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インド女性が毎朝描く“祈りの粉絵”をご存じですか?

2018年05月31日

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インド女性が毎朝描く“祈りの粉絵”をご存じですか?
(94号「南インドの女性と、祈りのコーラム」)

最近、南インドの定食「ミールス」を食べさせてくれる店が増えてきたように思います。
数種類のカレー、野菜の副菜、そしてバスマティ米を混ぜながらいただきます。
南インドは、米がたくさん穫れるので、主食は米、または米粉を使ったものが多いのだそうです。
「なんだか日本と似ているなぁ」と気になっていた折、
イラストレーターの塩川いづみさんと、写真家の在本彌生さんから
「コーラムをご存じですか?」と尋ねられました。
それは、南インドの家々の玄関前に、米粉で描かれた吉祥模様で、
女性たちが毎朝祈りをこめながら描く習慣なのだそう。
その模様の美しさや、毎朝描いては夜に消える“はかなさ”に惹かれた塩川さんが、
コーラムを描く女性たちを訪ね、自らもコーラムを描きました。
さて、塩川さんはこの旅を通して、何を感じたのでしょう?
わたしは塩川さんの体験記を読み、
日本の女性たちに綿々と受け継がれてきた、すばらしい習慣に想いを馳せました。
たとえば、吉祥模様という点では、以前本誌でもご紹介した「花ふきん」もそうです。
さて、あなたは何を感じるでしょう?
在本さんが撮った、いきいきと美しい南インドの女性たちの写真とともにお楽しみください。(担当:平田)

その乗り方はあぶないですよ!

2018年05月30日

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その乗り方はあぶないですよ!
(94号 「自転車について知ってほしい20のこと」)

通勤、通学、買物にと大活躍の自転車。免許を持っていない人の大切な交通手段です。
その一方で、免許がないからこそ、自転車の乗り方や交通規則に疎く、自動車や歩行者、自転車にぶつかりそうになって、ヒヤッとした方も多いのではないでしょうか。
この企画をお読みいただければ、交差点での事故を防げば、自動車との事故の7割が無くなることをはじめとして、事故につながる危ない行動や、ルールは安全のためにあることが実感していただけると思います。
自転車を買うときのポイントや点検、子どもを自転車に乗せるとき、子どもが自転車に乗れるようになったときの注意などもぜひ知ってください。
担当の私も、交通標識に注意深くなり、サイドミラーを付けたので、後ろに自動車がいないとわかった時は、少し気楽に漕げるようになりました。また、信号のない交差点で、右折の時に前もって右側を走る自転車を見かけると、あぶないなあと心配になってしまいます。
万が一の時の自転車保険については、愛用の自転車を購入後4年目で初めて自転車店で整備してもらい、賠償責任保険1億円が付いたTSマークを貼ってもらいました。そこでは、TSマークのための点検整備費用に加えて、ブレーキワイヤー交換、グリースの追加、後輪のがたつきの修正があり、まとめて4500円ほどかかりましたが、新品の様に快適に漕げます。これを機に、1年に1度の点検整備を続けるつもりです。
事故に遭わないためには、自転車も歩行者も、自らが目立つことも大事です。「買物案内」の「暗いところで目立つための発光・反射グッズ」もぜひ合わせてご覧ください。(担当:高野)

心強く、楽しいひと皿

2018年05月29日

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心強く、楽しいひと皿
(94号「家族がよろこぶ旬のワンプレート」)

ひと皿で旬の素材をたっぷりとれて、食べごたえも充分、そして、シンプルな材料で手早く作れる――。
そんなワンプレートごはんがあったなら、日々の晩ごはんに役立つのでは……という思いから始まったこの企画。編集部の無理難題にこたえてくださったのは、料理家の牧田敬子さんです。
使う食材が少なくても、切り方や調味料の組み合わせで、素材のおいしさを引き出す料理を得意とする牧田さん。
今回の誌面でも、素材の数も作り方もとってもシンプルな「洋食プレート」「和食プレート」「アジアンプレート」「パスタプレート」など、4種のワンプレートごはんを教えてくださいました。
どのプレートも手早く作れて、本当においしいので、わが家の食卓ではたびたび登場する心強いメニューとなりました。
ワンプレートごはんのうれしいポイントがもう一つ。それは、それぞれのおかずを別々で食べても、少しずつ混ぜながら食べてもおいしいところ。
食べ進めるうちに変化する味わいも、楽しみなひと皿なのです。(担当:井田)

