細とアンケート結果のまとめは下記の特設ページよりご覧いただけます。
https://www.kurashi-no-techo.co.jp/life-style_survey_report/

リアル「とと姉ちゃん」の家物語

2020年09月29日

しず子さん_DSC7534

リアル「とと姉ちゃん」の家物語
(8号「しずこさんの家を訪ねて」)

こんにちは、編集長の北川です。
あれは2016年ですから、もう4年前のことになりますが、NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』で、弊社創業者の大橋鎭子がヒロインのモチーフとなったことはご存じでしょうか?
長らく社長を務めた大橋のことを、社員の誰もが「しずこさん」と呼んでいました。いまも存命なら、ちょうど100歳。亡くなったのは93歳のときですが、92歳までは元気に出社していて、私も1年半ばかりは日々接していました。
よく覚えているのは、その手の美しさ。白く、指はすらりとしていて、きれいに切りそろえた爪には淡い色のマニュキュアが塗られていたものです。
ふだんは顧問室にいるのですが、毎朝10時くらいになると編集部に顔を出し、「ねえ、何か面白いことはない?」と、私たちに声をかけます。まあ要するに、「何か面白い企画を考えなさいよ」って、はっぱをかけているわけですね。
『暮しの手帖』の創刊時、鎭子さんはまだ28歳。創刊号は在庫を3千部も抱えてしまい、見本誌をリュックに詰めて、地方の書店をめぐって営業に歩いた。「みんながアッと思うような記事を載せなくては」と編集長の花森安治に言われたら、元皇族の随筆の原稿を粘りの一手でいただいてきた……等々、鎭子さんにまつわる伝説的なエピソードはいくつもあるのですが、そんな人がふつうに出社していることに、はじめはちょっと驚いたものです。

『とと姉ちゃん』が放映された時期に『しずこさん』という別冊をつくり、その取材で初めて鎭子さんの住まいを訪ねました。門扉を入ると、ぶどう棚のある芝生の庭が広がり、その向こうに、漆喰壁に瓦屋根の和風家屋がどっしりと佇んでいます。
生涯独身だった鎭子さんがともに暮らしたのは、同じく独身で『暮しの手帖』を支えた末妹の芳子さん、母の久子さん、三姉妹のなかで唯一結婚した長妹の晴子さんとその家族、60年以上も務めた家政婦さん。総勢8人です。約20畳の広さのリビング・ダイングには、伸長式の大きな食卓やウィンザーチェア、ゆったりとしたソファが置かれ、大家族がここで笑いさざめきながら過ごした情景が浮かんでくるようでした。
「暮らしの基礎は家である」とは、鎭子さんが遺した言葉。彼女はこの家づくりに、いったいどんな夢や希望を抱いていたのだろう? どんな工夫を凝らし、それは『暮しの手帖』の誌面づくりとどのように結びついていたのだろう? 今回の特集では、建築家の中村好文さん、施工に携わった元棟梁の阿部好男さんに取材にご協力いただき、以前から知りたかった「鎭子さんの家物語」を掘り下げました。
なんと言っても見どころは、約8畳の板張りのキッチン。60年以上前につくられたとは思えない工夫の数々、ぜひご覧ください。
(担当:北川)

ほどほどにがんばるには

2020年09月26日

献立練習01_DSC7538

ほどほどにがんばるには
(8号「献立練習帖」)

毎日の食事作り、本当に大変ですよね。
ひと品作ればよいならともかく、朝昼晩と3食分の献立を組み立てようものなら、頭の中は大忙し。ごはんを食べながら、もう次のごはんのことを考えている。常時、頭の片隅がごはんのことで占められている、と言っても過言ではありません。

試しに、編集部の同僚たちにも「献立に関する悩み」を尋ねてみたところ、

「子どもが食べたがるものと、親の食べたいものが違って、みんなに満足してもらおうとすると用意が大変」
「魚も食べたいけれど、肉に偏りがち。魚はボリュームが出ないから敬遠してしまう」
「彩りにまで手がまわらない。食卓がいまいちパッとしない」

などなど、各人、何らかの困っていることがある様子。
私はこれらの悩みを預かって、京都に暮らす料理家の大原千鶴さんのもとへ相談に訪れました。

すると、大原さんいわく、

「皆さん、ちょっとまじめすぎるかもしれませんね。毎日の料理は、ほどほどでいいんですよ」

せっかくの食事なのに、準備でヘトヘトになってしまったり、カリカリしてしまったりするのでは、本末転倒だと大原さんは言います。
では、どうしたら、ほどほどでも満足のゆく食卓をととえられるでしょう。

