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第3回 自分とは違う意見に、どう向き合う?

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『暮しの手帖別冊 お金の手帖Q&A』特別企画 和田靜香さん×井手英策さん
「今日よりも明日はすばらしい」。すべての人が、そう信じられる社会にするために。

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2021年、フリーライターの和田靜香さんの著書、『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』が大きな話題になりました。私たちは同じ年に、『暮しの手帖別冊 お金の手帖Q&A』という本を出版。庶民の視点から政治、経済を見つめた2冊の本の共通点は、経済学者の井手英策さんの存在です。

『お金の手帖Q&A』では、井手さんにこの本の土台となるいくつかの章の解説をお願いしました。他方、『時給はいつも最低賃金、~』の文中には、井手さんの著書の引用が幾度も出てきます。「和田さんと井手さんが話したら、きっと胸に迫る、深い議論になるのでは……」そう感じた私たちは、お二人の対談を企画。

税金について、民主主義について、学ぶことの意味について、思いもよらない方向にどんどん膨らんだお二人の対談を、全5回で、たっぷりお届けします!

*

◆ようやく気づいた、税金の大切さ

和田 私は井手さんの本を読むまで、税の大切さをわかっていませんでした。私が子どもだった昭和の時代に減税が繰り返されて(※)、それに伴って私たちの生活が自助に向かわされてきたと読んだときも、最初は納得できなかったんです。わからないから。けれど3冊読んで、ようやくわかりました。減税って要するに、お金返すから自分たちでやってね、っていうことなんだと。
※1961年から75年まで(72年は除く)毎年、消費税に換算すると0,5%規模の減税が行われた。諸外国では政府が無償、もしくは安価で提供する住宅、教育、育児、保育、養老、介護等の獲得に必要な資金を国民に還付し、自分で市場から購入するようにさせた。

井手 お金持ちは何とかなるでしょうけど、普通の人、貧しい人はどうなるのって。考えただけでゾッとします。

和田 ゾッとします。けど、私もそうだったんですが、税金がないと暮らしが立ち行かないという事実に気づくのが難しいというか。実感するためには、どうしたらいいんでしょうか。

井手 例えば、病院に行きますよね。すると領収書をもらうじゃないですか。自分の払った金額が3,000円だとする。自己負担は3割ですから、本当は1万円かかってるってことです。だったら、領収書にカッコ書きで「税金から7,000円も出ています」と書かれてたらわかりやすくないですか? めっちゃ恩着せがましいけど(笑)

和田 なるほど。水道料金なども全部そうなれば、自分たちがどれだけ税金に助けられているかがわかりますね。けれど、こういう「税がいかに大切か」というお話をすると、気になることがあって。『時給はいつも最低賃金、~』の中で、小川さんが将来的な増税の必要性を語る部分があるんですけど、これを読んだ一部の人から、とても怒られまして。「増税なんてとんでもない」と……。

井手 怒られますよね。僕もどれだけ叩かれたかわかりません。

和田 今もTwitterなんかで怒られ続けてます。

井手 もらい事故だ(笑)。でもね、和田さんや僕のことを批判する人がいたとして、それはそれでいいんですよ。だって、僕らが言ったことがみんなに受け入れられて、みんなが同じことを言う社会になったら、民主的じゃないもん。

和田 あ、そうか。反対意見とか、いろいろな意見があって初めて……

井手 民主主義なんですよ。僕らがどんなに正しいと思えることを言っても、それに対して「違う」と唱える人がいることが、健全なんです。自由の本質は、「選択肢」があること。選択肢が一つしかないとき、それは強制と変わらなくなります。人類の歴史を見ていくと、少数の人間が多数の人間を支配してきた歴史なんですよ、ずっと。

和田 一部の人たちが、その他大勢を……ということですね、はい。

井手 ところがとうとうね、僕たちは、みんなで少数の人間を支配する世の中を作りだしたわけです。民って「治められるもの」って意味があります。その「治められる」ほうの僕たちが主人公。民が主人。「民主主義」ってそういうことでしょ?

和田 はい。

井手 けれど現実には、きっと和田さんもお感じのように、一部の大金持ちとか特権階級が、まだまだ世の中を動かしてるじゃないですか。結局ね、民主主義って、完成形があるわけでも、ゴールが決まっているわけでもないと思うんです。常に模索を続けている「終わりなき旅」みたいなもの。だから、よりよい明日を目指して、色んな見方・考え方がぶつかり合うのは、大事なこと。批判をされたら、「民主主義が守られてるんだな」と思うことにしたらどうでしょうか。ま、「批判は上品にね」とは思うけれど(笑)。

和田 はい、それはもう(笑)。

井手 批判をされると、相手に思いを伝えるためにどう話そうか、といったふうに、伝わる言い方を考えるようになりますしね。

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◆違いを認めないと、自分も認めてもらえない

和田 「伝わる言い方」について言うと、リベラル政党の政治家の人たちが使う言葉が、一般の人に伝わりにくいように感じてしまいます。さらに、リベラルの人たちの方が、違う意見への許容度が低いようにも感じます。

井手 わかります。リベラルと言っておきながら、違う意見は認めないって人、多いですよね。選択肢を押しつけるのって、リベラルとは正反対じゃないですか。なのに、自分にとっての正義、自分の好きなものが正しくて、そうでなければならない、って語りがちになる。そういう考えで話す言葉は、同じ意見の人には届いても、それ以外の人には伝わらないものになってしまう。伝えることよりも、やっつける、論破することが目的だから。

和田 そうなりがちです。

井手 リベラル、左翼と呼ばれる人たちは、原発は停止しなくてはならない、格差は小さくしなければならない、消費税は減税すべき、憲法は変えてはならないというふうにね、仲間であるための条件をどんどん増やしていく傾向がありますよね。