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パリの金庫に眠る、幻の絵日記

2018年05月28日

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パリの金庫に眠る、幻の絵日記
(94号「発見! フジコ・ヘミングさん14歳夏休みの絵日記」

世界的ピアニスト、フジコ・ヘミングさんが14歳のころに描かれた絵日記を求めて、パリに取材へ行きました。
フジコさんのお宅は、築100年以上の歴史あるアパルトマンにあります。
緊張しながら扉を開けると……フジコさんは、少しはにかんだようなあたたかい笑顔で、お茶とお菓子を準備して待っていてくださいました。そばに、犬やネコたちがしずかにくつろいでいます。
金庫で大切に保管されていた少女時代の絵日記は、70年以上も経っているとは思えないほど色が鮮やかで、驚きました。そこには、戦後翌年1946年の夏休みの暮らしが、ていねいに綴られているのです。食べもののこと、家族、ピアノの練習、お裁縫……。
この美しい絵日記とともに、フジコさんのインタビューも、併せてお楽しみください。

取材中、フジコさんがリストの「愛の夢」を弾いてくださったその瞬間に、部屋の空気がふわっと変わったことが忘れられません。やさしい音色に包まれて、部屋中がきれいな光で満たされたような、幸せな時間が流れました。少女のようなピュアな気持ちを持ちつづけるフジコさんだから奏でられる音なのでしょう。

絵日記は、6月末に『フジコ・ヘミング14歳の夏休み絵日記』として、一冊の本にまとめ、刊行を予定しています。
また、6月16日(土)より公開される、映画『フジコ・ヘミングの時間』にも絵日記が登場します。フジコさんの世界に、ぜひ触れてみてください。(担当:佐藤)

「若葉のころ」といえば…… ──さわだ編集長より最新号発売のご挨拶

2018年05月25日

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風薫る5月。緑輝く、若葉のころ。
あ!「若葉のころ」なんていってしまうと、すぐにビージーズの歌、そして映画『小さな恋のメロディ』について語りたくなる。
今、ちらりと何人かの若い編集部員に聞いてみたのですが、みんな「知りません」と「?」顔で、答えました。ビージーズは?「うーん……」
編集者なのに! と編集長はいきどおるものの、あれは1971年、もう50年近く前の映画です。ムリもないかあ。編集長にはつい昨日のことなんですが。
あの日々、女子はダニエル(マーク・レスター)に、男子はメロディ(トレイシー・ハイド)に心奪われたものでした。いつか大好きなあの子と、トロッコで、地の果てへ!(ぼおー)

……と、本誌そっちのけで「語り」にはいりそうなので、ここで切り上げますが(編集部員、安心)、ふと計算してみると、あのころぼくは14歳。
おお、それって、今回の巻頭記事、フジコ・ヘミングさんが絵日記を描かれた歳と同じではありませんか!
1946年の夏……といえば、敗戦翌年、フジコさんのいた東京は、がれきの町。お金どころか、もの、食べものさえろくにないとき。2年後に出る『暮しの手帖』創刊号の言を借りれば、《お互いに、生きてゆくのが命がけの明け暮れ》。
その中にあっても、フジコさんの絵日記には明るい希望が溢れます。ときには笑いも。
戦争が終わった喜びもあるのでしょうが、それ以上に、「今」を生きる14歳の少女が見事に投影されているのです。
きっといつの時代も変わらない、可愛いものを愛する感覚、お洒落に惹かれる心、美しいものの希求……。すなわち、今のフジコさんがそこに見られるのです。永遠の少女なんだなあ。
それにしても、とても端正な凜とした佇まいの日記。フジコさんの若葉の時代は、うすらぼんやりとしていたぼくの14歳とは全然ちがいます! ぼくはあの日々、夏休みにどんな日記を書いていたのでしょうか?(記憶のおよぶ限りですが、実に「しょぼい」「いいかげんな」やつだったと思います)
上記のように夢見がちではあったんですけどね。