そのために押さえておきたい献立のルール、知っていると助かるコツやヒントを教わりました。
(担当:島崎)

献立練習02_DSC7542

ゆるぎないもの ——編集長より、最新号発売のご挨拶

2020年09月25日

表紙_DSC7528

ゆるぎないもの
——編集長より、最新号発売のご挨拶

窓を開ければさらりと乾いた風が吹き渡り、エアコンをつけずに一日を過ごせる、そんな心地よい季節になりました。
今年の夏は、酷暑はもちろんのこと、その「不自由さ」においてもなかなかにつらく、我慢くらべのようでしたね。誰もがそれぞれの「不自由さ」と向き合いながら、それでも何かしらの楽しみを見いだそうと工夫して、先の見えない日々を歩んできたような気がします。

私たち編集部は相変わらず在宅勤務を基本に制作を続けていて、この8号ではや3冊目、ビデオ通話の打ち合わせなどはさすがに慣れてきました。それでも、取材や撮影で顔を合わせると、なんだかうれしくて、つい一生懸命に話してしまいます。
同じ空間にいて、たがいの表情を見て、声で空気を震わせて言葉を伝えるのが、なぜこんなによいものなのか。その理由はわからないけれど、ビデオ通話の話し合いが「目的地に向かって脇目も振らずまっしぐら」といった印象なのに対して、じかに会って話すことには、「ゆとり」や「遊び」がある感じでしょうか。ちょっとの寄り道や脱線はゆるされて、会話がふわっと、空間のぶんだけ広がってゆくような。

8号の巻頭記事「どんなときも、絵本を開けば」は、東京・原宿で小さな喫茶店「シーモアグラス」を営む坂本織衣さんに、開店してから24年のあいだ、折々に心を照らしてきた4冊の絵本のことを綴っていただきました。
初めて取材に訪れたのは6月のはじめ。お店のある明治通りは自粛期間前の賑わいを取り戻し、マスク姿の人びとであふれていましたが、坂本さんは3月下旬からお店を休業としたままでした。
「どうしたらいいか、わからないんですよね」
久しぶりにシャッターを開けたという店内で、確か、坂本さんはそんなふうにおっしゃったと思います。嘆くわけでなく、つぶやくように淡々と。
そして、壁一面の本棚にみっちりと詰まった絵本から数冊を抜き出し、それぞれの物語について、ご自分のこれまでの歩みに重ねて語ってくださいました。幼いお子さん2人を育てながらお店を開こうとしていた頃、寝る前の2人に読み聞かせては、親子で心をひとつにした絵本。家事、育児、お店の仕事、ご両親の世話に追われる暮らしのなかで、働き者の主人公に自分を重ね合わせて、その日々を肯定できた絵本……。それらの話は、一つひとつがお店にともる灯りみたいに、ささやかで素朴であったかく、希望を感じさせるのでした。
私たちはたぶん、一人ひとりがこうした、「私はこれがとっても好きなんだ。なぜならば……」という物語を持っていて、たびたび胸の内から取り出しては眺め、ときに誰かに語ったりして、生きる支えとしている気がします。
喫茶店で、見知らぬ人たちに混じって過ごすひとときも。人と目を合わせて話すことも。ひとところに集い、演劇や生の音楽に胸を震わせることも。どんな「好き」も、あっさり簡単に手放していいものなど何一つないんですよね。

自粛期間中に「不要不急」という言葉がよく使われ、「自分の仕事ははたして不要不急か?」なんて自虐めいた話題があちこちで聞かれました。私たちの仕事は、自虐でも謙遜でもなんでもなく、「不要不急である」と言えます。雑誌がなくても、衣食住は成り立ちますから。
けれども、たとえば日々のごはんが栄養をとることだけではなく、心に刻まれ、人とのつながりを感じられるものであるために。自分の手を動かして何かをつくり出す、その楽しみとゆたかさを幾つになっても忘れないために。社会の潮流に対して自分はどう考えるのか、その礎とするために。私たち雑誌ができることはまだあるんじゃないかなと信じ、手探りしながら、この8号を編みました。
なお、連載「からだと病気のABC」は、いつもよりも頁を拡大し、新型コロナウイルスの予防対策を中心にわかりやすくまとめましたので、どうぞご参考になさってください。
心がどことなく張り詰める毎日のなか、この一冊を開いて、ご自分の暮らしでゆるぎないもの、大切にしたいものに思いを馳せていただけたら幸せです。
『暮しの手帖』編集長 北川史織

どんな時にも_DSC7531

花森安治選集 全3巻 第2巻『ある日本人の暮し』を発売しました!