和田 はい。最近はリベラルに限らず、ポピュリズム政治(※)でも同じ傾向を感じます。仲間というより、フランチャイズ店舗のように同じ条件の中にあるようで。
※1891年に結成されたアメリカ人民党、通称「ポピュリスト党」によって広まった言葉。ラテン語で「人々」を意味する言葉「ポプルス」を語源とする。日本では、「大衆迎合」「扇動政治」と同じ意味で使われることが多い。

井手 そうすると、そこに入れない人がどんどん増えていくんです。「原発は反対だけど憲法は変えてもいいんじゃないか」と思う人がいるとする。それなら反原発運動だけでも一緒にやればいいじゃないかと思うけど、そうなりにくいですよね。

和田 そうなんですよね。私自身も、原発は止めてほしいけれど、消費税は増やしてもいいから社会保障を充実させてほしいとか、課題ごとにいろいろな意見があります。それはみんな、そうだと思うんです。それなのに、意見はみんな一緒でなくてはいけない、というのは……。政治家も有権者も、違う意見に耳を貸すことが、大切かもしれませんね。

井手 そう。話し合うってことですけど、話し「合い」になるためには、相手が話す権利を大事にしないとね。違う意見がある、それを互いに認め合うって、すごく大事なこと。だって自分が相手を認めないのに、相手には自分を認めろなんて、そんな都合のいい話はありえないもん。あちこちで違う考えがバラバラになって、自分のサークルのなかで、違うサークルの悪口を言ってたら、社会の連帯なんて生まれっこないしね。僕のことを認めてほしいから、あなたの違う意見もちゃんと聞きます、受け入れますという態度。これがあってこその民主主義なんじゃないでしょうか。

 

◆まとめと次回予告

お二人の話を聞きながら、イギリスに伝わる「他人の靴を履いてみる」ということわざを思い出しました。自分とは違う意見に接したとき、「その人の置かれている立場や境遇を想像して理解に努める」という態度を示した言葉です。感情的に共感することには慣れているけれど、共感が難しい意見と理性的に向き合うのは、なかなか難しい……。けれどあきらめずに習得したいと、気持ちを新たにしました。
次回は、いま多くの人が抱く、「漠然とした不安」について語り合います(編集部)。

第4回「『権利や自由のために闘う』ということ」は、明日8月12日に更新します。

*対談収録日:2022年1月末
(その後の社会情勢を鑑みて追記している箇所があります)

*別冊『お金の手帖Q&A』はこちらからご購入いただけます。
暮しの手帖社オンラインストア

写真・上山知代子/イラスト・killdisco/協力・飯田英理/構成・編集部

第2回 経済のことを知らなくても、生きていけるけれど

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『暮しの手帖別冊 お金の手帖Q&A』特別企画 和田靜香さん×井手英策さん
「今日よりも明日はすばらしい」。すべての人が、そう信じられる社会にするために。

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2021年、フリーライターの和田靜香さんの著書、『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』が大きな話題になりました。私たちは同じ年に、『暮しの手帖別冊 お金の手帖Q&A』という本を出版。庶民の視点から政治、経済を見つめた2冊の本の共通点は、経済学者の井手英策さんの存在です。

『お金の手帖Q&A』では、井手さんにこの本の土台となるいくつかの章の解説をお願いしました。他方、『時給はいつも最低賃金、~』の文中には、井手さんの著書の引用が幾度も出てきます。「和田さんと井手さんが話したら、きっと胸に迫る、深い議論になるのでは……」そう感じた私たちは、お二人の対談を企画。

税金について、民主主義について、学ぶことの意味について、思いもよらない方向にどんどん膨らんだお二人の対談を、全5回で、たっぷりお届けします!

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◆「資本主義は変えられない」という思い込み

和田 前回のお話から、私が経済を誤解してとらえているということがよくわかりました。「お金もうけイコール経済、みたいなイメージになったのは、人類の歴史からみたらごく最近のこと」というお話がありましたが、それならなぜ、私たちはこんなにも「資本主義は変えられないもの」だと思い込んでいるんでしょうか。もう決して変えられない、というふうに、囚われているというか……。

井手 今度は資本主義が来たか(笑)。まずは定義しないといけませんね。僕は、生きていくため、暮らしていくために必要なことすべてを、金で買うようになった時代、それを資本主義の時代だと考えています。

和田 何もかもをお金で買う……。

井手 昔だったら仲間たちが屋根を張り替えてくれたけど、いまはお金を貯めて大工さんを雇わないと、無理ですよね。だから金が必要になり、「経済とは金もうけ」という話になっていくんですね。

和田 助け合いがなくなって、その分をお金で埋めている。だから、お金がないと何もできない、お金がすべて、というふうにしか考えられなくなるんですね。

井手 ポイントは「必要」を満たすこと。そのために、昔はみんなで汗をかいていた。いまは、金を稼ぐために汗をかいています。どっちが幸せかっていうことですね。

和田 うーん、ほんとだ。昔の方が幸せに思えてしまいます。

井手 いずれにしても、いつも、まず「必要」=「ニーズ」があるんです。かつての人間は、その必要をみんなで満たし合っていたんです。ところが資本主義は、自分で稼いで自分で何とかしろ、というのが出発点。けれど、それでは貧乏な人は生きていけないから、財政という仕組みを作って、みんなで会費を払いましょうと。この集まったお金で、困っている人やみんなが必要なものを何とかしましょう、ということになったんです。

和田 なるほど、会費とは、税金のことですね。

井手 いままで集落や町内などの「コミュニティー」でやっていたことを、巨大な「共同事業」として国全体でやりましょうねと始まったのが、財政です。寺子屋でやっていたことが初等教育になり、コミュニティーで管理していた道、水、森の維持や、消防、防犯の役割まで、すべて国と自治体が担うことになった。さらには近所で面倒を見合っていたおじいちゃん、おばあちゃんの介護も国、自治体が担うことになりました。私たちは直接それらをやらなくていい代わりに、お金を払うようになったわけです。