さあ5月から、もうすぐ6月へ──そうしたら夏です。
若葉はぐんぐん繁って、濃い緑に変わります。
太陽よ、がつんと来い。
今号の『暮しの手帖』は、夏を迎える元気の素をいっぱい用意しました。
どうぞ本屋さんで手にとってごらんください。

編集長・澤田康彦

身体にどよめく声、柔毛突起を束ねて

『おらおらでひとりいぐも』
『おらおらでひとりいぐも』 若竹千佐子 著
河出書房新社 1,200円+税 装釘 鈴木成一デザイン室

 今年の芥川龍之介賞を受賞した作品として話題を呼び、この本をすでに手にとった方も多いことと思います。日頃、そういった受賞作に疎い私ですが、著者の若竹千佐子さんが遠野出身の主婦と伺い、「いま、読みたい」と心が騒ぎました。かねてから、私は、馬と暮らしたくて遠野に移住した一家と親交があり、お訪ねした時の土地の情景が浮かんできて急に懐かしくなったのです。
 物語は長年住み慣れた新興住宅の一室でひとり、お茶をすする女性、桃子さんの自問自答からはじまります。

「あいやぁ、おらの頭(あだま)このごろ、なんぼがおがしくなってきたんでねべが 
どうすっぺぇ、この先ひとりで、何如(なんじょ)にすべがぁ」
 
桃子さんの身体の内側から湧き上がってくるような東北弁。濁音や抑揚がおもしろいほど読み手の感情を揺さぶります。桃子さんの髪形、服装、すする茶碗の柄、テーブル、室内の様子がひとり歩きして、書かれている以上にイメージがどんどん浮かんできます。
 結婚を間近に控えた24歳の彼女は、故郷に失望し、身ひとつで東京へ飛び出し、やがて、夫となる周造と出会い、結婚。ふたりの子どもを育て上げます。そして、夫の死を経験するのです。捨てた故郷、疎遠になった子どもたち、ひとりぼっちになった桃子さんの喪失感が痛く心に響いてきます。桃子さんの身体の内側に存在する無数の「柔毛突起」が、まるで別の生き物のように宿って「ああでもない、こうでもない」と、哀しみに対峙している描写はとてもユニークな世界です。柔毛突起は肉体と直結していて、それを束ねている彼女の正体は、桃子さん自身ですし、吐き出す言葉のすべても、対話している相手も桃子さんに他ならないのですから……。
 自分の内側にいる自身とのせめぎ合いって、気がつけば私たちもよく体感していませんか? そして、その時々の様々な感情の起伏をなかなかうまく排出できずに通り過ぎてはしまっていないでしょうか。私は、そんな問いを自身にしているうちに、あれあれ、なんだか桃子さんになってしまったように思えてくるのです。
孤独のトンネルの中、自問自答を繰り返し歩き続けた桃子さんが、ようやく辿りついた先は……。
そのきっかけは、ひとりで訪ねて来た孫のあまりに日常的な呼びかけであったと、私は思っています。孫が「おばあちゃん、窓開けるね」と呼びかけた直後、春を迎えようとする外気が室内に入り、すっと桃子さんの心の扉も開いた。私はその瞬間に生きることの自由が象徴されているように感じました。
気づかぬうちに閉ざしかけていた私の内心の扉が、若竹さん固有の言葉の力によって放たれ、爽快感が広がる一瞬となりました。(上野)