2020年09月24日

花森選集02_DSC7573

花森安治選集 全3巻
第2巻『ある日本人の暮し』を発売しました!

庶民の日常茶飯にひそむ哀と歓。
情感滲にじむモノクローム写真と、
花森の卓越した文章で織りなす、ルポルタージュの傑作!

『暮しの手帖』の初代編集長として30年間指揮を執った花森安治。数々の名物企画を生み出し、昭和の名編集長と評されています。
なかでも、日用品や家電製品の性能を調べる「商品テスト」は有名ですが、花森が最も心血を注いだといっても過言ではない企画が、このルポルタージュの連載「ある日本人の暮し」だったのです。
連載開始は1954年。花森自身が取材に出向いて執筆した期間は14年にわたり、その数55編におよびます。
連載第1回「山村の水車小屋で ある未亡人の暮し」(1954年)と、
第2回「ある青春」(1954年)では、戦後10年近くが経とうとする当時、貧しくとも、必死に生きる女性たちが登場します。密着取材のもと、彼女たちに寄り添うように、書き手・花森はその暮しを記録しました。
きっと手ごたえを感じたのでしょう。これに端を発し、『暮しの手帖』の誌面で取材先を募集するようになりました。
〈この号の「ある青春」は、前号の「山村の水車小屋で」にひきつづいて、いまの日本の、いわば名もない人たちの、ありのままの暮しの記録です。これは当分ずっとつづけてまいりたいと考えておりますが、つきましては、この記録について、みなさまのお力ぞえをいただけましたら、どんなにありがたいかと存じます。
 私の暮しを写してもいい、という方がございましたら、お知らせいただきたいのです。こちらの希望としては、なにか特別なことのない、どこにでもあるふつうの暮し方をしていらっしゃる方なら、どなたでも結構です。都会でも、農村や山村漁村でも、日本中どこでもかまいません。……〉(『1世紀24号』「あとがき」より)

それからというもの、取材先は全国へと広がります。
それぞれに家庭の事情を抱え、さまざまな職業に就き、激動の昭和をひたむきに生きる人々の物語が紡がれていきました。

●「しかし、私たちも明るく生きてゆく」では、ともに耳の聞こえない藤田さん夫婦が、健聴者である娘ふたりを育てる日々が、妻の一人称で語られてゆきます。

●「特攻くずれ」は、17歳で特攻隊員になった木村さん、戦後20歳で郷里に戻るも、町の人からは冷たく「特攻くずれ」と呼ばれ、良い職にもなかなか就けません。そこで意を決し、資格を取って電気屋となり、新天地・大阪へ。電気のこと以外でも、路地裏の貧しい家々をまわり御用聞きをし、人に喜んでもらえる仕事をするうちに、あたたかい世間を感じるようになっていきます。

●「共かせぎ落第の記」には、30歳の機関士・川端新二さんと、26歳の妻・静江さんが登場。夜勤のある夫の新二さんが徹夜明けで帰ってくる家は、6畳ひと間きり。そんなとき静江さんはひとり図書館へ。ふたりの夢はもうひと間。「夢」は「みるだけ」に終らせたくないと必死に思いながら……。

花森は、人情の機微には敏感で、市井の人々の懐に飛び込むと、語るつもりのなかったことや、家計の事情、本音を巧みに引き出し、その人の日常茶飯にひそむ哀歓を見事にとらえました。
まるで、その人の人生を抱きかかえるように見つめ続けた「ある日本人の暮し」。家族を、仕事を愛し、あきらめずに希望をもって生きる人々の、人生の輝きを見つけることができます。いま読んでも、いや、いまだからこそ、いっそう心を打つ記録ばかりです。
ご紹介している本の中面写真の頁は、「共かせぎ落第の記」の夫婦の、
買いたいものをさわってみるだけ、映画も看板を見るだけ、の『「だけ」の休日』シーン。取材にはいつも2名の社員カメラマンが同行し、家族に張り付いたからこそおさえることができた、そんな何気ないけれど映画のような構図の写真も見どころです。
ぜひ、書店にてお手に取ってご覧ください。

外函のデザインに用いた木綿のコラージュ写真は、1965年刊行の『暮しの手帖』1世紀81号の表紙から。もちろん、花森安治によるものです。(担当:村上)