和田 そう考えると、財政って、本当に生活そのものなんですね。

井手 そう。税金を払わないんだったら、いま国がやっていることを、私たちが汗をかいてやらなくちゃいけない。でもね、いま、経済が成長しなくなってきてるでしょ。税収が増えない中、政治家は増税を訴える気概もなくしていて。

和田 選挙が怖いから、とても言えないのかも。

井手 だんだんと、僕たちに、国と自治体が担っていた仕事を押しつけてきているんですよ。いま「地域包括ケア」ってよく言いますけど。

和田 その言葉、よく聞きますが、意味がいま一つ分からないでいます。

井手 要するに、介護は地域全体でやりましょうというふうに変わってきている。それだけなら「まあそれもいいんじゃない」と思うんですが、福祉について定めた「社会福祉法」という法律の第四条(※)を見ると、驚きます。だって、「地域住民」は、「地域福祉の推進に努めなければならない」と、まるで福祉活動に参加することが義務でもあるかのように書かれているんですから。
※社会福祉法 第一章 第四条 2項
地域住民、社会福祉を目的とする事業を経営する者及び社会福祉に関する活動を行う者(以下「地域住民等」という。)は、相互に協力し、福祉サービスを必要とする地域住民が地域社会を構成する一員として日常生活を営み、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるように、地域福祉の推進に努めなければならない。

和田 ええ~、いつの間にかそんなことに。

井手 参加というのは、自分で考えて決めるから参加なんですよ。英語で“take part in”と言いますが、それぞれに役割(=part)があって、それを自分の意志で果たそうとするから参加なんです。義務、押しつけになったら、参加とは言えない。

和田 コロナ禍でも「自粛の要請」なんて変な言葉が横行しましたけど、それと似てますね。要請されたら自粛じゃないでしょって。

井手 そうそう。義務、強制がまかり通る世界が目の前までやって来てます。税金を払いたくないとなったら、本格的にそういう世界になる。だって汗をかくしかないんだから。

和田 昔は共同体の暗黙の了解で、そうなっていたけど……。

井手 今度は法律に書かれて参加が義務になってきているわけです。多くの人が気づかないままそうなっているのが、とてもこわいことだと思うんです。

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◆この社会をもっといいものに作り替えるために

和田 「知る」ことが大事だと、あらためて感じました。私自身、昨年『時給はいつも最低賃金、~』を書く前まで、財政と聞いても「何のことやら」という感じで、何も知らなかったんです。それで井手さんの本を3冊読みまして、ようやく小川淳也さんと話ができるようになりました。

井手 そりゃあ、よかった。っていうか、本気でうれしい。目の前の世界の風景を変える、それこそが学問の意味、価値ですから。

和田 本当によかったです。ただ思うのは、私は本を書くためという動機があったけれど、一般の人が、「経済って、財政って何だろう」と思っても、そこから重い腰を上げて学び始める人は、なかなかいないんじゃないかな、ということで。

井手 なるほど。これちょっとお借りしていいですか(テーブルにあった『暮しの手帖』を手にとる)。この本の最初にね、こんな言葉が入ってるんです。ずっとずっと昔から入ってるんですよ。編集部のみなさんも知ってました?

・・・・・・・・・・・・・・・・
これは あなたの手帖です
いろいろのことが ここには書きつけてある
この中の どれか 一つ二つは
すぐ今日 あなたの暮しに役立ち
せめて どれか もう一つ二つは
すぐには役に立たないように見えても
やがて こころの底ふかく沈んで
いつか あなたの暮し方を変えてしまう
そんなふうな 
これは あなたの暮しの手帖です
(『暮しの手帖』初代編集長 花森安治による巻頭言)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

井手 ここに書いてあること、すっごく大事だと思いません? 人間って、役に立つものばかりに飛びつきがちです。けれどね、すぐには役に立たないように思えることでも、心の底に残っていれば、それがいつか物の見方・暮らし方を変えるかもしれない。この発想を、僕たちは大切にすべきだと思うんですよ。

和田 ああ、ほんと、そうですね。

井手 「財政なんて知らない・わからない」でも生きていけます。けれど、だからと言って勉強しなくていいことにはならない。絶対にならない。だって、財政を知ることは、この社会をもっといいものに作り替えるために、絶対に必要になるんですから。

和田 そうですね、この社会をよりよいものにするために。

井手 今日よりも、ちょっとでもいいからすばらしい明日を夢見ながら生きていくのが人間でしょう。この夢を、すべての人が見られないとおかしいんです。

和田 ああ、そうです、そうです。

井手 本当にこれ、人間のもっとも基本的な権利ですよね。進化、進歩、成長、何と呼んでもいいけれど、今日よりもよりよい明日を作っていこうという気持ち。これを持つために、税金は必要なんです。でも、税金って本当に嫌われてますよね。僕は税の話を平気でするから、ネット上で悪魔でも見たかのように嫌われる(笑)

和田 誰だって、お金を取られるのはいやですからね。

井手 ですよね。でも、歴史を見てください。これまで、世界のあちこちで、数々の革命が起きました。フランス革命、ドイツ革命、アメリカの独立戦争、いろいろありますけど、「税をなくせ」と言った革命は一つもありません。なぜなら、暮らしを維持するために、税はいるものだからです。

例えば、病気にならない人間はいませんよね。病院には税金が使われています。お金持ちが高級車を買っても、税金によって整備された道路がなければ走れません。水道だって、税金がなければハンパない金額になります。命懸けの革命で人々が望んだのは、みんなが納めた税をどのように使うのか、誰の、何のために使うのか、それを自分たちで決めさせてくれ、ということなんです。