愛する台所道具に宿る幸せ

『ツレヅレハナコの食いしん坊な台所』
『ツレヅレハナコの食いしん坊な台所』 ツレヅレハナコ 著
洋泉社 1,500円+税 装釘 森太樹

 料理企画の取材中、料理家の先生が使っている道具に興味がわきます。年季の入ったセイロや、見たこともない木ベラ。「それ、使いやすいですか?」と聞きたくなる衝動を抑え、取材を続けます。ああ、思う存分、話が聞きたい!
そんなわたしの欲求を満たしてくれるのがこの本です。著者のツレヅレハナコさんは元料理雑誌の編集者というだけあって食いしん坊で、読んでいるとお腹が鳴るようなおいしそうな文章がお得意。そんな彼女が愛用している台所道具と、それで作る料理がふんだんに語られます。学生時代に一人暮らしの台所で何十回もインスタント麺を作った小さな土鍋。モロッコの市場で買い、かついで帰ってきたクスクス作り専用の鍋。外はカリッと、中はトロトロのたこ焼きが作れる、ガスたこ焼き器。そのどれもが、ブランドや値段の高い・安いとは関係ない、ツレハナさんが「使っていると楽しい道具」。いつかわたしも、自分にとってのそんな道具たちに巡り合えますように。(平田)

いつもの自分を取り戻せる場所

2018年04月12日

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いつもの自分を取り戻せる場所
(93号「今日の買い物 上田へ」)

1カ月のうち、半分以上は旅に出ているのでは……と思われるほど、全国各地を訪れている編集者の岡本仁さん。
そんな岡本さんがたびたび足を運んでいる町の一つが、長野県の上田です。
何かがあってあたり前、忙しいのはいいこと、人がたくさん集まるのはすてきな場所だから。そんな感覚に少し疲れて息苦しくなると、上田の静かな町並みを歩きたくなるのだそうです。
そしておなかがすいたら、岡本さんが日本一好きなカレーを食べる。
すると、静かで安定したリズムに支えられた、日常生活の大切さが思い出されるのだといいます。旅先に、いつもの自分を取り戻すことができる場所があるって、すてきですよね。
誌面では、前述のカレー屋のほか、上田をこよなく愛する岡本さんがいつも訪れるという、おいしい食事処や菓子専門店、セレクトショップもご紹介しています。
町歩きをたのしみながら、気になるお店でちょっとひと息。ときには、そんなのんびりした旅は、いかがでしょう。(担当:井田)

「怒り」に振り回されて、困っている人に

2018年04月10日

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「怒り」に振り回されて、困っている人に
(93号「怒りとむきあう 怒りとつきあう」)

ちょっとしたことで、カッとなる。怒りたくないのに、怒ってしまう。つい言い過ぎて、あとでとても後悔する……。自分の怒りに振り回されてしまうこと、誰しもきっとありますよね。
本企画は、自分の怒りにむきあい、つきあっていく方法を探すために組んだものです。
「認知行動療法」(物事の受け止め方について考える)、「身体心理学」(身体から怒りの感情にアプローチする)、「アサーション」(適切な表現や物の言い方を練習する)という、3つのアプローチで「怒り」について考えます。
むやみに怒らないでいられたら。周囲や自分を傷つけることなく、怒りを発散できたなら。自分の怒りを、適切にうまく、相手に伝えられたなら。私たちの毎日は、どれだけ平和になるでしょう。自分の怒りを持て余し、困っている人と一緒に考えられたらと思います。(担当:島崎)

台風のはざまの、奇跡の一日

2018年04月09日

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台風のはざまの、奇跡の一日
(93号「大将の休日」)

テレビ番組などで、「ロケ」なんて、言葉を聞いたことはありませんか。
簡単に言ってしまえば、機材を持ち出して、スタジオ以外の場所で撮影をすることですね。
この「大将の休日」も、いわゆる「ロケもの」なんて呼ばれる撮影です。

ロケで一番の心配ごとというと……、そう天気ですね。
編集部で撮影日の天気が話題のぼると、「私は撮影の時に、雨が降ったことがない」とか、「雨を降らせないのも編集者の能力だよ」は必ず飛び出すセリフです。
スケジュールを決めるのがギリギリまで待てればいいのですが、大勢のスタッフがかかわる仕事だと、なかなかそういうわけにはいきません。
みんなの都合のよい日を本番(一応、予備日も確保します)にして、あとは運を天に任せるのみ、なのです。

「大将の休日」は、実は天気が読みにくい台風シーズン真っ只中の撮影。しかも影響を受けやすい海の上。毎日、週間天気予報を見ながら、刻一刻と変化する天気に一喜一憂。
晴れマークが出ていても、当日目が覚めて太陽を見るまでは安心できません。
悶々と過ごした数週間を経て、結果はご覧のとおり、吸い込まれそうなほどの青空。この前後数日は台風で大荒れ。奇跡的に晴れた一日だったのです。
きっとスタッフのなかに、強烈な晴れ男(女)がいたのでしょうね。(担当:矢野)