花森選集02見開き_DSC7578

※目次は下記のリンクよりご覧いただけます。
http://www.kurashi-no-techo.co.jp/books/b_1192.html

書籍『いつもいいことさがし3』刊行!生きている。ただそれだけで素晴らしい。

2020年09月18日

_DSC7515

◎書籍『いつもいいことさがし3』刊行!
生きている。ただそれだけで素晴らしい。

昨年23年の連載に幕を閉じた小児科医・細谷亮太先生のエッセイ「いつもいいことさがし」。完結となる3巻目ができました。

誰でも年齢を重ねていきます。現場から管理へと足場を移し、定年を迎える……。あるいは、子育てからの卒業。そうした変化があります。細谷先生は、小児科医として子ども達に寄りそい、自分の子ども時代を思い出しながら、日々「いいこと」をさがしてきました。この巻では、臨床現場から遠ざかることに戸惑いながらも、いのちの大切さを伝える講演や、重い病気を持つ子ども達が楽しめる居場所作りの活動へと、全国各地を奔走。役割が変わっても、生きていることは素晴らしいと実感させてくれます。

表紙画を描いてくださったのは、細谷先生の友人でもある、画家・絵本作家のいせひでこさん。山形で生まれ育った細谷先生の原風景は、サクランボでなく林檎の木だそう。裏表紙に描かれている林檎の木の花と合わせて、さまざまな色の実が人生の来し方を現わしています。

表紙と各エッセイのタイトル文字は細谷先生の自筆。原稿は毎回、手書きのファックスでいただいていました。小学生のころ字を習われ、自作の句を墨書なさっている、読みやすく味わい深い文字を、読者の方にも是非ご覧いただきたいとお願いしました(表紙はクレヨン、エッセイは鉛筆)。

帯文「『だいじょうぶ』と寄りそってくれる本」を書いてくださったのは、詩人の工藤直子さん。本書にも詳しくありますが、医学生のころから俳句を発表し始め、俳人・細谷喨々(りょうりょう)としても活動する先生が宗匠を務める句会「螻蛄(けら)の会」の仲間です。お二人の対談「詩と俳句と人生と」は9月25日発売の『暮しの手帖』8号に掲載されます。

『いつもいいことさがし3』は9月下旬発売です。お近くの書店で、帯の細谷先生の笑顔がお待ちしています。(担当:高野)

目次は下記のリンクよりご覧いただけます。

暮しの手帖だよりVol.22 summer 2020

2020年09月16日

dayori22

絵 ミロコマチコ

あなたが大切にしたい、
守りたい暮らしはどんなもの?
今号は、言葉を軸にして
「平和」のすがたを探りました。

文・北川史織(『暮しの手帖』編集長)

 

各地で新型コロナウイルスの感染者数が増えつつあり、気持ちが落ち着かない日々が続きます。このたび水害に遭われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。ご不便が一刻も早く解消され、苦しみや悲しみが癒されますように。

 

*

 

私たち編集部は、春から在宅勤務で制作を続けています。最新号は、撮影を始めようとした矢先に「緊急事態宣言」が出されたため、ある企画は内容を変え、いくつかの企画はギリギリまで撮影を日延べして、さらに発売日を4日延ばすことで、なんとか発行まで漕ぎつけました。お待たせしてしまい、申し訳ありません。
今号の大きなテーマは、「暮らしから平和を考える」。このテーマを考え始めたのは昨年の10月あたりのことで、私の頭にあったのは「戦争と平和」、そして「台風への備え」くらいでした。まさか、世界中の誰もが同じ困難と向き合い、「平和」の希求がこんなに切実なものになろうとは、思ってもみなかったのです。
正直に言えば、「撮影ができないかも」となったとき、過去の記事を再編集して頁をつくろうかとも考えました。それもお役に立つのなら、悪くない手段ですよね。でも、私はどうしても、新しくつくった記事を載せたかったのです。いま、みなさんと同じ空気を吸い、この苦しみを味わっている私たちが、精一杯のものをつくって差し出す。それが大事かもしれないと思いました。
じつは私自身が、このコロナ禍で、大きな不安に押しつぶされそうでした。まだ感染の危険があるなかで、スタッフを撮影に送り出していいのだろうか、という迷い。ビデオ通話で話はしていても、会わずに進めることでコミュニケーションに齟齬が生じ、ひいては出来に響くのではないか、という焦り。
どんな状況下でも、なるたけいい本をつくって、きちんと売りたい。いや、売らなければ、制作は続けていけない。世間でよく言われる、「いのち」と「経済」のどちらが大事なんだ? なんて問いかけは、答えようのないものとして重く胸の底に沈んでいました。そんなのは、どちらも大事に決まっているじゃないか。
みなさんのなかにも、そう心のうちで叫んだ方はいらっしゃるでしょうか? 私たちは、正解が一つではない世界を、迷いながら、悩みながら、歩んでいるんですよね。でも、なんとか自分で道を選んで、歩んでいかなくちゃいけない。それがおそらく、暮らしていくこと、生きていくことだから。