和田 えらい人が勝手に決めるな、ということですね。

井手 そうです。そのために、みんな命を懸けて戦ったんです。この歴史から学べばね、税のことはよくわからない、何に使われているかも知らないという人が増えると、権力が暴走して、税金の使い道を勝手に変えてしまうかもしれない。先ほどお話ししたように、国が担っていたことがこっそり国民に降りてきて、いつのまにか私たちの責任や仕事が増えていく、ということになりかねない。だから僕は嫌われても語るんです。税の話を。

 

◆まとめと次回予告

「知る」ことの大切さを知った和田さんの言葉、実感がこもっていましたね。「今日よりもよりよい明日を作っていこうという気持ち」が、「人間のもっとも基本的な権利」だという井手さんの言葉が、じーんと胸に迫りました。
次回は、政治についての本を出版した和田さんの経験から、さまざまな意見への向き合い方を考えます(編集部)。

第3回「自分とは違う意見に、どう向き合う?」は、明日8月11日に更新します。

*対談収録日:2022年1月末
(その後の社会情勢を鑑みて追記している箇所があります)

*別冊『お金の手帖Q&A』はこちらからご購入いただけます。
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写真・上山知代子/イラスト・killdisco/協力・飯田英理/構成・編集部

第1回 経済学は、お金持ちのための学問?

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『暮しの手帖別冊 お金の手帖Q&A』特別企画 和田靜香さん×井手英策さん
「今日よりも明日はすばらしい」。すべての人が、そう信じられる社会にするために。

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2021年、フリーライターの和田靜香さんの著書、『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』が大きな話題になりました。私たちは同じ年に、『暮しの手帖別冊 お金の手帖Q&A』という本を出版。庶民の視点から政治、経済を見つめた2冊の本の共通点は、経済学者の井手英策さんの存在です。

『お金の手帖Q&A』では、井手さんにこの本の土台となるいくつかの章の解説をお願いしました。他方、『時給はいつも最低賃金、~』の文中には、井手さんの著書の引用が幾度も出てきます。「和田さんと井手さんが話したら、きっと胸に迫る、深い議論になるのでは……」そう感じた私たちは、お二人の対談を企画。

税金について、民主主義について、学ぶことの意味について、思いもよらない方向にどんどん膨らんだお二人の対談を、全5回で、たっぷりお届けします!

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◆ギリシャ哲学までさかのぼってみると

和田 お会いするのは、高松市での小川淳也さんの出陣式(※)でご一緒した以来ですね。その時が初対面で。
※2021年衆議院選挙の公示日に小川淳也事務所で行われた。

井手 僕の応援のあとが、和田さんでしたね。

和田 どう考えても順番間違えてる(笑)。井手先生がすばらしすぎて、あのあとやるのは地獄でした。

井手 でも『香川1区』(※)ではいい感じだったじゃないですか。僕なんかキレまくってるオヤジみたいで。ちょっとジェラシーだったな(笑)
※小川淳也さんを中心に2021年の衆議院選挙戦を追ったドキュメンタリー映画で、二人が応援演説を行うシーンがある。2020年に公開されてロングランとなった『なぜ君は総理大臣になれないのか』(大島新監督)の続編。

和田 いやいやそんな……。そのときもお伝えしましたが、井手さんの本を読まなかったら、『時給はいつも最低賃金、~』は書けなかった。いつか慶應大学の経済学部に入って井手さんの授業を受けたいと夢見ていたので、今日は本当にうれしいです。さっそくですが、「経済って、一体何だろう?」という、ほんとの基礎の基礎からお聞きしたくて。こないだふと、「経済」って言葉を国語辞典で引いてみたんですね。

井手 ほう。

和田 経済学っていうと、私はずっとお金もうけの学問みたいに思い込んでいて。経済って言葉の意味もよくわかってなかったな、と。自分に呆れるんですけど(笑)。辞書には、「人間の共同生活に必要な物資・財産を、生産・分配・消費する活動」って書いてあったんです。

井手 さすが辞書。いいこと言ってる(笑)

和田 「経済って、私たちが社会で共に暮らすために必要なものなんだ。私たちの暮らし、生きることそのものなのに、勝手に遠くに追いやってるな」って、気がついたんです。井手さんは大学時代からずっと経済を学ばれていますが、経済の大切さに気づいたきっかけは何だったのでしょうか?

井手 僕はね、仕方なく経済学部に行ったんです。第一志望の私立に落ちちゃって。国立はすべり止めだったんだけど、みんなが法学部に行くっていうから経済学部に願書出して。

和田 えっ。

井手 ところがね、こまったことに、教科書に書いてあることがまったく納得いかなかったんですよ。わからないじゃなくて、納得がいかない。例えばね、「限界効用逓減の法則」(※)ってのを、最初に教わるんです。効用というのは喜びのことで、経験するたびに喜びはどんどん減っていくものだという法則。よく「一杯目のビールよりも二杯目のビールは喜びが減る」といった感じで説明されるんですが、その時点で、もう「嘘つけ」って思うわけですよ。だって、一杯飲むともっと飲みたくなるじゃない。
※一定期間に消費される財の数量が増加するにつれて、その追加分から得られる限界効用(満足度)は次第に減少するという法則。

和田 一杯目より、二杯目のほうが、より美味しいです(笑)。

井手 でしょ(笑)。これをもうちょい真面目に話すと、じゃあバブル経済って何よ?って話。

和田 欲望が膨らんでいく!

井手 そう。金稼げば稼ぐほど、もっと欲しくなってるじゃないですか。だからバブルが起きるわけで。

和田 それが真理です!