あのひとから買いたい。

2018年04月04日

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あのひとから買いたい。
(93号「行司千絵さんの愛するお店 後編」)

きっと全国に、人それぞれの「好き」を支え、心を照らしてくれる大切なお店があるはず。そんな「街の灯り」が、どうかいつまでも消えないように……。
京都新聞の記者をしながら自身や知人の洋服を作ってきた行司千絵さんが、そんな思いで、創作に欠かすことができないお店を紹介するこの企画。
前編でご紹介した奈良の民芸品店「MARUMARU」、大阪の羅紗屋さん「ムツミ商店」には、「ぜひ訪れたい!」「早速行ってきました!」などなど、たくさんの反響がありました。
後編でご紹介するのは、京都市のはずれにあるリバティ生地専門店「トランテアン」、新京極の刃物店「源久秀(みなもとのひさひで)」、大阪のリネン専門店「リネンバード北浜」の3店です。それぞれの方がどんな思いでお店に立ち、お客様と向き合っているのかを知ると、人を介して物を買うということが、とても楽しみになってくるのです。

古都に咲く桜を愛でようと、西へ向かう予定があるみなさまはもちろんのこと、
ご自分の「街の灯り」に思いを馳せるみなさまにもぜひ、読んでいただけたら嬉しいです。(担当:長谷川)

「かわいい画家」の素顔をさぐって

2018年04月03日

「かわいい画家」の素顔をさぐって
(93号「猪熊さんって、どんなひと?」)

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香川県丸亀市といえば、讃岐うどんを連想する方も多いと思いますが、もうひとつ忘れてならない存在が、「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」(愛称MIMOCA)です。
場所は、丸亀駅のすぐ目の前。方向音痴の私でも、迷いようがありません。建物の前面には、巨大なキャンバスのような真っ白い大理石の壁があって、この美術館のあるじ、画家の猪熊弦一郎(1902-1993年)の絵がのびのびと描かれています。何頭もの馬や、自動車や飛行機のようなもの。あれ? 隅っこにいるのはくじら君かな??
語弊があるかもしれませんが、それはとっても「かわいい」のです。小さな子どもの絵を見るように、なんだか頬がゆるんでしまう。80代のおじいさんが描いた絵とは思えません。
さらに美術館の中に入ると、猪熊さんが自宅に無数に遺した雑貨の一部(人形やおもちゃ、スプーンなどさまざま)、針金などで作った小さなオブジェ(「対話彫刻」と言います)もずらっと並んでいて、その「かわいさ」に圧倒されます。きっと、誰もが思うことでしょう。
こんな素敵なモノたちと暮らした猪熊さんって、どんな人だったのだろう? と。

今回の企画では、ご親族や長年の弟子であった荒井茂雄さんを訪ね、猪熊さんとの思い出の品々を撮影しながら、心に残るお話をじっくりとお聞かせいただきました。
愛妻・文子さんとともにパリやニューヨークで暮らし、芸術の息吹に触れながら、常に新しい表現をつかもうと果敢に挑んで生きたこと。訪ねてきた人は、たとえ無名の若者でも分け隔てなく接し、気持ちよくもてなす夫妻だったこと。新しいものが好きで、80代になっても、発売したてのウォークマンにビートルズなどの楽曲を入れて、聴きながら絵を描いたこと。文子さんとの別れと、その後に生み出した表現について……。
「シャープ、シンプル、フレッシュ」とは、荒井さんが猪熊さんの画風を言い表した言葉。みずみずしい感性で、子どものように純粋に描くことを楽しんだ猪熊さんが、目の前にすくっと立っているかのような、それは素晴らしい取材のひとときでした。
東京渋谷の「Bunkamura ザ・ミュージアム」では、4月18日まで、「猪熊弦一郎展 猫たち」を開催中です。ぜひ、足をお運びください。(担当:北川)


暮しの手帖社 今日の編集部