 

**

 

今号の巻頭記事は、「いま、この詩を口ずさむ」。6編の詩と、それに寄り添う写真や絵で構成したシンプルな頁です。
夜更けに食事をつくってテレビをつけると、この数カ月の困窮をぽつりぽつりと語る人が映ります。一方で、そんな他者の生活苦を顧みないような軽々しい言葉、あるいは、なんだか格好いいけれども実のない言葉を発する政治家がいる。SNSを覗くと、「それ、匿名だから言えるんじゃない?」と思うような、毒々しい誹謗中傷が飛び交っている。
言葉って、こんなふうに使っていいものだったっけ。ふと思ったのです。人をまっとうに扱うように、暮らしを自分なりに慈しむように、心から誠実に言葉を発していきたい。不器用でも、言葉は完璧なものじゃないとわかっていても。ここでは、そんな思いを呼び覚ましてくれる詩を選びました。
黒田三郎の「夕方の三十分」は、いまで言うワンオペ育児をするお父さんと娘の、夕餉の前のひとときを描いた詩です。ウィスキイをがぶりと飲み、幼い娘の機嫌をとりながら、夕食の玉子焼きなどをつくる父。そんな父の作業を娘はたびたび邪魔し、やがてひと悶着が起きます。
どんな家でも見られそうな情景ですが、最後の数行を読むと、心がしんとする。ああ、暮らしって、親子って、こういうものじゃないかと思う。ぜひ、島尾伸三さんによるモノクロームの写真とともに味わってみてください。「このところ、しゃべる機会がめっきり減って、口のまわりの筋肉が凝り固まっているようだ」という方、音読をおすすめします。

 

***

 

巻頭に続く記事をご紹介します。
○小林カツ代さん キッチンから平和を伝えたひと
作りやすいレシピと、明るくて親しみやすいキャラクターで知られた料理研究家の小林カツ代さん。彼女が生涯を通して平和を願い、その思いを文筆活動や講演の場で表現していたことをご存じでしょうか? 残された手帳のなかにも、思いの溢れる言葉がたくさん。手帳のほか、著作からもカツ代さんの言葉を引き、娘の石原まりこさん、弟子の本田明子さんにもお話を伺ってまとめました。

○身体をいたわる 夏の中国料理
夏バテなどで元気が出ないときは、日々の食事で身体を整える、食養生の知恵を取り入れてみませんか? 旬の野菜を生かし、ご飯が進むおかずを、料理研究家の荻野恭子さんに教わりました。

○着方いろいろ チベタンスカート
ブランド「えみおわす」が定番とするチベタンスカートは、直線裁ちの布を縫い合わせてつくる、筒状のシンプルな形。腰回りの紐をどう結ぶかなど、「着方」で印象が変わります。私も愛用していますが、ロング丈でも足さばきがよく、動きやすいのです。記事では、このスカートの着こなし方、つくり方をじっくりとご紹介。今回のためにデザインしていただいた「3色使い」もすてきです。どうぞ、ご自分らしいおしゃれを楽しんでみてください。

○アウトドアグッズで揃える わが家の防災リュック
避難時に必要なものを「衣食住」の3つに分けて考え、軽く機能的なアウトドアグッズで揃える提案です。たとえば、速乾性のあるアンダーウエア、避難所で着替えるときの目隠しにもなるレインポンチョ、防水性の高い小分け用の袋など。わが家に必要なものを考えて選び、パッキングすることで、防災への意識を高め、備えを強くします。

○はじめての台所仕事
日々の食事をまかなうことってどんなことか、子どもたちに伝えたい。そう考えてつくったこの記事は、メニューを考え、家にある材料をチェックして買い物へ行き、料理して片づけて……という流れを「ぐるぐる回る台所仕事」と名づけて、イラストで楽しく展開しています。料理だけすれば食卓が整うわけじゃないよ、ということですが、普段料理をしない大人もわかっていないことかもしれません。お子さんが挑戦したいと言ったら、どうか黒子に徹して見守ってください。