井手 ほかにもいろいろと納得がいかないことがあった。だから僕は経済学ではなく、「財」と同時に政治の「政」がついている財政にいくことにしたんです。そっちのほうがなんとなく生々しさがある。それだけです(笑)。ただ、こだわるほうだから、いちど人類の始まりに戻って経済を考えてみようと思って、本はよく読みました。

和田 そんなところから!

井手 ギリシャ哲学がスタートでしたね。さっきの話に戻りますけど、「経済」って英語で言うとエコノミーですよね。そしてエコノミーの語源は、ギリシャ語のオイコノミーです。

和田 あー、オイコノミー。

井手 はい。オイコスって言葉と、ノモスって言葉がひっついてオイコノモスになり、オイコノミー、エコノミーと変化していくんです。オイコスって何かと言うと、家なんです。ノモスというのは、法とか秩序とか。要するに、仲間たちが、大きな家の中で、お互いが支え合いながら秩序を作っていく。そういうことを表した言葉が、エコノミーの語源だと知ったんです。

和田 家が基礎にあり、共に作っていくんですね。

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◆人間は一人ぼっちでは生きていけない

井手 経済というのは何も遠いどっかの話じゃなくて、家族が一緒に暮らしていくときに、じゃあ何か食べもの、果物とか魚とかを集めておきましょう、それをみんなに等しく分配しましょう、ということから始まってるんですね。お父さんはえらいから全部独り占め、とはならずに、みんなに均等に分配する、ということなんです。

和田 均等に、というのが大事だ。

井手 それがもともとの経済なんです。長く見てもたかだか16世紀から今までの4~5世紀ぐらいの間に、お金もうけが経済だって考え方が広がっただけで。そんなの、人類の歴史から見たら、瞬きみたいなもんですよね。

和田 そうか……、じゃあ国語辞典にあった解説は正しいんですね。

井手 「人間の共同生活に必要な物資・財産」ってあったけど、いいとこ突いてると思う。人間がみんな持ってる欲求を物で満たすという活動が「経済」なんです。例えば、空腹を満たすためにお金でパンを買うという行為は、経済ですよね。ではこれはどうでしょうか。江戸時代は、屋根が傷んだら、近所のみんなでお互いに修理し合っていました。この行為は「経済」と呼べるでしょうか?

和田 お互いに満たし合っているから、経済と呼べる?

井手 そう、お互いに支え合って欲求を満たし合ってるもんね。お腹がすいている人がいて、「はいどうぞ」ってお米を渡すことを、いまの世の中では「再分配」って言いますよね。

和田 持てる人が持たざる人に分ける。

井手 そう、お金もうけと真逆。だけど、これも、お腹がすいた、ご飯が食べたいという人の欲求を満たしているわけでしょ、だから経済なんです。困っている人がいたら声をかける。みんなでやろうぜ、って。これだって立派な経済なんですね。なぜこういうことが行われてきたかというと、人間って一人ぼっちでは生きていけないからです。支え合わないと生きていけない。経済って、もともと「経世済民」(※)という言葉からきていますよね。救済の「済」の字が入ってるじゃないですか。経済って、もともと人々を助けるためのものでもあるんですよ。
※中国晋代の書『抱朴子』で同様の言葉が使われている。「世の中を治めて民を救うこと」という意味で、始めは政治を指す言葉だったが、日本では幕末に「economy」の訳語に使われ、「経済」と略されていまと同じ意味で使われるようになった。

 

◆まとめと次回予告

「経済とは、もともと人々を助けるためのもの」と井手さん。和田さんと同じように、編集担当である私も、「経済」という言葉をとても狭い意味でとらえていたんだな、と気がつきました。
「とはいえ、やっぱり現代では『経済=お金もうけの手段』という側面が強い?? なぜそんなふうにしか思えないの?」という和田さんの問いから、次回はスタートします(編集部) 。

第2回「経済のことを知らなくても、生きていけるけれど」は、明日8月10日に更新します。

*対談収録日:2022年1月末
(その後の社会情勢を鑑みて追記している箇所があります)

*別冊『お金の手帖Q&A』はこちらからご購入いただけます。
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写真・上山知代子/イラスト・killdisco/協力・飯田英理/構成・編集部

【イントロダクション】「今日よりも明日はすばらしい」。すべての人が、そう信じられる社会にするために。

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『暮しの手帖別冊 お金の手帖Q&A』特別企画 和田靜香さん×井手英策さん
「今日よりも明日はすばらしい」。すべての人が、そう信じられる社会にするために。

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◆はじめに

コロナ禍が続いた2021年、『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』という長いタイトルの本が、世の中の話題をさらいました。著者は、フリーライターの和田靜香さん。タイトルの通り、アルバイトでつなぐ自らの生活の不安を、国会議員である小川淳也さんにぶつけた問答集です。
反響が続くなか、和田さんは次に『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』を発表。2冊ともに、徹底して庶民の視点から政治、経済を見つめた、いままでにない本になっています。

同じ年、私たちは『暮しの手帖別冊 お金の手帖Q&A』という本を出版しました。
お金をテーマにしたのは、コロナ禍によって、世界が危機を迎えていて、多くの人がお金についての強い不安を抱えていると感じたから。
「年金はどうなる」「子どもの教育費は」「病気になったら」……そんな不安を一つずつ解きほぐす本にしようという思いのもと、日本経済が抱える課題と、家計を守る方法の両方を、とことん解説した1冊にしました。

和田さんの本と、私たちの本の共通点は、「個人的と思える不安の根っこには、日本の社会問題があるのでは」という大きな問いをテーマにしたこと。そして、井手英策さんという経済学者の存在です。
『お金の手帖Q&A』では、井手さんに「長引く不況の原因は?」「税金ってなんだ?」といった、この本の根幹となる章の解説をお願いしました。
他方、『時給はいつも最低賃金、~』の文中にも、井手さんの著書からの引用が幾度も出てきます。
「井手さんの本なしには、この本は書けなかった」という和田さん。
「和田さんと井手さんが話したら、きっと多くの人の胸に迫る、深い議論になるのでは……」
そう感じた私たちは、お二人の対談を企画。
税金について、民主主義について、学ぶことの意味について、思いもよらない方向にどんどん膨らんだお二人の対談を、全5回で、たっぷりお届けします!