 

****

 

今号の表紙画は、画家のミロコマチコさんの描き下ろしの「月桃の花」です。自分でも意外なほど落ち込んでいたとき、「心を照らすような、希望を感じさせる絵を描いていただけませんか」と、ただそれだけをお伝えして待ちました。この絵が奄美大島から届いたときのうれしさと言ったら。「なんだか魔よけみたいだね」とみんなで言い合ったものです。
いまは、この号を傍らの本棚に立てかけ、ときどき表紙に目をやりつつ、秋号を制作しています。取材・撮影がふつうにできること、人と会って言葉を交わせることは、なんてうれしく、ありがたいんだろうと思いながら。私たち一人ひとりが、決して完璧ではないけれども、それぞれに愛すべき暮らしを抱えながら。
つまずいても、悩んでも、日々は続いていくのですね。どうかみなさん、お元気で。心身をいたわって、すこやかにお過ごしください。

 

下記の見開きページの画像をクリックすると、拡大画面でご覧いただけます。

 

◎リーフレット「暮しの手帖だより」は、一部書店店頭にて配布しています。
印刷される場合は、下記のトンボ付きPDFをダウンロードし、A3で両面カラー印刷されると四つ折りリーフレットが作れます。

・暮しの手帖だよりVol.22 PDFをダウンロード

「家庭学校」に皆さまの物語をお寄せください。

2020年08月21日

家庭学校

共に暮らす、または遠くにいる家族への思いを、
800字程度の原稿にまとめて編集部にお寄せください。
「家庭学校」のコーナーでは、つねに、心に響く物語を募っています。

力強くしたためられた文字や、幾度も推敲したであろうメールの文章——。
投稿欄「家庭学校」に日々届く手紙やメールの一通一通に目を通し、
掲載する原稿を選んでいます。
ユーモラスなものもあれば、遠い過去のしんみりとする思い出や、
かけがえのないひとときを描いたものなど、さまざまです。
どれも、その人にしか書けない宝物のような物語。
家族は世界にひとつだけの存在なのですね。
大切な思いを分かち合ってくださる皆さまに、
感謝の思いを抱きながら拝読しています。

連載のなかでは大変人気のあるコーナーで、
いつも読んでくださっている書店員さんから、
「今号の『家庭学校』も素晴らしかった!」と声をかけていただくことも。
もしまだ投稿したことがない方がいらっしゃいましたら、ぜひ、原稿をお送りください。
お待ちしております。(担当:中村)

送り先は下記の通りです。郵便、ファックス、メールのいずれかでお送りください。
〒101-0047
東京都千代田区内神田1-13-1豊島屋ビル3F
FAX/03-5259-6006 E-mail:kateigakko@kurashi-no-techo.co.jp
「家庭学校」係

子育ての悩み相談室 「お悩みを募集しています!」

2020年08月20日

子育て

日々育児に奮闘しているお母さん、お父さんのための
連載「子育ての悩み相談室」も今回で7回目。

今回は、一児の母である編集部員の、
「夫の育児参加」についての悩みです。

「夫は家事をあまりせず、
育児はどこか私任せ。
互いに主体性をもって、家事や
子育てをしたいのですが……。」

優しくも心強いアドバイスをくださったのは、
5号でもご登場いただいた大豆生田啓友先生。
ご自身も三児のお父さんであり、
たくさんの自称「イクメン」のお父さんにも
出会ってきた先生ならではの、
実感のこもったアドバイスをいただきました。

実はこの取材、コロナ禍のためリモートで行われました。
そしてたまたま、わが夫も隣りの部屋で
この取材を聞くことになり……。
取材後の「耳が痛かった」という感想ののち、
なんと、これまで気が向いた時しかしなかった家事を
自ら進んでするようになったのです……。

とそんな効果を生みだした当記事を、
ぜひお父さん方に読んでいただければと思います。

当連載では、随時お悩みを募集しています。
お子さんの年齢と性別、家族構成、
なるべく具体的にお悩みをお書きいただき、
以下アドレスまでお送りください。(担当:小林)

dokusya@kurashi-no-techo.co.jp

小社ホームページにも各種の読者投稿のご連絡先を掲載しております。
※読者投稿のメールアドレスを誤って表記しておりましたので修正いたしました。ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。


暮しの手帖社 今日の編集部