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【プロフィール】
和田靜香(わだ・しずか)
相撲・音楽ライター。1965年千葉県生まれ。『コロナ禍の東京を駆ける 緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(共著)で2021年貧困ジャーナリズム賞を受賞。ほかに『おでんの汁にウツを沈めて』『世界のおすもうさん』(共著)など。

井手英策(いで・えいさく)
慶應義塾大学経済学部教授。1972年福岡県生まれ。専門は財政社会学。日本銀行金融研究所、東北学院大学、横浜国立大学を経て現職。著書に『どうせ社会は変えられないなんてだれが言った?』『ふつうに生きるって何?』『欲望の経済を終わらせる』『壁を壊すケア』など。2015年大佛次郎論壇賞、16年度慶應義塾賞を受賞。

【目次】
第1回 経済学は、お金持ちのための学問?(公開日:8月9日)
第2回 経済のことを知らなくても、生きていけるけれど(公開日:8月10日)
第3回 自分とは違う意見に、どう向き合う?(公開日:8月11日)
第4回 「権利や自由のために闘う」ということ(公開日:8月12日)
第5回 人は何のために学ぶのか(公開日:8月13日)

*別冊『お金の手帖Q&A』はこちらからご購入いただけます。
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写真・上山知代子/イラスト・killdisco/協力・飯田英理/構成・編集部

出来ない理由は並べない

2022年08月09日

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出来ない理由は並べない
(19号「絵描き・やまぐちめぐみ 愛らしさは、つよさ」)

こんにちは、編集長の北川です。
『暮しの手帖』は5世紀1号より、毎号の表紙画をさまざまな作家の方に依頼するようになりました。「大変ではないですか?」とよく聞かれますが、ええ、じつに大変です。以前よりまめにギャラリーをめぐるようになりましたし、いつも作家を探しています。
8号で取材を受けてくださった原宿のカフェ「シーモアグラス」にお伺いしたときのこと。お店の奥にかかっていた、大きな絵に目が惹きつけられました。鮮やかなブルーの海にただよう小舟、海と溶け合うような夜空。どこか寂しげでメルヘンチックなこの絵の作者は誰だろう? 店主の坂本織衣さんに尋ねると、2015年に若くしてお亡くなりになった、やまぐちめぐみさんの絵だと教えていただきました。
それから数日後、料理家の枝元なほみさんを取材でお訪ねしたところ、見覚えのあるタッチの青い絵が飾られていました。ああ、ここにも、やまぐちめぐみさんがいた!

今回の記事は、めぐみさんの絵がたたえる独特な世界観と、彼女が歩んだ49年の人生の一端を紹介したい、そんな思いから編みました。
31歳で家族と別れて単身上京し、30代半ばで絵を描きはじめ、制作の傍らお菓子を焼いて暮らしを立てた、めぐみさん。自分のことを「人見知り」だと称していたそうですが、驚くほど多くの友人がいて、病を得てからも変わらぬ付き合いをしました。
執筆を担ってくださったのは、やはり友人だったライターの石川理恵さん。石川さんは、めぐみさんがSNSに残した日記を丹念にたどり、印象的な言葉をいくつも掬いあげては、原稿に生かしてくださいました。たとえば、こんな言葉です。

何かをはじめる時 
「出来ない理由」を人はいくらでも並べてみせて
「だからまだ、」とか「できっこない」って 
人に向けてだけではなく自分に向けて言うけど
私は出来る理由をまず、自分に向けて並べるようにする。
(2008年12月21日の日記より)

愛らしさは、つよさ。彼女の言葉と絵から、そんなタイトルがふと浮かびました。めぐみさんの残した唯一無二の愛らしい世界に、じっくりと浸っていただけたらうれしいです。(担当:北川)

未来の子どもたち

2022年08月08日

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未来の子どもたち
(19号「戦争を語り継ぐために」)

取材の下調べで資料を読んでいた時、一組の写真が目に入って、頁を繰る手を止めました。横一列に並んだ裸の幼児たちを、前と後ろから写したものです。どの子もあばら骨が浮き出て、お尻の肉はげっそりと削げ落ち、腹水がたまっているのか、お腹だけが異様に出ています。写真のキャプションには、「戦争孤児の子どもたち」とありました。

私は自分の2歳の子のことを思いました。この年頃の子どもの体は、どこもかしこもぷっくりとしているものです。写真に写る子らのあまりに痛ましい姿から、しばらく目を離すことができませんでした。

数日後、本企画のため、私はある方のご自宅にお邪魔しました。お訪ねしたのは、金田茉莉さん。1945年3月10日にあった東京大空襲で、親姉妹を亡くし、戦争孤児として生きてこられた方です。当時9歳。空襲があったその日に学童疎開先から戻り、自宅のあった浅草一帯が焦土となったことを知りました。

亡くなったご家族への思いや、身を寄せた親族宅で味わった肩身の狭さ、社会に出てから受けた差別、国の無責任さなど、金田さんは初対面の私にたくさんのことをお話くださり、最後に「戦争の悲惨さを伝えることで、未来の子どもたちを守ってください」とおっしゃいました。

この「未来の子どもたち」という言葉については、その後、記事を校正する段階で、「『子どもたちの未来』とする?」と指摘が入りました。私は「なるほど、確かにそのほうが文意が通るかも」と納得しつつ、けれど、金田さんの発した言葉をそのまま残したいと思いました。
「過去、守られなかった子どもたちがいた」
「未来の子どもたちを守って」という言葉には、そういう意味も込められていると思ったからです。

戦争で奪われた子どもたちの命、生き残った子が失った子ども時代は二度と戻ることはありません。私たちがどんなに思いを致し、心を寄せても、過去の子どもたちは救えない。守れるのは、今、そして未来の子どもたちだけなのです。

記事では、金田さんのインタビューのほか、自らを「軍国少年だった」と振り返る昔話研究家の小澤俊夫さんの戦争体験談を掲載し、また、憲法や天皇制、民主主義に詳しい作家の高橋源一郎さんに、「戦争を語り継ぐこと」の難しさと可能性について、お話をお伺いしています。

戦争を体験した人がいよいよ少なくなる今、残された私たちがどのようにその記憶を継いでいけるかが問われています。この記事を通して、みなさまと一緒に考えられたらと願っています。どうぞご感想をお寄せください。(担当:島崎)

やっぱり漫画は面白い

2022年08月05日

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やっぱり漫画は面白い
(19号「気づきをくれた漫画たち」)

小学生のわが子はいつも、『月刊コロコロコミック』を読んでいます。朝起きてすぐ、夕飯前、寝る前にベッドの上で。その様子を見ていると、漫画と歩んだわたしの子ども時代を思い出します。学校がつまらなくても、家に帰れば『週刊少年ジャンプ』がある。所属先の卓球部でレギュラーになれなくても大丈夫と教えてくれた、『行け!稲中卓球部』。頁を開くたびに発見があり、夢中になれました。

そんな体験から生まれたのがこの企画です。
漫画をこよなく愛する8名の方に、気づきを得た作品を教えていただきました。
登場順に、ヤマザキマリさん(漫画家)、柚木麻子さん(作家)、王谷晶さん(作家)、武田砂鉄さん(ライター)、町田樹さん(國學院大學助教・元フィギュアスケーター)、飛田和緒さん(料理家)、長嶋有さん(作家)、祖父江慎さん(ブックデザイナー)。

ご紹介いただいたのは、漫画史に残る名作や、著名な漫画家の知られざる作品、一度頁を開いたら忘れられなくなるようなインパクトのある作品など、実にさまざまです。皆さまがご存じのものもあるかもしれませんし、これまで出会う機会のなかったものもあることでしょう。
夏休みなどに、ぜひ漫画の面白さをじっくり味わってみませんか。(担当:中村)

骨つきだからうま味たっぷり

2022年08月04日

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骨つきだからうま味たっぷり
(19号「鶏手羽をもっとおいしく」)

「手羽元ってこんなにおいしいんだ!」

撮影の後に「手羽元の昆布蒸し」を試食した私は、驚きました。
かたくなりがちな手羽元がつるりと柔らかく、調味料は塩と日本酒だけなのに、なんとも深い味なのです。

スーパーやお肉屋さんには、「手羽先」「手羽中」「手羽中スティック」「手羽元」などの部位ごとに手羽肉が並んでいますが、私がいつも買うのは「手羽中スティック」。
火の通りが早く、子どもにも食べやすくて人気なので、冷凍庫に常備しています。
一方で、「手羽先」や「手羽元」にはなかなか手が伸びませんでした。
理由は、下ごしらえがわからないことと、食べにくいこと。周囲に尋ねてみると、同じ理由で手羽肉を避けている人が案外多いようです。

お手頃価格の手羽肉を、日々の食事にもっとおいしく活用できたら、心強いに違いない。
この特集では、料理家の今井真実さんが精肉店を取材のうえ、手羽肉の食べにくさを解消する下ごしらえの手順と、各部位の肉質や味の特徴を生かしたレシピをご紹介くださっています。

手羽肉初心者の方は、ぜひ冒頭に書いた「手羽元の昆布蒸し」や、オーブンにお任せでできる「手羽先のシンプルグリル」、ひと工夫ある「手羽中の唐揚げ」からお試しください。
少ない材料と簡単な工程で、手羽肉のおいしさを実感できますよ。(担当:田村)

人生で大事なことは

2022年08月03日

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人生で大事なことは
(19号「小林まさるさんの七勝八敗人生」)

「ご年配の料理研究家さんにはたくさん会うけれど、なかでもとびきり魅力的な人。
89歳の今もいきいきと働いていて、みんながその秘密を知りたがる。
偉そうじゃないし、教訓めいたことは言わない。
流されるような人生を送ってきたけれど、うまくこなして楽しんでいる」
そんな話を料理写真家の木村拓さんから伺い、ずっとお会いしたいと思っていた方。
それが、小林まさるさんです。

義理の娘で料理研究家の小林まさみさんとのコンビで、テレビや雑誌などでもご活躍されているので、ご存知の方も多いと思います。
取材でご自宅にお邪魔すると、ぴかぴかの笑顔で迎えてくださいました。
まさるさんが淹れてくださったコーヒーをいただきながら、これまで歩んできた波乱万丈な人生について、じっくりとお話を伺いました。

なかでも心に残ったのは、生まれ故郷・樺太での体験。
日本では1945年8月15日に終戦したと言われていますが、実は、当時日本領だった樺太では、8月15日以降に地上戦が行われました。
多感な12歳の少年だったまさるさんは、死を覚悟しながら、どんなことを思ったのでしょう。そしていま、人生を振り返って、生きるうえで何が大事だと思うのでしょう。
どうぞ、まさるさんの言葉に耳を傾けてください。(担当:平田)

野菜への気遣い

2022年08月02日

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野菜への気遣い
(19号「野菜の保存手帖」)

おいしそう!と、新鮮な野菜を買っても、すぐには食べきれず、ダメにしてしまうことはありませんか?
私は野菜を買ったままの状態で野菜室に放置し、気づいたら葉物がしなびていたり、きゅうりが凍ってしまったり……。ごめんなさいと、野菜に謝ることが何度もありました。

今回、料理研究家の本田明子さんと、築地場外市場で促成野菜を扱われる藤本商店さんに、役立つ野菜の保存法についてお話を伺いました。
「野菜を口のきけない、泣くこともできない生きものとしてとらえることが大事。どうしたら、この子が腐ることなく生きていられるか。日々、野菜と会話しながら研究中です」と、本田明子さん。
「野菜は人と一緒で、一期一会なんですよ。こまめに様子を見て、気遣ってあげてください」と、藤本商店さん。
その言葉から、野菜への愛情が伝わってきます。

野菜は、収穫後も呼吸をして生きていることを、ご存知でしょうか。不思議ですが、例えば、白菜のように「縦」に成長する野菜は、横向きに置くとストレスがかかり、立ち上がろうとして余計なエネルギーを使うそうです。そのため保存するときも、「縦」に置くことが大切。また、かぶは、葉と実を切り離して保存することが何より大事です。かぶの葉っぱは、生きるために、実の栄養を使って葉が伸びるからです。
野菜それぞれの育った環境によって、適した保存法が変わりますし、私たちの住まいや冷蔵庫の種類も違いますから、保存法は柔軟に考えなければいけません。基本的な野菜の特徴や保存法の理由を知っていれば、ぐっと野菜と仲良くなれるように思います。

取材を終えてからの私は、買ってきた野菜をすぐに新聞紙で包んだり、こまめに様子をチェックしたりと、自分でも驚くほど野菜を気遣うようになり、傷ませることがなくなりました。
「野菜の保存手帖」は、頁のコピーを冷蔵庫に貼ってパッとわかるよう、野菜の置き方や温度、光の注意点などをコンパクトにまとめました。ご家庭でお役立ていただけるとうれしいです。(担当:佐藤)

できたての温かなままでも、ひんやり冷たくしても

2022年08月01日

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できたての温かなままでも、ひんやり冷たくしても
(19号「豆花を作ってみませんか」)

「長野市の住宅街にある、小さな喫茶店の豆花(トウファ)は絶品」という噂を聞き、「暮らす店 実(み)と花(か)」を訪れたのは、3月半ば頃のことでした。

お店に入ると、近所に住む常連とみられるお客さんが世間話をしていたり、一人で読書を楽しむ方がいたり。みなさんのテーブルには、もれなく豆花の器がのっています。

私もさっそく注文し、期待に胸を膨らませながら待っていると、ピーナツの甘煮や白きくらげのシロップ煮、りんごのコンポートなどのトッピングとともに、黒みつがたっぷりとかかった豆花が運ばれてきました。
つるんとなめらかな食感に、絶妙な甘さのトッピングとシロップ。夢中で口に運ぶうち、すっかりその豆花の虜になってしまったのです。

今号では、「暮らす店 実と花」を営む塚田香里(つかだ・かおり)さんに、豆花の作り方のほか、お店でも出していらっしゃるトッピングや、黒糖や茶葉で手軽にできるシロップの作り方などを教えていただきました。

豆花は、ひんやり冷たくするのはもちろん、できたての温かなものを味わえるのは、手作りならではの醍醐味。
そして、どんなトッピングと組み合わせても、驚くほど合うのが魅力です。(塚田さんは時々、余った豆花に麻婆豆腐の具材をのせたり、おみそ汁に入れたりすることもあるのだとか!)

豆花を作る時、10分ほどでみるみる固まる工程も、実験のようで楽しいですよ。(担当:井田)

きれいな家電で夏を快適に! ナチュラルクリーニング企画の続編です。

2022年07月29日

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きれいな家電で夏を快適に! ナチュラルクリーニング企画の続編です。
(19号「家電の簡単掃除術」)

夏も本番を迎え、蒸し暑い毎日が続きますね。
カビが生えやすいこの季節、キッチンや浴室などの汚れやすい場所はこまめに掃除しても、家電製品はなかなか……という方も多いのではないでしょうか。

私も扇風機などの季節家電は、出し入れする際に軽く掃除するくらいでしたが、今回、この企画の検証ですみずみまで掃除してみると、思った以上に汚れが溜まっていて、この状態で使っていたんだ、と驚きました。

昨年の初夏号(12号)で掲載した、ナチュラルクリーニングの特集記事「いまこそ、小掃除」。ご好評をいただき、今回はその「家電製品」編を企画しました。
前回と同じく、重曹、クエン酸、過炭酸ナトリウム、アルコール、石けんの5つの洗剤を使い、扇風機や加湿器、テレビ、電子レンジ、トースター、食洗機、洗濯機をシンプルで安全な方法で掃除します。

指導の本橋ひろえさんによると、「家電製品は、基本的には水洗い厳禁。そのぶん、すすぎが不要な重曹やアルコールが役立ちます」。
家電の主な汚れはホコリで、それだけならさっと拭き取ればよいのですが、そこに油汚れが混じったり、湿気が溜まりカビの胞子がついたり、水を使う家電には水アカがついたりします。
そうなると洗剤の出番。合成洗剤を使わなくても、濃度や温度を守れば、ご紹介する方法で汚れ落ちは抜群です。
水洗いできる箇所が少ないため、かえって大がかりな掃除にならず、どれも手軽に取りかかれますよ。

ピカピカになった家電を使うのは、思った以上に気持ちがよいもの。お使いの家電の取扱説明書を事前に確認して、汚れやすいこれからの季節にお試しください。(担当:佐々木)


暮しの手帖社 今日の編集部